2017年12月群馬県議会における質疑(代替地の安全対策など)

 昨年12月8日に開かれた群馬県議会・産経土木委員会において、角倉邦良議員が八ッ場ダム事業における問題について質問し、県特定ダム対策課が答えました。12月21日の堀越けいにん衆院議員(立憲民主党)による現地視察では、県議会における群馬県の回答を踏まえた質問が行われました。

 議員視察は通常は支援者など一般人が同行しますが、この時は国交省八ッ場ダム工事事務所が議員事務所関係者以外の同行を認めないという、異例の対応でした。
写真右=八ッ場ダム水没予定地

 八ッ場ダム事業は国民の税金によって成り立っている事業であり、国民の代表である議員への説明を納税者に聞かせられないというのは、公共事業として胸を張って進められる事業では考えられないことです。同行を認めない理由は、地元住民に迷惑をかけるから、ということであったそうです。

 今回の質疑で初めて明らかになったのは、以下の「3.八ッ場ダム事業における水没住民の移転代替地の安全確保について」で取り上げられていることです。川原湯地区の上湯原代替地において、これまで国交省は安全対策工事を行うとしていたにもかかわらず、安全対策不要と、これまでと反対の説明をしました。対策が不要になったのは、上湯原の代替地ではキャンプ場をつくることになり、宅地ではないため、宅地造成等規制法の対象にならないからというものでした。
写真右=上湯原代替地へ移転した川原湯神社と砂防ダム。

 長年のダム闘争に疲れ果てた地元が八ッ場ダムの代替地計画を受け入れた1992年、「宅地」として使えない代替地をつくることなど、住民は想像できたでしょうか。こうした事実が広く一般住民に知られると、迷惑なのは安全確保を願う地元ではなく、国交省なのではないでしょうか?

 群馬県議会における質疑の概要と、その後の堀越議員の現地視察で確認されたことをお伝えします。

2017年12月8日 産経土木委員会 
1.川原湯地区水没住民の移転代替地(打越代替地)に鉄鋼スラグが残されていることについて

●角倉議員:10月の県議会で質問した鉄鋼スラグについて伺いたい。(参照:10月県議会の質疑
 打越代替地について、国交省は(環境基準を超える有害な)スラグの有無をすべて調査したのか? 
 (打越代替地では最初の分譲で買い手がつかずに空き地になっている土地の再分譲を行っているが、)スラグをすべて撤去したのか、報告していただきたい。
写真右=スラグの撤去作業が行われた打越代替地の同じ区画内には、撤去されたスラグと同じ石が今も地表に転がっていると住民が指摘している。

●小林特定ダム対策課長
 打越代替地で使用された鉄鋼スラグは、搬入業者により平成27年4月までに撤去されている。また、鉄鋼スラグが撤去された後の敷地では、大同特殊鋼(株)により平成29年9月に土壌が撤去されている。当該地では、地表に敷設された鉄鋼スラグと深度75センチまでの土壌について、二度にわたり撤去工事が実施されており、すべて撤去されたと認識している。

●角倉議員:問題とされている土地(写真右)では、草が生えている所と生えていないところがあるが、鉄鋼スラグがすべて撤去されたという認識でよいか?

●小林特ダム課長:すべて撤去されたと認識しているが、新たな情報があれば、国交省および関係法令等を所管する県環境森林部に情報提供したい。

●角倉議員:土地を購入した住民が鉄鋼スラグを確認したら、対応するのか?

●小林特ダム課長:新たな情報があれば、国交省および関係法令等を所管する県環境森林部に情報提供したい。

●角倉議員:群馬県は生活再建の観点から、土地を購入する住民の話も聞きながら、安全確保を掌握する動きを見せてほしい。
写真右=川原湯温泉が移転した打越代替地。

●小林特ダム課長:新たな情報があれば、国土交通省につなげたい。

●角倉議員:国土交通省は冷たいので、県も一緒に現場を見てほしい。

●小林特ダム課長:そのようにしたい。

*(注)12月21日、堀越衆院議員が川原湯地区の打越代替地を視察した際、鉄鋼スラグの撤去作業が行われながら、地表に鉄鋼スラグが残されていると住民が心配している区画において、国交省八ッ場ダム工事事務所は鉄鋼スラグの存在を認めず、今後の調査などの対応も行わないと説明。

2.川原湯地区と横壁地区の地域振興施設について

●角倉議員:(八ッ場ダム事業で利根川流域一都四県の負担金で整備することになっている水没五地区の地域振興施設について、整備が遅れている)川原湯地区と横壁地区の進捗状況はどうなっているのか?

●飯島生活再建対策主監:川原湯地区では今年7月までに基本構想の検討が終了し、現在、長野原町が詳細設計の年内発注に向けて手続きを進めている。来(2018)年度の半ばまでに詳細設計を完了させる予定である。
 横壁地区の小倉地区では、屋内運動場施設をつくることになっており、来年度半ばまでに詳細設計を完了させる予定である。
 横壁地区の東中村地区(写真右)では、飲食物販を主体とした施設をつくることになっており、来年度半ばまでに詳細設計を完了させる予定である。

●角倉議員:完成時期はいつか?

