八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

江戸川区の水害ハザードマップ

 江戸川区が作成した水害ハザードマップが「ここにいてはダメ」という過激な言葉で話題を呼んでいると報道されています。
 2015年に水防法が改正され、想定し得る最大規模の洪水(1000年に一度の洪水)による水害ハザードマップが作られるようになりました。東京のゼロメートル地帯のような低地の場合は、1000年に一度のレベルの水害ハザードマップでは、どこでもひどく浸水することになります。江戸川区の”過激な”呼びかけはそれを表現したものです。

 実際の江戸川区のハザードマップは、江戸川区の公式サイトに掲載されています。
 https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e007/bosaianzen/bosai/kojo/kanrenmap/n_hazardmap.html

 話題を呼んでいる図は、こちらのページに掲載されています。「広域避難情報」が出たら、「区外の安全な場所に逃げて下さい」とあります。
 https://www.city.edogawa.tokyo.jp/documents/519/ooban-j2.pdf

 
 しかし、大水害の時に、他県や東京西部への移動など、実際にできるのでしょうか。
 NHKのニュースは「広域避難」について、次のように伝えています。

 「一方、大きな課題も残っています。江戸川区が区の外に「広域避難」をする避難先を確保できていないことです。このため区民それぞれが区の外にある親戚や知人の家、宿泊施設、それに勤め先を避難先として確保するよう求めています。」

 ハザードマップの作成は、行政が「警告した」というアリバイづくりーいわば行政の責任回避のためのものになってしまっているように思います。

 江戸川区では、地区ごとにハザードマップの内容や見方に関する説明会を開催しています。
 https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e004/kuseijoho/kohokocho/kohoedogawa/2019/0520/0520_8.html#02

 一方で江戸川区は、水害対策と称して、水害の際にはまるで役に立たないスーパー堤防事業を国土交通省と共に推進しています。
 そのために、事業用地の住民は、地上げ屋のような行政に土地を追われ、生活を守るために裁判を起こしています。 関連記事➡http://ur0.work/SPVi

 スーパー堤防を推進した江戸川区の土屋信行土木部長は、八ッ場ダムの推進をたびたび公の場で訴えてきたことでもよく知られています。
 八ッ場ダムの水没予定地にまだ住民が暮らしていた2015年、国交省は事業用地の強制収用を可能とする事業認定の公聴会を群馬県で開催しましたが、この公聴会で八ッ場ダムの早期完成を求めたのも土屋氏でした。
 土屋氏がこの公聴会で映写したスライドは、八ッ場ダムが利根川下流の洪水被害を防ぐのにいかに大きな役割を果たすかを説明する内容でしたが、スライドの説明には根拠がないことから、その後、群馬県のホームページから削除されました。
「群馬県公式サイトが削除した八ッ場ダムの治水効果についての説明」

 江戸川区はスーパー堤防や八ッ場ダムといった有害無益な巨大事業を推進するのではなく、区民の命と生活を本当に守ることができる治水対策に取り組むべきです。

◆2019年6月5日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190605/k10011941501000.html
ー“ここにいてはダメ” 江戸川区ハザードマップに大きな反響ー

「ここにいてはダメです」
表紙にこう書いて避難を呼びかける東京 江戸川区の水害のハザードマップが「あまりにも潔すぎる」とインターネットで大きな反響を呼んでいます。

江戸川区は11年ぶりに水害のハザードマップを改訂し、先月、区内の全世帯に配布したほか、インターネットで公開しました。

マップは洪水や高潮によって荒川と江戸川が氾濫すると、区内のほぼ全域が浸水するという最悪の想定が示され、被害の発生前に、区の外に避難をするよう区民に求めています。

この表紙の地図には、江戸川区の場所に「ここにいてはダメです」と太字で書かれていて、この率直な表現が「あまりにも潔すぎる」としてインターネットのSNSで大きな反響を呼んでいます。

ツイッターへの書き込みでは「江戸川区民ですがこれはひどい」、「まさか自分が住んでる区から『どっか行け』って言われるとは思わなくて笑っちゃった」、「お母さんもドン引きしていた」などと、戸惑いの声が多く見られました。

一方、「正直でよろしい」、「江戸川区職員さんの勇気と責任感に尊敬」、「ここまではっきり書かれていれば、誰もが躊躇(ちゅうちょ)なく避難できるのでは」など、被害の大きさを率直に伝える内容を評価する声も多くありました。

なぜ、「ここにいてはダメです」といった自治体としては異例の表現をつかったのか。

江戸川区防災危機管理課の本多吉成統括課長は「ハザードマップを見てもらい、いざというときにどういう行動をとるかを今から考えてほしい」と話しています。

ハザードマップの内容は
反響を呼んでいる江戸川区のハザードマップ。表紙には、江戸川区の地図の場所に「ここにいてはダメです」と記されたうえで、東側の千葉や茨城方面、西側の埼玉、東京西部、神奈川方面と、浸水のおそれがない地域に避難するよう矢印が書かれています。

