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千曲川堤防 越水対策強化 有識者委 復旧方針を了承

 12月4日、国土交通省北陸地方整備局は台風19号により堤防が決壊して甚大な水害となった千曲川の堤防調査委員会(第三回)を開催しました。
 新聞報道によれば、堤防の復旧工事では、決壊までの時間を稼ぐ工法として、「水が流れ落ちると侵食されやすい住宅側ののり面上部と下部をブロックなどで補強」(12/5朝日新聞)することが決定したとあります。治水効果が高いとされながら、お蔵入りにされてきた「耐越水堤防工法」がいよいよ導入されるのかと思ったのですが、12月4日の委員会の資料を見ると違うようです。

 以下の二つの図は、川の位置が逆ですが、見比べてみて下さい。
 復旧工事の対策案は、再度の決壊の危険を大きくはらむと、専門家は指摘しています。越流水は 法肩を越えたところで 土でできている法面を侵食し、法肩の保護工はほとんど役に立たないというのです。各紙の報道では、この問題は取り上げられていません。
 
下図=千曲川の復旧工事で採用される堤防強化工法。川に面している右側は法面の全面が法覆護岸を施工することになっているが、川の裏側(住宅側)は、法肩と法尻のみの工事。洪水で堤防を越流すると、川の裏側が洗堀され、堤防決壊となる危険性がある。 千曲川堤防調査委員会(第三回)資料19ページより

下図=川の裏側(右側)を全面保護する「耐越水堤防工法」 パンフレット「ダム依存は危ない」より

 旧建設省土木研究所は「耐越水堤防工法」を1975年から1984年にかけて研究開発し、実際にこの工法を使って全国9河川で堤防強化を行いました。その後、「耐越水堤防工法」の普及を図るため、「河川堤防設計指針(第3稿)」を発行し、関係機関に通知しました。
 しかし、建設省を引き継いだ国交省は、2002年7月にこの指針を廃止。耐越水堤防工法は国が認めない工法となりました。
 この時の突然の方針転換について、組織内部の状況を知る建設省、国交省のOBは、2001年12月に始まった熊本県の川辺川ダム住民討論集会が原因だと証言しています。熊本県が主催したこの集会では、公開でダムの必要性が議論され、耐越水堤防を整備すれば川辺川ダムが不要になるとの指摘がありました。国交省は耐越水堤防の存在はダム推進の妨げになると判断し、治水効果の高い工法をお蔵入りにしたということです。

 関連記事を転載します。

◆2019年12月4日 信濃毎日新聞
https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191204/KT191204ASI000005000.php
ー千曲川堤防 越水対策強化 有識者委 復旧方針を了承ー

 台風19号豪雨災害による長野市穂保の千曲川堤防の決壊について調査する国の有識者委員会は4日午前、長野市で第3回会合を開き、川の水が堤防上を越える「越水」が起きても決壊しにくいように堤防を強化して本格復旧する方針を了承した。住宅地側の堤防肩部分やのり面下部付近をブロックで保護、補強する。増水時に高い水位が長時間続く千曲川の特性を考慮して河川側のり面も護岸化する。

 国土交通省北陸地方整備局(新潟市)が提示した本格復旧の工法を了承した。11月13日の前回委員会で、長さ約70メートルにわたり決壊に至った主要因を越水で堤防の住宅地側が削られ、水圧に耐えきれなくなったと結論付けており、本格復旧では越水対策を重視。「越水による決壊までの時間を引き伸ばすための対策」として住宅地側のり面を強化する。河川側は安定性も考慮して、のり面をコンクリートで覆う護岸工事をする。

 堤防上はアスファルトで舗装し、水の浸透を防ぐ。堤防の本格復旧に合わせて、堤防に土を盛った「桜づつみ」も復旧するとした。

 堤防の大きさは、被災前の高さ約5メートル、下部幅(太さ)約38メートル、上部幅約14メートルと同規模程度とする。

 決壊地点の対策基本方針には、越水の抑制策として「河道掘削による流下能力向上などの水位低下を基本とする」と示した。

 現場は、10月末に決壊地点を取り囲む「締切堤防」が完成。今後、決壊部分を埋めた仮堤防を撤去し、堤防を新たに本格復旧させる。同整備局は「長野市の決壊地点の詳細な構造はさらに現地調査を行った上で設計し、精査する必要がある」とした上で「なるべく早い時期に復旧したい」とした。

