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鶴田ダム再生事業が今年度で完了

 鹿児島・川内川の鶴田ダムの再生事業が今年度で完了します。
 鶴田ダムは国交省九州地方整備局が1966年に竣工させたダムです。鶴田ダムの公式サイトには、ダムの高さ117.5メートル、ダム湖に貯まる水の量1億2300万立方メートルと書かれています。八ッ場ダムの堤高は116メートル、総貯水容量は1億750万立方メートルですから、ダムの規模としては八ッ場ダムとほぼ同規模の重力式コンクリートダムです。ただし総事業費は135億円と、総事業費5320億円の八ッ場ダムよりはるかに安価だったようです。

★国土交通省九州地方整備局 鶴田ダム管理所
http://www.qsr.mlit.go.jp/turuta/d1_jigyougaiyou/index.html

 鶴田ダムの再開発事業は、2006年7月の鹿児島県北部豪雨による川内川流域の大水害がきっかけでした。ダム計画の想定よりはるかに降雨量が多く、鶴田ダムで水害を防げなかったことから、鶴田ダムの洪水調節容量を最大7,500万㎥から最大9,800万㎥(約1.3倍)に増量するとともに、放流設備の増設を行い、洪水調節機能を強化する事業です。

◆国土交通省九州地方整備局 川内川河川事務所 「鶴田ダム再開発事業とは」
http://www.qsr.mlit.go.jp/sendai/tsuruta-damu/index.html

 ただし、鶴田ダムの総貯水容量は1億2300万立方メートルのままで、変わりません。新規のダム事業が困難になってきていますので、ダム行政を維持するためにこのようなダム再生事業が各地で進められていくことになりそうです。

 関連記事を転載します。

◆2018年3月26日 朝日新聞鹿児島版
https://digital.asahi.com/articles/ASL3G74N8L3GTLTB01B.html?iref=pc_ss_date
ー鹿児島)川内川治水の要、鶴田ダム再生事業が完了へー

  川内川の中流部、さつま町にそびえる鶴田ダムの再開発事業は、今年度で主要工事が完了する。ダムが完成した1966年から半世紀あまり。治水機能を強化した「川内川治水の要」は、国が進めるダム再生事業の先駆けとなった。ダム本体の正面に見える「つぎはぎ」には、洪水の教訓が深く刻まれ、数々の先端技術がつぎ込まれている。

 2月半ば、ダム本体の工事で最後となるコンクリートが流し込まれた。大量の生コンをつくってきたプラントは今、その役目を終えて解体工事が進む。そうした「後始末」が残るが、国土交通省が進めてきた「国内最大規模のダム改造」は、ゴールを迎えている。

 ダム再開発のきっかけとなった記録的豪雨が県北部を襲ったのは、2006年7月だった。鶴田ダム下流のさつま町では川内川が氾濫(はんらん)し、同町虎居地区では高さ4・6メートルまで浸水した。同町をはじめ流域3市3町(当時)で2347戸が浸水する大水害となった。

 鶴田ダムは洪水調整と発電の多目的ダムで、貯水量のうち7500万トンが洪水調節用だった。しかし、長時間降り続いた雨でダムは満杯になり、ダムへの流入量とほぼ同じ量を放流せざるを得ない状況に陥った。

 翌年、洪水調節容量を約1・3倍に増やす再開発事業が始まった。従来の放流管3本と発電用の管2本を低い位置に増設する工事だが、ダムに水をためたまま本体に新しい放流管を5本も通す改造は前例がなかった。

 しかも鶴田ダムは、コンクリートの自重で水圧に耐える重力式コンクリートダムとしては西日本最大級、ダム堤の高さは九州一という巨体。放流管の長さは最長60メートル、水面からの深さは最大で65メートルにも達した。

 管を通す穴を開けるには、貯水池側の壁面に水のない作業空間をつくる必要がある。仕切りを設置するための工事には高い水圧の中での潜水作業が伴う。潜水士3人が1カ月交代で高気圧カプセルのなかで生活しながら働いた。

 その潜水作業の負担を軽減するために造船会社も加わって開発した「浮体式仮締切(しめきり)」という新工法は、2015年度の「ものづくり日本大賞」で内閣総理大臣賞に選ばれた。

被災住民と重ねた対話
 鶴田ダムの再開発事業のもう一つの特徴が、「住民参加」だ。

 水害で被災した住民らから意見を聞くため、国交省九州地方整備局は08年2月、「鶴田ダムの洪水調節に関する検討会」を発足させた。

 洪水の被害が出ているさなかに放水したダムに、住民たちは「放流のせいで家が流された」「人災だ」と不信感を募らせていた。放水は「運用規則に従ったもの」と説明するダム管理所の幹部に食ってかかった人がいた。「あなたは鬼だ」。住民代表の委員を務めてきたさつま町の水流(つる)克男さん(83)は、その言葉を鮮明に覚えている。

 対立の状況から始まった住民対話だったが、大学の研究者らが間を取り持ちながら少しずつ溝が埋まり、洪水から8カ月後には住民同意のうえで再開発事業がスタートした。

 「治水専用ダムにしてほしい」という訴えは、大雨が予想される時には発電用の容量をあらかじめ放流して洪水用に振り替えるといった形で、治水機能の強化につながった。国交省川内川河川事務所の坂元浩二所長は「対話を重ねることで早く合意形成ができたことが、鶴田ダム再生の第一の特徴だ」という。

 住民との検討会は、現在も、「鶴田ダムとともに水害に強い地域づくりを考える意見交換会」として続いている。

 ただし、住民の不安が消えたわけではない。3月で委員を退いた水流さんが言った。「ダムがあるから安心とみんな思っていたのに、洪水は起きた。100%安全になったわけではない。想定を超える豪雨が来ない保証はなく、洪水時にはダムの治水機能をギリギリまで残す運用をお願いしたい」

水没地広げず機能向上の先例
 国交省は昨年6月、既存ダムの機能を高めるための方策をまとめた「ダム再生ビジョン」を策定した。財政状況が厳しい一方、頻発する洪水、渇水への対策が求められていることが背景にある。

 鶴田ダムの再開発事業はこのビジョンの中で、水没地を広げずに機能の向上を図った事例として紹介されている。今年度末まで11年にわたり、711億円の事業費がつぎ込まれた事業も「短い期間で経済的に完成させ、早期に効果発現が期待される」とされている。

 こうした「資産」としての期待の高まりを受けて、川内川河川事務所は現在、再開発事業の映像や工事の記録などを整理して技術資料の作成を急いでいる。(城戸康秀)