マップには、大型台風が接近して想定される最大規模の豪雨や高潮が発生し、荒川と江戸川が氾濫した際の浸水の想定が示されています。

想定では江戸川区のほぼ全域が浸水し、建物の3階から4階に当たる5メートル以上の浸水が発生する地域もあるとされたほか、区内の広い範囲で1週間から2週間以上の浸水が続くとされています。

また小中学校などの避難所やマンションの3階以上に避難しても救助が難しく、電気や水道などが使えない生活に長期間、耐えなければいけないとしています。

このため区内にとどまるのは危険だとして、浸水のおそれがない区の外の地域へ「広域避難」をするよう区民に求めています。

過去にも大規模な水害が
江戸川区は荒川と江戸川の下流、それに東京湾に囲まれているうえ、区内の7割の土地が海水面より低い「海抜ゼロメートル地帯」となっていて、ひとたび川が氾濫すると、大きな被害が出やすい地域です。

昭和22年のカスリーン台風では大雨によって利根川からあふれた水が江戸川区まで達し、半月以上、浸水が続いたほか、昭和24年のキティ台風でも高潮によって広い範囲が浸水するなど過去にはたびたび大規模な水害が発生しています。

その後、堤防や上流のダムの整備などが進められていますが、地球温暖化が進み台風の大規模化が懸念される中、過去の規模を上回る水害が発生するおそれがあります。

“ここにいてはダメ”なぜ
なぜ「ここにいてはダメです」といった行政としては異例の表現を使ったのか。

江戸川区防災危機管理課の本多吉成統括課長は「江戸川区で大規模な水害が起きると大部分が浸水し、しかも浸水時間が長くなる。ここにいては危険で、そうなる前に安全な場所に逃げてほしいという思いで、このことばを使った」と話しています。

マップの公開が大きな反響を呼んでいることについては「ハザードマップに関心を持ってもらえるのはありがたい。表紙だけでなく中身をしっかり見て水害のことをよく知ってもらい避難行動に結び付けてほしい」と話していました。

課題が残る「広域避難」
一方、大きな課題も残っています。

江戸川区が区の外に「広域避難」をする避難先を確保できていないことです。

このため区民それぞれが区の外にある親戚や知人の家、宿泊施設、それに勤め先を避難先として確保するよう求めています。

これについて区は「いつ大規模な水害が発生するか分からない中で、まずは広域避難の重要性を知ってもらうため、避難先を確保する前にハザードマップを発表した」と説明しています。

そのうえで、今後、国や東京都とも連携して、避難先の確保に努めたいとしています。

説明会で区民から不安の声
4日夜、東京 江戸川区ではハザードマップの説明会が初めて開かれ、参加した多くの区民から不安の声が上がっていました。

60代の男性は「『ここにいてはダメ』ということばはインパクトはあるんですけど、区の外に避難できる場所を実際に見つけるのは難しいと思います。『ダメ』というだけではなくて、行政にもう少しなんとかしてもらいたい」と話していました。

男性の妻も「ハザードマップを見て危機感は持つけど、区には、その先どうするということも考えて、対策をしてもらいたい」と話していました。

60代の女性は「娘が住んでいる区内のマンションの4階に逃げようと思っていましたが、それではダメだということで、不安になりました。福島に親戚がいるので、避難できるか考えたいです」と話していました。

ハザードマップの浸水想定 一致の災害も
江戸川区の浸水想定がオーバーな表現ではないかと考える人もいるかも知れません。

しかし、過去の水害ではハザードマップの想定とほぼ同じ被害が発生したケースが多くあります。

その一つが、去年7月の西日本豪雨です。

岡山県倉敷市真備町では川の堤防の決壊が相次ぎ、町の3割近くが浸水して51人が亡くなるなど大きな被害が出ました。

豪雨の前に市が発表していたハザードマップと国が浸水範囲を推定した地図を比べると、浸水が想定されていた範囲は実際に浸水した範囲とほぼ一致していました。

専門家「避難場所確保 行政だけでは限界も」
ハザードマップ作りに関わった東京大学大学院の片田敏孝特任教授は、避難場所の確保について、行政だけの対応には限界があるとしたうえで、事前の準備が大切だと指摘しています。

片田特任教授は「自分が住んでいる地域で“ここにいてはダメ”と言われるのは住民の皆さんの経験からこれまでなかったと思う。しかし災害が激甚化する中、地域が危険だという情報をストレートに理解してもらい、少しでも早い避難行動を促すために必要な表現だと思う」と述べました。

江戸川区が避難場所を確保できていないことについては「江戸川区だけで70万人、江東5区で250万人の避難が必要な中で、避難先まで行政が準備してから情報を伝えるのでは手遅れになる可能性がある。

各自の努力でみずから身を寄せる場所を確保する努力もしてもらわないといけないのが実態だと思う」と話しています。

広域避難 事前の準備を
広域避難が必要な際には台風の上陸が予想される48時間前から避難の呼びかけが始まると想定されるため、その時の行動を事前に家族で話し合うなど準備しておくことが大切だと指摘しています。

片田特任教授は「最も大事なことは想定のような事態を迎えたときに命を失わないことだ。早い段階での避難を心がけ、そのための行き先を準備しておくことで、いざというときに円滑な避難ができるようにしてほしい」と話していました。