台風19号による水害 堤防決壊と耐越水堤防

 10月20日のNHKのニュースによれば、台風19号の豪雨による堤防決壊は71河川130か所に上ったとのことです。
 
 以下は千曲川の破堤地点の地図です。(出典:国土交通省北陸地方整備局)
 千曲川の穂保で破堤して洪水が流入し、千曲川と並行して流れている支川・浅川の周辺が氾濫域になりました。

 千曲川の堤防決壊に関連して、嶋津暉之さん(当会運営委員)が作成した資料を紹介します。

 以下のグラフは浅川などの支川が合流した後の立ケ花の観測水位の推移です。立ケ花の上流で浅川や鳥居川が合流します。立ケ花の最高水位は12.44m(時間単位の最高水位であって10分単位の最高水位はこれより大きい)で、計画高水位を超え、計画堤防高を約20cm超えました。立ケ花は狭窄部ですので、その直上流で水位が高くなり、穂保地点で越水し、破堤に至ったと考えられます。

 もう一つは浅川合流点から約14㎞上流にある浅川ダムのデータです(下表)。決壊した10月13日3~5時の前は流入量と放流量がほぼ同じで、何の役割も果たしていません。ただし、浅川ダムの集水面積は15.2㎢で、微々たるものです。千曲川の立ケ花地点の流域面積6442㎢の約1/400です。

 

 浅川ダムは治水専用の穴あきダム(流水型ダム)ですが、今回の水害で治水効果がないことが改めて浮き彫りになりました。浅川ダムは建設地の地盤が悪く、ダム建設には不向きとされながら、長野オリンピックの道路建設をダム事業で行うために強行されたといわれます。浅川ダムの建設を止めようとした元長野県知事の田中康夫氏、浅川ダムと千曲川の治水の問題を10年以上前に指摘していたジャーナリストのまさのあつこさんらが改めてこの問題を指摘しています。不要なダム事業に投じていた税金が千曲川の河川整備に使われていたならと思わずにいられません。

 河川行政の見直しを訴える市民運動は、堤防決壊を防ぐ対策として、耐越水堤防の導入・普及を求めてきました。下図参照=耐越水堤防工法の図。パンフレット「ダム依存は危ない」より

 耐越水堤防の工法は、旧建設省土木研究所が1975年から1984年にかけて研究開発し、9河川で1980年代の後半から実施しました。
 旧建設省は耐越水堤防の普及を図るため、2000年3月に「河川堤防設計指針(第3稿)」を発行し、関係機関に通知しました。ところが、国土交通省は2002年7月にこの「河川堤防設計指針(第3稿)」を廃止し、耐越水堤防の普及を中止しました。
 耐越水堤防がお蔵入りとなったことについて、国交省OBの宮本博司さん(元国交省河川局防災課長)ら、河川行政の改革を訴えてきた人々は、2001年12月から始まった熊本県の川辺川ダム住民討論集会で、耐越水堤防を整備すればダムが不要になるという指摘があり、国交省が耐越水堤防はダム推進の妨げになると判断したことが原因だと指摘しています。
 お金も時間もかかるダムやスーパー堤防にくらべ、耐越水堤防は1㍍あたり50~100万円と、比較的安価でつくれますので、短期間で全国の河川の安全度を大きく高めることができますが、政治家やゼネコンにとっては予算規模の大きな事業のような旨味がないのでしょう。

 しかし、今回の破堤は、未曽有の豪雨で千曲川の水位が上昇し、穂保地点で越水したことによって引き起こされました。このように破堤の危険性のある箇所をピックアップし、耐越水堤防工法を導入することが急務です。
 台風19号の大雨で各地の河川で堤防の越水から決壊が発生したという事実は、改めて耐越水堤防の普及の必要性を示唆していると思われます。

***** 

 関連記事を転載します。

◆2019年10月20日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/special/disaster/typhoon19/
ー台風19号 豪雨災害 堤防決壊は71河川130か所ー

 国土交通省によりますと、台風19号による豪雨で川の堤防が壊れる「決壊」が発生したのは、19日午前11時の時点で、7つの県の合わせて71河川、130か所にのぼっています。
 国が管理する河川で堤防の決壊が確認されたのは、7つの河川の12か所です。県が管理する河川で堤防の決壊が確認されたのは、67の河川の118か所です。
 このうち新たに堤防の決壊が確認されたのは、内川の、いずれも宮城県丸森町の羽入前と大目でそれぞれ1か所です。
 このほか、川の水が堤防を越える「越水」などで氾濫が発生した河川も、16都県の、延べ266河川にのぼっています。

◆2019年10月20日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO51197660Z11C19A0CC1000/
ー決壊メカニズムに違い 「100年に1度」超す雨直撃 国交省、千曲川・阿武隈川など調査へー

