国交省関東地整が公表した八ッ場ダムの検証結果

2011年9月20日

 さる9月13日、国土交通省関東地方整備局は昨秋から実施してきた八ッ場ダム検証の結果、「八ッ場ダムは治水上、利水上、代替案とくらべて最良」という結論を得たと公表しました。

 国交省関東地方整備局のホームページに掲載された八ッ場ダムの検証結果
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000182.html

 八ッ場ダム事業を進めてきた行政組織がダム本体着工を新大臣に迫る目的で公表した検証結果は、東京都内で関係都県知事が全面的に賛同するセレモニーを開いたことで、NHKのトップニュースとなったほか、テレビ各局が一斉に大きく取り扱いました。
 こうしたニュースでは、当局の発表がそのままたれ流されるだけです。今回の報道は、八ッ場ダム事業の本体着工を目指してきた国交省関東地整と関係都県知事が改めて推進の意思を表明しただけで、何ら新しい情報はありませんが、映像は大きなインパクトを与えますので、八ッ場ダムは本体工事着工が決まったと勘違いした視聴者も多かったようです。
 八ッ場ダム事業の行方は依然として見通せないこと、今回の検証結果には問題があるという意見が各方面からあがっていることは、あまり大きく報道されていません。
 ”やんばダム推進狂想曲”ともいえる報道の洪水の中から、いくつか転載します。

◆2011年9月13日 東京新聞社会面
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2011091302000188.html

 -八ッ場 ダム建設が有利 国交省、コストなど評価―

 八ッ場(やんば)ダム(群馬県)建設の是非の検証作業で、国土交通省関東地方整備局は十三日、流域六都県の知事や建設予定地の首長らと協議する初の「検討の場」を東京都内で開き、利根川流域の治水や利水を総合的に検討した上で、ダム建設案がダム以外の代替案に比べ、もっとも有利とする総合評価案を提示した。

 総合評価案は、ダム建設案がコストが最低で、実現性や地域社会への影響などにおいてもっとも有利とした。新規遊水地の建設や利根川の川底掘削など、ダムを建設しない場合の治水・利水対策代替案と比較した。整備局の試算では、ダム建設中心の治水対策で今後必要なコストが八千三百億円、利水対策で六百億円なのに対し、代替案は治水で九千三百億~九千六百億円、利水で千七百億~一兆三千億円だった。

 参加した知事らは、ダム建設の必要性を強調し、総合評価案に、おおむね賛同の意を表した。群馬県の大沢正明知事は「思っていた通りの結論で妥当な評価だ。早急に検証作業を完了し、本体工事に一日も早く着手してほしい」と話した。ダム予定地の長野原町の高山欣也町長は「国交相はこの結果を真摯(しんし)に受け止めていただけるものと思っている」と述べた。

 今後、整備局は国民からの意見募集などを経て検証結果を国交省に報告。同省有識者会議が検討して、国交相が最終的にダム事業継続の是非を判断する。民主党マニフェスト(政権公約)は建設中止を明記しており、最終的な結論は依然として見通せない。

<八ッ場ダム> 利根川支流の吾妻川に国が建設を計画するダム。総貯水量1億750万トンで、治水、利水と発電の目的がある。総事業費は約4600億円。1952年に調査着手。水没予定地の住民は激しい反対運動の後、代替地への移転を受け入れた。政権交代で就任した前原誠司元国土交通相が2009年9月、建設中止を表明。地元の反発を受け、後任の馬淵澄夫元国交相は10年11月に中止方針を事実上撤回した。関東地方整備局は10年10月から建設の是非を検証している。

◆2011年9月14日 日本経済新聞
http://p.tl/sq3g

 -「八ツ場」ダム優位の検証結果 6都県、国に早期着工促すー

 国交省関東地方整備局が八ツ場ダムの必要性を認める検証結果を示したことで、関係自治体はダムの建設実現に自信を深めている。ダム事業にかかわる群馬や東京など6都県の知事は近く前田国交相に本体工事の着工を要請し、早期完成の道筋を付けたい考え。しかし、政府がダム建設へ方針転換するまでには曲折も予想され、自治体は今後の議論の行方を注視する構えだ。

 関東整備局は13日、八ツ場ダムに関する関係自治体との検討会議で、複数の治水・利水対策をコストや工期などの面で比較したところ、ダム建設を前提とした案が「最も有利な案」とする検証結果を示した。

