山梨県では、今夏の西日本豪雨災害を受けて、ダム大規模放流時の連絡体制を強化するなど治水・治山対策を強化すると報じられています。これまでダムの治水効果は国などダム事業者によって過大にPRされてきましたが、ダムの限界と洪水時の危険性が災害によって明らかになりつつある現在、他県でも行政、流域住民ともに治水・治山について改めて真剣に向き合う必要があるのではないでしょうか。
◆2018年10月30日 読売新聞山梨版
https://www.yomiuri.co.jp/local/yamanashi/news/20181030-OYTNT50168.html
ーダム放流「逃げ遅れゼロ」へ…県検討ー
所長 9市長に電話
河川の氾濫で甚大な被害をもたらした西日本豪雨を受け、県は「逃げ遅れゼロ」を目指して対策を進めている。ダムの大規模放流時に下流の自治体首長に直接連絡するようにし、中小河川には簡易型水位計の設置を前倒しで行っている。情報収集と周知態勢の強化を図る。
7月の西日本豪雨では、愛媛県の国営ダムで緊急放流を実施した後、下流域に甚大な浸水被害が発生。国は自治体や住民への周知が適切に行われたかどうかの検証を行っている。また、広島県でも県営ダムで大規模放流が行われた際、下流自治体が住民に周知していなかったことが判明している。
県治水課によると、県営ダム6基が放流を行う場合、現在は各ダム管理事務所の職員が下流の9市に到達予想時間などを、通常の放流時は1時間前を目安にファクスで連絡し、電話で受信を確認している。
愛媛県の例を踏まえて今後は、ダムの操作によって下流に多大な影響が見込まれる場合、確実に素早く情報を伝達するため、ファクスでの連絡と並行し、各ダムの所長が9市の市長に直接電話で連絡する。トップまで情報が伝わる時間を短縮し、避難勧告・指示などを速やかに出す判断材料にしてもらう。県は運用基準などを検討して今年度中に運用を始める。
河川の監視も強める。現在、国は笛吹川や富士川など13か所、県は荒川や濁川など60か所の観測局で水位を常時監視しているが、観測局のない河川では大雨時の水位確認は職員による目視に頼らざるを得ず、時間がかかるのが課題だった。
県は「観測の空白地帯」をカバーするため、中小河川への簡易型水位計の設置を進め、一部で運用している。簡易型水位計は洪水時、設定された水位以上になると自動的に観測を開始して情報を送信する仕組み。来年度末までに老人福祉施設や病院、学校などが近隣にある地点を中心に計200基を設置する。設置の前倒しも進め、来年の大雨シーズンへの備えを急ぐ。
県治水課の担当者は「災害のたびに『逃げ遅れ』による被害拡大が指摘されている。情報の収集と住民への周知に向け、あらゆる手段を講じていきたい」と話している。
要治山対策 24地区…県、来年度からダム設置など
西日本豪雨では土砂災害による被害が広がった。これを踏まえ、県は「山地災害危険地区」の緊急点検を実施、県が所管する3402地区のうち、14市町村の24地区で新たな治山対策が必要な状態と判明した。県は今後、24地区を詳細に調査し、来年度から3年かけて山崩れを防ぐ治山ダムの設置などの対策を進める。
県治山林道課によると、山地災害危険地区は、豪雨により山腹の崩壊や地すべりで、土砂などが流出し、住宅や道路などに被害を与える恐れのある地区。現地調査や航空写真などによる点検を8〜9月に行い、土砂が不安定な状況で堆積たいせきしているなど、24か所で対策が必要だと判断した。
具体的な地区名は公表していないが、市町村別では南部町が4地区と最も多く、身延町が3地区、甲斐、山梨、笛吹、甲州、都留の5市で各2地区あった。(根岸優)