「官房長官裁定」という名の条件

2011年12月29日

 八ッ場ダム本体工事の予算計上に当たっては、国交省が当初から推進で年内の大臣表明を目指していたのに対して、民主党内には根強い反対意見がありました。国交省と民主党との対立が抜き差しならない状況になる中、藤村官房長官が持ち出したのが「官房長官裁定」と呼ばれるものです。

 https://yamba-net.org/wp/doc/201112/1222_saitei.pdf
 官房長官裁定

 関連記事を転載します。

◆2011年12月22日 朝日新聞

 -八ッ場、条件付き予算 官房長官方針 本体工事費計上へー

 八ッ場ダム(群馬県長野原町)の建設再開をめぐり、藤村修官房長官は21日夜、再開を求める前田武志国土交通相と、中止を主張する前原誠司・民主党政調会長と個別に会談し、条件付きで来年度予算案への本体工事費の計上を認める方針を示した。
 藤村氏は、治水・利水効果や事業費などの点で「建設継続が妥当」と結論づけた国交省の検証結果を尊重する意向。国交省の判断で本体工事費の計上を認める内容だが、党側の強い反対論に配慮し、水害が来た場合に見込まれる水位上昇の再検証など一定の条件をつけた。このため建設凍結の状態が続く可能性もある。
 国交省は22日に政務三役会議を開き、予算計上を正式に決める方針。前原氏の了承も得る方向で最終調整している。・・・(以下略)

—転載終わり—

 国交省の予算計上を可能とするために藤村官房長官が、正式には22日に前原政調会長、前田国交大臣に示した裁定案には次のように書かれています。

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 官房長官裁定

 1、現在作業中の利根川水系に関わる「河川整備計画」を早急に策定し、これに基づき基準点(八斗島)における「河川整備計画相当目標量」を検証する。

 2、ダム検証によって建設中止の判断があったことを踏まえ、ダム建設予定だった地域に対する生活再建の法律を、川辺川ダム建設予定地を一つのモデルとしてとりまとめ、次期通常国会への提出を目指す。

 3、八ッ場ダム本体工事については、上記の2点を踏まえ、判断する。

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 「河川整備計画の策定」(1)と「ダム中止を前提とした予定地住民の生活再建支援法案の国会提出」(2)という条件を踏まえて、八ッ場ダム本体工事の是非を判断すると書かれています。

 藤村官房長官は22日昼、前原政調会長、前田国交大臣に裁定案を示した後、「両氏とも一言一句、受け入れた」と記者らに述べました。

 しかし、裁定案を「一言一句、受け入れた」はずの前田国交大臣はその日夕方の会見で、「14時前に行われた国交省政務三役会議において、八ッ場ダム事業の継続を決定いたしました。その旨を、15時から行われた閣議の後の閣僚懇談会において、私の方から総理をはじめ、全閣僚に御報告を申し上げました。」と述べました。
 ↓
 http://www.mlit.go.jp/report/interview/daijin111222.html
 12月22日 前田国交大臣会見

 前田大臣は「裁定案」の3項目に書かれている「上記の2点を踏まえ」を「二点の条件をクリアした上で」、という意味ではなく、「念頭に置いて」というほどの曖昧な解釈によって、単なる今後の課題に落としてしまったのです。

 http://www.mlit.go.jp/common/000186641.pdf
 国交省の記者発表資料「八ッ場ダム建設事業に関する対応方針について」
 平成2 3 年1 2 月2 2 日 水管理・国土保全局 治水課事業監理室

 上記より、関連する部分を転載します。

4 今後の取り組み
 今後の利根川の治水対策において、「できるだけダムにたよらない治水」をさらに希求していき、その内容を今後早急に作成する利根川河川整備計画に反映するとともに、その作成過程において、河川整備計画相当の目標流量について改めて検証を行うこととする。

 これまでのダム検証において建設中止の判断があったことを踏まえ、ダム事業中止の場合における水没予定地域等の生活再建に関する法案を、川辺川ダムをひとつのモデルとして作成し、次期通常国会への提出を目指していくこととする。

—転載終わり—

 国交大臣は夕方の会見で「八ッ場ダム事業の継続」(=本体工事着工予算の計上)を表明し、さらにその足で現地に向かいました。

 裁定案の文言は、おそらく官僚によって玉虫色の解釈が可能となるよう整えられたのでしょう。「踏まえて」という表現を、「1,2の条件をクリアした上で」と受け取った前原政調会長ら八ッ場ダム建設に反対した民主党側と、今後の課題に過ぎないとした国交省側と、両者の溝が埋まらない中で、前田国交大臣は民主党の了承を得ていない「八ッ場ダム事業の継続」を既成事実化する行動に出ました。

 前田大臣を歓待した地元住民らの映像が夜のテレビで一斉に流れると、「八ッ場ダム継続」の流れは決定付けられたかに見えました。
 けれども、国交省の強引な手法を黙認した野田政権は、当然のことながら、その後、国民の厳しい批判にさらされることになります。

 消費税増税が政策課題して大きくクローズアップされる中、八ッ場ダムをめぐる国民の批判をかわすためか、野田首相は29日夜になって、「官房長官裁定の2条件をクリアしないと予算は執行しない」と発言しました。
 
◆2011年12月30日 時事通信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111230-00000009-jij-pol

 -八ツ場、着工条件守る=野田首相ー

 野田佳彦首相は29日夜の民主党税制調査会などの合同総会で、2012年度予算案に本体工事費が計上された八ツ場ダム(群馬県長野原町)について「官房長官裁定の2条件をクリアしないと予算は執行しない」と明言した。出席した同党議員が明らかにした。

◆2011年12月30日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2011123002000036.html

 -八ッ場予算執行に条件 首相「裁定案クリアを」ー

 野田佳彦首相は二十九日の民主党税制調査会と社会保障と税の一体改革調査会の合同総会で、建設再開の方針を決めた八ッ場(やんば)ダム(群馬県)への対応について、藤村修官房長官が再開条件の裁定案として示した流量の再検証などが完了しない限り、予算は執行しない考えを明らかにした。

 首相は「条件をクリアしてから予算を執行する」と述べた。八ッ場ダム再開をめぐっては、離党者が出るなど党内の反発が強く、消費税増税への理解を得るために配慮した。

 裁定案の主な内容は(1)利根川水系の河川整備計画を策定し、建設の根拠としてきた流量を再検証(2)建設を中止した場合の建設予定地の生活再建に向けた法案をまとめ、次期通常国会への提出を目指す-の二点。

—転載終わり—

 官房長官裁定に盛り込まれた利根川の河川整備計画策定と生活再建支援法は、いずれも河川行政における重要な課題であり、簡単にクリアできる条件ではありません。
 八ッ場ダム本体着工をめぐる攻防は、年を越して続くことになります。