長野原町、ダム湖畔に水没文化財保存センター整備

 今朝の上毛新聞は一面で、八ッ場ダムが完成する予定の2020年春に、ダム湖のほとりとなる場所に水没文化財保存センターを整備することを報じました。
 八ッ場ダムの水没予定地は全域が遺跡であり、縄文時代から江戸・天明期の浅間山大噴火の時期までにわたる歴史遺産が発掘調査されてきました。(参照:「水没する歴史遺産」

 水没予定地は歴史遺産の宝庫であることから、八ッ場ダム本体工事がまだ始まっていなかった2013年には、考古学者の勅使河原彰さん、作家の森まゆみさんらが500名近くの科学者や文化人らと共に、国や群馬県に水没予定地を遺跡の野外博物館として残し、地域の再生に生かしてほしいと要望し、文科省記者クラブで会見を行いましたが、この訴えを取り上げる報道はわずかでした。
(写真右=天明泥流下の屋敷や畑の跡が大量に出土した川原畑地区の東宮遺跡。2008年8月19日撮影。)

参照:
「文化関係者らアピール、八ッ場ダム予定地の遺跡保存もとめる科学者の会に呼応」(2013年2月28日)
「八ツ場ダムに沈む遺跡を守れと訴える作家の森まゆみさん」(2013年3月20日)

 水没文化財保存センターでは、水没予定地全域を襲った江戸・天明3年の「泥流を再現したCGを鑑賞できるシアターを設ける」ということですが、イヌワシやクマタカが舞う空の下、山に囲まれ、川や沢が流れる豊かな自然に育まれた歴史遺産の記憶は、CGや記録保存で再現できるものではありません。
 八ッ場ダム事業による発掘調査は、60遺跡、100万㎡以上となっており、出土した遺構遺物は膨大です。しかし、ダム事業に差し障るからか、通常の発掘調査で話される一般への公開説明会なども行われていません。せめて貴重な遺物の保管、出土した文化財の価値の普及にセンターが活用されることを願います。
 
 水没文化財保存センターの予定地は、道の駅八ッ場ふるさと館の上流側の国道沿いです。近くでは水辺公園も整備されることになっていますが、林地区の勝沼という字名のこの周辺は、地すべり地の多い八ッ場ダム湖予定地の中でも、最も大きな地すべり地の一つです。1989年には、吾妻川沿いを走っていたJR吾妻線を止めるほどの、400メートル四方という大規模な地すべりが発生し、群馬県は巨大な集水井を7本も掘る地すべり対策を実施しました。
(右写真=林地区・勝沼の集水井。背後に過去の地すべりでできた滑落崖が見える。2011年4月9日撮影。)

 道の駅は当初は勝沼に予定され、水没文化財保存センターと隣接することになっていましたが、地盤に問題があることから、勝沼の下流側の現在地につくられることになったと聞きます。上毛新聞の記事では、水没文化財保護センターの整備の遅れが「(民主党政権の)ダム中止宣言などの紆余曲折があり具体化しなかった」と書かれていますが、自公政権が復帰してからすでに6年も経過しており、民主党政権のせいにするのは無理があります。

 ダムが完成すると、水を抜いて地盤を安定させている場所まで水位が上がるため、ダム湛水前に地すべり対策が実施されることになっていますが、地すべり対策によって長期間の安全が確保できるか不明です。
(右写真=林地区勝沼を望む。右手の高台に長野原第一小学校が、左手に住宅地がある。住宅地の右手が水没文化財保護センターと水辺公園の予定地。2018年11月27日撮影。)

 上毛新聞のサイトにも紙面記事の前半が掲載されています。紙面では、水没文化財保存センターについての記事の下に、「ダム本体の打設 4~6月に完了」とのタイトルの記事が添えられています。
 八ッ場ダムの本体工事は2015年1月に開始されました。同年9月の国交省八ッ場ダム工事事務所の説明では、2018年度中に本体工事を終えるとのことでしたが、翌2016年に公表された工程表では、本体工事は2019年度前期までかかり、試験湛水は2019年10月からとなっていました。
 国交省は本体工事は順調に進んでいるという説明を繰り返していますが、この間、基礎岩盤の掘削によってダム建設地の地盤が予想外であったことが判明するなど、当初の予定にはなかった対策工事が必要になっています。
(写真右=八ッ場ダム堤体コンクリート打設高9割。2018年11月23日、吾妻渓谷・小蓬莱より撮影。)