 先に関東整備局が示したダム以外の治水・利水対策案については、関係自治体からコストや住民との調整などの面で問題が多いとの批判が続出していた。このため今回の結果には「われわれが予想していたとおり」(栃木県の福田知事)との見方が強い。

 会議終了後、群馬県の大沢知事は記者団に対し「妥当な評価だ。今後はダム本体の完成に取り組んでいきたい」と笑みを浮かべた。民主党所属の衆院議員だった上田埼玉県知事は検証結果を評価しつつ「マニフェスト(政権公約)に載せてしまったことで振り上げた拳を下ろせず、時間稼ぎのために検証したのではないか」と古巣を皮肉った。

 一方、今回の結果に地元からは歓迎の声が上がっている。建設予定地である長野原町の高山町長は「本体着工が確定したわけではないが、ホッとした」と安心した様子。それでも2009年9月の前原国交相(当時)による建設中止宣言から2年の月日が流れたことに「住民は不安な状況に置かれてきた。ムダな時間だった」と不満を漏らした。

 群馬県建設業協会の青柳剛会長は「これまでの主張が認められた。震災や集中豪雨で防災意識が高まっていることも、建設の後押しになるのではないか」と述べた。

 今回の検証結果で八ツ場ダムは建設の方向に大きく傾いたが、関係自治体にとっては不安材料もある。建設中止を宣言した前原氏が民主党政調会長に就任し、政府の政策決定に関与できる立場を得た。千葉県の森田知事は「検証結果を全面的に無視することはできないはず」とけん制するが、政府・民主党が建設推進ですんなりまとまるかどうか未知数だ。

 さらにダム建設が決まっても、東日本大震災の復興事業に追われる政府が十分な予算を回してくれる保証はない。埼玉県の上田知事は「予定通り15年度までの完成を目指すべきだ」と主張するが、早期完成にはハードルが多い。

◆2011年9月14日 毎日新聞群馬版
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20110914ddlk10010085000c.html

 -八ッ場ダム建設:ダム案、最も有利 何だった?この2年 知事ら批判 /群馬―

 ◇民主内、なお疑問視も
 再検証作業が終盤に入った八ッ場ダム問題は13日、「建設継続」の流れに一歩を踏み出した。関係1都5県知事と流域自治体の首長らが初めて一堂に会した「検討の場」。国土交通省関東地方整備局はコスト面から「最も有利な案はダム案」とする総合評価案を提示し、知事らは一様に賛意を示した。ただし民主党内には、ダムによる治水手法について疑問視する声も根強い。政調会長には政権交代時に八ッ場ダム中止を宣言した前原誠司氏が就任しており、このまま進むかは流動的だ。【奥山はるな】

 ◇検証の前から分かっていた
 ■批判の大合唱

 検討の場では、政権交代以降の政府の対応を巡り、批判の大合唱がわき起こった。

 口火を切ったのは大沢正明知事。「この2年間、多くの時間と費用が無駄になった」と批判し「地元の皆さんがこれ以上、将来への不安や生活上の不便を来すことのないよう、基本計画通りダムを完成してほしい」と述べた。

 続いて埼玉県の上田清司知事は「ダムがもっとも有利であることは、我々にとっては検証する前から考えていたこと」と大沢知事に同調し、八ッ場ダム中止を掲げた民主党のマニフェストについて「ただ思いつきで、中止と言っただけだ」と話した。

 栃木県の福田富一知事は「利根川の治水は、数百年の長きにわたり連綿と続けられてきた。一時の事情でその歩みを止めるのは、未来に対する我々の責任放棄」と話してダムの必要性を強調。千葉県の森田健作知事も「先日の台風12号がもし関東を直撃したらどうなるか。一刻も早く完成をお願いしたい」と発言した。

 ◇工期遅れは、事業費増は
 ■再開にも課題

 一方、このまま建設再開が決まったとしても、工期の遅れや事業費増額にどう対応するかという新たな課題も抱える。

 工期はダム本体工事の入札やり直しなどが必要で完成は18年度の見通し。基本計画より約3年長引く計算で、東京都の村山寛司副知事は「来年度の予算措置というような悠長なことでなく、今年度から本体工事に着手し、基本計画通りに完成させてほしい」と注文を付けた。

