2011年12月3日
国土交通省関東地方整備局が10月6日から11月4日にかけて実施したパブリックコメントの結果が11月25日、同局のホームページに掲載されました。 ↓
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000190.html
このパブリックコメントは、11月6~8日に実施された公聴会と同様、八ッ場ダムばベストとする同局の八ッ場ダムの検証結果について、一般国民の意見募集を目的としたものです。
当初、パブリックコメントの応募は低調で、締め切り前日の11月3日時点では130件でしたが、最終的には5963件に達しました。
公表されたパブコメの原紙から、総数5963件のうち96%超に当たる5739件が印刷された同一文書に署名をしただけのものであることが判明ました。
印刷内容は次の通りです。
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「本検証によって、八ツ場ダムは利恨川水系における治水、利水の安全度を高める対策として、最も現実的、かつ確実に効果を見込める事業であることが明らかになった。
このような結果が示された以上他の選択肢はない。速やかにダム本体工事に着手し、計画通りに事業を完成すべきである。
埼玉県の水需給状況は、八ッ場ダムを始めとする暫定水利権が占める割合が大きい。この暫定水利権を解消しなければ、渇水に対する利水安全度が高まらないことは本資料から明らかである。速やかに八ッ場ダムを完成させ、利根川の流況を改善し、暫定水利権を解消することは国の責務である。
利根川の流域での過去最大の洪水はカスリーン台風であり、洪水流量は21、100m3/sであるが、今検証の整備目標流量は今後20から30年間で整備可能な17、000m3としている。
利根川の流域住民は、カスリーン台風による悲劇を忘れていない。
今後30年で整備可能な整備として、完成を目前に控える八ッ場ダム建設は必要不可欠な施設であり、首都圏の治水を担う国は、当然建設を続行すべきである。」
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上記の内容は、埼玉県当局や上田埼玉県知事が繰り返し述べてきたことです。文中に「埼玉県」とあり、署名欄に埼玉県と印字されていることからも、埼玉県民からの提出であることがわかります。
都県別の提出数でも、埼玉県が全体の96,23%を占めています。
これらの署名は、個人情報が黒塗りされていますが、職業欄には「議員」、「市議」などと書かれたものも多く、「議員」の前が黒塗りになっていることから、人数が限られている埼玉県会議員も相当数含まれていると考えられます。連番では、同じ筆跡と見えるものも少なくなく、家族、組織の人々が大量に署名した様子がうかがえます。
パブリックコメントを提出するためには、国交省関東地方整備局の300ページ余にわたる資料を読み、同局の示した様式に従って提出することが求められていました。ホームページに掲載されている214番までのパブコメを見ると、その殆どが八ッ場ダムを是とする同局の検証結果への批判、怒りに溢れています。
こうした厳しい批判意見に対抗するために、埼玉県では組織的に”やらせ”が行われた結果、パブリックコメントの趣旨から逸脱した署名が大量に提出されることになったと考えられます。
原発問題で九州電力の”やらせメール事件”が世間の批判にさらされたのは記憶に新しいところです。原発も八ッ場ダムも、民意を捻じ曲げることによってしか推進できない国策であることは共通しています。
八ッ場ダムの検証は、関東地方整備局みずからの検証にはじまって、関係都県との「検討の場」も”やらせ”そのものでした。公聴会でも、さいたま会場では、行政関係者による八ッ場ダム賛成の意見陳述が目立ちましたが、パブリックコメントに至って、”やらせ”がさらに大きくクローズアップされています。
◆八ツ場再検証 国民の意見
◆2011年11月24日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581111240002
八ツ場ダムの再検証で、関東地方整備局が実施したパブリックコメント(国民の意見)への応募者延べ5963人のうち、埼玉県民が5738人で96%を占めることが分かった。整備局が21日に公表した。
