野田政権による八ッ場ダム本体工事の再開決定は、国交省関東地方整備局による検証の結果、八ッ場ダム事業の正当性が認められたためとされていますが、八ッ場ダムにゴーサインを出すために、客観的な事実を歪めた検証作業が行われたとの批判が絶えません。塩川鉄也衆院議員(共産)が八ッ場ダム事業の主目的である「治水」(利根川の洪水調節)に関する質問主意書を提出し、3月9日に政府答弁書が出されました。
この政府答弁書によって、また新たにダム検証がいい加減であった事実が発覚しました。今朝のしんぶん赤旗がそのことを報じています。
本日開かれた群馬県議会の八ッ場ダム対策特別委員会では、伊藤祐司県議がこの問題を取り上げました。「検証作業の中で、八ッ場ダムが最も有利になる降雨モデルだけを取り出したことは、八ッ場ダム推進ありきの、まさに予断のある検証だったのではないか」との伊藤県議の追及に対して、古橋特定ダム対策課長による答弁は、「平均値で勝負するのはいかがなものか。国交省もそのような見解と聞いております」という意味不明なものでした。
★政府答弁書についての解説をこちらに掲載しています。
https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=1594
◆2012年3月13日 しんぶん赤旗
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2012-03-13/2012031314_01_1.html
-“八ツ場不要”8例中6例 国交省作成の降雨モデル 塩川氏への政府答弁書ー
民主党・野田政権が公約を投げ捨てた八ツ場(やんば)ダムの建設続行をめぐり国土交通省が作成した洪水想定のもととなるデータが9日、日本共産党の塩川鉄也衆院議員への政府答弁書で明らかになりました。建設推進の国交省の計算でも八ツ場ダムが必要となる洪水は検討した8洪水中2洪水しかないことが明らかになりました。
今回、初めて明らかになったのは利根川の中流域になる「八斗島(やったじま)地点上流の洪水調節量」などのデータ。八ツ場ダム建設を“妥当”と結論づけた「検討報告書」の基礎データになるものです。
「報告書」は過去に利根川流域で発生した八つの大雨の事例を列挙。この大雨が実際よりも多い「70年に1度」規模の大豪雨だったと仮定して、同ダムをふくむ五つの治水対策を比較しています。
答弁書では、「八斗島地点上流の洪水調節量」を記しています。
八つの降雨モデルのうち6モデルで、八ツ場ダムがなくても対応できる毎秒3000立方メートルの洪水調節ができるとしています。
同ダムが必要となる降雨モデルは8例中2例にすぎません。そもそも、「報告書」には、複数の治水案を比較するにあたって、八ツ場ダムの洪水調節効果をいくらと見積もったのかを示す数値が記載されていません。八ツ場ダムがなくても、対応できる降雨モデルが過半を占めることが明らかになった今、事業継続を「妥当」とした「報告書」の検証そのものが問われています。
解説
“ダムありき”の恣意的検証
今回、塩川鉄也衆院議員への答弁書で明らかになった洪水想定のデータは、国交省がまとめた報告書の信ぴょう性を揺るがしかねない重大な結果となっています。
国交省がまとめた「検討報告書」は八つの降雨モデルを持ち出して、他の四つの治水対策よりも同ダム建設が最も“安上がり”という結論でした。
ところが、今回の答弁書で「報告書」が検証に用いた70年~80年に1度の洪水のうち、八ツ場ダムが必要な洪水となる降雨パターンが8例中2例だったことが判明しました。
つまり、八ツ場ダムが必要な洪水が起きる確率は、70年~80年に1度の雨量の大雨で、かつ4分の1の降雨パターンだった場合に限られるということになります。つまり「280年~320年に1度」の確率となります。
また塩川議員の質問主意書は、国交省の担当者の説明を紹介。説明によると、最も八ツ場ダムの有効性が高い1モデルのみで、他の治水対策と比較したとしています。
質問主意書は、この説明の確認を求めたのに対し、答弁書は否定も肯定もせず、言及をさけました。
つまり国交省は、八つのパターンで検討したと言いながら、実際は、八ツ場ダム“建設ありき”で、同ダムが最も優位になる降雨モデルだけで恣意(しい)的な検証をした疑いが濃厚です。これは民主党政権がかかげた「予断なき検証」とは正反対です。
同ダム建設のための治水分の事業費は残り約700億円といわれています。改めて検証を行い、非効率なダム建設でなく河道の掘削や既存の堤防の補修強化など、本来の治水対策に立ち返るべきです。(矢野昌弘)