八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

豪雨でダムが放流・決壊したら全国で大被害に(週刊SPA!)

 週刊SPA!』最新号に、7月の西日本豪雨の水害について精力的に取材している横田一さんの記事が掲載されています。
 この記事で取り上げられている今本博健さん(京都大学名誉教授・元京都大学防災研究所所長)は、河川工学の世界では数少ない、ダム問題に取り組んでこられた方です。
 今本先生の今回の水害についてのご見解は、市民団体・長良川市民学習会の会報最新号に掲載されています。

★長良川市民学習会ニュース「特集 2018年7月豪雨水害」
 http://dousui.org/news/20180816_news27.pdf
 4ページ~ 平成 30 年 7 月豪雨の教訓 元京都大学防災研究所長 今本博

 横田さんの記事で、嶋津暉之さん(水問題研究家、当会運営委員)の「旧建設省も堤防強化の重要性に気づき、堤防の住宅側に遮水シートを入れる『被覆型耐水堤防』を1996年から提唱、工事を始めましたが…」という談話が紹介されていますが、嶋津さんによれば、

「『被覆型耐水堤防』は1990年前後から一級水系河川の一部で実施され始めました。また、『被覆型耐水堤防』は堤防の住宅側に遮水シートだけでなく、連接ブロックも入れたものがベターです。」とのことです。参考までに『被覆型耐水堤防」が実用化された留萌川の事例を掲載します。

★国土交通省北海道開発局 公式サイトより 「留萌の激特事業」
https://www.hkd.mlit.go.jp/rm/tisui/f6h4sv000000084s.html
高水護岸(アーマー・レビー)
「通常、堤防は土を材料としてつくられていますが、この土の堤防の表面にそれを保護するための工事を行った堤防をアーマー・レビーと呼んでいます。この工事を行うと、堤防が崩れる危険性が普通の土の堤防に比べて大変少なくなります。」

◆2018年8月21日 週刊SPA!
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180821-01502675-sspa-soci
ー豪雨でダムが放流・決壊したら全国で大被害に。大阪京都で死者数十万人との予想もー

 ◆全国のダムを一斉点検し、「ルール」を変える必要がある

 西日本豪雨災害で、“想定外”の豪雨があったとして上流のダムが大量放流、下流域に大きな被害を出した。再び“想定外”の豪雨があった場合、大量放流や決壊の可能性のあるダムは全国に数多く存在するという。

「今回の西日本豪雨で、ダムが緊急放流をしたことで下流域が浸水、多数の死者を出しました。国交省は『ルール通りに操作をした』と説明していますが、早急に全国各地のダムを一斉点検し、ルールを変える必要があります」

 こう話すのは、河川工学者の今本博健・京都大学名誉教授(淀川水系流域委員会元委員長)。

「多くのダムは200年に1回の洪水を想定して設計されていますが、それ以下の“想定内”の雨量でも、満杯になりそうな場合、緊急放流をするルールになっています。しかし、越水(ダム湖の水を溢れさせる)で対応をすれば、緊急放流をするとしても、放流量は現在の緊急放流よりゆるやかになります」

 しかし今回、国交省は「越水でダム決壊の恐れがあったため緊急放流した」と説明している。

「そんな危険なダムは現時点で撤去すべきです。想定外の豪雨では、緊急放流しても越水に至る場合はありますから。その一方、越水に耐えうるダムは緊急放流しないというルールに変えることで、今回のような被害を避けられます」

◆天ヶ瀬ダムが決壊すれば、京都や大阪で数十万人単位の死者!?

 今本氏が「決壊するかどうか、真っ先に点検すべき」と指摘するのはアーチ式の「天ヶ瀬ダム」(京都府宇治市)で、重力式ダムに比べて構造的に脆弱だという。

「このダムが壊れたら、下流の京都府や大阪府で、恐らく数十万人単位の死者が出るでしょう」(今本氏)

 首都圏に流れ込む利根川上流にも、決壊で大被害が出る可能性のあるダムが存在する。

「下久保ダムと八ッ場ダムは同じ規模で、地滑り頻発地域に建設され、下流域が首都圏という共通点があります。八ッ場ダムは浅間山噴火で土石流の恐れも。豪雨だけでなく、地滑りや噴火で土砂も大量流入、ダム決壊や急激な放水が起き、首都圏で大きな被害が出る恐れがあるのです」(「水源開発問題全国連絡会」嶋津暉之共同代表)

◆ダム建設が優先され、ほかの治水対策が後回しに

 電力会社が管理する発電用ダムも危ないという。「発電用ダムは利水専用なので洪水調整容量をほとんど持たず、すぐ満杯になって緊急放流するので危険なのです」(嶋津氏)。

 今本氏と嶋津氏がともに強調するのは、「ダム建設よりも河道整備(堤防強化や浚渫など)を優先すべき」という、河川政策の転換だ。

「旧建設省も堤防強化の重要性に気づき、堤防の住宅側に遮水シートを入れる『被覆型耐水堤防』を1996年から提唱、工事を始めましたが、2001年12月の川辺川ダム住民投票を機に『ダム建設に支障が出る恐れがある』ということで2002年にこの方法を撤回してしまった。安価で即効性のある堤防補強が後回しにされ、効果が限定的なダム建設が優先されてきた結果、西日本豪雨災害を招いたといえるでしょう」(嶋津氏)
※『週刊SPA!』8月21日発売号「『危険なダム』ワースト10」より

取材・文・撮影/横田一