八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダムの事業費増額と工期延長

2011年12月29日

 群馬県の大沢知事は昨日の定例会見で、八ッ場ダムの完成時期が延びた場合の追加負担金は国が支払うべきだと述べました。

 国土交通省関東地方整備局は八ッ場ダムの検証の中で、ダム事業費の今後の増額が約183億円、工期も3年延びることを明らかにしています。
 国交省は、これらの数字はあくまで試算であり、「コスト縮減、工期短縮に努める」として、事業費増額、工期延長は現実的な話ではないかのような発言を繰り返しています。しかし、「コスト縮減、工期短縮」はあくまで努力目標であり、関連事業の現状を見れば、試算以上にコストが膨らみ、工期が延長される可能性の方が高いとみられます。

 昨日の大沢知事の発言は、八ッ場ダム事業の完成が遅れる原因を民主党政権によるこの二年間のダム本体工事の凍結のせいにしています。
 しかし、これは事実誤認、あるいはウソと言わなければなりません。民主党政権は「八ッ場ダム中止」を政権公約(マニフェスト)に掲げましたが、八ッ場ダム事業の9割以上の予算を喰う関連事業を止めませんでした。ところが、この二年間、道路をはじめとする八ッ場ダムの関連事業は粛々と進められてきましたが、あまりに関連事業が膨大であるため、いまだに完了の目処が立っていません。
 
 本来、ダム本体工事は、水没予定地における関連事業が終了した次の段階で行われるものです。八ッ場ダムの本体工事の予定地には、今もJR吾妻線が走っています。また、水没予定地住民の移転代替地が未完成であることから、現在も水没予定地には多くの人々が暮らしています。これでは本格的なダム本体工事にはとりかかれません。二年間、関連工事が止まっていたのなら、工期の遅れを民主党政権のせいにするのもわかりますが、自民党政権のままであっても状況は変わらなかったはずです。

 大沢知事の発言は、大沢知事の専売特許ではなく、群馬県幹部も、埼玉県知事も、東京都知事も、国交省関東地方整備局も、皆、同じことを言っています。要職にある人々が繰り返し同じ発言をし、それをマスメディアが無批判に流し続けると、まるで戦時中の大本営発表のように、国民は事実を知ることができなくなります。

 国交省関東地方整備局による事業費増額と工期延長については、以下に詳しい説明を載せています。
 https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=1490

 昨日の大沢知事の発言の中で見過ごしに出来ないのは、関係都県が追加負担金を支払う必要がないと述べている点です。

 上記の説明にある事業費増額の内訳を転載します。

? 事業費増額分 工事中断と工期遅延(3年)に伴う増額 55.3億円
? 追加的な地すべり対策の必要性の点検による増額 109.7億円
? 代替地の安全対策の必要性の点検による増額 39.5億円

 下の二項目は、ダム予定地住民のための安全対策に要する費用です。
 代替地の安全性については、所管が群馬県建築住宅課であることから、群馬県にも大いに責任があるのですが、群馬県は独自の安全点検などの調査を行わず、国交省に全て任せている状況です。昨夏、国交省より代替地の安全性について報告を受けた群馬県は、問題ナシとして処理していたのですが、その後、国交省は新たな安全対策が必要だとして、事業費増額の試算を明らかにしました。
 群馬県知事は増額分を負担しないと述べていますが、県民の安全対策について他都県はともかく、群馬県が負担する気がないというのは、どういうことでしょうか。八ッ場ダム問題の過程で、いつも「地元」を前面に出してダム推進を主張している群馬県や大沢知事ですが、こうした言動を見ても、地元のことを真剣に考えているとは思えません。

 また、一項目目は「工事中断と工期遅延に伴う増額」として55.3億円と試算しています。工期遅延については、先に述べたように、本体工事の着工が遅れたことが原因ではありません。「工事中断」による増額とは、具体的にどのような費用を指すのでしょうか。
 なお、国交省は2008年に八ッ場ダムの完成予定を2010年度から2015年度に変更しました。5年も工期が伸びるにも関わらず、この時、国交省は事業費を増額しませんでした。
 ダム計画の変更を伴う事業費増額や工期延長は、関係都県の議会での承認を必要としますので、国交省にとっては厄介な問題です。国は関係都県の言いなりに、増額分をすべて負担することになるのでしょうか。それとも、関係都県が気持ちを入れ替えて、追加負担金を支払うことになるのでしょうか。いずれにしても、以下の日経新聞の記事タイトルにもあるように、八ッ場ダム事業は今後、ダム建設に向けて動き出したとしても難問が山積していることは間違いありません。
 

◆2011年12月28日 NHK
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20111228/t10014965711000.html
 -“八ッ場追加費は国が負担を”ー

 建設の継続が決まった群馬県の八ッ場ダムの建設費について、群馬県の大澤知事は「国の責任で空白を作ったので、完成時期が延びた場合の追加負担を下流域の1都5県が支払う必要はない」と述べ、追加分は国が責任を持って全額を支払うべきだという考えを示しました。

