「八ッ場ダム建設再開」の顛末

2011年12月28日

 事前の報道では、前田国交大臣による八ッ場ダム建設再開の是非」についての表明は12月20日になるということでしたが、前原政調会長ら、八ッ場ダム建設再開に反対する民主党国会議員らの抵抗にあい、前田大臣の表明は22日にずれこみました。
 結果的にマスコミが既定路線として報道していた通り、「八ッ場ダム建設再開」の予算計上が年内に決定しましたが、そこへ至る顛末は、官僚が実権を握り、民主党が政権政党とは名ばかりであることを国民に見せつけるものとなりました。
 民主党政権では国交省などの官僚主導が強まっており、省益を最優先する官僚組織の暴走を誰も食い止めることができないという危機的な状況となっています。

 この間の民主党と国交省の攻防を以下に整理します。

●9月13日 国交省関東地方整備局、「八ッ場ダム建設再開」を妥当とする検証結果案を公表。

●11月18日 八ッ場ダム建設に反対する民主党議員らの働き掛けにより、同党の国土交通部門会議に「八ッ場ダム問題分科会」設置。

●11月30日 関東地方整備局、「八ッ場ダム建設再開」を求める検証結果を国交省本省に報告。

●12月1日 国交省の有識者会議、2時間の審議で関東地整局の結論を支持。

●12月8日 「八ッ場ダム問題分科会」より上げられた意見をもとに、民主党の国土交通部門会議が「八ッ場ダム建設再開」について慎重な党内の意見を反映させた意見書を同党の政策調査会に提出。
 八ッ場ダム建設に反対する同党議員ら、八ッ場ダム建設中止を盛り込んだ意見書を政策調査会に提出。

●12月9日 前原政調会長、民主党の二つの意見書を藤村官房長官に提出。「政府から明確な回答がない間は、ダム本体工事に入ることは容認できない」との党の見解を伝える。
 利根川流域の八ッ場ダム関係六都県知事、「八ッ場ダム建設」を国交大臣へ要請。
 藤村官房長官、前田大臣が最終判断と繰り返す。

●12月12日 前田大臣、民主党の意見書で示された疑問点ついて、従来の見解を回答。

●12月15日 民主党「八ッ場ダム問題分科会」、国交省回答について議論。
 自民党、八ッ場ダム建設推進要望書を前田大臣に提出。

●12月19日 八ッ場ダム建設に反対する民主党議員有志ら、国交省の回答への再反論を前原政調会長へ提出。

●12月21日 前原政調会長、民主党国土交通部門会議の慎重意見などを受けて、改めて藤村官房長官に、「本体工事は認められない。八ッ場ダムはマニフェスト(政権公約)に関わる問題で、政治判断が必要」と申し入れ。
 藤村官房長官、前田国交大臣に八ッ場ダム本体工事着工の二条件(①利根川水系の河川整備計画を策定 ②ダム建設予定地に対する生活再建法案の国会提出)を記した裁定案を提示。

●12月22日 
 11時半 藤村官房長官、前原政調会長と前田国交大臣に改めて正式に裁定案を提示し、「両氏とも一言一句、受け入れた」と記者団に説明。「八ッ場ダムは箇所付けの話であり、国交省の判断で予算計上」との姿勢は崩さず。前原政調会長、会談後も「裁定案の二条件がクリアできなければダム建設は白紙のはず。本体工事費を計上した場合は、国交省の予算を認めることはできない」と、なおも国交省を牽制。

 午後3時 前田大臣、八ッ場ダム再開の決定を閣議後の閣僚懇談会で全閣僚へ報告。

 午後3時29分 前田大臣、長野原町長に電話で「(裁定案などの)条件ナシで八ッ場ダム建設再開」と連絡。

 午後3時30分~ 前田大臣、関係都県知事に上記と同趣旨を電話連絡。

 午後4時 民主党国土交通部門会議、八ッ場ダム建設反対議員ら、国交省の説明に猛反発。

 午後4時45分 前田大臣、記者会見で「八ッ場ダム建設再開」を表明

 午後6時40分 「ダム検証のあり方を問う科学者の会」、国交省に抗議声明。

 午後7時50分 ダム予定地を抱える長野原町に赴いた前田大臣、政権交代後、二年の遅れを謝罪し、群馬県知事らダム推進派と固く握手。国交省から出向している県土整備部長をはじめとする県関係者、長野原町長をはじめとする地元自治体関係者、上野ひろし参院議員(みんなの党)、地元有力者らの万歳三唱の映像がメディアを通して全国に伝えられる。