 また事業費は、移転代替地の安全対策や地滑り対策が必要なため新たに149億円必要になるが、茨城県の上月良祐副知事は「とにかく増額は避けて、これまで通りの金額に収めてほしい」と求めた。

 ◇1都5県で国交相に要請--大沢知事
 ■今後

 同整備局は今後、今回示した総合評価案について、一般から意見を募るパブリックコメントを行う。また、学識者で構成する「利根川・江戸川有識者会議」▽関係住民▽関係自治体--から意見聴取を実施。これらを総合的に検討し、継続か中止かの対応方針案の原案を作成して同整備局の事業評価監視委員会で審議後、国土交通省に報告する。

 最終的に対応方針を決めるのは同省。仮に同整備局の結論が、検証の手順から乖離(かいり)していると判断された場合、国交相が再検討の指示または要請を行う可能性もある。このため、大沢知事は報道陣に「1都5県知事で前田武志国交相に面会をして推進を働きかけたい」と述べた。

 同整備局は検証期限について「来年度予算に反映できるよう今秋までに結論を得たい」としている。

◆2011年9月14日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581109140001

 -建設「まだ分からぬ」 国の最終判断に注目ー

 八ツ場ダムを再検証した国交省関東地方整備局は13日、東京都内であった会合で、「ダムが最善」との総合評価を群馬など6都県の知事らに示した。政権交代の象徴になった「中止宣言」から2年。この秋とされる国の最終判断に向け、推進、見直し両派とも「まだ分からない」と気を引き締めた。

 「八ツ場が最も有利ということは検証前から分かっていた。この2年間は何だったのか」。大沢知事が強い口調で討議の口火を切り、検証の早期終結と本体工事の着工を求めた。下流域の知事も続いた。

 長野原町に国からダム建設の調査が通知されたのが1952年。賛否両派の対立の末、国、県との基本協定を結んだのは92年だ。高山欣也町長は「ホッとしている」と静かに切り出した。「ダムは生活再建になくてはならない」と述べ、地元の意向を聞かずにダム中止を宣言した民主党に改めて抗議した。

 国交相が建設是非を判断するには、国民や地域住民への意見聴取や有識者会議の開催といった数段階の手続きがある。政策反映の権限が強化された民主党の政調会長には、中止宣言をした前原誠司氏が就いた。

 会議後の取材で、高山町長は「前原さんが政調会長になって、まだ不安はある。だが、自分で仕組みを決めた検証の結果には従うだろう」と述べた。大沢知事は、関係都県の知事とともに、近く、前田武志国交相に「直談判」する意向を明らかにした。(小林誠一)
     ◇
 市民団体や議員の「ダム見直し派」は、国交省が手がけた再検証のやり方に疑問を投げかけている。

 「予想できた内容。国交省に自浄作用がないことを示した」。「八ツ場あしたの会」事務局長の渡辺洋子さんはこう主張する。

 事業主体である国交省が再検証を行うという方式は、国交相の有識者会議が提言した通りに行われた。渡辺さんは「政府自ら検証し直し、国民の疑問に答えるべきだ」と訴える。

 「八ツ場ダムを考える1都5県議会議員の会」会長の角倉邦良県議も「人口減で『水余り』の中、ダム必要論に立つ都県の水需要をうのみにしている」と批判。検証のやり直しを前田国交相に近く求める。

 民主党の国会議員でつくる「八ッ場ダム等の地元住民の生活再建を考える議員連盟」は、生活再建法案を近く前原政調会長に提出する予定だ。メンバーの宮崎岳志衆院議員(群馬1区)は「検証は過去の国交省の方針を踏襲しただけ。ダムができない場合でも、生活再建の早期整備をしていく」と話した。(遠藤隆史、牛尾梓)
     ◇
 ダムができれば長野原町の5地区で水没する世帯が出るが、住民はこの日の動きを冷静に受け止めた。

 「地元の思いは、2年間で何も変わらない。右往左往するのは国だけ」。生活再建に向け、行政との折衝に当たる水没関係5地区連合対策委員会の篠原憲一事務局長(70)は「ダムの優位性が示されたことは一つの前進。だが、一喜一憂はしない」と話す。

