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改正水道法、国会で成立ー 各紙の報道と解説

 昨日12月6日、改正水道法が国会で成立しました。
 関連記事と解説を転載します。

◆2018年12月7日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASLD65HCCLD6ULBJ00V.html
ー水道の民営化、失敗なら住民にツケ 安全や値段大丈夫?ー

  自治体が担ってきた水道事業に、「民営化」という選択肢が広がる。民営化の様々な問題点が指摘される中、与党は6日、改正水道法成立へ押し切った。政府は「導入するかは自治体の判断」と説明するが、失敗した場合に不利益をこうむるのは住民だ。

 6日午後の衆院本会議。反対討論で立憲民主党の初鹿明博氏は「水道事業の運営権を民間企業に譲り渡すコンセッション方式の導入は断じて認めるわけにはいかない」と訴えた。

 水道などの民営化を推進する内閣府の担当部局に水道サービス大手・仏ヴェオリア社の関係者が出向していることも問題視。「利益相反が疑われる事態は明らかだ。水道事業を特定の外資系企業に譲り渡すことにつながる法案を認めるわけにはいかない」と主張した。

 国民民主党の稲富修二氏は、料金高騰や水質低下などから、再公営化した失敗例が海外で増加していると指摘。厚労省が失敗事例を3件しか調べていなかったことが審議で明らかになったことも念頭に、「コンセッション方式を導入すれば民間の効率的経営が必ず導入できるというのは幻想だ。国民の生活を脅かしかねない」と批判した。

 しかし、野党が指摘したこうした疑問点はほとんど解消されないまま、自民、公明、日本維新の会などの賛成多数で可決、成立した。与党は7日には出入国管理法案も採決、成立させる方針で、「数の力」を頼りに強引に通す国会運営の強硬姿勢は相変わらずだ。

 菅義偉官房長官は「再公営化」の流れに反するとの指摘について、6日午後の記者会見で「官民連携はあくまで選択肢だ。自治体が活用する選択肢が増える」と反論。関係者の出向については、同日午前の記者会見で「国家公務員の服務規律を順守させている。制度上の問題はない」と一蹴した。

 政権が法案を提出したのは2017年の通常国会。一度廃案になり、18年の通常国会では継続審議になっていた。注目を浴びたのは、関係者の出向や厚労省調査の件数など数々の問題点が明らかになった臨時国会終盤に入ってからだ。

 それまで急いできたわけではないのに、国会終盤になって採決強行へと向かった政府与党の姿勢に対し、野党内には「世界的な再公営化の流れの中で、あえて民営化に道を開く法案。海外での契約を失った水メジャーの穴埋めのためではないか」との疑念がくすぶる。

◆2018年12月7日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20181207/ddm/012/010/030000c
ー水道法改正 自治体に波紋 経費削減期待/値上げ懸念ー

  老朽化、少子化、財政難が重なり自治体のコスト負担が年々増える水道事業。その運営改善を目指すとする水道法改正が実現した。事業認可を自治体に残したまま民間に委託する「コンセッション方式」が促進される内容で、賛否をめぐり議論が続く各地の自治体でさまざまな波紋が広がった。

 「将来の日本にとって意義がある。宮城が日本のモデルを作りたい」。宮城県の村井嘉浩知事はそう語った。2021年度には、上・下水道と工業用水の運営権を一体で民間に委ねる検討を進めており、20年間で335億~546億円の経費削減を見込む。

 大阪市では、広域化や民営化を進める市の議案が市議会で否決や廃案となり、議論が振り出しに戻っていたが、今回の改正で、民営化へのハードルが低下する。吉村洋文市長は5日夜、ツイッターで「何もしなければ水道料金はどうなるか?」などと発信し、事業のあり方に再びメスを入れる考えを明かした。

 一方、下水道の一部でコンセッション方式を導入し、上水道でも検討する浜松市は法案成立前になって、今年度中としていた導入判断時期の先送りを明らかにした。10月には、鈴木康友市長自ら民営化の先進地とされるフランスを視察したばかり。担当者によると、市民団体から質問状が出されるなど仕組みや完全民営化との違いなどが周知されていないためという。