居住地別では、地元の群馬は49人で、応募全体のわずか0・8%。関係都県では東京65人、千葉40人、茨城7人、栃木2人だった。連名が5739人分あったという。
パブリックコメントは4日までの約1カ月間、郵送、ファクス、メールで実施。締め切り間際に急増した。整備局は意見種別ごとに概要と回答を公表した。
◆2011年11月26日 毎日新聞東京夕刊
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20111126dde041010020000c.html
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20111126dde041010033000c.html
-群馬・八ッ場ダム建設:パブリックコメント、96%同一文書に署名--推進意見ー
建設の是非を検証中の八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)を巡り、国土交通省関東地方整備局が集めたパブリックコメント(意見公募)で、寄せられた意見の約96%が同一文書に署名だけ手書きしたものだったことが分かった。「八ッ場ダムは必要不可欠」などと印刷され、ダム推進派が組織的に署名を呼びかけた可能性が高い。ダム反対派は「世論誘導の狙いがあるのではないか」と反発。専門家は「パブリックコメントの趣旨から逸脱した行為」と批判している。
同整備局が25日にまとめた「パブリックコメントの結果」によると、寄せられた5963件のうち5739件は全く同じ内容だった。「八ッ場ダムは利根川水系における治水、利水の安全度を高める対策として、もっとも現実的、かつ確実に効果を見込める事業」「速やかにダム本体工事に着手し、計画通りに事業を完成すべきだ」などと推進を求める意見がパソコン文字で印刷されており、署名だけが異なっていた。
パブコメは10月6日~11月4日に全国から募集。集まった5963件のうち埼玉県在住者の意見が5738件に上っており、同一文書の大半は同県在住者が寄せたとみられる。
同整備局は「パブコメは多数決ではないので、特に問題はない」と説明しているが、八ッ場ダム建設に反対する市民団体「水源開発問題全国連絡会」の嶋津暉之共同代表は「世論誘導のため組織的に署名を集めたと思われる。非常に問題だ」と話している。【奥山はるな】
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■ことば
◇パブリックコメント
国民の意見を広く政策に反映させるための行政手続きで99年に閣議決定、05年の改正行政手続法で明文化された。行政機関が政令、省令などの命令を定めたり、大規模な公共事業を予定している場合に行う。行政機関は事前に案を示し、提出された意見は「十分に考慮しなければならない」と規定されている。
-群馬・八ッ場ダム建設:パブリックコメント、96%同一文書に署名 五十嵐敬喜氏の話ー
◇法の趣旨に反する--五十嵐敬喜・法政大教授(公共事業論)
同一文書に署名だけ求めて提出することは違法とまでは言えないが、広く国民の意見を集めるための手続きを定めた法の趣旨に反している。世論形成のために制度を悪用したものと言っていいだろう。
◆2011年11月27日 上毛新聞
-意見公募の96% 同一文書に署名 見直し派は反発ー
八ッ場ダム建設の是非を決める検証の一環として国土交通省関東地方整備局が4日まで行ったパブリックコメント(意見公募)で、本県を含む利根川流域6都県などから寄せられた意見の96%はダムの早期完成を求める全く同じ文言の意見が印刷された文書に署名する形式で提出されていたことが26日分かった。ダム見直し派から反発の声が上がっている。
同整備局が公開した意見を見ると、メールや郵便で寄せられた5963件は「八ッ場ダム建設は必要不可欠」などダムの早期建設を訴える3項目の同一意見が印刷された用紙に、手書きで住所や名前などを書き込む形式だった。
同整備局によると、意見は締め切り前日の3日の130件から急増した。整備局は意見以外の個人情報を黒塗りにして公開しているが、別に公表した都県別意見数では埼玉県が5738件に及ぶ。このため、署名の大半は埼玉県在住者で、最終日に一斉に届いたとみられる。
八ッ場ダム建設見直しを求める「水源開発問題全国連絡会」の嶋津暉之共同代表は「ダム推進の意見が多数と見せかけるため、組織的に署名を集めたのではないか。極めて問題だ」と批判している。
