代替地への温泉配湯施設

 地元が八ッ場ダム計画を受け入れた1980~90年代、水没予定地住民の移転代替地は1990年代に完成する予定でした。当時は、ダムの完成が2000年度とされていたからです。
 しかしその後、八ッ場ダムの完成予定は、八ッ場ダム事業の基本計画の変更により2010年度、2015年度と先送りされてきました。現在、国土交通省では、八ッ場ダムの完成予定を2019年度(2020年)としており、前田大臣も国会でそのように答弁しています。

 この間、地元ではダム事業に伴う代替地計画の遅れが深刻な問題と受け止められてきました。中でも、水没予定地最大の集落である川原湯温泉の移転地である打越代替地は、最も計画が遅れています。
 群馬県議会でもこの問題がたびたび取り上げられ、昨年来、群馬県は2012年5月、つまり今月には「代替地で蛇口をひねればお湯が出る」ようにすると答弁してきました。
 一昨日の群馬版の紙面によれば、温泉配湯施設は今月中に完成するということです。これで「蛇口をひねればお湯が出る」ことになります。但し、この配湯施設は暫定的なもので、配湯管や中継ポンプ所は八ッ場ダムの水没予定地に設置されます。また、国の説明によれば、川原湯温泉の源泉から代替地に引き湯することになっていますが、今回の配湯施設は、ダム事業によってボーリングで掘り当てた新湯の引き湯のみです。自然湧出の泉質が多くの温泉愛好家によって賞賛されてきた旧源泉の方は水没線より下から湧き出ており、いまだに引き湯されていません。配湯設備はダムの補償事業で整備されることになっていますが、設備ができてからずっとかかる維持管理費の負担は、国や群馬県には義務付けられていません。

 報道を見る限り、八ッ場ダムの生活再建事業は順調に進められているようにも見えますが、現実は住民にとってますます厳しい状況になりつつあります。旅館が次々と取り壊され、剥き出しの礎石が点々と広がる現在の川原湯温泉街の光景は痛ましく、初めてこの地を訪れた観光客は、ダム事業の残酷さをいやというほど思い知らされるでしょう。一方、温泉街が再建される予定の代替地はいまだ造成が完了せず、木一本生えていません。山を切った法面と砂防ダムが何基も連なる光景は、温泉街のまちづくりにはあまりに厳しい環境と言わざるをえません。更地の奥にきれいとはいえない温泉の配湯施設がぽつんと佇んでいます。
 国は代替地を造ると約束したから造っている、温泉を引くと約束したから整備している、それで約束を果たしていると言います。万歳三唱した地元の有力者からも、表立って文句が出ることはないでしょう。けれども、かつて行政圧迫によって泣く泣くダム計画を受け入れさせられた地元と国、群馬県との契約で実現するはずだった川原湯温泉の再生は、これから一体どうなるのでしょう。

 記事を転載します。

◆2012年5月9日 読売新聞群馬版
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20120508-OYT8T01527.htm

 ー川原湯からの配湯施設 月内完成へー

 移転先の打越
 川原湯温泉の打越代替地に完成間近の「打越配湯所」(長野原町で)  八ッ場ダム(長野原町)の水没予定地、川原湯温泉の各旅館が移転する打越(うちこし)代替地まで温泉を引き上げる「配湯施設」が、今月中に完成する見通しとなった。営業再開の環境整備が進み、各旅館の移転に向けた動きが加速すると見られている。

 代替地は現温泉街より高い位置に整備中で、源泉から湯を引き上げる必要があるため国土交通省八ッ場ダム工事事務所が昨年12月末、工事に着手した。現温泉街の比較的高い位置で水没を免れる新湯(あらゆ)源泉近くに「送湯ポンプ所」を新設し、長さ約470メートルの管を使い、同温泉街の低位置に新設した「中継ポンプ所」まで湯を一度下ろした後、さらに斜面伝いに長さ約176メートルの管で「打越配湯所」まで引き上げる仕組みだ。中継ポンプ所と打越配湯所の高低差は約50メートルとなる。

 中継ポンプ所は水没予定地内にあり、代替地整備や現温泉街にある旅館の移転が進むまでの暫定的な設備だ。将来は新湯源泉から打越配湯所まで直接お湯を引き上げるようにする。

 同事務所は10日開かれる川原湯地区ダム対策委員会で、地元住民に進捗(しんちょく)状況を説明する予定だ。

 打越配湯所から各旅館に湯を送る「配湯管」も、大半の旅館が移転を予定している温泉街ゾーンの分は3月に完成済み。住宅街ゾーンに移転を希望している旅館の分も、今年度中に完成する予定となっている。

 一方、川原湯温泉の代替地には、打越のほかに上湯原(かみゆばら)もあるが、造成が遅れており、配湯施設の見通しは立っていない。同事務所では「上湯原もできるだけ早く着工、完成させたい」と話している。

◆2012年5月12日 朝日新聞群馬版 
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581205120001

 ー川原湯温泉、今月中に配湯試験ー

 八ツ場ダムができれば水没する川原湯温泉(長野原町)の旅館が移転する代替地の一つで、源泉から湯をくみあげる配湯施設が近く完成する見通しになった。配湯試験も今月から始める。

 国土交通省八ツ場ダム工事事務所が10日夜、川原湯地区ダム対策委員会の総会で住民に報告した。

 配湯施設がほぼ完成したのは打越の代替地。現在の川原湯温泉の温泉街より山側の高台にあるため、源泉から湯をくみ上げる必要があり、昨年12月から本格的な工事をしてきた。

 県が生活再建の一環として、源泉「新湯」近くに送湯ポンプ室を新設。中継ポンプ所を経由して打越代替地に建設した配湯所まで約640メートルの配管で送る。ここから各旅館へ湯を送る配湯管の整備も済んだ。

 一方、もう一つの移転先の上湯原の代替地は造成が進んでおらず、配湯施設はまだできていない。すでに旅館を壊した住民から「温泉を引いて旅館を再建しようとする旅館もあるのに、うちの代替地はいつできるのか分からない」と、国交省を批判する声も出た。

 また、ダム関連事業の吾妻川右岸の付け替え道路「県道林岩下線」(全長8・5キロ)のうち、未開通だった東吾妻町内の700メートルが完成。11日午後から通行可能になった。

 東吾妻町のJR岩島駅前の交差点から長野原町の打越代替地を抜け、同町の林地区につながる。国交省は、代替地へ移転した住民らの利便性が高まるとしている。