●12月23日
 政府・民主三役会議で八ッ場ダム建設継続を正式決定。
 前原政調会長、「党として承服できない」。輿石東幹事長―「政調会長一人に責任を負わせるわけにはいかない」と前原氏に同調。樽床幹事長代行も八ッ場ダム建設再開反対の意向を示す。
 しかし、政府側が譲らなかったことから、最終的には党が折れる形で「八ッ場ダム本体工事の予算計上」が決定。
 

 関連記事を転載します。

◆2011年12月23日 朝日新聞
http://www.asahi.com/special/minshu/TKY201112220430.html

 -八ツ場ダムの建設再開決定 民主マニフェスト総崩れー

 前田武志国土交通相は22日、八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の建設再開を表明した。2012年度予算案に、凍結していたダム本体工事費を計上する。地元の意向を踏まえた判断だが、八ツ場ダムの建設中止は、民主党の09年の衆院選マニフェストの象徴。高速道路無料化や議員定数削減などと並び、主要公約は総崩れ状態になった。

 国交省はこの日の政務三役会議で、工事再開と本体工事費の予算案への計上を決定。前田氏は直後の閣僚懇談会で野田佳彦首相に決定内容を伝え、事業費を負担する1都5県などの関係自治体にも報告した。記者会見で前田氏は「マニフェストの結果通りにならなかったのは残念だが、苦渋の決断をした」と語った。そのうえで「効果のある代替案のないまま中断するのはよくない」と指摘。総事業費4600億円のうち、周辺工事に全体の8割近くが投じられていることを踏まえ、「あとは本体工事で、6、7年で完成する」と理解を求めた。

 前田氏はその後、ダム予定地の長野原町を訪問。地元自治体の首長らに建設再開を報告した。

 民主党は政権交代直後、当時の前原誠司国交相が建設中止を宣言した。これに関連自治体が反発し、後任の馬淵澄夫国交相は「予断なく再検証する」と軌道修正した。国交省は今月になって、八ツ場ダムは河川改修などの代替案に比べて安上がりで「建設継続が妥当」との報告をまとめた。

 ただ、「コンクリートから人へ」を掲げて政権交代を果たした党内には建設再開への抵抗感が強い。野田首相が消費増税に「不退転の決意」で取り組む一方で、大型公共事業を再開するのは国民の理解を得にくいからだ。建設中止を宣言した前原氏は、党政調会として反対の意向を打ち出し、藤村修官房長官と断続的に調整を続けてきた。

 藤村氏は22日、前原、前田両氏と個別に会談。国交省に利根川水系の河川整備計画の策定と、ダムを中止した場合の生活再建の法律づくりを求めたうえで、ダム本体工事の再開を認める「官房長官裁定」を示し、「両氏とも一言一句、受け入れた」(藤村氏)という。

 だが、前原氏は22日の記者会見で「整備計画や生活再建の法律ができていない段階で、ダムを進める判断はできない」と述べ、国交省を牽制(けんせい)。来年度予算案にダム本体工事費を計上した場合、「国交省の予算は認めない。閣議決定させない」と反発した。


〈八ツ場ダム〉 1947(昭和22)年のカスリーン台風で利根川が決壊し、死者約1100人の被害が出たことから群馬県長野原町で計画が浮上。温泉街が水没する地元は85年、地域振興を条件に建設を受け入れた。総事業費はダム事業で国内最高の4600億円。3月末までに3558億円が使われた。用地取得は87%、家屋移転は予定の90%を終えている。完成予定は15年度。国土交通省は建設が再開された場合、完成は3年遅れるとの見通しを明らかにしている。地滑りや代替地の安全対策がさらに必要で、事業費は膨らむ可能性がある。