 不安の声も全国的に根強い。新潟県議会では改正法案反対の意見書が自民党も賛成に回り10月に可決されている。成立を知った同党のある県議は「県議団の中にも料金値上げや水質悪化、外国資本の参入などへの懸念材料が多々ある」と打ち明けた。【本橋敦子、岡村崇、奥山智己】

■解説
国会、不安解消せず

 改正水道法が施行されると、水道事業の広域化や老朽化対策といった公共水道の維持に必要な取り組みが進むことが期待される。ただ、焦点だった官民連携を巡っては、「民営化」に伴う安定供給への不安が国会審議を通じて解消されたとは言い難い。

 ボリビアやジャカルタなどでは、水道事業の民営化後に料金が上がったり、水質が低下したりした。国際的な調査機関によると、2000年からの15年間で37カ国の235水道事業が民営化後に再び公営化されている。

 だが、政府は海外の再公営化事例を3例調査しただけで件数すら把握していなかった。根本匠厚生労働相は「十分に分析した」と答弁したが、説得力は弱い。こうした姿勢は、働き方改革関連法案や入管法改正案の審議で浮上したずさんなデータ提示にも通じる。

 運営権を売却しても、民間事業者が水道料金を自由に決められるわけではない。事業者への国の立ち入り調査権限も盛り込んだ。とはいえ、水道事業に携わる自治体職員は減り続け、国にも指導監督に当たる専門部隊はない。十分にチェックできるか疑問も残る。

 政府は海外の失敗事例を調べ直し、水道水を安価で確実に供給するための厳格な手続きや基準作りに生かすべきだ。【原田啓之】

◆2018年12月6日 共同通信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181206-00000098-kyodonews-pol
ー水道「民営化」法が衆院で成立ー

  公共施設などの運営権を民間企業に委託する「コンセッション方式」の導入を、自治体の水道事業でも促進する改正水道法が6日、衆院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。人口減少で苦境に立つ水道事業の基盤強化が目的だが、サービス低下や災害時の対応に不安を残したまま、民営化のハードルが引き下げられた。施行は原則、公布から1年以内。宮城県など6自治体が導入を検討しており、水道事業が転換期を迎える可能性がある。

 政府は国会審議で「海外のような失敗を防ぐため公の関与を強めた」と説明。野党は「事実上の民営化。生命に直結する水道をビジネスにするべきではない」と批判した。

◆2018年12月6日 時事通信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181206-00000064-jij-pol
ー改正水道法成立=運営権の民間委託促進ー

 水道事業の経営基盤を強化する改正水道法が6日午後の衆院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立した。
 人口減少による収益減や施設の老朽化などで経営が悪化する水道事業について、自治体が運営権を民間企業に委託する「コンセッション方式」の導入促進が柱。立憲民主党など野党は、民間企業の参入により水道サービスの低下を招く恐れがあるとして反対していたが、与党側が押し切った。

 同方式は、民間のノウハウを生かしてコスト削減につなげるのが狙い。同方式を導入しやすくする規定を盛り込み、自治体は国から水道事業を行う認可を受けたまま、民間に運営権を売却できるようにする。上水道事業で国内には導入実績はないが、宮城県や浜松市が検討している。 

ー改正水道法、民間参入に懸念も=監視体制が不可欠と専門家ー
 水道事業の経営基盤を強化する改正水道法が6日成立した。人口減少や施設の老朽化で、経営環境が厳しさを増す中、改正法は民間運営に道を開く。民間の経営ノウハウの活用が期待される一方で、短期的な利益追求を招き、料金高騰や水質悪化につながりかねないとの懸念もくすぶる。専門家は事業者への監視体制が不可欠だと指摘する。

 改正法には、コスト削減など経営安定化に向け、自治体が水道施設を保有したまま事業の運営権を民間に委ねる「コンセッション方式」の導入促進が盛り込まれた。導入を検討している宮城県の村井嘉浩知事は「これから水道料金は間違いなく上がっていく。それを1割抑えられる可能性がある」と主張する。
 一方、先行して民営化したパリやベルリンでは、料金高騰や水質悪化に見舞われ、再び公営に戻す動きが見られる。国会審議で野党側は、日本でも同様にサービス低下につながる可能性があると懸念を表明。水道事業に詳しい近畿大の浦上拓也教授は「海外の失敗例ではモニタリングが不十分だった。事業者を監視する体制をしっかり整えることが重要だ」と強調する。

