「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案」についての意見陳述

 5月31日の参議院国土交通委員会で「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案」の審議のため、参考人招致が行われました。
 この法案は、人口減少・高齢化の進展や地方から都市等への人口移動等により、所有者不明土地が全国的に増加しており、今後も増加の一途をたどることが見込まれることから、その対応策として上程されたもので、すでに衆議院を通過しました。法案とその説明は以下のページに掲載されています。

国土交通省サイト 国会提出法律案
平成30年3月9日 所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案   土地・建設産業局企画課 
http://www.mlit.go.jp/policy/file000003.html

 参議院国土交通委員会での審議にあたり、二人の参考人が呼ばれ、その一人として法案反対の立場で当会の運営委員でもある嶋津暉之さん(水源開発問題全国連絡会共同代表)が出席しました。衆議院では公共事業改革市民会議の橋本良仁さんが参考人として出席しました。

 この法案は、土地収用法の特別措置法という面があります。土地収用法では公共事業用地に所有者不明の土地がある場合、都道府県の収用委員会で事業者がその土地を収用してよいかどうか裁決を行うことになっていますが、国交省が国会に提出した法案では、収用委員会にかけずに、県知事の裁定で土地収用が行えることとなり、手続きが簡素化されます。

 八ッ場ダム事業では、昨年3月17日と4月に群馬県の収用委員会で所有者不明土地に関する審理が行われました。対象となったのは、長野原町川原湯地区と林地区にある水没予定地の土地で、所有者が不明であったり連絡が取れないなどの理由で、土地所有者に補償して買収することが困難な事例でした。

 当該の群馬県収用委員会の公告が掲載された群馬県報を以下のページでご覧いただけます。
 
 〇群馬県報 2017年1月10日(5~9ページ、林地区久森、下原の土地)
 https://yamba-net.org/wp/wp-content/uploads/2018/06/09e472b2866ae5f82c7d482d8ed4cbf7.pdf

 〇群馬県報 2017年3月3日(11~12ページ、川原湯地区・下湯原の土地)
 https://yamba-net.org/wp/wp-content/uploads/2018/06/8512224343d1a93f8999a74a9cccfcde.pdf

 八ッ場ダム事業では国土交通省による強制収用が可能となる事業認定の手続きが進む中で、すべての水没住民が居住をあきらめて転出しましたが、長崎県の石木ダム予定地では、水没住民13世帯が今も強制収用の脅しに屈せず、水没予定地に住み続けています。

 水源開発問題全国連絡会のホームページに嶋津さんの陳述した意見と説明資料がアップされています。

 〇「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案」に関する意見
 http://suigenren.jp/wp-content/uploads/2018/05/30d5c786923c33843ac0d29775f52451.pdf

 〇意見陳述の説明資料
 http://suigenren.jp/wp-content/uploads/2018/05/3ccb9d3ceaecc19751111973398f2ef1.pdf

 この法案の問題点として、嶋津さんが指摘した問題のポイントは以下の通りです。

(1)所有者不明土地とされる土地の収用で収用委員会の公開審理をなくし、都道府県知事の裁定に代えることの問題点
(実際には収用委員会の制度も形骸化しているのですが、本法案は現状をさらに悪くするものですので、収用委員会の問題は取り上げませんでした。)

〇 土地収用法が定める収用手続は、憲法29条が保障する土地所有権そのものを「公共のため」に権利者の意に反してでも奪うという、財産権の侵害度が最も高い手続きである。権利者に対する十分な手続保障があってこそ、公共目的で権利を奪うことが正当化されるのであり、その手続きとして収用委員会という第三者機関による公開審理は不可欠のものである。

〇 ところが、本法案では所有者不明土地とされる土地の収用は、収用委員会の公開審理をなくし、都道府県知事の裁定に代えることになっている。となると、都道府県の公共事業の場合は、事業者も収用の裁定者も同じ都道府県となり、都道府県の判断だけで進むことになり、公正な収用であるかどうか、所有者不明土地とされているが、調査を尽くしたものであるかどうかについて第三者機関によるチェックが行われ
ないことになってしまう。

