11月27日付の東京新聞が堤防強化に関して一面トップと社会面で大きく取り上げました。
建設省は堤防を強化する「耐越水堤防」の工法を20年以上前に確立し、一旦は普及を目指しましたが、川辺川ダムの反対運動に利用されることを恐れて、お蔵入りしてしまったということです。
10月に襲来した台風19号では、各地で堤防が決壊し、大きな水害となりました。11月21日に国会議員会館内で開かれた「国会公共事業調査会(仮称)準備会」では、国土交通省の担当の課長補佐が、「現在、国交省は、五カ年計画の堤防強化に着手し、天端、のり尻の二点の補強を進めているが、それが終われば、次に堤防の裏のり(住宅地側ののり面)の強化を進めたい」と語り、これを聞いた人々は、国交省はお蔵入りしていた耐越水堤防を導入するのかもしれないと、思ったということです。ダムの反対運動では、ダム建設よりはるかに安価で、容易に治水効果を上げることができる耐越水堤防の採用をこれまで訴えてきました。
東京新聞の社会面の記事では、「(耐越水堤防は)越水に一~二時間は耐えられる」という談話が紹介されていますが、これは控えめの評価です。実際には耐越水堤防はもっと長い時間耐えられるとされています。
◆2019年11月27日 東京新聞一面
https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019112790070701.html
ー台風19号 強化予定堤防、10カ所決壊 危険は認識も整備遅れー
記録的豪雨となった台風19号による堤防の決壊箇所のうち、少なくとも五県の九河川十カ所は、水害のリスクが高いとして強化対策工事の対象になっていたことが国土交通省などへの取材で分かった。このうちの四カ所を含む十九カ所では、河川の整備計画で定めた堤防の高さなどが不足していたことも判明。行政が危険性を認識しながらも、整備に手が回っていない実情が浮き彫りになった。 (小倉貞俊、安藤淳)
台風19号では、同省と宮城、福島、茨城、栃木、埼玉、新潟、長野の七県が管理する計七十一河川の百四十カ所の堤防が決壊。本紙が同省と各県に聞き取りしたところ、福島、埼玉県内を除き、十カ所の堤防について高さを上げたり、補強したりする対策工事を予定していた。
千曲川の氾濫で大規模な浸水被害が出た長野市穂保の堤防では、川の水があふれる「越水」が長時間続いて堤防の外側が削られ、決壊したとみられている。管理する同省はこの堤防と、茨城県常陸大宮市内の那珂川などの二堤防も、水があふれても決壊までの時間を引き延ばすための越水対策工事を予定していた。宮城、栃木、新潟県管理の堤防でも、護岸の強化や流量を増やすための掘削工事を計画していた。
一方、堤防の規模が河川の整備計画に達していなかったケースでは、同省管理の埼玉、茨城県内の堤防のほか、栃木、埼玉県管理の堤防で高さや河道の流量が足りていなかった。
このうち、整備計画より高さが約六十センチ不足していた埼玉県東松山市早俣の都幾川堤防(同省管理)では、地元住民が決壊の恐れを懸念し、複数回にわたって管理者の国交省に改修工事を要望していた。住民からは「工事は途中で止まっていた。決壊場所を改修していたら決壊は防げたのでは」との声が上がった。
最大の被害となる二十三河川四十九カ所が決壊した福島県は、工事予定箇所について「復旧業務が多忙で調べられない」として未回答。河川の整備計画に満たない箇所はなかったという。
同省の担当者は「河川は原則、下流から上流に向かって整備していく。各堤防とも同時並行で進めているが、予算の関係もあってなかなか進まないのが実情」と説明。ある県の担当者は「国管理の下流部分が整備されなければ、県の管理部分の工事が着手できない」と困惑する。
◆気候変動踏まえ対応を
<河川行政に詳しい池内幸司・東大教授の話> 治水予算はピークだった一九九七年度と比べ、当初予算ベースでは近年は六割程度でほぼ横ばい。予算には限りはあるが気候変動に合わせた河川整備を早急に進めるべきだ。
◆2019年11月27日 東京新聞社会面
https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201911/CK2019112702000131.html
ー「越水に強い堤防を」 住宅側のり面保護で壊れにくくー
台風19号による河川の堤防の決壊は、川の水があふれる「越水」で住宅地側が削られたことが原因となったケースが少なくない。一方、複数の旧建設省(現国土交通省)OBは、国が過去に中止していた、越水に耐え得る安価な堤防強化策の再導入を訴えている。 (小倉貞俊)
「川の水があふれただけだったら、ここまでひどくならなかった」。茨城県常陸大宮市野口の那珂川流域。浸水した自宅の清掃をしていた会社役員皆川雅明さん(64)が声を落とす。
十月十三日未明、堤防が長さ二百メートルにわたり決壊。五十軒近くの民家や畑、ビニールハウスが水に漬かった。堤防から四百メートル離れた皆川さん宅も床上一メートルまで浸水。テレビや洗濯機、冷蔵庫などは廃棄処分に。「水だけならすぐに引いたはず。決壊で大量に押し寄せた水が泥と一緒になり、積もってしまった」と嘆いた。
国や各県はそれぞれが管理する堤防の決壊原因を調査しているが、この堤防や、大規模な氾濫が起きた千曲川(長野市穂保)の堤防など、越水が原因とみられるケースは少なくない。
こうした被害に「耐越水堤防の整備が急務だ」と指摘するのは、旧建設省土木研究所河川研究室長を務めた末次(すえつぎ)忠司・山梨大大学院教授だ。浸食を防ぐため、堤防の裏のり(住宅地側ののり面)をシートで保護し、天端(てんば)(堤防の上面)とのり尻(住宅地側ののり面の下部)を補強する工法。「一メートルで百万円以下と安価で済むし、越水に一~二時間は耐えられる」と評価し、ダム建設などより低コストとする。
実は旧建設省は二〇〇〇年、「フロンティア堤防」の名称で、こうした耐越水堤防を全国で整備する方針を決めたが、二年後に突然、中止した。「ダム建設の妨げになる」との同省幹部の意向もあったとされる。
現在、国交省は、越水で鬼怒川の堤防が決壊した一五年の関東・東北水害を教訓に、五カ年計画の堤防強化に着手。堤防のかさ上げができない箇所は、天端、のり尻の二点の補強を進めている。同省によると、那珂川水系の堤防整備率は38%と、全国平均(68%)を大きく下回り、常陸大宮市野口の堤防は、河川整備計画より高さが二・三メートル不足。越水の可能性は認知されており、今後の工事対象になっていた。
ただ末次氏は「二点だけでは逆に斜面がもろくなり不十分。裏のりの保護が必要だ」と強調。「台風が大型化しているからこそ、越水を前提に対策しなければ。時間も稼ぎ避難を確実にする効果がある」と話す。
旧建設省土木研究所次長だった石崎勝義・元長崎大教授も、昨夏の西日本豪雨で天端とのり尻の二点を補強した小田川(岡山県)の堤防が決壊した事例を挙げ、「バケツに三つ開いた穴の二つしかふさがないようなもの」と批判。「官僚の文化として一度中止した政策を復活させづらいのだろうが、ダムやスーパー堤防を後回しにし、事業費をまず耐越水化に充てるべきだ」と警鐘を鳴らしている。