◆2011年11月28日 しんぶん赤旗
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-11-28/2011112815_01_1.html
-“賛成”を大量印刷/八ツ場ダム・意見公募/5963件中96%が同一文 手書き、住所氏名だけー
(写真)八ツ場ダムのパブリックコメントで多数寄せられた同じ内容、同じ体裁の賛成意見。意見は印刷され、名前や住所を手書きで5人まで記入できる形式になっています(黒塗りは国交省関東地方整備局によるもの)
八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の建設の是非について、国土交通省関東地方整備局が住民から公募したパブリックコメント約5700件の内容が、全く同じ文言で同じ体裁の賛成意見だったことがわかりました。この賛成意見は、集まった意見全体の96%にのぼり、ダム推進派の大がかりな賛成“動員”と見られます。
“動員”が判明したのは、国交省関東地方整備局が作成した八ツ場ダムの「検討報告書」へのパブリックコメント(意見公募)です。募集は10月6日から1カ月間行われ、5963件の意見が集まりました。
同整備局が25日に公表した公募結果によると、このうち5739人の意見は、一字一句同じ内容の賛成意見でした。
表題や意見は印刷されており、提出者の名前や住所を手書きで書き込む署名用紙のような形式になっています。職業欄に「市議」「議員」と書かれたものも複数ありました。ほとんどが埼玉県在住者から提出されたものとみられます。
この意見は「他の選択肢はない。速やかにダム本体工事に着手し、計画通りに事業を完成すべきである」などと、建設推進を求めています。
パブリックコメントに寄せられた反対意見は、書式や体裁がバラバラで、治水や利水、地すべりの危険性など、多様な論点で書かれています。
パブリックコメントは、行政が政策や手続きの最終決定を行う際に住民の意見を反映する手続きです。
今回、意見公募が行われた「検討報告書」の内容をめぐっては、日本共産党の塩川鉄也衆院議員が質問主意書を提出。塩川議員は、同整備局が想定する同ダム建設で得られる便益が過大で「信頼性に疑問がある」として、その根拠を示すよう求めています。
◆2011年12月2日 東京新聞 「こちら特報部」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2011120202000049.html
-八ッ場ダムでも「やらせ」か 公募意見 96%全く同一ー
八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の建設の是非について国土交通省関東地方整備局が住民から公募したパブリックコメントで、寄せられた意見の96%に当たる五千七百三十九件が全く同じ文言で同じ体裁の賛成意見だったことがわかった。
原発のやらせメールに似た大がかりな動員の可能性が高い。背景には、「安定水利権を得るため」としてダム建設事業に参画したい埼玉県の意向がのぞくが、利根川水系の水は余っており、県の説明は矛盾をはらんでいる。 (佐藤圭、小倉貞俊)
ダム推進派による”動員”が疑われているが、国交省関東地方整備局が「治水、利水面で八ッ場ダム案が最も有利」と結論付けた検証結果へのパブコメ。十月六日から十一月四日までの三十日間、意見を募ったところ、延べ五千九百六十三件の応募があった。
同整備局が十一月二十五日にホームページ上で公表した公募結果によると、寄せられた意見の96%に当たる五千七百三十九件が一字一句全く同じ賛成意見だった。署名用紙のような体裁で、「八ッ場ダムは最も現実的、かつ確実に効果を見込める事業」「速やかにダム本体工事に着手し、計画通りに事業を完成すべきである」などと建設推進を求める意見が印刷済み。これに五人まで署名できるようになっている。
公開された資料を見ると、名前や住所、電話番号は「個人情報」として黒塗りだが、職業や年齢、性別は手書きされているのが分かる。職業には「議員」、「建設業」、「公務員」、「主婦」などがあった。
同一の賛成文書の大半は、同整備局のある埼玉県在住者から寄せられたとみられる。都県別の意見数では、埼玉県が五千七百三十八件。意見の中でも「埼玉県の水需給状況は・・・」と言及しているからだ。
