大戸川ダムめぐる嘉田由紀子・前滋賀県知事らの発言

 滋賀県では今月の知事選で、三日月知事が自民党の推薦を受けるために、国直轄の大戸川ダム凍結解除に向けて舵を切っています。さる5月30日には、国交省寄りの立場の有識者を招いて大戸川ダムの学習会を開催しました。
 この学習会での学識者の発言について、脱ダム政策を実現してきた前知事の嘉田由紀子氏がfacebook(5/31付け)で詳しく伝えるとともに、三日月知事の姿勢を痛烈に批判しています。
        
 
「次世代にこれ以上借金を残していいのか。ダム建設費は60年国債。今生まれた子どもが60歳になるまで借金を払い続けることになります」という嘉田前知事と、後継者であった筈の三日月知事の政治姿勢は、残念ながら大きく隔たっています。

 2008年、国交省近畿地方整備局が大戸川ダム建設を淀川水系河川整備計画に組み込みながら、政治上は凍結という玉虫色の判断を下したのは、滋賀県の嘉田前知事を含む淀川水系の四知事が大戸川ダムの凍結を「四府県知事合意」として公表したためです。
 当時、滋賀県とともに大戸川ダムの凍結に熱心であった京都府の動向が重要ですが、京都府では今年4月、2008年当時に知事であった山田啓二氏が引退し、西脇隆俊知事が誕生しています。地元紙によれば、西脇新知事は今のところは方針に変更はないとしていますが、先行きが心配です。
 滋賀県の大戸川ダム勉強会、嘉田前知事へのインタビュー記事も併せて紹介します。

◆2018年5月31日 朝日新聞滋賀版
https://digital.asahi.com/articles/ASL5Z4G94L5ZPTJB008.html?iref=pc_ss_date
ー大戸川ダムの効果・影響勉強会、始まる 県ー

 大戸川ダム(大津市)ができて稼働した場合の治水効果や瀬田川洗堰(あらいぜき)の操作に与える影響を検証する勉強会(座長=寶馨〈たからかおる〉・京大大学院教授)が30日、大津市内で始まった。県は勉強会を年度内に数回続け、同ダム事業のあり方を判断する材料にする。県議や下流域にあたる京都、大阪両府の職員ら73人が傍聴した。

 三日月大造知事は冒頭、「雨の降り方やそれに伴う災害発生の頻度も変化してきている。このような状況の変化を受け、国や他府県に県の立場を説明する材料にしたい」と勉強会の意義を語った。

 この日は大戸川ダムを巡る経緯や効果、影響を検証するためのモデルを県側が説明した。京都大防災研究所教授の角哲也委員は「ダムの『実力』を正しく理解することが大事。大戸川流域に対する大戸川ダムの容量は、天ケ瀬ダムより非常に大きい」と指摘した。

 京都大名誉教授の中川博次顧問は、放流能力を高めるために天ケ瀬ダムで再開発が進んでいることに触れ、「天ケ瀬ダムの『効果』を精査し、これでは足りないとなったら大戸川ダム、とステップを踏んで十分に検証してほしい」と注文を付けた。

 次回の勉強会では、県が今後分析する大戸川ダムの効果、影響の検証結果を基に議論する。

 一般傍聴席には、建設凍結に影響を与えた4府県知事合意にかかわった嘉田由紀子前知事の姿もあった。嘉田氏は「天ケ瀬ダムなど既存施設をうまく活用するというのが4府県知事合意の原点。大戸川の危険性ばかりを見て、ダムを造るのが当然という流れを感じた」などと語った。(真田嶺)

◆2018年5月31日 読売新聞滋賀版
 http://www.yomiuri.co.jp/local/shiga/news/20180531-OYTNT50015.html
ー治水効果と洗堰影響 検証へー

◇大戸川ダム勉強会初会合

◇県提案 学識者委員が了承

 建設凍結中の大戸川ダム(大津市)の効果や影響を検証する、県独自の勉強会の初会合が30日、大津市の県危機管理センターで開かれた。具体的な検証のテーマとして、〈1〉流域に与える治水効果〈2〉瀬田川洗堰あらいぜき操作に与える影響――を県が提案し、学識者委員が了承した。会合には県内市町に加え、京都、大阪両府の担当者や地元住民ら約70人が訪れ、熱心に耳を傾けた。(川本修司、北瀬太一)

 勉強会の正式名称は「今後の大戸川治水に関する勉強会」。学識者委員のメンバーは座長の宝馨・京都大大学院教授(水文学)ら3人と顧問の中川博次・同大学名誉教授の計4人で、県側からは三日月知事と土木交通部長ら3人が出席した。

 会合では冒頭、事務局の県職員が同ダムの概要を説明した。▽下流の宇治川にある天ヶ瀬ダムへの流量を低減し、同ダムの容量を補う▽淀川の水位が計画高を超えないよう、洪水調節を行う――とする目的などを解説。2008年の三重、京都、大阪との4府県知事合意を受けて、ダム建設が凍結された09年の国の河川整備計画以降、雨量の増加などの環境変化が起きていることも示した。

 その上で、〈1〉については大戸川流域で浸水被害が発生した際の降雨のデータを、〈2〉では瀬田川洗堰の全閉操作が行われた時の降雨量などを使って検証する方針を説明した。

 学識者委員からは、角哲也・同大学防災研究所教授が近年の洪水では上流から土砂や流木が堆積たいせきする特徴があることなどを述べ、「どこにどんな雨が降るかで状況が変わってくる。こうした点を先取りした議論を進める必要がある」と強調。座長の宝教授は昨年の九州北部豪雨を例に、積乱雲が局地的に連続発生する「線状降水帯」と呼ばれる現象に触れ「県内でも線状降水帯が来た時が心配される。天井川が多く、中小の河川整備が進んでいない」と指摘した。