 旅館の明かりが次々と消え、5軒が残るのみの川原湯温泉街は8月7日、豪雨被害に見舞われた。JR川原湯温泉駅前には、土嚢(ど・のう)が積み上がる。

 「土嚢はイメージダウンだね」。温泉街入り口にある土産物屋を営む樋田ふさ子さん(82)はつぶやきながら、13日も店を開いていた。温泉街の行く末が心配だ。「『夜、店の電気がついているとホッとする』と言ってくれるお客さんがいる」。

 ダムへの意見をめぐって親族間でも対立する歴史をみてきた。国交省の総合評価を聞くと、「早くダムを造ってほしい。工事が中途半端だと災害なども怖い」と言った。

 10年3月に休業した柏屋旅館社長の豊田幹雄さん(45)は「生活再建にはダムが必要だと地元の意見は一致している」と訴える。

 一方、川原湯地区で牛乳製造販売業を営む豊田武夫さん(59)は「ダムが建設となっても、東日本大震災に見舞われた今の日本に多額の税金を投入する余力があるのか」と疑問を口にした。専門家には、温泉街の代替地の安全性を指摘する声がある。「地滑りの危険がある地で再建できるのか」と懸念を示す。(泉野尚彦、木村浩之)

写真=八ツ場ダムをめぐる会合で早期着工を訴えた高山欣也・長野原町長=東京都千代田区

写真=温泉街の玄関口でもあるJR川原湯温泉駅は週末でも降りる人が少ない。8月の水害復旧の工事も途上だ=11日、長野原町川原湯

◆2011年9月14日 読売新聞群馬版
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20110914-OYT8T00123.htm

 -建設再開 動く可能性もー

 八ッ場ダム再検証 国交相会見「あくまでも過程」

八ッ場ダム再検証の「検討の場」に出席した長野原町の高山町長(左端)や利根川流域6都県知事ら(13日午前、東京・千代田区で) 八ッ場ダム(長野原町)建設継続の是非を判断する再検証は13日、国土交通省関東地方整備局が、治水・利水の両面でダム建設を「最も有利」と評価したことで、建設再開に向けて動き出す可能性が高まってきた。ダムの必要性を訴えてきた1都5県や利根川流域の自治体は妥当な評価と受け止め、前田国交相に早期完成を強く求めていく構えだ。

 13日は東京都内のホテルで、同整備局と知事らが協議する「検討の場」が開かれ、同整備局は約1年間かけた検証の成果を公表。担当者は「コストについて最も有利なのはダム案」「10年後に目標を達成することが可能なのはダム案」などと、ダムの優位性を何度も繰り返した。

 都県側は「妥当な評価」(大沢知事)、「結果は最初から分かっていたこと」(上田清司・埼玉県知事)などと述べ、当初予定の2015年度完成を守るよう主張。都県知事は近く、早期着工を求めて前田国交相に直談判しに行く予定という。

 同整備局では今後、国民からの意見募集を実施。そのほか、学識経験者、流域自治体などの住民、1都5県知事、利水事業者から個別に意見を聞いた上で国交省に検証結果を報告し、前田国交相の政治判断を仰ぐが、「意見聴取の具体的な方法や日程は未定」(同整備局)という。

 一方、前田国交相は同日の閣議後記者会見で、同整備局の検証結果について「あくまでもプロセス(過程)と受け止めている」としたが、「受益者の1都5県の知事の意見は重い」とも発言。民主党内では、政権交代直後に国交相として「ダム中止」を宣言した前原誠司政調会長に対し、反対派の議員連盟が改めてダム建設阻止を働きかける動きもある。最終局面に向け、推進、反対双方の陣営の綱引きは激化しそうだ。 

■生活再建住民に期待 反対派不満あらわ

 政権交代直後の中止表明からまもなく2年。ダム建設を前提に生活再建を進めてきた地元住民には期待感が広がる一方、60年近く政治に翻弄され続けた経緯から、なお不安視する声も根強い。ダムに反対する市民団体や民主党国会議員は、事業を推進してきた国土交通省が必要性を検証する手法に不満をあらわにした。

 水没関係5地区連合対策委員長の萩原昭朗さん(79)は「当然の結果だ。国交相は今回の評価を尊重し、ダム建設を進めてほしい」と期待を込めた。

 川原湯地区ダム対策委員長の樋田洋二さん(64)は「大臣が(同整備局の)評価通りに判断してくれればいいが、前田さんにできるのか。前原さんが政調会長では、どうなるか分からない」と不安な胸の内を明かす。