 台風19号は東日本の広い地域で「100年に1度」を超える大雨をもたらし、河川の氾濫や大規模な浸水被害が相次いだ。現地調査などによって、決壊は場所によって異なるメカニズムで起きたことが分かってきた。地球温暖化のため今後、同等以上の大雨は増えると予想されており、防災のあり方を見直す必要もでてきそうだ。

 国土交通省は15日、大規模な浸水被害が起きた千曲川の堤防決壊現場に専門家らを派遣して調査した。参加した信州大学の吉谷純一教授は「川の一部の水が堤防を乗り越える『越水』が発生した可能性がある」と分析する。乗り越えた水が堤防の上部や外側の土を削り、堤防の強度を低下させて決壊を招くケースだ。

 堤防の決壊メカニズムには他に、川の水によって堤防が川側から削られる「浸食」や、堤防から水が染みだして外側で土砂が崩れる「浸透」などがある。

 阿武隈川沿いで浸水が起きた宮城県丸森町では、14日に東北大学災害科学国際研究所の専門家らが調査した。同研究所の森口周二准教授は「堤防上部に川の石や砂が見られず、浸食や浸透で決壊した可能性がある」と指摘する。

 国交省は千曲川や阿武隈川など6つの河川について、堤防決壊の原因を調査する委員会を設置した。今後の復旧作業を決めるため詳細な調査をする。まだ計画の詳細を詰めており、しばらく時間がかかる見通しだ。

 個別の詳細な調査はこれからだが、大きな要因は想定を超す大雨が降ったことだ。大きな河川の堤防は一般に、過去の記録をもとに100年に1度の大雨が流域内で降っても耐えるように計画されている。

 防災科学技術研究所の分析では、千曲川上流や阿武隈川上流の広い地域で、12日の24時間降水量が100年に1度よりもまれな規模だった。気象庁によると、台風の接近から通過までの半日の間に、全国の120地点で観測史上最高の雨量を記録した。

 防衛大学校の小林文明教授は「台風は上陸前から日本に大量の湿った空気をもたらしていた。それが山地にぶつかり、強い雨が降り続けた。さらに台風本体による雨が続いた」と分析する。

 この先、温暖化が進めば降水量が増える可能性は高い。小林教授は「治水対策は一般に20~30年前の災害状況をもとに作られているが、当時と現在で状況は異なる。この規模の台風を当たり前と捉え対策をする必要がある」と話す。

◆2019年10月17日 信濃毎日新聞
https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191017/KT191016ATI090016000.php
ー対策実らず新幹線浸水 車両センター過去にも氾濫の地 機構「必要な設計をした」ー

 台風19号の大雨による千曲川の堤防決壊を受け、北陸新幹線(長野経由)の車両が浸水した長野市赤沼の「長野新幹線車両センター」を巡り、センターを建設した鉄道・運輸機構(横浜市)は16日の信濃毎日新聞の取材に「建設当時は必要な設計をした」との考えを示した。一帯は歴史的に氾濫を経験してきた。センターを借り受けて、運営しているJR東日本は「復旧が最優先で、再発防止を考える段階にない」としている。

 JR東日本によると、千曲川の西側約1キロに位置するセンターは、北陸新幹線車両の修繕や検査、翌日の運行に備えた留置に利用。1997年の同新幹線長野―東京間の開業に合わせて、同機構前身の日本鉄道建設公団(鉄建公団)が車両基地として設置した。

 長沼地区の新幹線対策委員会が93年、県と長野市、鉄建公団と確認書を締結。遊水地的な機能を果たしていた農地に車両基地を建設することを受け入れる一方、県に千曲川支流の浅川上流に現在の浅川ダムを早期完成させるよう求めた経過がある。

 地元区長の男性(67)によると、一帯はもともと水田が広がり、「長沼や赤沼といった地名が表すように、水害をたびたび被ってきた」。近くで浅川と千曲川が交わり、ずっと氾濫を警戒してきたという。

 機構は、そうした土地への建設に当たり、82年に県が作成した浸水被害実績図を参考に盛り土をしたと説明。同年以前の水害で最深の浸水よりも90センチ高くなるようにしたという。再発防止策について、機構は「国や沿線自治体の負担金がなければ難しい」としている。

 長野市が「100年に1度」の大雨(計画規模降雨、千曲川流域全体で2日間で186ミリ)を想定して作った防災マップでは、センターは5メートル以上の浸水が見込まれる区域に含まれる。国土交通省北陸地方整備局の速報値では、千曲川の立ケ花地点から上流域の2日間雨量は計画規模降雨とほぼ同じ186・6ミリ。国土地理院の推定では浸水はセンター近くで深さ4・3メートルとなり、事前想定に近かった。

