国交省関東地方整備局、2020年東京五輪に備え渇水対策

 八ッ場ダム推進の大きなきっかけになったといわれるのが最初の東京オリンピック(1964年)の際の”オリンピック渇水”です。”東京砂漠”という言葉も生まれた当時の渇水の再来を防ぐためとして、国と首都圏1都6県などが、2020年東京五輪・パラリンピック期間中も水を安定供給するための対策に乗り出したということです。

◆国土交通省関東地方整備局ホームページより、記者発表資料
 「東京2020オリンピック・パラリンピックに向けた水の安定供給のための行動計画素案を策定へ」 平成31年3月22日
 http://www.ktr.mlit.go.jp/kisha/river_00000433.html

 以下の上毛新聞の記事には、「(国交省関東地方整備局は)本年度内(来年3月末まで)に完成予定の八ッ場ダムにより、7~10月の洪水期に、新たに2500万立方メートルの利水容量が確保できるとも試算する」とあります。
 八ッ場ダムは全国のダム事業の中でも突出して事業費が高額ですので、ダムの利水容量も大きいと錯覚しがちです。しかし、利根川水系には国と(独)水資源機構が管理する多目的ダムがすでに十一基もあり、夏期(7~10月)の利水容量が合計4億5000万立方メートルもあります。したがって、八ッ場ダムが予定通り東京五輪開催前に完成したとしても、利根川水系の全利水容量は5.6%増えるだけです。(参照:「八ッ場ダム」(岩波書店、120~132ページ)
 東京都水道は、利根川水系の他に多摩川水系の水も利用しており、多摩川水系には東京都水道局が管理する小河内ダムがあります。小河内ダムの有効貯水容量は1億8500万立方メートルもあります。
 記事には、「首都圏の水がめである利根川、荒川水系では取水制限を伴う渇水が頻繁に発生している。」とも書かれていますが、首都圏、特に東京都は多くの水源を確保しており、水あまりの状況にあります。夏場に取水制限が行われ、渇水の報道がされることがありますが、都民の生活に支障をきたすような給水制限はもう何十年も行われていません。

 NIKKEI STYLEの記事では、「会場のある東京都や埼玉、千葉両県の水源になっている利根川上流のダムの水を、できるだけ使わないための手も打つ。利根川から分かれる江戸川の水量確保に、霞ケ浦などの水を北千葉導水路を通じて供給。矢木沢ダムなどの貯水量を極力減らさないようにする」という対策を紹介しています。水質のよくない霞ケ浦の水を利根川に入れれば、利根川下流は水質悪化が避けられません。霞ケ浦から利根川に水を送る利根川連絡水路は1995年頃にできましたが、霞ケ浦から導水すると、利根川で漁業被害を起きる危険性があるので、ほとんど使われていません。

◆2019年4月26日 上毛新聞
ー東京五輪へ渇水対策ー

 国交省が計画素案 
 2020年夏に開催される東京五輪・パラリンピックに向け、国土交通省関東地方整備局は、水資源を効果的に活用し、渇水時でも水を安定供給するための行動計画の素案をまとめた。海外からの来訪者の増加などにより、都市部の水需要が高まると想定。県内のダムでは平常時より多く貯水したり発電用の貯水を回したりして、平年と比べ最大で約2割多い水量の確保を目指す。首都圏の「水がめ」となる本県での渇水対策を軸に、真夏の五輪開催へ万全の体制を整える。

 「水がめ」2割アップを 訪日、都市需要見込む
 素案によると、渇水に対応するため、平常時は洪水に備えて空き容量を確保するダムに、支障をきたさない範囲で水をためる。関東地方の七つのダムで実施予定で、県内では利根川水系の薗原、下久保、草木の3ダムが対象。

 この他にも、矢木沢ダムでは断水など深刻な被害が生じる恐れがある場合、本来は発電専用にためられている水を水道水などに活用できるよう東京電力に要請。薗原ダムでは施設維持のための工事を五輪前に予定していたが、工事の前後で水位を下げる必要が生じるため、五輪後にずらして水量を確保する。

 これに加え、同局は本年度内に完成予定の八ッ場ダムにより、7~10月の洪水期に、新たに2500万立方メートルの利水容量が確保できるとも試算する。
 同局によると、東京五輪が開催された1964年の夏、都内では渇水によって最大給水制限率が50%となり、昼間の断水を含む厳しい制限が実施された。東京都は当時、主に多摩川に水源を依存していたが、その後、利根川、荒川の2水系が加わった。現在の首都圏のダムの容量は当時の5.8倍に当たる16億4300万立方メートルまで増加している。