 上毛新聞が伝える説明でも、コンクリート打設はすでに11月の段階で9割に達しているとしながら、打設完了を来年4~6月としています。「県が説明」と書かれていますが、国交省の説明をそのまま県が伝えているものです。
 八ッ場ダムのような規模のダムでは、試験湛水に少なくとも一年をかけるのが通例です。雨の少ない季節に半年間で試験湛水を完了するのは困難ですから、国交省は本当は春に試験湛水を開始したいはずです。

以下に紙面記事を転載します。(上毛新聞のサイトには、紙面記事の前半が掲載されています。)

◆2018年12月12日 上毛新聞 
 https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/politics/98587
ー江戸期の八ツ場を体感 20年春に水没文化財センター 長野原町ー

  群馬県の八ツ場ダムの建設事業に伴う発掘調査の出土品などを展示する「町営水没文化財保存センター(仮称)」を、長野原町が2020年春に林地区に開設することが11日、分かった。江戸時代の天明泥流の被災遺跡で出土した生活道具を展示するほか、泥流を再現したCGを鑑賞する常設シアターを設ける。近くに整備されるダム湖に臨む公園とともに、八ツ場ダムの周遊観光の拠点になりそうだ。

 道の駅「八ツ場ふるさと館」から西に約600メートル離れた、約4500平方メートルの国有地を取得して建設する。建物は鉄筋コンクリート造り3階建てで、延べ床面積は約1700平方メートル。入り口がある3階が展示スペースで、1、2階は文化財の保存庫として活用する。総事業費は約19億円。本年度に着工し、八ツ場ダムの完成時期に合わせて整備する。

 天明泥流で埋没した東宮、西宮、石川原などの遺跡で県埋蔵文化財調査事業団が発掘した、げたやあんどん、うちわ、香炉、きせるといった生活用品を展示する。泥流が集落を飲み込む様子を体感できるCGシアターのほか、被災後の復興の様子を示す絵図や供養碑の分布図を配置する。

 縄文、平安時代の出土品を展示するコーナーや、ものづくり体験ができる体験学習室、関連グッズを取り扱うミュージアムショップも設ける。卒業生の要望で代替地に復元した旧第一小校舎の一部を敷地内に移築し、民具や農具を展示する。

 発掘調査の出土品を収蔵・展示するセンターは20年以上前から構想されていたが、ダム中止宣言などの紆余曲折があり具体化しなかった。県と町が昨年度にワーキンググループをつくり、本格的な検討を始めた。

 町の担当者は「江戸時代の中山間地域の暮らしぶりが分かる展示になる。子どもたちが学習でき、観光客も楽しめる施設にしたい」と話している。

ダム本体の打設 4~6月に完了 県が見通し
 長野原町の八ッ場ダムについて、県は11日までに、11月末時点でダム本体のコンクリート打設高が完成高(116メートル)の約9割に達し、来年4~6月にダム本体のコンクリート打設が完了する見通しだと明らかにした。

 打設完了後、ダムにいったん水をためる試験湛水を行う。基礎地盤などの安全性の確認を経て、予定通り来年度中にダムは完成するという。

 《天明泥流》 1783(天明3)年8月の浅間山の噴火で、大量の土石が吾妻川に流れ込んで泥流が発生。流域の集落に甚大な被害をもたらした。泥流は吾妻川から利根川を下って、被害は現在の東京都や千葉県に及んだ。死者は県内外で約1500人に上った。

—転載終わり—

写真=湖面橋「丸岩大橋」のたもとの発掘調査。2018年12月9日撮影。
   ➡群馬県埋蔵文化財調査事業団「横壁中村遺跡 平成30年11月調査」