◆2018年12月6日 毎日新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181206-00000132-mai-soci
ー改正水道法 民営化を模索の大阪市は「コンセッション方式」導入を検討ー

 老朽化、少子化、財政難が重なりコスト負担が年々増えている水道事業の運営改善を目指すとする水道法の改正が6日、実現した。事業認可を自治体に残したまま民営化する「コンセッション方式」が促進される内容で、大阪市は導入に向けて検討を始める。

 市では水道事業の大阪広域水道企業団との統合や民営化を議論。だが市議会は2013年に統合議案を否決、民営化議案も慎重論が根強く17年に廃案に。

 将来的な「府域一水道」を唱え民営化を模索してきた吉村洋文市長は5日夜、改正案の参院通過を受けてツイッターで「何もしなければ水道料金はどうなるか?」と問題提起。「耐震化、老朽化(施設)の更新、需要低下、役所の非効率、将来の市民が確実に負担を背負う。そこが問題の核心だ」と発信した。市水道局はコンセッション方式について「老朽管更新のスピードアップやコスト削減が期待できる」とする。

 主要水道管に占める40年超の老朽管の割合が29.3%(17年3月末)と全国で最も高い大阪府。松井一郎知事は「サービス拡充につなげてもらいたい」と期待感を示した。【岡村崇】

◆2018年12月7日 河北新報 宮城のニュース
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201812/20181207_11021.html
ー<改正水道法成立>村井知事「安堵」 21年度中に開始へー

  水道3事業の運営を民間企業に一括委託する検討を進める宮城県の村井嘉浩知事は6日、導入時期に関して「2021年度中に開始したい」と表明した。19年度に詳細な事業内容案を固め、案に対する意見公募や導入に必要な県条例改正などの手続きを行う考え。
 村井知事は改正水道法の成立に「安堵(あんど)している。宮城で日本のモデルの一つを作りたい」と述べた。「水道事業の民営化」との批判があることに対しては「官民連携だ。県が事業主体であり続け、(災害時対応など)県が責任の全てを負う」と強調した。
 県は広域上水道、工業用水、流域下水道の運営権を一括して民間企業に委ねる「みやぎ型管理運営方式」の検討を16年度から進めてきた。当初は20年度の導入を目指したが法改正が見込みより遅れ、事業開始年度もずれ込んだ。

◆2018年12月7日 神戸新聞
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201812/0011885034.shtml
ー水道事業の民営化、神戸市は「採用しない」 久元市長が表明ー

  自治体が水道事業の運営を民間企業に委託するコンセッション方式を促す改正水道法が成立したことを受け、神戸市の久元喜造市長は7日、同方式を採用しない方針を示した。市会本会議で新社会党の粟原富夫議員の一般質問に答えた。

 改正水道法は、老朽化が進む水道事業の経営基盤強化を目指す一方、サービスの低下や災害時の対応の問題などが懸念されている。同方式の導入は自治体の判断に委ねられ、一部の自治体が導入を検討している。

 神戸市の対応を問われた久元市長は「現時点で採用するつもりはない」とした上で「早くから水道事業に取り組んできた神戸市では、優秀な職員が事業を支え、経験やノウハウが継承されてきた。必要な部分は民間委託をするが、基本的には現時点の方式を維持することが大切ではないか」

◆2018年12月6日 NHK
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/310706.html
ー「水道法改正 岐路にたつ水道事業」時論公論ー  飯野 奈津子 解説委員

 蛇口をひねれば、いつでもどこでも安心して水を使える。そうした日本の水道事業が岐路にたっています。人口減少などによる料金収入の低下で水道事業の経営が厳しくなっていて、老朽化が進む水道管などの施設の改修が思うように進んでいないのです。そうした状況を打開しようと、水道事業の経営基盤を強化することを目指した改正水道法が、きょう、国会で可決、成立しました。

<解説のポイント>
●危機に直面している水道事業と、改正水道法で打ち出された経営基盤の強化策
●その中でも議論が集中した「コンセッション方式」とよばれる、事業の運営を民間にゆだねる新たな仕組みの光と影
●最後に私たちの生活の欠かせない水の安定供給を維持するために何が必要か、考えます。