●飯島生活再建対策主監:3施設とも、(八ッ場ダム完成予定の)平成31年度末までに完成するよう準備を進めている。

●角倉議員:運営主体はどこになるのか? 県および長野原町は運営に関与するのか?

●飯島生活再建対策主監:運営は地元希望者が起こす会社組織等を予定している。県は運営に関与しない。町は施設の所有者となり、管理運営を委託する予定である。

*(注)群馬県の開示資料によれば、八ッ場ダム三事業の一つ、利根川・荒川水源地域対策基金事業における川原湯地区の地域振興施設整備事業予定額は20億5110万円、横壁地区の地域振興施設整備事業予定額は23億6390万円である。川原湯地区では地域振興施設としてグランピング(豪華なキャンプ場)がつくられるという。グランピングは以下の問題と関連する。

◆3.八ッ場ダム事業における水没住民の移転代替地の安全確保について

角倉議員:八ッ場ダムにおける(ダム湖畔となる)代替地の安全確保について伺いたい。
 現在、八ッ場ダムの本体工事が行われており、ダムが完成すると湛水することになる。八ッ場ダムで一番問題となるのが代替地の安全確保である。川原湯地区の代替地では四箇所で安全対策工事を行うことになっているが、工事の内容はどのようなものなのか? 来年着工するのか?

●小林特ダム課長:国からは、(対策工事を行うことになっていた)四箇所のうち三箇所は押さえ盛り土工等を行うと聞いている。残る一箇所は調査検討の結果、安全対策は不要と聞いている。対策工事はすでに始まっていると聞いている。

●角倉議員:対策工事の予算規模と完成時期はどうなっているのか?

●小林特ダム課長:予算規模と完成時期は国に確認できていないので、確認でき次第、議員に回答したい。

●角倉議員:ぜひ、お願いしたい。

写真下=堀越衆院議員の現地視察で、代替地の安全対策が不要となっていたことが確認された川原湯地区の上湯原代替地。周辺にJR川原湯温泉駅と線路、住宅地、神社、牛乳工場などがある。

*(注)八ッ場ダム事業では、自然湧出の温泉を生活の糧にする川原湯温泉を核とした反対運動を抑えるため、温泉を引くことのできる山の中腹に水没住民の移転地を整備する「代替地計画」が盛り込まれた。
 水没五地区の各集落の背後の山に代替地をつくる計画は「現地再建ずり上がり方式」と呼ばれ、大規模な盛り土と切り土による造成を必要とする難工事となった。ダムサイトに隣接する川原湯地区と川原畑地区では盛り土の規模がところにより30~50メートルに達しており、宅地造成等規制法の対象となる。

 宅地造成等規制法は阪神・淡路大震災など相次ぐ巨大地震の際、大規模に谷を埋めた盛土造成地で崩落等が多発したことに対応して2006年度に改正された。2016年12月の八ッ場ダム基本計画の変更(再増額)において、国交省は代替地の安全対策として、5箇所の代替地の安全対策に約44億円が必要であることを増額の理由の一つに挙げている。対策箇所のうち四箇所は川原湯地区で、対策工法(案)は杭工とされたが、それから一年たたないうちに、対策箇所が減らされたことになる。群馬県の説明が事実であるとすれば、対策工法も変更になった可能性がある。

下=2016年の八ッ場ダム基本計画変更(第五回・再増額)の際の国交省の説明資料より

 
 12月21日の堀越衆院議員の現地視察において、国交省八ッ場ダム工事事務所は対策不要となったのは川原湯地区の上湯原(上図の川原湯④)であるとし、不要となった理由は、上湯原の代替地を宅地としてではなく、バーベキューなどをやるキャンプ場として利用することになったため、宅地造成等規制法の基準によらなくてよくなったからである、と説明した。

 2の(注)で触れたように、上湯原代替地ではグランピング施設を整備する計画が進められている。この企画は東京の跡見学園女子大の篠原靖准教授が長野原町と連携して提示しているもので、新聞の群馬版各紙では女子学生が川原湯温泉の地域振興に関わっていることがたびたび報じられている。(参考:「八ッ場に恋したダム女子たち(1) 女子大生が群馬の町を盛り上げる …」日経College Cafe)

 20億円余の税金が投入される川原湯地区の地域振興整備事業では、施設が整備されるのは確実だが、施設完成後の運営については懸念する意見がある。川原湯地区ではダム事業受け入れ前は201世帯であったが、代替地の土地を購入した住民は30世帯余りと、人口が激減している。ダム反対闘争が激しかった川原湯では、半世紀余りのダム事業の過程で、たびたびダム事業による地域振興策が提示され、そのたびに消えるという苦い経験が繰り返されている。年配者の多くは、今回の企画を冷めた目で見ており、企画に積極的に参加している住民は僅かというのが実状である。

1/14の集会スライドより。黄色い点線で囲まれている箇所が安全対策不要とされた打越代替地の盛土部分。上湯原では、2011年のダム検証で国交省関東地方整備局みずからが地すべり対策が必要とし、約20億円の対策工事が必要と試算した箇所が2016年のダム計画の変更でコスト縮減の対象となっている。(赤い点線で囲まれている箇所)