 一方で近年の異常気象などを背景に、首都圏の水がめである利根川、荒川水系では取水制限を伴う渇水が頻繁に発生している。また五輪期間中は、海外からの来訪者の増加で生活用水の需要増が見込まれるほか、農業用水の需要が高まる時期でもあることから、国や関東の7都県など関係者で組織する五輪の渇水対策協議会が昨年組織され、効果的な水の活用方法について議論を進めている。

 行動計画は素案を基にダムなどで試行した後、今秋に正式に策定する。同協議会は「世界中が注目するイベントに向け、水の安定供給に万全を期して、行動計画をまとめたい」としている。

◆2019年4月22日 NIKKEI STYLE
 http://urx.space/X0IS
ー五輪で「東京砂漠」防げ 今夏から水確保対策始まるー

国と首都圏1都6県などが、2020年東京五輪・パラリンピック期間中も水を安定供給するための対策に乗り出した。1964年の東京五輪では開催直前の夏が渇水となり、最大50%の給水制限を実施。近年も猛暑や少雨で取水制限が発生していることから、今夏からダムの水を温存するなどの取り組みを始める。国内外から多数の人が集まる大会が成功するよう、水の面から支える。

対策は関東地方整備局や水資源機構など関係機関で構成する東京2020オリンピック・パラリンピック渇水対策協議会で進める。行動計画は大会までに準備・実施するフェーズ1から、大会中に水不足が懸念されたり、実際に発生したりした場合のフェーズ2~5を設定。利根川・荒川、多摩川、相模川の各水系で水源を確保し、各都県が水供給を止めないための活動を展開する。

水確保の大きな柱は、ダムの水の温存だ。ダムは通常、7月からの洪水期に備え、河川が氾濫しないよう雨水をため込む「洪水調節容量」を設けるため、水位を下げる。それを首都圏7カ所のダムは、洪水にならない範囲で例年より水を多くためたままにする。水位を下げる必要があるダムの維持修繕工事も、実施を大会終了後に延期する。

会場のある東京都や埼玉、千葉両県の水源になっている利根川上流のダムの水を、できるだけ使わないための手も打つ。利根川から分かれる江戸川の水量確保に、霞ケ浦などの水を北千葉導水路を通じて供給。矢木沢ダムなどの貯水量を極力減らさないようにする。

それでも断水などの恐れが出た場合には、発電用に矢木沢ダムの水を使っている東京電力ホールディングスに、飲料用などに回してもらうよう要請する方針だ。

同整備局の室永武司広域水管理官は「世界が注目するイベントで取水・給水制限は出したくない。考えられることは事前に手を打つ」と話す。水源確保策によりダムの水を約2割温存する想定。

念頭にあるのは前回の東京五輪だ。当時、東京は水源を多摩川に依存。人口急増や経済発展で水道使用量が増加し、しばしば渇水の危機に見舞われた。五輪直前の1964年夏は昼間も断水し「東京砂漠」といわれた。

国などはこれまでも、利根川や荒川、多摩川を結んで水を融通できる仕組みを作り、上流のダムと中・下流の貯水池を整備してネットワーク化するなど、首都圏の水確保に取り組んできた。さらに19年度中に完成予定の八ツ場ダムが加われば、首都圏のダムの容量は64年の5.8倍に膨らむ。

最近は猛暑や少雨の一方、集中豪雨のような降り方が増え、安定的な水の確保が難しくなっている。16年に利根川水系で、17年には荒川水系で取水制限が実施されるなど、不安定な状況だ。「64年当時に比べ対策は進んだが、異常な少雨でも影響を減らせるよう準備する」(室永氏)。選手や観客が気兼ねなく水を使えるよう、あらゆる手を打つ。(山岡亮)

■東京オリンピック渇水
1964年の東京は記録的な水不足で、7月10日から五輪直前の10月1日まで給水制限を実施。制限率は最大50%まで強化された。昼間も断水する厳しさで、自衛隊や警視庁なども応急給水に協力し、バケツを持った人が列をつくった。

家庭ではパン主体の食事となり、入浴や洗濯も制限。水を多く使う理髪店やクリーニング店などにも影響が出た。
[日本経済新聞朝刊2019年4月6日付]