 今回の水害では、センターにあった全10編成(1編成12両)の車両下部が水に漬かり、2編成が脱線。北陸新幹線は、これらを含む30編成で運用し、平常時は24編成を営業運転に投入していた。

 JR東日本広報部は「検査や予備車の確保もある」として24編成のみでは運行に支障が出ると説明。車両をセンター外に「避難」させなかった理由については「その対応を含めて今後、振り返りたいが、まずは復旧を最優先に考えたい」としている。

◆2019年10月16日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/photo/AS20191016000145.html
ー(時時刻刻)堤防決壊、同時多発 越水で浸食か/地元は補強要望 台風19号ー

  台風19号は、東日本の広い範囲で堤防決壊が同時多発的に起こる「未曽有の事態」をもたらした。激しい水流は家屋を破壊し、人々の日常を奪った。堤防の限界と防災をめぐる課題も浮き彫りにした。

 約9・5平方キロに及ぶ大きな浸水被害をもたらした長野市穂保の千曲川の堤防決壊現場。15日、原因究明のために国土交通省が立ち上げた堤防調査委員会のメンバーが現地調査に訪れた。委員長の大塚悟・長岡技術科学大教授(地盤工学)は調査後、「非常に流れが強かったことがわかった。越水で堤防が削られた可能性もある」と話した。

 決壊したのは千曲川左岸の約70メートルの区間。堤防が残っている隣接部も、数十メートルにわたって堤防の外側が深くえぐられ、茶色い土がむき出しになっていた。

 一般的に、堤防から水があふれると、流れ落ちた勢いで堤防の外側が浸食される。内側から水がしみこんで堤防が弱くなっているところに、外側からも崩れ、決壊に至る。千曲川では今回、水が堤防を越えて流れ出る様子が国交省のカメラに記録されていた。

 決壊地点の下流約5キロでは川幅が急に狭くなり、上流約8キロでは犀川が合流する。一帯は古くから洪水の「常襲地帯」とされ、記録に残る最大規模の寛保2年(1742年)の洪水でも同じエリアが浸水した。川幅などが決壊に影響したかについては、委員会で調べ、対策を検討するという。

 宮城県大郷町を流れる1級河川・吉田川では、地元の人が以前から危険性を指摘していた所が決壊した。

 13日午前7時50分、同町粕川地区で吉田川左岸の堤防が決壊し、約100メートルにわたって消失。あふれだした泥水は計139世帯が住む地区を襲い、取り残された住民35人がヘリで救出された。行方不明者や死者は出なかった。決壊した堤防はその前後より50センチ~1メートルほど低く、幅も狭かった。用地などの事情があったとみられる。代わりに堤防上に高さ70センチほどのコンクリート胸壁が設けられていた。現地調査した風間聡・東北大教授は「堤防が細いので弱い。そこが越水で削られ、決壊した」とみる。

 大郷町では1986年8月の豪雨でも吉田川の堤防が決壊するなど、過去も被害が出ている。町は国交省に繰り返し治水強化を要望し、この場所も「危険箇所」とみていた。同省は最近になって堤防に土嚢(どのう)を積む対策をとっていた。

 家の中に泥水が入り込んだ会社員高橋郁雄さん(60)は「政府は決壊を防ぐ対策をなぜ打てなかったのか。水害の多い土地に暮らしているから仕方ないが、くやしい」と話した。(小林舞子、赤田康和、石橋英昭)

 ■完成済み堤防7割
 堤防はダムとともに河川の氾濫(はんらん)を防ぐための治水の要だ。

 国内には3万5千以上の河川がある。国土交通省はこうした河川のうち、約1万3400キロの区間で堤防整備計画を立てているが、完成済みなのは約9100キロと予定の約7割にとどまっている。

 2018年7月の西日本豪雨や、同年9月の台風21号の記録的な大雨などを受け、政府は同年12月、約7兆円規模の「国土強靱(きょうじん)化のための3か年緊急対策」を閣議決定。防災や減災に向けたインフラ整備を強化し、今年度当初予算でも治水関係の事業費として約1兆1500億円を計上した。

 国交省などは全国の堤防の危険箇所の緊急点検を実施。決壊が起きた時に大きな被害が生じる恐れがある約120河川の堤防について、20年度にかけて、堤防のかさ上げや河川と反対側にあるのり面の補強、水はけをよくするための工事を行っている。ただ、国が管理する約70河川のうち19年度中に工事が完了する見通しなのは、15河川にとどまっている。

 赤羽一嘉国交相は15日の閣議後の記者会見で、台風19号の大雨によって、国管理の7河川12カ所が決壊したことについて「未曽有の事態」と語った。国交省は大規模な決壊のあった河川について、有識者らでつくる堤防調査委員会で原因を究明し、復旧方法を検討する。ただ、決壊箇所が多く、特に都道府県管理の河川では、浸水や交通規制もあって現場での調査が思うように進んでいない場所もあるという。(渡辺洋介)