<水道事業の現状> 
 水道事業は原則として市町村が経営していて、利用者が払う水道料金で水を供給するための費用をまかなっています。ところが、人口減少や節水意識の高まりで水の使用量が減り続け、それに伴い料金収入が減っています。一方水道管などの設備の老朽化が進み、そのための更新費用がかさんでいます。このため各地で水道料金の引き上げが相次いでいますが、それでも3分の1の水道事業者は、赤字の状態に陥っているのです。その結果、老朽化した設備の更新が思うように進まず、各地で漏水や破損事故が相次いでいます。

<経営基盤の強化策>
 こうした状況を打開しようと、改正水道法で打ち出されたのが、水道事業者の経営基盤を強化するための対策です。その柱は大きく2つあります。
▼ひとつは広域連携の推進。自治体の枠を超えて水道事業を広域的に経営することで、効率化を進めようということです。その推進役として、都道府県の役割を規定しています。
▼もうひとつが、官民連携の推進。今も、浄水場の運営や検針業務などを民間委託していますが、それをさらに進めて、コンセッション方式という、水道事業の運営そのものを民間企業に委ねる新たな仕組みを、選択肢の一つとして導入しています。

<コンセッション方式とは>
 このうち国会でもっとも議論になったのが、このコンセッション方式です。
 この方式でも、自治体が国から認可を受けて水道事業者として経営の責任を負い、水道施設の所有権を持っています。これまでと違うのは、20年を超えるような長期にわたる事業の運営権を民間企業に譲ってその対価を自治体が受け取る。いわば運営権を売却するということです。運営権を買い取った企業は、水道料金を設定して利用者から徴収し、そのお金で施設の維持管理や修繕なども含めて、水を供給します。これまでより、民間企業の裁量が大きく広がるので、独自の経営や技術のノウハウを生かして効率化が進むとされています。

 このような水道事業の民営化は海外では以前から行われていますが、最近では日本とは逆に民間から再び公営化に戻す動きが出ています。企業が利益を優先するあまり、料金の高騰や水質の悪化などのトラブルが相次いだからです。そこで今回、日本でこの方式を導入するに当たっては、民間企業への監視機能を強めたとしています。

 具体的には、国が事業計画の確実性や合理性などを審査した上で許可する仕組みにしているほか、自治体が条例で水道料金の上限をきめ、民間企業の業務や経理の状況をモニタリングします。国も必要に応じて、立ち入り検査などを行って、場合によっては運営権の取り消しなどを求めるとしています。

<コンセッション方式の賛否>
 さて、どうでしょう。
 コンセッション方式をめぐっては、コスト削減につながるとして宮城県や浜松市などが導入を検討している一方で、新潟県議会などが反対の意見書を可決するなど、導入に慎重な自治体が少なくありません。

 この方式が導入されたといっても、採用するかどうかは、それぞれの自治体の判断です。民間に運営をゆだねても災害時に対応できるのか、経営が破たんした時どうするのか、業務や経営の状況を監視できる体制を整えられるのか。これまでの業務委託でも工夫すれば民間のノウハウを生かすことができるかもしれません。この方式のメリットデメリットを考え、どうすれば、地域の水を守れるのか、利用者である住民と一緒に議論することが必要ですし、国も導入を決めた以上、しっかり監視していく責任があると思います。

<水の安定供給を維持するために>
 その上で、水の安定供給を維持するために何が必要か、3つの解説のポイントです。
 水道事業者の3分の1は、経営が赤字の状態ですが、その多くは地方の小さな自治体です。そうした不採算地域への民間参入は期待できないので、コンセッション方式は解決策になりません。

 赤字の事業者の割合を、給水人口別にみると、人口25万人以上の事業者では12%なのに対して、1万人未満の事業者は49%。小規模なほど赤字事業者が多くなっています。しかも、小規模なほど水道料金は高い傾向があります。10立方メートルあたりの料金は、人口25万人以上の事業者で平均1149円なのに対して、1万人未満では1849円。700円の差があります。小規模事業者は料金を高くしても水道を供給する費用を賄えずにいるのです。今の水道の問題は、過疎化、高齢化が進む地方の問題につながる面があります。

