八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

パブコメに対するあしたの会の提出意見

2012年6月23日

 国交省関東地方整備局が実施してきたパブリックコメントは本日が〆切日です。
 今回のパブコメについての関東地方整備局の説明には、「八ッ場ダム」とは一言も書いてありませんが、このパブコメは同局が八ッ場ダムの本体着工をめざす利根川水系の河川整備計画策定のために行っているものです。
 
 今回のパブコメについての説明、提出方法については、こちらをご覧下さい。
 https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=1653

 八ッ場ダムの本体着工をめざす関東地方整備局のやり方に疑問のある方は、パブコメに対して是非ご意見を提出してください。

 今回のパブコメに対して八ッ場あしたの会が提出した意見を以下に転載します。

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1 今回のパブリックコメントは、利根川水系河川整備計画を策定するに当たり、治水安全度1/70~1/80、治水目標流量17,000?/秒を提示し、それについて意見を求めるものです。これは、17,000?/秒を前提として求められた、恣意的な計算による八ッ場ダムの治水効果を既成事実化し、利根川河川整備計画に八ッ場ダム計画を組み込むことを企図したものであると言わざるを得ません。

2 今回のパブコメの説明には、治水目標流量(17,000?/秒)の設定により、どのような対策が必要となるのか、八ッ場ダムを含めて具体的な説明は何もありません。これでは流域住民にとって、パブコメが何を意味するのかを理解するのは困難です。
 国土交通省関東地方整備局は、パブコメで流域自治体等から大きな治水安全度を求める声があることをもって、過大な治水目標流量を正当化しようとすると考えられます。国民が知らないうちに八ッ場ダム計画を推進するパブコメのあり方は、説明責任が求められる行政の手法として不適切です。

3 最近60年間で八斗島地点の最大実績流量は1998年の10,000?/秒程度ですから、パブコメで提示された17,000?/秒はきわめて過大な数字です。関東地方整備局は17,000?/秒は70~80年に一度の洪水に相当する流量としていますが、それは現実から遊離した机上の洪水流出計算モデルで求めたもので、科学的な根拠はありません。

4 この洪水流出計算について国土交通省では昨年、日本学術会議のお墨付きを得たとしていますが、むしろその会議資料によって、洪水流出計算の非科学性が明確になっています。学術会議といっても、構成委員の大半はいわゆる河川ムラの御用学者であり、その審議結果は信頼できるものではありませんでした。利根川の洪水流量について科学的な計算を行えば、1/70~1/80の洪水は17,000?/秒よりはるかに小さい流量になります。

5 治水目標流量は机上の計算ではなく、実際の洪水流量(実績洪水流量)をもとにすべきです。
 治水計画は基本的に過去の洪水の再来に備えるように策定されるべきで、利根川の場合は、昭和20年代前半(戦争直後で森林が荒廃していたという特殊状況にあった)を除いて、最近60年間の最大洪水実績流量をベースにすべきです。その最大流量は1998年の約10,000?/秒ですから、それに余裕を見た12,000~13,000?/秒が治水目標流量としてふさわしいと考えられます。

6 さらに、利根川水系河川整備計画の策定で何よりも考えなければならないことは、利根川流域の住民の安全を守るために今、何が必要とされているか、ということです。
 これからの時代はつくりすぎたインフラ施設の更新・維持管理の費用が急増していく時代ですから、巨額の河川予算を利根川に投入し続けることは不可能です。流域住民の安全を守るための喫緊の対策を厳選し、そこに河川予算を集中しないと、氾濫の危険がある状態が半永久的に放置されることになります。過大な目標流量を設定して、巨大な河川施設の建設を優先して進めようとする関東地方整備局の方針は、流域住民の安全を蔑ろにするものです。

7 利根川で必要とされている喫緊の治水対策の一つは、脆弱な堤防の強化対策です。
 国土交通省の調査により、利根川及び江戸川の本川・支川では、洪水の水位上昇時にすべり破壊やパイピング破壊を起こして破堤する危険性がある脆弱な堤防が各所にあることが明らかにされており、破堤の危険性がある区間の割合は利根川62%、江戸川60%に及んでいます。破堤すれば甚大な被害をもたらすので、脆弱な堤防の強化工事を早急に進める必要があります。

8 もう一つの喫緊の対策は、ゲリラ豪雨による内水氾濫への対策です。
 昨年9月上旬の台風12号では、群馬県南部で記録的な大雨があり、伊勢崎市等で床上浸水14棟、床下浸水89棟という大きな被害がありました。この時、利根川やその支川からの越流はなく、浸水被害は被災地でのゲリラ豪雨が引き起こした内水氾濫(小河川の氾濫を含む)によるものでした。近年はこのようなゲリラ豪雨が利根川流域の各地で発生しています。雨水浸透施設の設置、排水機場の強化など、内水氾濫対策の実施が急務です。

9 3.11東日本大震災や昨年9月台風12号の紀伊半島水害を踏まえ、利根川においても想定を超える洪水が襲った場合に壊滅的な被害を受けない治水対策を進める必要があります。その対策で中心となるのが耐越水堤防への強化です。現在の堤防は計画高水位までの洪水に対しては破堤しないように設計されていますが、堤防を超える洪水に対しては強度が保証されていません。壊滅的な洪水被害は堤防が一挙に崩壊した時に生じるので、堤防を超える洪水が来ても、直ちに破堤しない堤防への強化が必要です。

10 河川整備計画の策定に当たっては、利根川流域の住民の安全を守るために何が本当に必要なのかの議論を優先すべきです。
 国土交通省関東地方整備局からは、いまだに利根川の河川整備計画の策定をどのように進めるのかの説明がなく、有識者会議のメンバーについても、御用学者に偏った人選を改めるかどうか明らかにされていません。
 利根川と同じ関東地方整備局の管轄内の多摩川では、3年をかけて河川整備計画が策定されました。この間、京浜河川事務所と流域住民による堤防等の河道視察、公開討論会が積み重ねられたということです。
 八ッ場ダムの本体工事着工の条件を整えるために拙速に河川整備計画を策定しようとするこのようなやり方では、河川行政への不信は高まるばかりです。1997年の河川法改正の主旨に立ち返リ、流域住民の意見を反映させた利根川水系河川整備計画の策定を目指すことを求めます。