(2)収用手続きの簡素化が進められれば、必要性が希薄な公共事業が一層まかり通る可能性が高くなる

〇 本法案で所有者不明土地は収用委員会の公開審理をなくし、都道府県知事が裁定するようにすること、さらに、国土交通省が近く策定する「事業認定の円滑化マニュアル」を普及させることにより、事業認定申請から、事業者が所有権を取得するまでの期間を大幅に短縮することになっている。

〇 所有者不明土地への対応が必要だということを名目にして、本法案により、土地収用手続きの簡素化が進められれば、必要性が希薄な公共事業が一層まかり通る可能性が高い。

〇 事業認定制度が形骸化しており、必要性の希薄な公共事業にも事業認定のお墨付きが出るようになっているので、公共事業の必要性の是非について厳格な審査が行われるよう、事業認定制度の抜本的な改善が必要である。

〇 事業認定の厳格化への改善無しに、土地収用手続きの簡素化を進めるべきではない。

 「意見陳述の説明資料」より



〈関連記事〉
◆2018年6月6日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31433730W8A600C1EA1000/
ー所有者不明の土地、公園や道路に転用 特措法成立 ー

 所有者が分からない土地の利活用を促す特別措置法が6日の参院本会議で成立した。都道府県知事の判断で10年間の「利用権」を設定し、公園や仮設道路、文化施設など公益目的で利用できるようになる。ただこうした土地の面積は九州本土よりも広いと推計されており、公益目的の利用だけでは問題の根本的な解消に遠い。民間による利用拡大を進める施策などが必要になりそうだ。

 今回の特措法は所有者不明土地問題の対策の第1弾となる。来年の6月までに施行される。

 利用権を設定できるのは、建築物がなく、反対する権利者もいない土地。市町村が公園や仮設道路にしたり、公益目的であることを条件にNPO法人などが直売所や駐車場などを造れるようになる。持ち主が現れた場合は期間終了後に原状回復して返すことになるが、現れなければ期間を延長することも認める。

 道路や町づくりなど公共工事の妨げになっている土地について、都道府県の収用委員会を経ずに取得できるようにする対策も盛り込んだ。

 地方からは利用権について「県内では直売所や文化施設などで需要が見込まれ、歓迎している」(長野県建設部)との声が上がっている。収用手続きの簡素化についても「公共工事にかかる時間やコストを減らせる」(同)という。

 ただ所有者不明の土地は九州本土よりも広いと推計されている。問題を根本的に解決するには、公益目的だけでなく、商業施設や住宅など民間利用が欠かせない。ニッセイ基礎研究所の塩沢誠一郎氏は「特に都市の中心市街地では需要が見込まれるため、民間参入を促す仕組みを検討することが重要だ」と指摘する。

 政府は対策の第2弾として、2020年までに国土調査法や土地基本法の改正を視野に入れた施策も進める方針だ。土地所有者の把握を進めると同時に、新たに所有者不明の土地が発生しないようにすることが狙いだ。

 具体的には、所有者の氏名や住所が正確に登記されていない土地について、登記官に所有者を特定する調査権限を与える。また、自治体が把握できる所有者の死亡情報と、国が管理している登記情報を結び付け、誰が現在の所有者なのか迅速に調べられるようにする。

 所有者が分からなくなるのは、相続した人が所有者が替わったことを土地の登記に記載しないことが大きな原因だ。このため対策では、現在は任意となっている相続登記を義務づけることを検討する。土地基本法に「所有者の責務」を明記する方向だ。

 所有者が土地所有権を放棄できる制度も検討する。ただ自民党内からは「税収減につながる」「放棄し放題になる」などと懸念する声がすでに出ている。放棄された土地を誰が管理するのか、管理する費用を誰が負担するのかなど具体的な制度設計を巡る調整は難航することが予想される。

 所有者が分からない土地は現状のままだと高齢化の進展に伴い、爆発的に増えることが懸念されている。増田寛也元総務相らの研究会の試算では、16年時点で約410万ヘクタールあり、九州本土よりも大きい。対策を講じないままだと40年に北海道本島(約780万ヘクタール)に迫る規模になるという。同年時点までの経済損失額は累計で約6兆円を見込む。