<広域連携のポイント>
 こうした小規模事業者の経営基盤を強化ために、重要な選択肢となってくるのが、近隣の自治体と連携して経営を広域化する「広域連携」だと思います。現状では地域のよる料金格差などもあって思うように進んでいませんが。ひとつ参考になるのが、4年前に3つの市と町の水道事業を統合した、岩手中部水道事業団の統合までのプロセスです。

 この事業団がカバーするのは岩手県の北上市、花巻市、紫波町の3市町。統合の決め手になったのは30年先までの水道料金のシミュレーションです。統合した場合、設備を統廃合できるので、自治体単独の場合より一時的に料金があがっても、長期にわたって料金をあげなくても済むという結果です。これを議会や住民に丁寧に説明して納得してもらったということです。総合までに10年以上かかりましたが、統合後は稼働率の低かった浄水場など11の施設を減らして、コスト削減につなげています。ポイントは現在と将来の経営状況を見える化すること、岩手のこの地域は、以前からつながりが強かったという面もありますが、それぞれの自治体が、自分たちの地域の現状と将来を分析し、その中で周辺の自治体と、水質のデータ管理や検針業務を共同化するなど、できるところから始めることが必要ではないでしょうか。もちろん広域化が難しいケースもあると思います。そうした地域には、国や都道府県の支援が不可欠です。

 そして、普段何気なく水を使っている私たちも、蛇口の向こう側。水が届くまでの水道事業の現状に関心をもつことが必要だと感じます。中には、住民が勉強会や施設見学などを通じて、水道事業の現状を知り、自分たちの地域の水を守っていくための方策を考え始めた地域もあります。水を守る事は、私たちの命、生活を守る事です。安心な水をいつまでも使い続けるために、何ができるのか。国や行政だけでなく、私たちも一緒に考えていかなければならないのだと思います。

 

◆2018年12月7日 日本経済新聞 社説
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO3865525007122018EA1000/
ー官民連携と広域化で水道の基盤を強くー

 水道の基盤強化のための改正水道法が成立した。低廉で良質な水道サービスは人々の生活を支える基本インフラだが、人口減で需要が縮む一方で、高度成長期につくった設備の更新投資が今後膨らむなど先行きに不安があった。

 改正水道法は事業の広域化と官民連携の強化を2本柱に、今後も安心して使える水道の維持をめざす狙いだ。法改正を受けて、市町村や県による水道改革に弾みがつくことを期待したい。

 水道サービスの担い手は市町村が中心で、全国に1400近い事業体がある。そのため個々の事業規模は小さく、投資余力に乏しい。職員の高齢化も進んでいる。

 それを乗り越える一つの道筋が広域化による規模拡大だ。従来の市町村任せを改め、県が音頭を取って、広域連携を推進することを法律に盛り込んだ。

 法改正に先立って今年春から1県1水道体制に移った香川県は、県内の71の浄水場を38に統合する。それで浮いたコストを耐震投資などに振り向け、災害への対応能力を高める計画だ。規模拡大によって、水質管理など専門職員の確保も容易になるだろう。

 もう一つの柱が民間企業の力を水道事業に取り入れる官民連携の強化だ。改正水道法では自治体が水道施設の運営権を企業に委ねる、いわゆる「コンセッション」制度の仕組みを規定した。

 「民」の知恵を生かすことで、漏水検知にセンサーを取り入れるなど、行政にはマネのできない新機軸の導入が期待できる。公営事業につきものの単年度主義から解放され、水道管の更新など長期計画も立てやすくなる。

 浜松市の試算では公営のままでは今後25年間で水道料金が46%上がってしまうが、民間に委託すれば種々のコストが削減され、39%の値上げですむという。

 もちろん行政の役割もゼロにならない。水質が適正に維持されているか、委託した企業が突然破綻して、水の供給に支障をきたすことはないか、などを監視する機能は残さないといけない。

 水道を民間に委ねることに、不安を持つ市民がいることは理解できる。諸外国の先行事例から学ぶことも重要だ。他方で浄水場など個々の設備の運営を企業にまかせ、成功を収めた自治体もかなりの数に上っている。こうした事情を丁寧に説明し、住民の理解を得ながら水道改革を前に進めたい。