水道民営化に関するNHKラジオとNewsweekの記事

 今国会では見送りになった水道法改正案は、水道民営化への道を開くものです。この問題については慎重な対応が求められるとするNHKラジオの番組と、米国のケースを取り上げた論考記事をお伝えします。

NHKラジオに出演した橋本淳司さん(水ジャーナリスト)のツイートです。

 橋本さんによるラジオでのお話の結論部分を以下にまとめてみました。

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水道法改正案について、本来どんな議論をしなければならないのか、というNHKアナウンサーの質問に対して、水ジャーナリストの橋本淳司さんが答えています。

ー問題の前提条件として、これからの人口減少にどう対応するのかを真剣に考える必要があります。古くは地下水や湧水を使って生活していました。ところが戦後の高度成長期にダムや大きな浄水場をつくり、四方八方に水道管をのばして、大量の水を供給する大規模集中方式に変えてきました。

 その方式が実は曲がり角にきている。今後もたとえば地区に2,3軒という地域の水道管を維持していくべきなのか。それとも分散型の小さな施設にして対応するのか。雨水や地下水の利用技術も上がっているので、独立的な施設という可能性もあります。様々なことを考える必要があるということです。

 この先10~20年、大きな変化を迎える時代なので、自治体は状況を見ながらフレキシブルに、小規模施設に移行するのか、あるいは大規模型の施設を残して維持管理していくのか、舵取りが重要な時期ですから、今はコンセッションに飛びつくのではなく、自治体の将来を見据えて今後どうしていくかが重要です。

 橋本淳司さんの話に応じて、NHKアナウンサーが「(水道法改正は)丁寧な議論と検証が必要ということですね」とまとめました。
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◆2018年7月26日 Newsweek
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2018/07/post-1018_3.php
プリンストン発 日本/アメリカ 新時代 冷泉彰彦
ー水道民営化、アメリカでは実際に何が起きたかー

<日本の水道民営化議論は、地方自治体が設備維持コストに耐えられないという状況から出てきたが、先行したアメリカの例を見れば、経済合理性のなかで維持コストが利用者に転嫁されることは明らか>

水道の民営化という議論が進んでいます。この民営化を含む「水道法改正案」がすでに2017年に立案され、2018年7月22日に閉会した国会でも審議されました。この国会では成立しなかったのですが、秋の臨時国会で再び審議される見通しだと言われています。

 アメリカはこの水道民営化が世界でも先行した地域です。17~18世紀の開拓時代には、それぞれの入植地や市町村が水道を建設していたのですが、19世紀の後半から民営化の動きが進んだからです。

同時に広域化も進みましたが、そんな中から全米最大の「民営水道会社」であるアメリカン・ウォーター(AW)が出てきました。AWは水道と電気供給の企業として1880年代に設立され、その後1947年に水道専業に改組、現在は全米50州のうち46州に加えて、カナダのオンタリオ州でもビジネスを展開しています。

アメリカで水道民営化が進んだ事情は特殊です。広大な国土に、分散した形で入植が始まった経緯があり、バラバラに水道が建設されたのですが、個々の経営は零細でした。ですから入植後100年以上が経過して、設備の更新を進める必要が生まれたときには、市町村には負担が重かったのです。

一方で、アメリカの市町村というのは完全独立採算制で収支の透明性が要求されるため、納税者の意識は高かったのです。そこで、「民営化による広域化」か「個々の市町村による公営事業として設備投資の継続」かというと、後者はムリであって、必然的に民営化による広域化が選択されていったのでした。

もちろん大都市など規模の大きい自治体では公営も残りました。また、民営化されたとはいえ、水道というのは文字通りのライフラインですから州や市町村は水質管理や安定供給に関する監督権は有しており、とりあえず100年以上の民営化の歴史において水道供給の大破綻という事態は起きていません。

