八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

ダム撤去の時代

 ダム建設を日本に先駆けて進めたアメリカでは、クリントン政権下の1990年代に「ダム建設の時代は終わった」として国の方針を転換し、ダム撤去に予算や技術を投入するようになりました。
 ダム建設に劣らず多くの予算と高い技術が必要とされるダム撤去ですが、ダムによる河川環境の劣化、社会状況の変化による目的の喪失などが明らかになるにつれて、流域住民から撤去を求める声が高まり、河川行政を変えることになったのです。
 わが国でも国内初の本格的な取り組みとして、熊本県の荒瀬ダム撤去が具体化しつつあります。川辺川を支流に抱える球磨川では、荒瀬ダムなどの建設により、ダムの放流による水害被害の増大、球磨川の水質汚濁、悪臭や放水時の振動、八代海の魚介類の減少など数多くの被害を経験してきました。地元住民による地道な運動を川辺川ダム反対運動を牽引してきた市民らが後押しすることで、長い時間をかけて行政の方針を転換させることに成功しました。

 荒瀬ダム撤去については、以下のブログが詳しい情報を発信しています。
 http://kumagawa-yatusirokai.cocolog-nifty.com/blog/arase-siryou2.html

 荒瀬ダム問題をコンパクトにまとめられたパンフレット
 http://kawabegawa.jp/2010/arase2010-03-03.pdf

 熊本県が川辺川ダム事業中止、荒瀬ダム撤去などの河川行政の転換に先鞭をつける契機となったのは、前知事の潮谷義子知事の時代といわれます。前知事がそれまで密室で進められていた河川行政の情報公開を進めたことによって、球磨川流域住民はダム行政の実態を知り、行政の方針転換を求める運動が全県的に広がりました。

 間もなく撤去されるアメリカのエルワダムは高さが33m、グラインズキャニオンダムは高さ64m、熊本県の荒瀬ダムは高さが25mです。なお、八ッ場ダムは高さ116mです。八ッ場ダムはたとえ建設されたとしても数十年で土砂がたまって使い物にならなくなりますが、むちろんダム撤去の費用はダム事業費には含まれていません。八ッ場ダムの事業者である国も関係都県(首都圏1都5県)も八ッ場ダム事業が抱える様々な問題についての情報公開には消極的です。流域住民がほとんど河川行政の実態を知らされないまま巨大ダム建設が進められていることは、利根川流域にとって不幸なことです。

◆読売新聞熊本版 2011年9月3日
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/kumamoto/news/20110902-OYT8T01209.htm

 -「川再生への一歩」…地元住民ら喜びの声ー

 蒲島知事が撤去を表明していた球磨川の県営荒瀬ダム(八代市坂本町)は2日、県が国土交通省九州地方整備局に河川法に基づく工事の許可申請をし、本格的に手続きが始まった。

 ダムによる水質の悪化を指摘してきた地元住民からは「川の再生へ向けた大きな一歩だ」と喜びの声が上がった。(北川洋平)

 この日は、県荒瀬ダム撤去準備室の堀敏行室長らが、球磨川を管理する九地整八代河川国道事務所(八代市)を訪れ、申請書類や工事の計画書などを提出した。

 撤去に伴う唯一の法的手続きということもあり、同事務所には地元住民も姿を見せた。

 県の許可を得て申請書類を閲覧した住民団体「さかもとまちダムサイト」の木本生光代表(75)は「撤去に向けて着実に前進していると感じられ、うれしい。一日でも早く清流が戻ることを願っている」と笑顔を見せた。

 申請書類は同事務所などが工法や治水上の安全性を審査し、問題が無ければ3か月ほどで許可書が交付される見通し。それを受け、県は来年度、工事に着手する方針だ。

 事業費92億円のうち30億円の財源不足が指摘されているが、堀室長は「県として最大限の努力をし、年度内に不足分の確保にめどをつけたい。撤去のための第一歩であり、着工まで着実に進めていきたい」と語った。

