八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

本日〆切りパブコメへの利根川流域市民委員会の提出意見

2012年6月23日

 八ッ場ダム計画の行方に深い関わりのあるパブリックコメントが国交省関東地方整備局によって5月25日より実施されてきましたが、本日が〆切日です。

 今回のパブコメについての説明、提出方法については、こちらをご覧下さい。
 https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=1653

 八ッ場ダムの本体着工をめざす関東地方整備局の動きに疑問のある方は、今回のパブコメに対して是非ご意見を提出してください。

 利根川流域市民委員会が提出した意見を以下に転載します。

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 『利根川・江戸川において今後20~30年間で目指す安全の水準についての考え方-「利根川・江戸川河川整備計画」における治水対策に係る目標流量について-』に関する意見

 利根川流域市民委員会 
 共同代表 
 佐野郷美(利根川江戸川流域ネットワーク)
 嶋津暉之(水源開発問題全国連絡会)
 浜田篤信(霞ヶ浦導水事業を考える県民会議) 
 事務局 深澤洋子 東京都小平市
 TEL&FAX 042-341-7524  

① 治水安全度だけを切り離して意見募集を行うのは詐術というべきやり方であるから、取りやめるべきである。
 今回のパブコメで国交省は何を得ようとしているのか。このパブコメで今回のような国交省の聞き方では、多くの人は「人口・資産が高度に集積している利根川・江戸川では治水安全度を全国の他の河川より高くして1/70~1/80にするのは当然だ。」と思ってしまうであろう。むしろ、治水安全度をもっと高くすべきだと思う人もいるであろう。治水安全度だけを切り離して聞けば、一般には治水安全度は高い方がベターだと思うであろうから、この意見募集の結果は目に見えている。

② かくして、パブコメで治水安全度1/70~1/80に多くの賛意が得られれば、どうなるのか。今回のパブコメ資料に1/70~1/80に相当する治水目標流量(八斗島地点)は17,000 ?/sと書かれているから、国交省は17,000 ?/sも賛意が得られたとして、次は17,000 ?/sを前提とした八ッ場ダムなど、国交省が考える大規模河川事業も実質的に容認されたものとして、前面に打ち出してくるに違いない。
 治水安全度1/70~1/80への賛意が治水目標流量17,000 ?/sへ、さらに、八ッ場ダムなど、国交省が考える大規模河川事業につながるようになっているのが今回のパブコメのカラクリである。

③ 国交省は、治水安全度1/70~1/80は治水目標流量17,000 ?/sに相当するとしているが、これは過大な流量が算出される洪水流出計算モデル(貯留関数法)と科学性が疑われている総合確率法で求めたものであり、実際にこの安全度に相当する流量はもっと小さな流量である。

④ 今回のパブコメの付属資料は専門的すぎて、一般の人にはとても読みこなせるものではない。流域住民が治水安全度の意味もよく理解しないまま、「安全な方がいい」と答えるしかないように誘導する仕掛けとなっている。治水安全度は高い方がよいと考える一般の心理を利用して、八ッ場ダムなどの大規模河川事業にゴーサインが出るように持っていこうという今回のパブコメは、まさしく詐術というべきやり方であるから、取りやめるべきである。

⑤ 治水安全度ではなく、想定外の洪水が来ても、壊滅的な被害を受けないようにすることを河川整備計画の目標とすべきである。
治水安全度を決め、それを達成するように、ダム建設、河川改修等の河川整備の内容を定めるという従来の河川整備計画の策定方法で利根川流域住民の安全を本当に守ることができるのであろうか。治水安全度を先に決める策定方法は、その治水安全度に見合う洪水までは安全を保証するが、それを超えた洪水が来れば、アウトになるという考え方である。

⑥ 河川整備計画による治水安全度の保証は実際には机上のものにすぎないが、そのことはさておき、昨年の東日本大震災を踏まえれば、治水安全度で想定した洪水を超える未曽有の洪水が来る可能性は皆無ではない。その時に、壊滅的な被害を受けないようにするには、どのような河川整備を進めなければならないのか、そのことが東日本大震災の経験を経て取り組まなければならない最大の課題であるはずである。

⑦ 未曽有の洪水が来た時、ダムは(もともとさほど役立つものではないが)満杯になって洪水調節機能を失う。堤防は計画高水位の洪水までに対してしか強度が保証されていないから、破堤するかもしれない。一挙に破堤すれば、流域住民の多くの生命が失われてしまうことになる。そのようにならないようにするために、越水しても簡単には破堤することがない堤防への強化を図り、同時に避難を速やかに行える避難体制を確立することが必要である。利根川水系河川整備計画は未曽有の洪水の来襲に対応できるように策定されなければならない。