◆2011年12月23日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581112240001

 -八ツ場ダム再開決定 国交省が報告ー

 八ツ場ダムは継続決定――。前田武志国土交通相は22日、建設再開を表明し、地元住民に謝罪した。計画浮上から59年。県は喜びをあらわにしたが、県内では推進派も見直し派も「これからが勝負」と気を引き締める。

 「いつもだまされてきたからキツネにつままれているような感じだ」

 八ツ場ダムができれば全戸が水没する長野原町の川原湯温泉。老舗旅館・山木館を営む樋田洋二さん(64)は22日夕、建設再開を伝えるニュースを半信半疑で見つめていた。

 生活再建について行政と話し合う地区対策委員会の委員長。国は1952年に八ツ場ダム計画を町に伝えて以来、地域を混乱させてきた。

 地元には先週末以降、「前田武志国土交通相は建設再開の意向だ」という情報が国交省幹部や国会議員を通じて入っていた。高山欣也長野原町長や大沢正明知事は「後は国交相の決断を待つだけ」と発言。推進派が大半の地元には、楽観的な雰囲気が漂っていた。

 暗転したのは21日深夜。政府高官が「本体工事の予算は計上するが、凍結」と述べたとニュースが流れ、関係者は情報確認に追われた。「また前原が動いているのか」と、2009年9月に中止宣言をした前原誠司党政調会長への不快感を次々にあらわにした。

 「ご迷惑、つらい思いをさせた」。前田国交相は22日夜に急きょ現地入りして住民に謝罪した。会場に来ていた推進派の町議、星河由紀子さん(69)は「昨夜は一睡もできなかった。大臣の気持ちを無駄にしないよう明るい未来に向けて頑張る」と話す。

 一方で、ダム見直しに取り組んできた民主党県連や市民団体メンバーらは、国交相の決定に反発している。

 中島政希県連会長代行は「反対姿勢は貫いていく。前原さんも引き下がらないと思う」、八ツ場ダムを考える1都5県議会議員の会の会長を務める角倉邦良県議も「政府と党の見解がずれたまま、強行決定したのは言語道断だ」と怒りをあらわにした。

 「八ツ場あしたの会」事務局長の渡辺洋子さんは「私たちは、民主党に政権交代する前からダムの危険性を訴えてきた。八ツ場は移転代替地の地滑りや吾妻川のヒ素など問題が山積している。再検証の過程で、国交省や有識者会議の暴走を見た。広く国民に知ってもらうべく、これから活動を強めていく」と話した。
 ■

 八ツ場ダムの最終判断をめぐり、県内の関係者は、政府と民主党幹部の言動に丸一日振り回された。

【21日】

18・00 民主党の前原誠司政調会長が「『明確な説明がない限り、本体工事の着工は認められない』と官房長官に申し上げてきた」と発言。

20・00 ダムができれば水没する川原湯地区対策委員長の樋田洋二さんは「前田国交相は建設の意向のようだが、前原政調会長がひっくり返すのではないかと心配だ」。

22・00前 政府高官が「予算は計上するが、民主党の疑問が解けぬ限り執行しない」と発言。

22・00過ぎ 「本体工事費の予算を凍結」とのニュース速報がテレビで流れる。地元住民や県幹部らが情報の確認に追われる。

【22日】

午前 県庁。関係5都県と連絡を取り合い、断続的に対策会議を開く。幹部は「情報がない。ニュースを見ているしかない」。

11・00 藤村修官房長官が会見で「党と国交相に裁定案を示す。双方に受け入れて頂くよう説明する」。

11・30 官房長官が政調会長、国交相と会談。終了後、政調会長は「(本体工事費を計上した場合は)国交省の予算を認めることはできない」、国交相は「裁定案を受け取りました」と足早に去る。

12・40 推進議連1都5県の会が県庁前で演説。萩原渉県議は「2年間で55億円の予算が余計にかかった。前原(政調会長)に賠償請求すべきだ」。

13・00前 国交相来県の情報が流れ、県や長野原町が対応に追われる。県幹部は「『国交省の予算を止める』と言っているが、震災復興も含まれている。できるわけがない」と政調会長を批判。