 ダム問題が長期化し、水没予定地の川原湯温泉では、旅館の休廃業が相次ぎ、住民や旅館などが移転する代替地の造成も遅延。昨年春から宿泊営業を休止している「柏屋」の豊田幹雄社長(45)は「(ダムが最良との評価は)当然だと思っている。代替地を早く造ってくれないと、前に進めない」と訴える。

 検討の場終了後、大沢知事は「地元の方の気持ちを思うと、国は一日も早くダム本体完成に取り組んでほしい」と話し、高山欣也・長野原町長は「(ダム完成に向けて)予算を上乗せしてでも早く解決してもらいたい」と語った。

 一方、建設見直しを求める市民団体「八ッ場あしたの会」の渡辺洋子事務局長は「建設を推進してきた国交省自身の検証で、反対する側の意見は無視された。こういう結果が出るのは予想通りで、全くの茶番劇だ」と批判した。

 民主党の宮崎岳志衆院議員は「国交省に確認したが、今回の評価は途中段階の見解の一つで、方向性が定まった訳ではない。今後は国民から信頼される多角的な議論が必要だ」と語った。

◆2011年9月14日 東京新聞群馬版
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20110914/CK2011091402000073.html

 -「早く生活再建を」 長野原町住民ら―

 ダム建設予定地の長野原町の住民や反対派からは、生活再建が進まないことへの不満や、ダム問題の検証が「建設ありき」であるとの批判が上がった。

 同町の川原湯温泉協会会長の樋田省三さん(46)は「政治絡みの建設か反対かの議論は、住民にとって何のメリットもない」といらだちを隠さない。ダム中止を掲げた民主党への政権交代から二年間、地元住民は生活再建事業も進まず置き去りにされており「とりあえず早く私たちの生活が立ちゆくようにしてほしい」と述べた。

 川原湯温泉街の近くで乳業を営む豊田武夫さん(59)は、「水没予定地の住民が移転する代替地や周辺の地盤が弱く、国は安全性について住民への説明が不十分だ」と指摘。

 ダム事業の見直しを求める市民団体「八ッ場あしたの会」事務局長の渡辺洋子さん(54)は、「検討の場」の議論がダム推進派の国交省関東地方整備局と自治体間でのやりとりに終始し「予断無き検証にはなっておらず、茶番劇だ」と切り捨てる。「代替案もダムが治水、利水に効果があるとの前提のもとで出されており、説得力がない」と述べた。 (中山岳)

◆2011年9月14日 上毛新聞より転載
http://www.jomo-news.co.jp/news/a/2011/09/14/news01.htm

 ー八ツ場ダム建設案「最も有利」 国交省整備局が提示ー

八ツ場ダム建設の是非の検証に関する「検討の場」に出席した各県知事ら 八ツ場ダム建設の是非を決める検証作業で、国土交通省関東地方整備局は13日、都内で大沢正明知事ら利根川流域6都県の知事や首長らと協議する「検討の場」の初会合を開き、ダムを建設する案と建設しない代替案を比べた結果、ダム案が「最も有利」とする総合評価を示した。最もコストが低く、早期に実現できるとの理由。整備局はこの評価結果などをもとに建設継続か中止かの対応方針案を決め、国交省に報告する。6都県側はあらためてダムの必要性を強調し、早期の建設再開を求めた。

 整備局はこれまでの検証作業で、八ツ場ダムを建設しない場合の代替案を治水対策、利水対策でそれぞれ4案、流水機能の維持対策で3案を作成。「コスト」「実現性」「環境への影響」などで八ツ場ダムを建設する案と比較した。

 国交省の有識者会議が定めた基準に基づき、「コスト」を最重視した上で10年後の「実現性」を確認。その結果、治水面はダム建設を含む案のコストが8300億円で、川底をより多く掘ったり、渡良瀬遊水地の機能を強化する代替案の9300~9600億円より安く、10年後に最も効果を見込めるとした。

 利水面でも、静岡・富士川からの導水や渡良瀬第2調節池の開発などを組み合わせる代替案は1700億~1兆3千億円で事業期間も11年以上必要なことから、残事業費が600億円で10年以内に完成できるダム案を最優位と評価した。