例えば、2014年にミシガン州のフリントで水道水の鉛汚染が問題になりました。これは自動車産業が繁栄していた時代の延長で「公共水道」のまま運営してきた一方で、周辺都市が準民営化に走った中で取り残されたための問題と言えます。仮の話ですが、もっと経済が回っていた時代に民営化していたら、万事うまく行っていたに違いありません。(ちなみに、このフリントの問題はまだ解決していません)

では、アメリカで水道民営化は成功しているのかというと、そう簡単な話ではありません。実際に民営化水道を経験してみると、企業によって様々な問題があることがわかります。

 例えば、私の住むニュージャージー州の中部は、以前は「エリザベス・ウォーター社(EWC)」というのが水道を供給していました。ところが、取水しているラリタン川という河川が豪雨のために氾濫し、その泥水が浄水場に溢れるという事故が起きたのです。その処理費用の重さに耐えられなくなったEWCは、この地域の事業をAWに売却しました。

 さすが全米最大の企業だけあって、AWによって浄水場の洪水対策は整備されましたし、定期的な水道本管の清掃作業なども行われるようになりました。では、良いことばかりかというと、そうではありませんでした。問題は、料金が高くなったことです。EWCからAWに移行したことで、水道料金は40%ぐらい跳ね上がったのを記憶しています。

また、AWは加入者との契約を変更してきました。EWCのときは、水道本管から各家庭への引き込み線までは、仮に損傷があった場合の修理は無償でした。ところが、AWになったら、各家庭の引き込み線の所有権は各家庭にあるとして、破損したら自己責任ということになりました。

その自己責任というのが問題で、仮に破損した場合に近所の配管工を呼んで修理していいのかというと、これが約款で禁止されているのです。どういうことかというと、本管に接続する部分の工事は、AWの指定業者しか認めないというのです。

では、その料金はというと、例えば1件1万ドル(110万円相当)という高額なものとなり、また呼んでもすぐに配管工は来ないという話もあります。どうすればいいのかというと、AWは「配管保険」というのを売っていて、「自己責任の引き込み線部分の損傷をカバー」という触れ込みで、かなりの保険料を取るのです。

実際に配管の事故を経験した人の話では、「AWの配管保険に入っていると、破裂しても無料でカバーされるだけでなく、修理も優先される」のだそうで、そうなると仕方なく保険に入らざるを得ないことになります。

別にAWが悪質なのではありません。民営化というのはそういうものです。水道事業というライフラインについて、その維持コストの全てが民間の経済合理性で回っていく、その中で転嫁できるコストは利用者に転嫁するというのが民営化です。

一方で、今回の日本の民営化議論というのは、人口縮小で需要が収縮する中で、巨大な設備更新コストには、脆弱な地方自治体の財政では耐えられないという危機的な状況の中で出てきたものです。ですからアメリカでまがりなりにも成功しているということは、比較にならないと思います。

 日本の場合に懸念されるのは、民営化によってコストが顕在化し、それによって水道事業の破綻が早期化するという問題です。結果として、否応なしにコンパクトシティ化が進むということもあるかもしれませんが、国土のある部分について、最優先のライフラインである水道供給が破綻していけば統治の崩壊につながります。

となると、民営化しつつ相当部分の補助を公費で実施するという形になるのかもしれませんが、その場合は業者との癒着が起きないように監視体制が重要になります。その一方で、広域化を進めて効率を追求するというのは必要なことであり、現在の制度がこのまま維持できるとは思えません。

心配なのは、今回の西日本豪雨のような大災害で、水道インフラが破壊された場合です。民営の場合、リターンの期待できない修復コストの負担はしないかもしれません。では脆弱な各地方自治体の財政にその能力があるのかというと、これもないわけです。

この水道民営化法案ですが、大変に重要な問題であり、審議を尽くす必要があります。また決定後に「ご存知ですか?」などと告知をするのではなく、審議へ向けて賛否の議論を盛り上げていく必要があります。とにかく、実施可能な範囲での実務的な議論にしていかねばなりません。