15・29 国交相から長野原町の高山欣也町長に「建設継続」の連絡。

15・30 国交相から大沢正明知事に「建設継続」の連絡。

16・00 民主党で国土交通部門会議。県連や議連といった見直し派の議員は反発して退席も。

16・45 国交相が会見し建設再開を表明。

18・00 自民党県連が「建設継続は当然。2年半の混乱と住民生活への被害は甚大で、民主党の責任は重い」とする談話発表。

18・30 民主党県連が「国交相決定は総選挙で応援して頂いた国民の期待を裏切り、後世に大きな禍根を残す」と談話発表。

18・40 全国の研究者138人でつくる「ダム検証のあり方を問う科学者の会」が国交相に抗議声明。

19・50 国交相が長野原町で地元住民に「建設継続」を報告。「迷惑をかけた」と謝罪。

◆2011年12月23日 毎日新聞政治面
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20111223k0000e010147000c.html

 -八ッ場「再開」:懸案多数、野田政権に余力なくー

 民主党政権がいったん中止した八ッ場(やんば)ダム(群馬県)の建設再開が決まり、同党が09年衆院選マニフェストに掲げた目玉公約がまたも腰砕けとなった。消費税増税を含む税と社会保障の一体改革など難しい懸案を抱える野田政権に、国土交通省のつくった建設再開の流れを押し戻す余力はなく、民主党の前原誠司政調会長が12年度予算案の計上に最後まで抵抗してみせているのも「官僚主導」の印象を少しでも払拭(ふっしょく)したい思惑がにじむ。政権の弱体化が全国のダム建設継続の動きを加速させる可能性もある。【野口武則、小山由宇、樋岡徹也】

 「予算は内閣がとりまとめて国会に提出する。国会で決まった予算を執行するのは政府で、その担当が国交相ということだ」

 前田武志国交相は22日、八ッ場ダムの建設再開を表明した記者会見で、民主党政調の「事前承認」権限をちらつかせて本体工事の予算計上に反対する前原氏をけん制した。藤村修官房長官からは今月9日の段階で「担当閣僚に判断してもらうのが野田内閣の方針だ」と判断を委ねられており、首相官邸のお墨付きを得ての建設再開決定だった。

 国交相の動きは早かった。記者会見前に流域の1都5県の知事や関係自治体に建設再開を連絡。前原氏がその後の記者会見で改めて反対を表明しても、政府方針は既成事実化された形になった。

 野田佳彦首相が国交相に判断を委ねたのは、政権が複数の重い政策課題を抱える中、さらに問題を抱え込みたくないとの思惑があるからだ。消費増税のほかにも米軍普天間飛行場の移設、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加など、野田政権の課題はいずれも党内に強い異論を抱える。

 「どんな案件でも官邸に持って来すぎる。閣僚がいるのは個別事案を判断するためだ」

 首相は最近、周辺にこうぼやいた。しかし、旧建設省出身で建設再開に前向きな前田氏に任せたらどうなるかは目に見えていた。「コンクリートから人へ」を掲げたのが民主党マニフェストであり、その象徴とも言える八ッ場ダム中止の公約撤回が政権に与えるダメージも予想された。22日の同党国土交通部門会議では出席者から「この党は潰れる」との悲痛な声も漏れた。

 「予算、法案は政調会の事前承認(が必要)なので(予算計上は)認められない」

 前原氏は22日、なおも抵抗することを記者団に宣言した。前原氏は野田政権の党政調会長に就任するにあたって、予算や法案の国会提出時に党政調の事前承認を条件とするよう求めた。

 これを武器に「官僚主導」と戦う姿勢を示したわけだが、同日の記者会見では「最高意思決定機関は(野田首相や輿石東幹事長が出席する)政府・民主三役会議なので、ここでどのような判断をされるのかに尽きる」とも語った。

 党政調の事前承認に勝るのは首相の指示しかなく、最終的に首相の政治判断で建設再開となれば従うということ。官僚主導色を薄め、政治判断によるマニフェスト変更との形をとる狙いがある。

