前田武志国交大臣の就任に際して

2011年9月4日

 民主党政権で四人目となる前田武志参院議員が9月2日、野田政権の国交大臣に就任しました。

 前田大臣の就任会見では、地元の上毛新聞の記者が真っ先に「八ッ場ダムへの対応」を尋ねました。以下のユーチューブで記者会見の録画が見られます。
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 http://www.youtube.com/watch?v=hTXIvnupvCY
 野田内閣閣僚記者会見「前田武志大臣」

 翌朝の群馬版紙面では、前田大臣の八ッ場ダムについての発言要旨と共に、関係者のコメントが紹介されています。
 ちょっと変わった紙面だったのが朝日新聞群馬版で、馬淵澄夫元国交大臣のインタビュー記事が掲載されました。これは山場を迎えている八ッ場ダムの「治水」検証において、馬淵氏がこれまで八ッ場ダム計画の根拠となってきた利根川の「基本高水」(200年に1度の洪水を想定した最大流量)の検証を改めて指示したという「実績」によるものです。

 政権交代当初、前原国交大臣は総選挙のマニフェストにのっとり、八ッ場ダム中止を明言しました。しかし、その年のうちに「中止」は棚上げされ、八ッ場ダムの検証が始まりました。馬淵氏は前原大臣のもとで副大臣を務め、さらに次の国交大臣として八ッ場ダムの検証を引き継ぎました。
 馬淵氏はインタビューで「中止するには特定多目的ダム法を改正する必要がある。6都県の負担金の問題もある」、「6都県が負担金の支払いを拒んでおり、前に進めるには手立てを講じなきゃいけない。」と、方針転換の背景を説明しています。

 八ッ場ダム事業の法的根拠は特定多目的ダム法(特ダム法)に基づく八ッ場ダムの基本計画です。特ダム法では、関係都県知事らの意見を聞いた上で、ダムの基本計画を廃止することが定められていますので、民主党政権の国交大臣は、関係都県知事が推進姿勢である以上、知事らの意見に反してダムの中止手続きをとれば地方を無視したと批判され、関係都県に負担金の支払いを拒まれれば八ッ場ダムの関連事業が滞り、いずれにしても窮地に立たされると判断したのでしょう。
 けれども、自民党の支援を得て知事ポストについている関係都県知事らがダム推進であることはすでに最初から明らかなことでした。関係都県知事が反対しているということを理由に政策転換を放棄するなら、いくら国民が国の方針を変えることを望んでも、最初から無理だったということになります。

 関係都県が本当に八ッ場ダムを必要としているのであれば、国交大臣の「妥協」も国民の理解を得られるかもしれません。しかし、「(ダム)反対派も(検証メンバーに)入れろとしつこく言った」馬淵氏の意に反して、日本学術会議の「基本高水」検証はダムに懐疑的な識者は入れられず、過大な水需要予測を提出した東京都に是正を求めることもなく、八ッ場ダムは妥当との結論に達しつつある八ッ場ダムの検証過程を見れば、ダム推進勢力に民主党が屈しているとの印象は否めません。

 国交大臣が予算凍結を恐れた関連事業を国交省は「生活再建関連事業」と呼び、これを中止すれば地元住民が犠牲になると、マスメディアでは騒がれました。けれども、「生活再建関連事業」の中には、地元住民の「生活再建」とは関係のない膨大な予算が組み込まれており、「関連事業」では取りこぼされている「生活」の問題も少なからずあります。
 この間、国も関係都県も「関連事業」を継続することで、地元住民への責任を果たしているという姿勢をとってきました。これでは、自民党政権下と何も変わりません。ダムの「関連事業」以外、国は何もしてくれる筈がない、と地元の人々が思うのも当然です。

 民主党代表選にマスコミの関心が集中していた頃、八ッ場ダムの水没予定地にある川原湯温泉のホームページに、行政が土砂災害の後始末をしてくれないという文章が掲載されました。
 8月7日の集中豪雨で川原湯温泉街でも土石流が発生しました。大量の土砂は地元消防団の活躍できれいにかたづけられましたが、行政が予算がないことを理由に、土石流の発生した砂防堰堤に詰まった流木を撤去しないために、温泉街の観光スポットである足湯が使えないというのです。

 http://www.kawarayu.jp/
 川原湯温泉観光協会ホームページ

 八ッ場ダム事業には湯水のごとく税金が投入されているのに、どうして地元の人々の観光業に関わるわずかな予算措置が講じられないのでしょう。「生活再建」とは、こうした生活に密着した地元要望を丁寧にすくい上げることから始まるはずです。