(写真)撤去許可の申請書類を閲覧する地元住民ら

◆2011年9月2日 提供:ナショナルジオグラフィック
http://news.ameba.jp/20110902-294/

 -米最大のダム撤去計画、間もなく開始ー

 アメリカ、ワシントン州で、2つのダムの撤去作業が始まる。アメリカ史上最大規模で、同国各地の類似プロジェクトに刺激を与えるモデルになるとして注目を集めている。

 オリンピック半島を流れるエルワ川。地元先住民の間では、「あまりにも多くのサケが遡上するため、群れの上を歩いて対岸まで渡ることができた」という言い伝えが残っている。

 だが20世紀初頭、河口付近にエルワダム、グラインズキャニオンダムが建設されると、サケは海と川の間を行き来できなくなった。それからおよそ100年。2011年9月から、両ダムの撤去作業が始まる。

 老朽化による維持コストの高騰もあり、漁業権の復活を求める先住民の訴えが認められ、1992年にエルワ川環境回復法が連邦議会を通過、ダムの撤去が決定した。

 環境保護団体「アメリカンリバーズ」の広報担当エイミー・コーバー氏はこう話す。「我が国では既に1000基近くのダムが撤去されているが、今回のプロジェクトは最大規模で、環境回復の試みとして極めて重要視されている」。

◆既に不要となったエルワ川のダム

 2つのダムは、ポートエンジェルス市内の製紙工場への電力供給を目的として建設された。

 19世紀末から20世紀初頭にかけて、本格化したオリンピック半島の開発で重要な役割を担ってきた。だが現在この地域の電力は、大半が南隣のオレゴン州ポートランドからの送電でまかなわれており、どちらのダムも発電所としての役割をほとんど果たしていない。

 しかも、サケの遡上を助ける魚道が未整備で、エルワ川の生態系に悪影響を及ぼしていると考える人々は、既に1970年代から撤去を求める声を上げていた。だが地元住民には撤去への不安が根強く、実際の工事開始までには30年以上の紆余曲折を経ることとなった。

 「地元の人々の意見は、この30年の間に徐々に変わってきた。存続よりも撤去した方がメリットは大きいと認識するようになった」とコーバー氏は述べる。

 地元住民の意識変化には行政も大きな役割を果たしている。1992年の法案には、ダム撤去前に実施すべき準備対策を詳細に定めた内容が盛り込まれた。

 その中には、川の堆積物の増加を見越した新たな水処理施設の建設や、水位の上昇が予想される場所に面した私有地を保護するための堤防の改修などが決められている。

 これらの対策は実施済みで、ダムの電力を利用している製材工場などは、自家発電装置の導入も検討しているという。

◆ダムの撤去で生態系全体が回復

 2つのダムが撤去されると、エルワ川は自然の流れを取り戻すことになる。現在生息するサケの数は約3000匹と言われているが、専門家の試算によると40万匹前後にまで急増するという。

 「サケの数が増えると、小さな昆虫からアメリカクロクマ、シャチに至るまであらゆる動物が恩恵を受ける。サケの死骸は川沿いに立つ杉の養分にもなる。

 私たちが取り戻そうとしているのは、ピュージェット湾からオリンピック山脈に至る自然環境の中で、生物どうしが複雑に絡み合う生態系なのだ」とコーバー氏は語る。ダムに滞留していた大量の土砂や流木も、再び下流域まで流れて行く。

 河口部にまで到達した土砂は天然の防波堤として機能するため、周辺の住民にとっては心強い味方となるだろう。

◆他の環境回復プロジェクトの刺激に

 コーバー氏は、アメリカ各地の環境回復プロジェクトを後押しする効果にも期待している。「エルワ川の環境回復の様子を目の当たりにすれば、人々はおのずと地元の川へ関心を向けるに違いない」。

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