 ただ、結果的に国交省の方針通りとなれば、最後まで抵抗した前原氏の党内影響力も傷つく。党内慎重派が「マニフェスト違反」と批判を強める消費増税問題にも影を落としそうだ。

 ◇官僚に主導権奪われ……ダム復活加速も
 「前原氏は、最後は自らの判断で覆せると思っていたのではないか」。国土交通省関係者は指摘する。「建設事業継続が妥当」とした国交省の検証手順は、当時国交相として建設中止を表明した前原氏が作成に深く関わり、継続か中止かの最終判断は国交相が行う仕組みのためだ。

 検証手順を決めたのは、09年12月に設置された国交省の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」。事業主体の地方整備局や道府県がダム以外の治水策を立案し、ダムとコストなどを比較することとした。

 前原氏は同会議の12回の会合のほとんどに出席し、座長などの人選にも関与。昨年9月に検証手順を定めた中間とりまとめの冒頭には「『できるだけダムに頼らない治水』への政策転換を進める」と記されていた。これを受け、全国83のダム事業の検証が始まった。

 だが、八ッ場ダムについて関東地方整備局は先月、「ダム建設に加え四つの代替案を検証した結果、ダム案が約8300億円で最も安く、10年後の治水効果を一番見込める」などとして事業継続が妥当と判断。12月の有識者会議の審議でも「一連の検証作業は適切に行われた」とされた。

 民主党の八ッ場ダム問題分科会に参加した議員は「この2年間、党内で八ッ場ダムの議論は盛り上がらなかった。その間に党の力もだんだん弱くなり、歴代国交相も決められなくなっていた」と、官僚側に主導権を奪われていった舞台裏を明かす。

 八ッ場ダム以外の検証作業も同様の状況にある。全国83ダム事業(国と水資源機構が建設する直轄事業30、道府県が国の補助で進める補助事業53)のうち、これまでに国交相の対応方針が示されたのは19事業(継続13、中止6)。中止事業のほとんどは、検証前から事実上止まっていたのが実情だ。

 ただ、直轄事業での「継続」判断は八ッ場が初めてとなる。国交省幹部は「八ッ場の検証手続きを各地の事業主体は注目している。これを機に、建設継続の流れが進むかもしれない」と話す。

◆2011年12月23日 毎日新聞群馬版
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20111223ddlk10010286000c.html

 -八ッ場ダム建設再開 推進派は「万歳」 「生活再建を早く」ー

 八ッ場ダム問題は22日、前田武志国土交通相が建設再開を決断し、本体工事着手に向け大きく前進した。地元・長野原町では、高山欣也町長ら約50人が報告に訪れた前田国交相を万歳三唱で歓迎し「一刻も早く生活再建を」と訴えた。一方、民主党の前原誠司政調会長はダム事業費の予算案計上に反対する姿勢を崩しておらず、ダム反対派は「引き続き中止を求める」と抗戦の構えだ。【庄司哲也、鳥井真平、喜屋武真之介、塩田彩、角田直哉】

■国交相地元入り

 前田国交相の地元入りは急きょ設定された。同日午後3時半、前田国交相は高山町長に電話し「継続に決定いたしました。直接お会いし、おわびしたい」と伝えた。会場の同町山村開発センターには午後7時50分に到着。大沢正明知事や高山町長、東吾妻町の中沢恒喜町長らは立ち上がって拍手で出迎えた。

 ダム建設を受け入れた地元住民など推進派からは歓迎の声が上がった。八ッ場ダム推進吾妻住民協議会の萩原昭朗会長(80)は「非常に喜ばしい。国交相の英断に深く感謝したい」と話し、八ッ場ダム水没関係5地区連合対策委員会の篠原憲一事務局長(70)は「建設継続は当然。一日も早く本体着工に取りかかって遅れを取り戻してほしい」と語った。

 地元、吾妻郡選出の南波和憲県議会議長は「地元の人たちは苦しみ抜いたので、一刻も早く生活再建を行ってほしい。民主党は不十分なマニフェストを掲げたことを反省すべきだ」と述べた。