 八ッ場ダムの建設を巡っては、民主党が先の衆議院選挙で「建設中止」を政権公約にしていましたが、政府は公約を撤回して建設を継続することを決め、国の来年度予算案に建設に必要な予算が盛り込まれました。ダムの建設費はおよそ4600億円で、およそ40%を国が、およそ60%をダム下流域の1都5県が負担することになっています。群馬県の大澤知事は、28日の会見で、建設の中断によって平成27年度中を予定している完成時期が延びた場合の追加負担について、「国の責任で空白を作ったので、1都5県が追加の建設費を負担する必要はない」と述べ、追加分は国が責任を持って全額を支払うべきだという考えを示しました。

◆2011年12月26日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000001112260002

 -八ツ場ダム 膨らむ費用・工期ー

 八ツ場ダムの本体工事を行うための関連工事費(18億円のうち国費7億円)が24日、野田内閣が閣議決定した2012年度政府予算案に盛り込まれた。八ツ場では他に、移転代替地整備などの生活再建対策事業費(117億円のうち国費49億円)も計上されている。

 財務省は「関連工事費は作業ヤード造成や工事用道路整備など。本体の費用は含んでいない」としている。用地取得難航の影響とみられるが、前田武志国土交通相は24日の会見で来年度中の着工を改めて明言。生活再建法案も「川辺川ダム(熊本県)の動きを参考に早急に練る」と述べた。

 八ツ場ダムの総事業費は基本計画上、ダムで国内最高の4600億円。

 国土交通省は再検証で、22億円減の4578億円との試算を出した。2009年度までに3330億円が使われ、残事業費は1248億円。本体工事費や関連の「ダム費」は784億円のうち431億円が残る。

 ただ、国交省の再検証では、2009年9月以降の工事中断と工期延長で55億円、地滑り対策の追加など安全対策費で149億円の増額としている。水問題研究家の嶋津暉之さんは「総事業費に含まない代替地の整備に100億円以上かかる。安全対策も本格調査すれば増える」と主張する。

 実際には、基本計画より少なくとも280億円増える計算になる。

 事業費の約6割を出す群馬など6都県は「2年3カ月の空白は国の責任」として、基本計画通りの費用と15年度完成を求めている。国交省は「費用や工期は最大限短縮できるよう努力する」としているが、再検証では工期について87カ月との見込みを出した。

 大沢正明知事は24日、「政府予算に本体工事が盛り込まれたのは当然。前田国交相は検証による約2年間の遅れを取り戻すため、速やかに工事着手できるよう、直ちに入札公告の手続きを始めていただきたい」とのコメントを出した。

 建設再開で国交相と県は喜び合ったが、前途は多難だ。

◆2011年12月23日 日本経済新聞
 http://p.tl/diXg

 -「八ツ場」なお課題山積 工期や費用負担、国と溝ー

 八ツ場ダム(群馬県長野原町)の建設問題が2年以上の議論を経て、ようやく決着した。6都県や地元の経済界には、建設継続を歓迎するムードが強い。ただ、2012年度以降の建設スケジュールや国と地方の事業費負担のあり方など、依然として不透明な要素も少なくない。今後の事業の進め方をめぐり、国と地方の意見が再び対立する可能性もある。

 「すぐ地元に報告しようと思い、ここに参りました」。22日夜、長野原町を急きょ訪問した前田武志国土交通相は、群馬県の大沢正明知事や高山欣也町長、地元の住民ら約70人の盛大な拍手で出迎えられた。大沢知事は「一日も早く本体を着工し、生活再建を進めてほしい」と笑顔で語った。

 栃木県の福田富一知事は「様々な議論を乗り越え、事業継続を決断したことに敬意を表したい」との談話を発表。茨城県の橋本昌知事も「現実を踏まえた妥当な判断であり、当然の結果として受け止めている」とコメントした。

 地元・群馬の経済界も今回の決定を支持する声が多い。群馬県商工会議所連合会の曽我孝之会長は「工事の継続で建設業が恩恵を受ければ地域経済の全体に波及する」と指摘。群馬県建設業協会の青柳剛会長も「きちんとしたプロセスを踏み、事業継続の結論を出したことは評価できる」と語った。

 今後はダム本体の工事をどう進めるかなど、具体的な計画づくりに焦点が移る。ただ、ダムの完成時期や費用分担のあり方などをめぐり、国と地方の思惑には微妙なズレもある。

 6都県は現行のダム建設基本計画に沿って、15年度までの完成を求めている。一方、国交省側は「建設を進める場合、18年ぐらいをメドに建設するようにしたい」(11年2月の大畠章宏前国交相の国会答弁)と3年程度の遅れを示唆する。6都県は「『空白の2年間』は国の責任だ」(大沢知事)とみており、国交省が完成時期を先送りすることへの警戒感は強い。

 工事期間が長引けば、建設費用が膨らむ可能性もある。国交省は同日発表した八ツ場ダムの対応方針で「可能な限りのコスト縮減、工期短縮に努める」と表明したが、事業費の具体的な見通しは明記しなかった。八ツ場ダムの事業費は地方側がおよそ6割を負担しているが、工期延長で費用が膨らんだ分の支払いについては各都県とも難色を示している。

 工期や事業費などを変更する場合、ダム建設の基本計画を見直す必要がある。大沢知事は「計画変更には(6都県の)知事の理解、議会の承認を得なければならない」とクギを刺す。今後のダム事業の進み方について、国と地方が一致できるかどうかは依然として不透明。ダム事業が再び動き始めるまで、解決すべき課題は多い。