◆2018年6月1日 NHKニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180601/k10011461581000.html
ー所有者不明土地の解消へ 法改正などの基本方針決定ー

 持ち主がわからず放置されている「所有者不明」の土地の解消に向け、政府は今年度中に登記の義務化や土地所有権の放棄などを含め、制度改正の具体的な方向性を示し、2020年までに民法など必要な法改正を実現するとした基本方針を決定しました。

政府は1日、総理大臣官邸で相続の際に登記が更新されず、持ち主がわからないまま放置されている「所有者不明」の土地について、対策を検討する関係閣僚会議を開きました。

この中で、菅官房長官は「所有者不明の土地の問題は極めて深刻な問題で、一刻も早い解決が求められる重要な政策課題だ。各大臣がリーダーシップを発揮し、政府一体となって取り組んでいただくようお願いする」と述べました。

そして、会議では今年度中に、相続の際の登記の義務化や管理が難しい土地の所有権の放棄などを含め、制度改正の具体的な方向性を示したうえで、2020年までに民法や不動産登記法など必要な法改正を実現するとした基本方針を決定しました。

また、基本方針には登記上の所有者名や住所が記載されていない「変則型登記」の解消に向けて、必要な法案を次の通常国会に提出することや土地所有者の情報を円滑に把握するため、戸籍と登記を連携させる新たなシステムの整備を進めることなども盛り込まれました。

◆2018年6月6日 NHKニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180606/k10011466661000.html?utm_int=news-new_contents_list-items_028
ー「所有者不明土地」利用可能新法 成立ー

土地の所有者がわからないまま放置されている「所有者不明土地」を、公園やイベントなど公共性の高い事業であれば所有者が見つからなくてもNPOなどが、10年間利用できるようにする新たな法律が、6日の参議院本会議で成立しました。

「所有者不明土地」は、人口減少や高齢化に伴い年々増加していて、その広がりは、民間の研究会の推計で、すでに全国で九州の面積を超えているとされています。

今の法律では、こうした土地であっても自治体などが買収するには、所有者全員の了解が必要なため、公共事業がストップしたり、荒れた土地が増えるなどの問題が各地で起きています。

6日参議院本会議で成立した新たな法律は、所有者不明土地を条件付きで所有者が見つからなくても利用できるようにすることが目的です。

具体的には、NPOや企業などが地域の公園やイベントなど公共性の高い事業であれば、都道府県知事の認可の下、こうした土地を10年間利用できるようにするとしています。

その場合所有者が見つかることを想定し、法務局に供託金を預ける仕組みを設けます。

もし期間中に所有者が見つからなければ、継続して利用することも可能です。

このほか新たな法律には、自治体などが所有者を見つけやすくするため同じ役所の中でも、これまで個人情報保護のため認められなかった固定資産税の納税者情報を利用できるようにすることも盛り込まれています。この法律は、来年夏までに施行されます。

抜本的対策も必要
新たな法律について、専門家の中では、これまで手がつけられなかった所有者不明土地の利用が、一定程度進むと評価する意見がある一方、さらなる抜本的な対策が必要だと指摘する意見もあります。

民間の研究会は、このまま対策が進まなければ2040年には、その面積が今より1.75倍の720万ヘクタールに広がり、経済的な損失も年間3100億円まで膨らむと試算しています。

政府は相続の際の登記の義務化や、所有者が見つからない場合、所有権が放棄されたと見なし、活用可能とする制度改正を検討していますが、憲法が保障する個人の「財産権」を侵害するおそれもあり、慎重な検討を求める意見もあります。

「所有者不明土地」の問題に詳しい早稲田大学の山野目章夫教授は、「今までこの問題に正面から向き合う法律がなにもなかったので、そういう意味では、第一歩といっていいのではないか。一方、所有者不明土地を解消し、新たに生じないようにする抜本的な対策については、今回の法律では本格的な対処が用意されておらず、さらなる検討が必要だ」と話しています。