 一方、川原湯地区で食堂「旬」を営む水出耕一さん(57)は「本当に建設が決まるのであればありがたいが、今回の前田国交相の発言だけで、ダム建設が決まったとするのは時期尚早な気がする。まだ喜ぶことはできない」と話した。

◇反対派「引き続き中止求める」

■怒りの声

 ダム反対派は怒りの声を上げた。

 川原湯地区で乳業を営む豊田武夫さん(60)は「検証で地盤の弱さなどが十分に議論されたとは言えない」と批判。八ッ場ダム建設に反対する市民団体「水源開発問題全国連絡会」の嶋津暉之共同代表は「前田国交相は建設再開を決めたが、本体着工には藤村官房長官から示された二つの条件のクリアが必要だ。すぐに本体着工には移れないだろう」と話した。

 ダムの見直しを求める市民団体「八ッ場あしたの会」の渡辺洋子事務局長は「民主党が公約を放棄するのであれば、説明責任がある」と批判し、「反対運動は続ける。このような失政が行われないよう、この問題を未来の世代に伝えていかないといけない」と話した。

 「八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会」会長として、ダム中止を訴えてきた角倉邦良県議は「この問題は国交相の判断で決められるものではない。引き続き民主党に中止を求めていく」と話した。

 一方、かつてダム反対期成同盟に所属した林地区の篠原政信さん(83)は「国交相が建設再開の結論を出すことは薄々感じていた。半世紀も右へ左へと議論が振れてきた問題で、今さら驚くようなことではない」とあきらめたような口調で話した。

■学者は賛否割れ

 国土交通省関東地方整備局の諮問機関「事業評価監視委員会」の委員として、検証に携わった群馬大大学院の清水義彦教授(河川工学)は「地元の方には長年方向性が見えずに申し訳なかったと思うが、今回の決定は非常に妥当だ。八ッ場ダムに限らず、将来に向けた治水のあり方を議論できたのは無駄な時間ではなかった」と話した。

 科学者11人による「八ッ場ダム検証の抜本的なやり直しを求める声明」の呼びかけ人となり、ダム中止を訴えてきた新潟大の大熊孝名誉教授(同)は「ダム建設は未来に大きな禍根を残す。ダムで自然の循環を断ってしまうことで、利根川の上下流にさまざまな問題が出てくる。ダムを造らない地元住民の生活再建の方法はあったはずだ」と話した。

 京都大の今本博健名誉教授(同)は「八ッ場ダムの必要性はまったく感じない。前田国交相は歴史に汚名を残すと思うと残念だ」と話した。今本名誉教授は京都大で前田国交相と河川工学を学び、国交相就任後は度々電話しダム中止を訴えてきた。

◆2011年12月23日 読売新聞群馬版
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20111223-OYT8T00099.htm

 -待ちわびた前進に拍手/八ッ場建設継続 予算案、予断許さずー

 政権交代直後の八ッ場ダム建設中止表明から2年3か月余り。前田国土交通相は22日、「建設継続が妥当」とする検証結果を尊重し、本体着工にゴーサインを出した。推進派や地元は、国交相の「苦渋の決断」を評価した。反対派はなお抵抗の構えを見せ、民主党内では、前原政調会長らが中止を掲げたマニフェスト(政権公約)を盾に予算計上に反発。来年の通常国会で予算が通るまで予断を許さない状況が続く。

■地元総立ちで歓迎

 午後4時45分過ぎ。国土交通省で記者会見した前田国交相は「事業継続を決定した」と切り出した。

 首都圏の治水の歴史を説明し、「即効性のある治水施設が望まれる」とダムの必要性を指摘。利根川流域6都県知事がダム建設を求めている点や、検証手続きの正当性を強調した。マニフェストに反する結果については「誠に残念だが、ある意味、苦渋の決断をさせてもらった」と語った。