 また、8月の東京地裁における情報公開裁判では、住民側全面勝訴の判決が下りました。八ッ場ダム事業は様々な問題を抱えていますが、政権交代後も情報公開は進んでいません。重要な資料を公開し、問題点を国民に明らかにした上でダム建設の是非を決定するのでなければ、決定責任を問われることになります。
 河川行政を知悉している新大臣におかれては、請求された資料をいつまでも出さなかったり、机上の数字合わせでお茶を濁したり、大名行列のような現地視察をするようなこれまでの行政の在り方を改め、八ッ場ダム事業の公正で科学的な検証、地元住民の生活再建に真摯に取り組むことを期待します。

◆2011年9月3日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581109030002

 -「現場早く見て判断を」 新国交相に要望 -

 八ツ場ダムの行方を定める国土交通相に2日、前田武志参院議員が就任した。民主党政権で4人目の国土交通相。建設推進派、見直し派ともに「現場を早く見てほしい」と要望している。

 長野原町の高山欣也町長は「ダム問題で約58年間、地元は苦しめられ、(政権交代直後の)前原誠司元国交相の建設中止表明で、この2年間苦しめられた。検証結果をこの秋には出すという国の約束を救いの綱として待っている。新大臣は旧建設省出身と聞くので、良識ある判断を期待する。早い時期に八ツ場にきてもらい、現状をみてほしい」と話す。

 大沢正明知事も「計画通りダム本体の完成や生活再建関連事業の早期完成に取り組んでいただきたい」とコメントを出した。

 一方、建設見直しを求めてきた市民団体「八ツ場あしたの会」の渡辺洋子事務局長は「建設にゴーサインを出しても、事業費増大や工期延長の問題で必ず行き詰まる。八ツ場ダムを政局の道具として考えず、問題を先送りせず向き合ってほしい」と注文をつける。

 これまでの2年間を「前原元国交相が建設中止を掲げながら、決定まで踏み込めずにきた。その流れが作られてしまった」と振り返る。「前田国交相には現場をよく見てもらい、納得のいく結論を出して欲しい」と話した。

◆2011年9月3日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581109030001

 -馬淵衆院議員に聞く-

中止か建設かで揺れる八ツ場ダム(長野原町)の検証結果が今秋、示される。国土交通省の副大臣、大臣として八ツ場ダムの問題にかかわった馬淵澄夫衆院議員に、当時の取り組みと現状について聞いた。

 ――2009年9月に前原誠司国交相(当時)が中止を表明した直後、国交副大臣になった。

 前原さんの中止表明をテレビで見て、「すげえな、言っちゃった」と思った。自分が所管の副大臣になるとは考えていなかった。

 中止するには特定多目的ダム法を改正する必要がある。6都県の負担金の問題もある。だから中止はできない。法律に基づかない判断は限られる。国会の審議も経ないといけない。

 八ツ場の場合も、やめるかどうかはプロセスをきちんと踏む必要があると考えていた。だから「再検証」という形にしていった。

 再検証のルールをつくるための「ダムによらない治水を考える有識者会議」に1年を費やした。さらに1年をかけて個別ダムの検証を始めており、時間がかかってしまった。政権交代時に「再検証する」と言えば、時間を短くできたかもしれない。水没地域の方々には本当に申し訳ない。

 ――当初は八ツ場と川辺川(熊本県)は検証対象から外れていた。すでに中止は決まっているから、ということだった。

 だから、再検証することになっても、「中止の方向性で予断なく再検証」という、へんてこりんな言葉になった。こんな矛盾に満ちた言葉を使い続けるのは無理があったので、私が大臣になった時に、「中止の方向性」という言葉を封印した。6都県が負担金の支払いを拒んでおり、前に進めるには手立てを講じなきゃいけない。大臣交代の時しかチャンスがなかった。

