岡山県倉敷市真備町地区では、西日本豪雨で四河川八カ所の堤防が決壊し、面積の3割が水没しました。小田川上流の北岸の決壊箇所は堤防の高さ、幅ともに国の整備目標を満たしていませんでした。このことを地元紙が伝えています。
記事で取り上げられている高梁川水系河川整備計画とは、河川管理者である国土交通省中国地方整備局が今後20~30年の間に整備する計画を示したものです。
高梁川水系河川整備計画は以下のページから見ることができます。
http://www.cgr.mlit.go.jp/okakawa/kouhou/seibi/takahasi/taka_seibi_index.html
2011年の東北太平洋沖地震、2015年の関東・東北豪雨などを踏まえて2017年6月に変更策定されたという上記の整備計画を読むと、以下のような記述があり、河川管理者(国土交通省中国地方整備局)にとって、「洪水時に堤防が決壊あるいは堤防から水があふれ、大きな被害を生じる」ことは想定内であったことがわかります。
高梁川水系河川整備計画より「高梁川の現状と課題」
http://www.cgr.mlit.go.jp/okakawa/kouhou/seibi/takahasi/files/plan_henkou/03_plan.pdf
●19ページ
「現在の小田川は、洪水時に高梁川の合流点水位が高いことから、高梁川の河川水が小田川に回り込み、水の流れが阻害され、小田川の水位が高くなる特性(背水影響)を持っています。また、小田川の河床勾配は、高梁川に比べても緩く、洪水をスムーズに流すことができないため水位が高くなる影響が広範囲に及びます。
このため小田川下流部に位置する真備地区では、洪水時に居住地側の雨水を排水できず、過去何度も雨水出水(内水)被害を受けてきました。昭和 47 年7月洪水では堤防の決壊と雨水出水(内水)による氾濫が、昭和 51 年9月洪水では雨水出水(内水)による氾濫がそれぞれ生じています。
以前は真備地区の低平地の多くが農地でしたが、「2.1.4 人口」で述べたとおり、低平地も宅地として利用されるようになり、氾濫域へ人口、資産が集積し、氾濫によって大きな被害を生じやすい状況になっています。
このような背景から、小田川の洪水時の水位を低下させ、被害を軽減させる抜本的な対策が地域から望まれています。」
●20~21ページ
「3.1.2 河道の整備状況
これまで、高梁川及び小田川において河川整備を進めてきましたが、未だ計画高水流量に対して流下能力が不足しており、浸水被害が生じる恐れがあります。
(1)高梁川の河道整備状況
高梁川の現況河道は、計画高水流量*(船穂:13,400m3/s)に対しては、堤防整備が完了していないため、人口、資産が集中する倉敷市街地を含む潮止堰上流のほぼ全区間で流下能力が不足しています。また、酒津地点(距離標10.15km)
付近から上流では、堤防整備が完了しても河積**が不足しているため、流下能力が不足します。
戦後最も大きな被害を与えた昭和 47 年7月洪水(船穂:8,000m3/s)に対しては倉敷市街地の区間ではおおむね流下させることができますが、上流では流下能力が不足しています。
流下能力が不足している原因としては、州の発達や河道内の樹林化による河積不足が考えられます。また、既存の固定堰には洪水時の流れを阻害しているものもあります。
(2)小田川の河道整備状況
小田川は、計画高水流量(矢形やがた橋:2,300m3/s)及び戦後最も大きな被害を与えた昭和 47 年7月洪水(矢形橋:1,500m3/s)の両方に対して、高梁川からの背水影響による水位上昇に加え、河積不足により流下能力が大幅に不足しています。
小田川の流下能力不足の原因は、高梁川からの背水影響による水位上昇に加えて、河道掘削の未実施や河道内の樹林化による河積不足があります。 」
●22ページ
●23ページ
「高梁川及び小田川の国管理区間において堤防の整備が必要な延長は 70.6kmそのうち将来計画において堤防の機能が発揮できる必要な高さ及び幅が確保されている計画断面堤防の延長は 19.6km(約 28%)となっています。一方、今後整備が必要な区間の延長は51.0km(約 72%)が残っています。これらの今後整備が必要な区間では、洪水時に堤防が決壊あるいは堤防から水があふれ、大きな被害を生じる可能性があります。 」
◆2018年8月10日 山陽新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180810-00010002-sanyo-l33
ー倉敷の堤防決壊箇所は「脆弱」 高さ、幅とも国の整備目標満たさずー
西日本豪雨で4河川8カ所の堤防が決壊し、面積の3割が水没した岡山県倉敷市真備町地区で、小田川上流の北岸の決壊箇所(同町尾崎)は堤防の高さ、幅ともに国の整備目標に満たず、改修予定だったことが9日、国土交通省への取材で分かった。国管轄の未改修区域は北岸では決壊箇所周辺に限られており、周囲より脆弱(ぜいじゃく)な箇所が水圧に耐えきれず、重大な浸水被害を招いた可能性がある。
改修予定だった決壊箇所は、高梁川との合流地点から約6・4キロ上流で、井原線呉妹駅の南西約200メートル。2017年改定の河川整備計画では、国が管轄する合流地点から同町妹地区までの小田川本流7・9キロ区間のうち、北岸で堤防の幅と高さがともに整備目標に満たないのは決壊箇所周辺の約200メートル区間だけだった。
国交省岡山河川事務所によると、堤防の高さは、想定される河川の最高水位に余裕高を加味して整備目標を立てている。改修予定だった決壊箇所では標高17・2メートルが目標だったにもかかわらず、16・9メートルと0・3メートル不足。堤防の幅も周辺の約300メートル区間で十分確保されていなかった。
倉敷の堤防決壊箇所は「脆弱」 高さ、幅とも国の整備目標満たさず
小田川が流れる倉敷市真備町地区の地図
決壊には至らなかったが、南岸でも計約2・2キロ区間で堤防の幅が不十分で、うち計約800メートルは高さも整備目標に達していない。
河川整備計画の対象期間は、おおむね30年間で、決壊箇所の改修時期は未定。整備手順では、今秋にも着工する高梁川との合流地点の付け替え工事が完成した後、決壊箇所などの堤防のかさ上げや拡幅作業に取りかかる予定だった。
小田川上流の北岸では7月7日未明から昼にかけ、約50メートルにわたり堤防が崩れ、4人が亡くなった同町尾崎地区などに浸水が広がったとみられている。小田川では、この決壊箇所から約3キロ下流の北岸でも約100メートルにわたり破堤していた。
小田川決壊の原因究明に当たる国の調査委員会で委員長を務める前野詩朗・岡山大大学院教授(河川工学)は「茨城県常総市で15年に起きた鬼怒川の決壊部分も国が改修する予定の箇所だったように、流量が想定を超えた場合、より脆弱な部分から決壊することは十分にあり得る」と分析する。
岡山河川事務所は「堤防整備は下流部から順に実施する計画になっていた。決壊箇所の堤防の脆弱性が浸水被害を招いたかどうかの因果関係については今後、専門の調査委員会などで検証していきたい」としている。