 前田国交相はその足で長野原町に入った。午後7時50分過ぎ、会場の町山村開発センターでは住民ら約50人全員が立ち上がって拍手で迎えた。大沢知事は「中止表明から2年、住民は先が見えなかっただけに喜びは計り知れない。一日も早くダム本体を着工し、生活再建事業も完成させてほしい」と述べた。高山欣也町長は「『横やり』が入って難しい中、英断に感謝申し上げる」と前原政調会長を皮肉りながら、「これで希望が持てる。遠路来ていただけるとは思わなかった」と敬意を表した。

■住民からも「英断」

 地元住民からは、歓迎の声が上がった。川原湯温泉で土産物屋を営む樋田ふさ子さん(82)は「党内で逆風が吹く中、英断してくれた前田大臣は偉い」と感激。温泉街は旅館の休業が相次ぐなど元気がないが、「温泉街がもう一度にぎやかになったところを見たい」と願った。

 温泉街で食堂「旬」を営む水出耕一さん(57)は「民主党は『生活再建を進める』と言いながら、進んではいない。旅館、商店、飲食店が商売できる環境を整えるのが根本。しっかりやってほしい」と注文を付けた。

 自民党のダム推進議連の会長を務める佐田玄一郎衆院議員は、前原氏の抵抗について「恥をかくだけだ」と批判した。

■反対派「歴史に汚点」

 建設に反対する民主党県連の中島政希会長代行は「国交相の決定は極めて遺憾。前回総選挙で応援していただいた国民の期待を裏切るものだ」とのコメントを発表。「八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会」会長の角倉邦良県議は「党内手続きを無視した大臣の独走で、決定が覆るよう党内に強く働きかけたい」と強気の姿勢だ。

 前田国交相と大学の同級生で、ダム建設に反対する今本健博・京大名誉教授(河川工学)は「民主党はだらしない。前田君も歴史に汚点を残した」と憤り、長野原町の40歳代の女性は「自然保護が叫ばれる中、時代錯誤も甚だしい」と批判した。

◆2011年12月24日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581112240003

 -八ツ場ダム 民主6人 反対貫くー

 政府・民主党が23日に建設再開を正式決定した八ツ場ダム。県選出の民主党国会議員ら「反対派」は、前田武志国土交通相への批判を強めている。

 「国交相が起こしたクーデターだ」

 県選出の民主党衆院議員6人は、ともに八ツ場ダム反対の立場。23日午後の政府・民主三役会議で正式決定する前日に、国交相が建設再開を表明して現地入りしたことをこう批判する。

 表明の時間、党の国土交通部門会議が開催中だった。三宅雪子衆院議員は「官房長官裁定が配られ、『再開ではない』という雰囲気だった。党の仲間をだまして記者会見したのは驚くべき暴挙。県連で今後の対応を考える」と憤る。

 政権交代で本体工事は止まったが、道路や鉄道の付け替え工事、移転代替地の造成といった関連事業は変わらずに進められた。

 そうした中、県選出国会議員らによる「八ツ場ダム等の地元住民の生活再建を考える議員連盟」(会長=川内博史衆院議員)は9月、住民の生活再建を目指した法案の素案を公表。10月に前原誠司政調会長に提出した。

 素案は、中止まで地元に残った住民に対し、生活再建の支援金支給や住居の新改築費助成などを14条にわたって規定。水没予定地区のダム推進派住民にも関心を示す声があった。

 だが、議連事務局長の初鹿明博衆院議員によると、素案は、部門会議で報告したが、党執行部に放置されているという。

 藤村修官房長官が22日に示したダム建設をめぐる裁定では、「生活再建の法律」の次期通常国会提出を目指した上で、本体工事を判断するとされた。前田国交相は「直ちに着手すべきと指示を出している」と22日夜に長野原町で発言。初鹿氏は「俺たちのを使うのか、自分たちでつくるのか分からないが、手順が逆だ」と指摘する。

 党の国土交通部門会議は、党所属の全国会議員が出席できるが、八ツ場ダム問題の論議では県選出と議連が大半だった。県選出議員らは「党内の大半が八ツ場に無関心」と嘆く。そんな中で前田国交相はダム建設再開を表明した。(牛尾梓、小林誠一)