⑧ 新規の社会資本投資が次第に厳しくなる時代において利根川では流域住民の安全を極力早く確保できる治水対策を厳選することが必要である。
 日本は新規の社会資本投資が次第に厳しくなる時代になりつつあある。平成21年度国土交通白書でも、「これまで我が国で蓄積されてきた社会資本ストックは、高度経済成長期に集中的に整備されており、今後老朽化は急速に進む」として既設社会資本の更新と維持管理費が急増していくので、新規の社会資本投資が先細りせざるをえないとの警告が出されていある。公共事業がおかれているこの現実を踏まえれば、国交省が目論む利根川水系河川整備計画のように、大規模河川事業を中心に巨額の河川予算を毎年、利根川に注ぎ込み続けることはもはや不可能である。

⑨ 流域住民の安全を確保するための喫緊の対策を厳選して、そこに河川予算を集中的に投ずるようにしなければならない。現在のような大規模河川事業優先の河川予算の使い方を続ければ、いずれ河川予算は底を突き、安全確保が急がれているところはいつまで経っても改善されず、氾濫の危険性がある状態が半永久的に放置されてしまうことになる。

⑩ 昨年9月上旬の台風12号では伊勢崎市を中心に広い範囲で内水氾濫による浸水被害があった。最近頻発するゲリラ豪雨による内水氾濫への対策が急務になっている。また、国交省の調査により、利根川及び江戸川の本川・支川では洪水の水位上昇時にすべり破壊やパイピング破壊を起こして破堤する危険性がある脆弱な堤防が各所にあり、強化対策が必要な区間の割合は6割にも及んでいる。堤防の強化対策も急がれている。このように流域住民の安全を守るための喫緊の対策を厳選することが利根川水系河川整備計画の策定に課せられた課題である。

⑪ 利根川流域の住民の安全を守るために何が本当に必要なのかを十分に議論する場を設けるべきである。

利根川水系河川整備計画は以上述べたことを踏まえて、利根川流域住民の安全を真に守ることができるように策定されなければならない。そのためには、利根川流域の住民の安全を守るために何が本当に必要なのか、利根川の治水のあり方、川のあり方について国交省は流域住民と十分に議論する場を設けることが必要である。流域住民の意見を反映できるように、流域住民とともに河川整備計画を策定していくことは1997年河川法改正の本旨であったはずで、そのことは当時の国会での質疑で河川局長が言明していることである。

⑫ 流域住民とともに河川整備計画づくりを進めた例は数多くあるが、利根川と同じ関東地方整備局の管轄内では多摩川がある。多摩川では河川法が改正されて直ちに整備計画策定作業が始まった。改正河川法の意気込みを引き継ぎ、流域住民との協働作業を基軸に策定作業が進められた。京浜河川事務所と流域住民による堤防等の河道視察、流域セミナーという名の公開討論会が積み重ねられた。それは多摩川を愛する人たちによる「自分達の川造り」であった。3年をかけた2000年に多摩川水系河川整備計画は完成した。多摩川の実施例に倣って、利根川でも流域住民との協働作業による整備計画づくりに努めるべきである。

⑬ 先に述べたように、治水安全度を切り離してパブコメを行い、それによって八ッ場ダムなど、大規模河川事業推進への道筋をつくろうという国交省のやり方では、私たち流域住民の真の安全確保はいつまでたっても達成することができない。
 国交省は1997年河川法改正の本旨に立ち返って、利根川水系河川整備計画を流域住民とともに策定することが求められている。

 利根川流域市民委員会 賛同団体一覧    2012年6月22日現在 34団体(順不同)

 利根川・江戸川流域ネットワーク
 水源開発問題全国連絡会
 利根川の水と緑を守る取手連絡会 
 霞ヶ浦導水事業を考える県民会議 
 高崎の水を考える会
 八ッ場あしたの会 
 八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会 
 八ッ場ダムをストップさせる群馬の会
 八ッ場ダムをストップさせる千葉の会
 八ッ場ダムをストップさせる埼玉の会 
 八ッ場ダムをストップさせる茨城の会
 八ッ場ダムをストップさせる東京の会
 ムダなダムをストップさせる栃木の会
 渡良瀬遊水池を守る利根川流域住民協議会 
 首都圏のダム問題を考える市民と議員の会
 霞ヶ浦・北浦をよくする市民連絡会議
 思川開発事業を考える流域の会
 ダム反対鹿沼市民協議会 
 栃木の水を守る連絡協議会
 千葉県自然保護連合 
 千葉の干潟を守る会
 藤川をきれいにする会
 市川緑の市民フォーラム 
 耕さない田んぼの会
 東京市民オンブズマン
 渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える 
 全水道関東地方本部
 水道事業を考える土浦市民の会 
 スーパー堤防問題を考える協議会
 スーパー堤防・街づくりを考える会 
 希望社会研究所
 那珂川ウォーターネットワーク鶴亀隊  
 アサザ基金
 STOP八ッ場ダム・市民ネット