荒川下流部の堤防

 さる8月29日、「埼玉の川を考える会」が企画した荒川下流部の見学会が行われました。
 同会メンバーでもある「八ッ場ダムをストップさせる埼玉の」会がブログでこの見学会の詳しいレポートをアップしています。

8/29(水)荒川知水資料館と荒川見学の報告
 http://yambasaitama.blog38.fc2.com/blog-entry-4546.html

 上流部の埼玉県だけでなく、東京都民にとっても重要な荒川ですが、都県をまたいでいるうえに、過去に大規模な土木工事が何度も行われて元の流路が大きく変えられていることもあり、下流域の都民も県民も荒川についてあまりよく知りません。

 かつて利根川や荒川など、多くの河川が蛇行していた関東平野は、長い歳月の間に洪水氾濫が繰り返されることによってつくられた沖積平野です。この洪水常襲地帯をわが国の政治経済の中心とするために、多くの河川工事が行われてきました。江戸時代における代表的な河川工事が、利根川東遷事業と、荒川を洪水が頻発した埼玉県熊谷市久下(くげ)付近で締め切り、瀬替えする荒川西遷事業でした。

 荒川は明治40年代の二度の大洪水を経て、新たに大規模な治水対策が必要とされ、東京都北区にある現在の岩淵水門付近から東京湾に注ぐ下流部に荒川放水路が建設されました。もとの荒川の流路は隅田川となりました。
写真右=中央を流れる太い流路が荒川放水路。荒川放水路の左手に蛇行して細く流れているのが隅田川。
       (国土交通省「荒川知水資料館」展示より)

下写真=荒川放水路と隅田川の分岐点。写真の奥を流れているのが荒川放水路。右手に見えるのが、明治43年の洪水後に建設された旧・岩淵水門。現在では役目を終えている旧水門の右手奥に現在の岩淵水門がある。水門から先は隅田川(かつての荒川の流路)。

 今回の見学会では、水門の上流側にある岩淵緊急船着場から国交省関東地方整備局が運行する「あらかわ号」に乗船して、江東デルタ地帯の防災施設として建設された荒川ロックゲート(写真右)まで下り、ロックゲートの近くにある番所橋緊急船着き場で下船しました。

★国土交通省関東地方整備局 荒川下流河川事務所サイト 
 あらかわ号による見学会申し込み⇒http://www.ktr.mlit.go.jp/arage/arage00050.html

 国交省の担当者の解説を聴くと、首都圏の中でも人口が密集するゼロメートル地帯の防災に国が多額の予算を投じていることがわかります。
 荒川下流部周辺は、過去の地下水汲み上げによる地盤沈下が激しかった地域です。両岸の堤防は嵩上げされましたが、古くにつくられた鉄道や道路の橋梁部分の堤防は、鐡道や道路の付替えが必要になるため、後回しにされてきました。荒川の下流部にはこうした問題を抱える橋脚が四箇所あります。中でも1931年につくられた京成本線の橋梁が低いことから、約400億円をかけて架け替え工事を行うことになっており、今後10年ほどを目途に実施されるとのことです。(左岸は葛飾区、右岸は足立区)

写真下=堀切橋と並行して荒川をまたぐ京成本線の線路は首都高速道の下にある。京成本線の走る箇所では荒川の堤防が周辺の堤防より低い。
国土交通省関東地方整備局 荒川下流河川事務所 「治水上の弱点となっている橋梁の架替え」

 しかし、国交省の説明ではわからないこともありました。
 荒川下流部の治水対策として、特に多くの事業費が費やされているのがスーパー堤防事業です。あらかわ号からも堤防事業の行われている地区を眺望することができました。見学会に参加した江戸川区民の方々がスーパー堤防問題の深刻であることを伝えてくださいました。
右写真=国交省と共にスーパー堤防事業を推進する江戸川区の職員報。扇子を頭に飾る多田氏は1999年から区長を務める。江戸川区でスーパー堤防が大きな問題となっているのは、スーパー堤防の対象地区が住民の居住地であること。住民はスーパー堤防を国がつくっている間、他所に住居を求めなければならない。スーパー堤防には多くの住民が反対しているにもかかわらず、多数の住民の居住地をスーパー堤防にする事業が進められているのは、江戸川区のみという。

 スーパー堤防が問題ある事業であることは、会計検査院も何度も指摘してきたところです。
 参照 「堤防整備に関する会計検査院の指摘」
    「スーパー堤防完成は1%、国交省が水増しー会計検査院指摘」

 荒川のスーパー堤防事業は区間延長が51.9キロメートルとされていますが、完全に整備された区間は2017年3月末時点で僅か1.41%にすぎません。スーパー堤防による治水対策は、点が線としてつながらなければ用をなしません。治水対策として、何百年もの歳月をかけなければ整備できないスーパー堤防のわずかな点に巨額の費用をかけるのと、いまだに事業計画がない低い鉄道や道路の架け替えと両岸の堤防の嵩上げに取組むことと、どちらが有効であるかは明らかです。

写真右=河口から15キロ地点、荒川放水路右岸側、江戸川区平井四丁目。現在、マンションが建っている土地は東京電力の土地であった所。スーパー堤防の予定地であったが、住友不動産がこの土地を購入し、スーパー堤防をつくってからマンションを建てるのでは採算が合わないと反対したため、スーパー堤防の計画から外された。

写真下=荒川放水路右岸側、江戸川区平井七丁目。スカイツリーの下に二列並ぶ集合住宅は財務省の職員住宅。この土地もスーパー堤防の対象エリアであったが、財務省が立て替え時期でないとして立ち退かず。財務省の職員住宅の右手は住宅地であったがスーパー堤防用地とされ、住民がスーパー堤防をつくる期間、立ち退きを余儀なくされた。スーパー堤防は本来は堤防高と傾斜の割合を1:30にすることになっているが、財務省が職員住宅の立ち退きを拒否したため、30の傾斜を確保できていないという。

〈参考〉
東京の水連絡会サイトより スーパー堤防って、なんでしょう?
前編 http://tokyo924mizu.blog.fc2.com/blog-entry-11.html 
後編 http://tokyo924mizu.blog.fc2.com/blog-entry-12.html