一方、それ以外の二百数十件の書式はバラバラ。反対意見が多く、それぞれの視点、言葉遣いで事業の問題点を突いている。
パブコメの意見は、十一月二十一日に開かれた利根川流域六都県の「検討の場幹事会」で示された。同整備局は「パブコメは一般から広く意見を求める手続きで、特に形式は問わない。反対、賛成で集約しているわけではない。幹事会でも(同一文書の)数は言っておらず、一つの意見として紹介した」と説明する。
だが、八ッ場ダム建設に反対する市民団体「水源開発問題全国連絡会」の嶋津暉之共同代表は「『ダム事業推進を求める声が圧倒的多数である」と錯覚させるため、偽りのパブコメで世論を誘導しようとしている。九州電力のやらせメールと同様の悪質な手口だ。実態を明らかにしていく」と厳しく批判する。
嶋津氏が注目するのは、は発信源として濃厚なのが「埼玉」という点だ。上田清司埼玉県知事は推進派の筆頭格として知られる。元民主党衆院議員で、同党にパイプのある上田氏は「国交省にとって非常に頼りになる存在」(同党秘書)だ。
嶋津氏は「賛成意見の文章は、埼玉県執行部が、県議会などで説明してきた内容通りのものだ。県の息のかかった人が関与している可能性は非常に高い。推進派が最終局面で、なりふり構わぬ行動に出た」と推測する。
ー推進派 数字操作した可能性 「水不足」は非現実的予測 「パブコメ ただのセレモニー」ー
では、パブコメに使いまわされていた”建設推進派”の主張はどんなものなのか。一つは「検証により、ダムは治水・利水の安全度を高める対策として、確実に効果を見込めると明らかになった」というものだ。
治水面については過去の「こちら特報部」でも、ダム建設の根拠となる利根川の最大流量(基本高水)が過大に算出されていたことなどを報道。「建設ありき」の国交省の姿勢に言及したが、利水面においても疑問符が付く。「再検証の誤りは、利水予定者(流域都県)が作った現実離れした水需要予測を、そのまま容認したこと」と話す。
例えば東京都の場合、一日の最大給水量、平均給水量とも一九九二年度からゆるやかに減り続け、二〇一〇年度は最大が四百九十万立方㍍、平気が四百三十九万立方㍍だった。だが、都が〇三年に出した需要予測では、一三年度の一日最大給水量を六百万立方㍍と試算。百万立方㍍以上の開きが生じることになる。
都は「万一の際でも安定給水できるよう、さまざまな要素を考慮した」と説明。一方で、多摩地域で使われている一日平均二十五万立方㍍の地下水源分はカウントしていないというのだ。
そもそも、利根川流域六都県の水道用水の需要は減少傾向にある。日本水道協会の統計では、一日の最大給水量はピークの一九九二年度から二〇〇九年までの十七年間で百八十二万立方㍍(22%)減った。国交省の研究会が〇八年にまとめた報告にも「水使用量は人口減などにより、五十年後は現在と比べ62~67%に、百年後は31~42%にまで縮小する」とある。
ところが、利根川流域六都県からのデータを基に作られた国交省の水資源開発基本計画では、六都県の一日最大給水量が〇四年度から十五年度までの間に一・二倍に増えるとしており、これがダムが必要なもう一つの根拠になっている。嶋津氏は「非現実的な予測であり、意図的な数字操作があるのではないか」と指摘する。
さて、パブコメで使い回された別の主張が「埼玉県の水需給状況は、暫定水利権が占める割合が大きい。ダム建設でこれを解消しなければ、渇水に対する安全度が高まらない」とするものだ。
暫定水利権とは、ダムなどで将来的に水源が確保できることを前提に、水量が豊富な時に河川から取水できる権利のこと。各都県は八ッ場ダム参画を条件に利根川から取水しているため「ダム建設は不可欠」と主張する。
嶋津氏は「国が建設を断念した徳島の細河内ダムなどは暫定水利権が消失せず、そのまま使用を認められた。八ッ場が白紙になっても、水利権が使用できないことにはならない」とし、「利根川の水利権許可権者も、八ッ場ダムの建設事業者も同じ国交省。水利権の許可権をダム建設推進の手段に利用しているだけ」と批判した。
一日には国交省の有識者会議が、同整備局の「建設継続」という検証結果を受け会議を開くなど、最終局面を迎えた。「ダム検証のあり方を問う科学者の会」も同日、都内でシンポジウムを開き、治水や利水の問題点を報告した。同会共同代表の今本博健京大名誉教授はこう訴える。「検証もパブコメもただのセレモニーにすぎなかった。前田武志国交相とダム中止を公約した民主党に正しい判断をしてもらうべく、最後まで戦っていきたい」