 ■「ハード対策」頼み、限界
 浸水が想定される場所には全国で3千万人以上が住んでいる。前田健一・名古屋工大教授(地盤工学)は「堤防は単にかさ上げすればいいわけではなく、決壊を防ぐことが被害を大きくしないポイント。影響の大きいところは重点的に対策を取っていく必要がある」という。堤防の裾を広げて削られにくくするなどの強化策が考えられるが、土地も必要になる。「そこに住んでいる人もいる。移転を含め、社会全体で考えていく必要がある」と言う。

 豪雨が頻発するなか、堤防などの「ハード対策」に頼る防災には限界があり、事前の避難など「ソフト対策」も重要になる。国の中央防災会議の作業部会は昨年12月、住民自らの判断で避難行動を取る重要性を指摘する報告書をまとめた。作業部会の主査を務めた田中淳・東京大総合防災情報研究センター長は「直前に風の被害が目立った台風15号があり、河川の氾濫で避難が必要になるイメージが十分に共有されていなかったのではないか。昔に比べて治水対策が進んだ分、今回のような台風が来ると、経験がないまま大きな洪水に見舞われる。ハザードマップを改めて確認し、行動につなげてほしい」と話す。(佐々木英輔)

◆2019年10月17日 時事通信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191017-00000014-jij-pol
ー堤防・ダム、能力に限界=政府、決壊箇所分析へ-避難対策で補完もー

  台風19号により、広い範囲で大雨による河川の氾濫や堤防の決壊が相次ぎ、各地で浸水被害が広がった。

 政府はこれまで巨額の費用を投じて堤防やダムを建設し、水害に備えてきた。しかし、近年は大規模な水害が頻繁に起こり、堤防やダムの能力にも限界が見え始めている。政府は「今や全国どこでも水害の危険はある」(国土交通省幹部)として、堤防やダムの機能を高めつつ、住民に確実な避難を促す対策にもさらに注力する方針だ。

 国の治水関係事業費は1990年代後半に当初予算ベースで1兆3000億円規模に達し、堤防やダムの建設工事は最盛期を迎えた。現在も「国土強靱(きょうじん)化」の旗の下、8000億円台を確保している。

 それでも近年は水害が頻発。15年に関東・東北豪雨、17年は九州北部豪雨が起きた。昨年の西日本豪雨では死者・行方不明者数が約250人に上り平成最悪の豪雨災害に。政府はこれを教訓に、20年度までの3カ年対策として、被害が想定される全国120カ所の河川での堤防強化などを目指したが、そのさなかに今回の災害が発生した。

 台風19号により、16日午後1時の時点で全国59の河川で90カ所の堤防の決壊が確認された。ダムについても、貯水が容量近くまで達した際に放流する「緊急放流」が6カ所で行われ、塩原ダム(栃木県)下流では浸水被害が発生した。放流は規則に沿ったもので、国交省は「広範囲で大雨が降ったことで支流の河川からの流量も多く、ダムがあっても下流に浸水被害が生じた」とみており、水害を防ぐのが難しかったようだ。

 今後の対策として、国交省はまずハード面での点検を進める見通し。各地方整備局は専門家による調査委員会を立ち上げ、堤防が決壊した国管理の河川の復旧と原因究明を始めた。本省の幹部は「各河川で共通した構造上の問題などが明らかになれば、政策としての見直しを行う可能性もある」と話す。

 しかし、人口減少が進み、公共事業に配分できる予算額に制約がある中、堤防とダムの機能強化を進めるのも限界がある。そこで、国交省は防災アプリの情報を基に遠くに住む高齢の家族に避難を促すよう呼び掛けるキャンペーンを始めるなど、ソフト対策にも力を入れている。別の幹部は「ハード面では想定外の災害も十分予想される。そのときに備え、住民の『避難する、逃げる』意識を啓発するのもわれわれの仕事だ」と強調する。 

◆2019年10月20日 ブロゴス
https://blogos.com/article/411830/
ー田中康夫氏、脱ダム批判受け反論ー

◆2019年10月17日 ツイートまとめ
https://togetter.com/li/1418051
ー【千曲川氾濫は治水の失敗】水没した新幹線基地は遊水地帯「浅川ダムが出来ても千曲川と浅川が合流する一帯の洪水は防げません」(2001年3月長野県議会答弁)ー

◆2018年9月10日 毎日新聞
https://yamba-net.org/wp/43441/
ー毎日新聞・記者の目「西日本豪雨と国の破堤防止対策”耐越水堤防”封じる茶番」ー