 ――大臣在任中には新たに、利根川水系の200年に1度の洪水を想定した最大流量(基本高水)を再検証することにしたが。

 ちゃんと検討した形跡がなかったので、調べたら何か出てくるかもしれないと思った。まさか、国交省で見直しはできないでしょ。だから日本学術会議に委ねる形を認めた。委員の人選では「反対派も入れろ」としつこく言った。

 ――しかし、学術会議は八ツ場ダムの必要性の根拠となってきた毎秒2万2千トンの基本高水を追認した。

 予断なく再検証した結果であれば、粛々と受け入れるしかない。予断が入るような検証だったかどうかは、今は権限がないからわからない。

 ――ダム検証で、国交省の代替案はいずれも実現可能性が低いものばかりだ。

 前原さんが大臣だった時は、中止という大前提があったから。ダムを造るかどうかの判断は政務三役が決めることになっており、どんな結論であろうが、そこで担保していたんだろう。(聞き手・菅野雄介)

◆2011年9月3日 上毛新聞21面
 -八ッ場地元 新国交相に不安、期待 「変わってばかり」「検証受け推進を」-

 八ッ場ダム本体工事中止表明から間もなく2年。先行きの見えない状況に置かれている地元、長野原町の住民から、2日の組閣で新国土交通相に前田武志氏が就任したことに対し「大臣が変わってばかりで困る」「どういう人か分からない」と不安の声が上がった。近くダム是非の検証結果が出される予定であることから「検証作業の結果を受け止め、ダム建設を進めてほしい」との要望も相次いだ。
 休業中の柏屋旅館社長、豊田幹雄さん(45)=同町川原湯=は、国交相が2年で4人目になる異常事態に「住民は一刻も早く生活再建を進めてほしいのに、大臣が替わる度に引き継ぎなどで時間が無駄になる」と批判。ただ、前田氏が旧建設省出身という経歴に触れ「ダムの必要性を知っているはず」と期待感を示す。地元町議の豊田銀五郎さん(73)=同町横壁=は「なったばかりの大臣が、これほど重大な問題を決断できるだろうか」と不安そうに話した。
 川原湯地区八ッ場ダム対策委員会の樋田洋二委員長は「早く新しい生活をスタートさせたい。検証の結果、ダムを造るという方向になると信じている。大臣には結果を正しく受け止めてほしい」と心情を語り、川原畑八ッ場現地再建対策委員会の野口貞夫委員長は「大臣がだれかより、野田内閣が八ッ場を含めたマニフェストをどのように修正していくか注目したい」と話した。
 一方、八ッ場ダム建設の見直しを訴えている「八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会」会長の角倉邦良県議は「前田氏が旧建設省出身だからと言って建設推進とはならないだろう。抜本的な治・利水の再検証をしっかりやってほしい」と注文。「副大臣、政務官が誰になるのかも見極めたい」と、新内閣の動向を注視している。

◆2011年9月3日 毎日新聞群馬版
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20110903ddlk10010193000c.html

 -八ッ場ダム・流転の行方:歓迎と不安が交錯 野田内閣、新国交相に建設省OB /群馬-

 野田内閣が2日発足し、八ッ場ダム問題を担当する国土交通相には、旧建設省河川局OBの前田武志参院議員が就任した。建設推進派は「ダムの必要性を分かってくれるはずだ」と歓迎する一方、中止派からは公正に検証が行われるか不安視する声も上がった。

 地元、長野原町の高山欣也町長は「素人では困ると心配していたが、専門知識を持った人が就任すると聞いて安心した。治水において、ダムに勝るものはないと分かってくれるはず」と語った。

 これに対し、前田氏と同じ羽田グループに所属する宮崎岳志衆院議員(群馬1区)は「河川局出身だからといって、ダム推進に偏る人ではない。地域住民の気持ちを一番に考え、冷静に結論を出してくれるだろう」と話す。

 一方、ダム建設の見直しを求める市民団体「八ッ場あしたの会」の渡辺洋子事務局長は「本当に公正な検証をするのか一般の人に疑問を持たれないように、官僚に適切な指示を出して検証を進めてほしい」と語った。【奥山はるな】