長野原町の居家以岩陰遺跡と石畑Ⅰ岩陰遺跡

 八ッ場ダム予定地を抱える長野原町では、ダム予定地の上流にある貝瀬集落の深沢沿いで、國學院大學考古学教室が居家以(いやい)岩陰遺跡の発掘調査を行っています。調査は2014年から本格的に始まりましたが、わが国では最古級とされる約8300年前の人骨が昨年までに10体、そして更に今夏10体発掘されたことを地元紙が伝えています。

  居家以岩陰遺跡の学術調査を進める國學院大の谷口教授は、インタビュー記事の中で、岩陰遺跡は「張り出した岩盤の下のくぼみを利用して雨風をしのいでいた…いわば天然のシェルター」で、縄文時代前半によく利用された岩陰や洞窟は、特に群馬・長野・新潟をまたぐ山地に多く見つかっているとしています。写真右=縄文人骨が出土した居家以岩陰遺跡の1号岩陰。
 居家以岩陰遺跡は「約1万4000年前から5500年前までの時期に最も盛んに利用された」、「一般的に日本の国土には人骨が分解しやすい酸性土壌が多いのですが、この遺跡では、縄文人が長期間暮らしていたことで(煮炊きした後に)灰が堆積し、土壌が、骨が溶けにくいアルカリ性に変化したため、埋葬人骨がよく保存されたと考えられます。」とも説明しておられます。

 八ッ場ダムの本体工事現場には、「群馬県史」に大きく取り上げられている石畑Ⅰ岩陰遺跡があります。石畑Ⅰ岩陰遺跡は長野原町川原畑地区八ッ場の岩体にある遺跡で、現在、本体工事見学者向けの展望台「やんば見放台」はこの岩山の上にあります。
 水没予定地をまだJR吾妻線が走っていた頃、吾妻渓谷の蕎麦屋「白糸の滝」の山側に吾妻線が走っていました。右の写真の、吾妻線の普通列車の背後に見えるのが、その岩体です。(2014年4月撮影)

 石畑Ⅰ岩陰遺跡は立ち入り禁止の本体工事現場にあることもあり、公表されていることはごく一部です。10月の群馬県議会では、発掘調査を担う県に対して石畑Ⅰ岩陰遺跡の質問もありましたが、県の答弁は「八ッ場ダムの試験湛水が始まるまでに(水没予定地の)石畑Ⅰ岩陰遺跡の発掘調査を終える」というだけの素っ気ないものでした。
写真右=ダム本体工事現場にある石畑Ⅰ岩陰遺跡の岩体。岩の手前にダム堤のコンクリート打設に骨材を運搬するベルトコンベヤーが設置されている。2018年9月撮影。

 居家以岩陰遺跡を利用した縄文人は、八ッ場の石畑Ⅰ岩陰遺跡を利用した人々と交流があったのではないでしょうか。両遺跡の発掘調査の成果を突き合わせることで、縄文時代の山岳での生活についての知見が大いに深められるに違いありません。

 國學院大學では、今夏の居家以岩陰遺跡の学術調査の成果について、國學院大學渋谷キャンパスにある同大学の博物館で11月2日より展示会を行うとのことです。

 紙面記事を転載します。

◆2018年9月20日 上毛新聞
https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/culture/80568
ー長野原・居家以岩陰遺跡で発掘調査 縄文の山岳生活 解明へー

 ◎国学院大が人骨10体確認

 国内最古級とされる約8300年前の埋葬人骨が出土した縄文時代の居家以岩陰遺跡(群馬県長野原町)で、国学院大考古学研究室が発掘作業を進めている。先月23日から始まった今年の発掘調査では約10体の人骨を確認。昨年までに10体が発見されており、縄文人の生活実態解明への貴重な手掛かりになるとみられる。

 同遺跡の発掘は2014年に始まり、毎年夏に約1カ月間の調査を行っている。研究室によると、遺跡の地層は多くの灰を含み、これまで出土された埋葬人骨や土器、石器、動物骨などは保存状態が良いという。

 新たに確認された人骨は地層から縄文草創期のものとみられるが、今後は放射性炭素年代測定で、詳しい年代を調べる。今年の発掘では複数の人骨が集積している場所があることも分かり、何のために集められたのかを探る。
 
 調査団長を務める谷口康浩教授(58)は「山岳部での縄文人の生活は良く分かっていないことが多い。調査を進めることで、その生活や行動を明らかにしたい」と話している。

 発掘は21日まで行う予定。11月には同大博物館(東京)で復元した人骨の一部を展示する。

—転載終わり—

◆國學院大學博物館 公式サイトより
【特集展示】國學院大學考古学研究室 発掘調査速報展示Ⅲ
 「縄文人と縄文文化の起源を探る―居家以岩陰遺跡の発掘調査2018―

http://museum.kokugakuin.ac.jp/event/detail/2018_iyai.html

会期:平成30 (2018) 年11月2日(金)~12月2日(日)

 國學院大學考古学研究室が取り組んでいる群馬県居家以岩陰遺跡の学術発掘調査は今年で5年目を迎え、縄文時代早期の埋葬人骨が約20 体出土するなど重要な発見が続いています。
 速報展では考古学・人類学・植物学・動物学の連携研究から明らかとなった成果を紹介し、復元された早期の縄文人骨と押型文土器・獣骨などの出土遺物を展示します。

—転載終わり—

〈参考ページ〉
●発掘調査を行ってきた谷口康浩・國學院大學教授のインタビュー記事。居家以岩陰遺跡の発掘調査について、詳しくお話しされています。
 https://www.athome-academy.jp/archive/culture/0000001134_all.html
教授対談シリーズ こだわりアカデミー
ー約8300年前、岩陰や洞窟で暮らしていた縄文人 その生活実態に迫るー

●町報ながのはら 平成30年7月号 「岩陰遺跡が伝える縄文人の暮らし」
http://www1.town.naganohara.gunma.jp/www/contents/1492055003482/files/3007-IwakageIseki.pdf