 「環境への影響」「地域社会への影響」などダム案の課題を指摘する評価項目もあったが、コストや実現性での評価を「覆すほどの要素はない」と結論づけた。

 整備局は今後、パブリックコメントなどを経て対応方針案をまとめ、国交省に報告。報告を受けた国交相は有識者会議の意見を踏まえて検証が適切に行われたか判断し、最終決定する。建設に反対する市民団体から批判が出ており、建設中止を明記した民主党マニフェストとの整合性もあり、最終結論は不透明だ。

 前田武志国交相は13日の記者会見で「受益者である6都県の意見は非常に重いが、有識者会議の意見も聞いて方針を定めたい」と述べた。

 会合終了後、大沢知事は「妥当な評価。早急に1都5県知事で前田国交相に面会し、建設推進を強く要請したい」と記者団に話した。

 大沢知事「無駄な2年、人災だ」

 「何のために無駄な2年間を過ごしたのか。これこそ人災だ」。初めて実現した「検討の場」の席上で、大沢知事は国に対し、積み重なった不満と怒りをあらわにした。各知事や流域自治体の首長は一様に早期のダム完成を要望し、政権交代後、2年間足踏みが続くダム問題に痛烈な批判を浴びせた。

 ダム予定地の長野原町の高山欣也町長は「国によって、か弱い町民がいじめにあったのだと感じている。2年間を非常に迷惑に感じる」と述べ、あらためてダム建設中止の撤回と早期完成を国に求めた。

 栃木県の福田富一知事は、東日本大震災や豪雨災害など相次ぐ自然災害を引き合いに「災害を減らすことに勝る行政目的はない。危機が明日訪れるかも知れないということを認識すべきだ」と強調。埼玉県の上田清司知事は「(八ツ場ダム建設が)共同事業であることも知らずに公共事業が削減できると勘違いし、われわれに返還するお金のことなど全く意識せず思い付きで中止した」と、ダム建設中止を盛り込んだ民主党マニフェストを断じた。

 ダム建設を再開した場合に増額が見込まれる事業費については「国が負担すべきだ」との声が多く上がった。

 地元住民「一歩前進」 見直し派「結論ありき」

 長野原町のダム水没予定地住民の多くは、関東地方整備局が示した総合評価の結果を「一歩前進」「ひと安心」と好意的に受け止め、「本体工事の早期着工を」と声を強めた。ダム建設見直しを求めている市民団体などは「(ダム建設の)結論ありきの茶番劇」と検証手法を批判、やり直しを求めた。

 テレビで総合評価結果を知った同町川原湯の土産店経営、樋田ふさ子さん(82)は「どうなるか不安だったが、いい方向に進みそう」と安堵(あんど)の表情。ただ「(本体工事中止表明後の)2年間、何のために振り回されたのかと思うと複雑な気持ち」と、政府への不信感をにじませた。休業中の柏屋旅館社長、豊田幹雄さん(45)も「一歩前進」と今回の結果を歓迎。「ダムの本体建設がわれわれの生活再建の近道。これをきっかけに生活再建事業がうまく動いてほしい」と期待感を示した。

 川原湯地区八ツ場ダム対策委員会の樋田洋二委員長は「民主党が報告をすんなり認めるか疑問で、最終的な結論が出るまで安心できない。結論の時期が遅れる不安もある」と、今後の動向を注視する。川原湯温泉協会の樋田省三会長は「この2年間のブランクを早く取り戻し、(政治には)早急にきちんとした生活ができるようにしてほしい」と注文をつけた。

 一方、見直し派の市民団体は検証のやり方を批判。水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之・共同代表は「検証は八ツ場ダムの治水効果を過大評価し、各都県が必要と主張する水道水などの量も検証せずにそのまま認めてしまった。結論が先にありきの茶番劇だ」と検証手法を疑問視。

 八ツ場あしたの会の渡辺洋子事務局長も「私たちが問題視するダムの必要性そのものは全く検証されていない」と反発。「民主党はマニフェストで掲げた中止に対する国民の期待に応える責任があるはずだ」と訴えた。

 八ツ場ダムを考える1都5県議会議員の会会長の角倉邦良県議は「これからが正念場。民主党や前田武志国交相に検証のやり直しを働き掛けていく」と語った。