 市民団体「八ツ場あしたの会」は23日、前田武志国土交通相への抗議声明を発表した。

 声明は、国交相の建設再開決定を「歴史に残る愚挙」と批判。建設予定地は地滑りや吾妻川のヒ素問題、浅間山の噴火といった災害の危険性があると主張し、「今後予想される様々な問題の追及につとめ、中止を目指す活動を続けていく」としている。

◆2011年12月24日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581112240002

 -09年の政権交代で再検証ー

 民主党に政権交代直後の2009年9月、国交相だった前原誠司氏(現・党政調会長)は、八ツ場ダムの中止を宣言した。負担金を出す群馬など6都県や水没予定地区の大半の住民は、説明なしで行われたことから反発した。

 「再検証」は両者の主張がぶつかる中で始まった。国交省の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」は10年7月、八ツ場を含む全国83のダム計画に関する再検証の仕組みを公表。事業主体が代替案と比較検討し、安全性を確保した上で、どちらが安上がりかで継続か中止を判断することになった。

 八ツ場では同年10月に、国交省関東地方整備局が作業を開始。「中止宣言」は残ったままで地元の反発が強かったため、国交相となった馬淵澄夫氏は同年11月に中止方針を棚上げし、11年秋までに検証結果を出すことを表明した。

 11年2月に国交相だった大畠章宏氏は「一切の予断を持たずに検証を進める」と路線を踏襲した。整備局は9月、代替案と比較して「八ツ場ダムが優位」との総合評価を公表。有識者や関係住民への意見聴取やパブリックコメント(国民の意見)を集め、「建設継続が妥当」との方針を本省に報告した。

 民主党で4人目の国交相となった前田武志氏は就任直後から「東日本大震災や浅間山噴火といった大災害を踏まえた上で、来年度予算編成に間に合うよう決断したい」と言明。省内に事務次官を長とするタスクフォースを設置して大災害の資料を集め、有識者会議で検討。国交省は12月、「建設継続が妥当」とする結論で再検証を終えた。

 前原氏や民主党県連、全国の学者グループなどは、国交省による再検証のやりかたや八ツ場ダムが優位とする結論に問題があるとして、やり直しを求めた。

 だが、民主党政権は結局、建設継続の方針を打ち出した。

■八ツ場ダムをめぐる政権交代後の経緯

【2009年】
8月30日 マニフェストに八ツ場ダム中止を掲げた民主党が衆院選大勝

9月3日 国交省がダム本体工事の入札延期

17日 国交相の前原誠司氏が中止表明

23日 前原氏が現地視察。「ダムに頼らない治水対策、河川整備を進めたい」

10月19日 6都県知事が中止撤回要求の声明

【2010年】

1月24日 前原氏が予定地の住民と対話。「必要性を再検証する」

10月1日 国交省関東地方整備局の検証作業始まる

11月6日 国交相の馬淵澄夫氏が現地視察。中止を棚上げし、11年秋までに検証結果を出すことを表明

【2011年】

2月13日 国交相の大畠章宏氏が現地視察。「一切の予断を持たずに検証を進める」

9月13日 整備局が代替案と比較して「八ツ場ダムが優位」との総合評価。前原氏が「事前説明がなかった」と不快感を示す

15日 野田首相が「検証結果に従って国交相が対処する」と明言

26日 6都県知事が早期の再検証終了と工事着手を前田武志国交相に申し入れ

10月6日~11月4日 整備局がパブリックコメント(国民の意見)を募集。連名が5739人分あり、群馬県からは0・8%

8日 前田国交相が民主党政権で4人目となる現地視察。「12年度予算に反映させる」

11月1日 学者グループが国交省に声明文を持参し、再検証のやり直しを要求

4日 整備局が有識者から意見聴取

6~8日 整備局が関係住民の意見聴取。長野原町などで51人が参加

21日 整備局が「建設継続が妥当」との方針を6都県に示す

29日 事業評価監視委員会が了承し、整備局の検討が終了

12月1日 国交省の有識者会議が了承し再検証終了

7日 国交省の有識者会議が大震災や浅間山噴火を踏まえた議論

8日 民主党の前原政調会長が「疑問解消するまで本体工事容認できない」と発言

22日 野田政権が「建設継続」を表明