 終了後、三日月知事は勉強会が4府県知事合意に与える影響を問われ、「まったく予断を持っていない。変えなければ、という部分があれば、合意の通りということもあるかもしれない」と述べるにとどめた。

 今年度はあと2回の開催を予定している。

  ◇「建設ありきの議論」 前知事批判

 勉強会には、ダム建設の白紙撤回などを盛り込んだ、2008年の4府県知事合意の当事者の一人、嘉田由紀子前知事も傍聴に訪れた。

 嘉田前知事は終了後、報道各社の取材に応じ、「建設ありきで議論が進んでいくような感じがした」と率直な印象を交えて勉強会のスタンスを批判。建設が具体化した場合には「黙っていることはできない」とし、「本当に建設を県民が望んでいるのか。何らかの方法で問うべきだ」と疑問を投げかけた。

 一方、自身が代表を務める政策集団「チームしが」が6月24日投開票の知事選で三日月知事を支援する、とした方針については「今さら変えられない」と述べた。

◆2018年6月1日 京都新聞
http://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20180601000234
ー大戸川ダム、滋賀県の動き静観 京都知事ー

 京都府の西脇隆俊知事は1日の定例記者会見で、国が本体工事を「凍結」している大戸川ダム(大津市)の治水効果について滋賀県が再検証を始めたことに関して「大戸川ダムの緊急性が低いと(2008年に)府の技術検討会で評価している。今のところは変わりない」と述べ、県の動きを見守る考えを示した。

 県は、県議会で昨年、早期着工を求めて自民党などが提案した決議が可決されたことを受けて先月30日に勉強会を立ち上げた。洪水被害が相次ぐ近年の激しい雨の降り方などを考慮した検証などを要望する意見が出た。

 会見で西脇知事は「県の意見を聞き、国の検証結果を見ながら、いずれ大戸川ダムについて判断する時期が来る」と指摘し、現在進んでいる天ケ瀬ダム(宇治市)放流用トンネル建設や桂川河川改修などの治水効果が判断材料になるとの見方も示した。ただ、具体的な時期については「念頭にない」とした。

 府は08年、国の淀川水系河川整備計画策定に当たって専門家の技術検討会を設け、大戸川ダムについて「中上流の河川改修の進捗(しんちょく)と影響を検証すべき」として優先順位が低いとする報告書をまとめた。その上で同年、滋賀など4府県の知事で凍結を求める合意文書を出した。

 一方、事業主体の国は16年、他の治水対策よりもダムが有利として事業継続を決めた。

◆2018年6月3日 京都新聞
http://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20180602000069
ー知事公約実現、透明性の高さが鉄則 嘉田由紀子前知事に聞くー

  平成へ至る歴代の滋賀県知事3人に、それぞれが考える知事の役割や資質について聞いた。

 2006年滋賀県知事選では財政再建、少子高齢化、琵琶湖の環境保全の三つの政策を「もったいない」という「暮らし言葉」で訴えた。その方向性ははっきりとマニフェスト(公約)で示し、県民と約束した。

 私は政策が評価され知事に選ばれた。それを実現するのが一番大きな仕事だった。2期8年、約束実現のために奔走してきた。

 その際に大事にしたのが県政の透明性を高めることだ。隠さない、だまさない、うそをつかない。そして諦めない。四つの「ない」を口酸っぱく言ってきた。

 新幹線新駅とダムの建設中止は前例がなかった。放射性物質の拡散予測も全国で初めて実施した。一般的に行政職員は前例のないことはやりたがらない。できない理由ばかりを並べる。やるか、やらないかが重要だと訴えた。

 行政の一番の問題は縦割りの仕組み。生活者目線に立って、縦割りに横串を刺すよう徹底してきた。当時の県職員は知事の方針実現に力を注いでくれた。

 流域治水推進条例はその典型だ。川の中で水をあふれさせないのが河川行政だが、守りきれなければあふれる。その時に人家が床上浸水しないよう土地利用を規制する。さらに命を守るため建物のかさ上げも義務化した。河川行政、都市計画行政、住宅行政の縦割りに横串を差した政策だ。

 マザーズジョブステーションも横串政策だ。子育て中の女性が就職相談を受ける時に保育サービスを利用でき、ハローワークの就職情報も得られる。

 家庭には財務省もあれば厚生労働省、農林水産省もある。生活者は全省庁相乗りだ。縦割りの各部局に横串を刺せるのは、知事だからできることだ。

 政治は政策を実現するための手段だ。学者が琵琶湖を良くしようと、本を何十冊書いてもダム一つ止まらなかった。自分がやるしかないと思った。知事の権力は大きい。昨日まで動いていた公共事業でも政策が支持されれば止められる。権力の使い方を間違ってはいけない。知事も職員も全体の奉仕者だ。安倍政権のような権力の私物化は絶対に避けなければいけない。

 最大の県政課題は少子高齢化への対応だ。人口構造の変化を踏まえた政策をどう進めるか。長寿社会に合わせた在宅看取(みと)りや農業、スポーツ、社会参加などの在り方が問われている。

 子どもや若者にとって最善の政治は何か。今まで政治は遠いと思っていた人たちが関心を持つような政策論争に期待したい。

 ■かだ・ゆきこ 1950年埼玉県本庄市生まれ。京都大、米ウィスコンシン大両大学院修了。1981年に滋賀県庁に入り琵琶湖研究所研究員、琵琶湖博物館総括学芸員などを務めた。2000年に京都精華大教授に就任した後、06年から2期8年間、滋賀県知事を務めた。退任後はびわこ成蹊スポーツ大学長を務め、17年衆院選に滋賀1区から無所属で立候補し、落選した。68歳。