 会合は大塚悟委員長(長岡技術科学大教授)ら委員6人が出席。大塚委員長は終了後の取材に「これまでの堤防設計は越水の発生を考慮しておらず、越流してもなるべく堤体が持つ対策が提案された。流域全体の総合的な治水対策と合わせて(国は)検討してほしい」と述べた。

 委員会は4日、上田市諏訪形で約300メートルにわたり欠損した千曲川堤防の本格復旧方法についても議論。前回会合では、堤防付近に砂などで作られた「砂州」が増水で削られ、水流が直接当たるようになった堤防が浸食されたことが要因と結論付けた。この対策として、本格復旧では護岸が壊れないよう基礎部分をブロックで補強するほか、水流の勢いを減らすための障害を一定間隔で設けるとした。
 

◆2019年12月4日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52947650U9A201C1L31000/
ー長野の千曲川堤防調査委、決壊した穂保の堤防、補強して復旧へー

 千曲川堤防調査委員会は4日、台風19号の影響で長野市穂保地区で決壊した千曲川の堤防の本復旧では、水が堤防を越えてもすぐには決壊しないよう補強する工法を採用する案を了承した。堤防を越えた水が、堤防本体を削って決壊することを防ぐため、コンクリートブロックを並べるなどの対応を検討する。

想定を超える雨が降れば、水が堤防を越えることは避けられない。仮に越水しても堤防が決壊するまでの時間をできるだけ延ばす工夫を取り入れて、被害の拡大を防ぐ。

国土交通省は、氾濫リスクが高いものの堤防整備ができていない場所では、堤防の構造を工夫して決壊までの時間を引き延ばす「危機管理型ハード対策」を進めている。穂保地区の堤防の本復旧工事でも、堤防を越えた水が落ちる場所にブロックを敷き詰めるなどの対応を検討する。

千曲川堤防調査委員会は台風19号の被害を受け、国土交通省北陸地方整備局が設置した。穂保地区のほか、上田市内で欠損した堤防の本復旧工法などを検討してきた。

◆2019年12月5日 中日新聞
https://www.chunichi.co.jp/article/nagano/20191205/CK2019120502000032.html
ー千曲川、越水時の決壊防止に対策 堤防のり面を補強ー

 台風19号の豪雨災害で決壊した千曲川の堤防の復旧を検討する国土交通省の調査委員会の第三回会合が四日、長野市内で開かれた。川の水が堤防上を越える越水時に決壊しにくくなるように、のり面をブロックやコンクリートなどで補強する工法で本格復旧を進めることが承認された。

 堤防は同市穂保で約七十メートルにわたって決壊。決壊現場に仮堤防を設け、十月末に応急的に復旧させた。委員会は、越水により住宅地側ののり面が削られ、水圧に耐えきれなくなったのが決壊の原因として、国交省が示した住宅地側ののり面をブロックなどで保護する工法を了承した。高さ約五メートル、頂上部の幅約十四メートルで、決壊前と同規模になる。

 河川側ののり面もコンクリートなどで覆って補強する。堤防頂上部はアスファルトで舗装し、雨水の浸透を防ぐ。基礎地盤の土は良質土に置き換え、決壊前にあった堤防上の「桜づつみ」も盛り土をして復旧させる。着工時期は未定としている。

 一方、上田電鉄(上田市)別所線で崩落した橋梁(きょうりょう)の近くで損壊した堤防の本格復旧についても、基礎地盤をブロックで補強し、地盤への影響を防ぐ工法案が了承された。大塚悟委員長(長岡技術科学大教授)は会合後の取材で「越水を見越した対策を示せたが、絶対に決壊しないと言えない。流域全体の治水対策の検討も必要だ」と述べた。(渡辺陽太郎)

◆2019年12月5日 朝日新聞長野版
https://digital.asahi.com/articles/ASMD44GDSMD4UOOB00B.html?iref=pc_ss_date
ー決壊までの時間稼ぐ工法を了承 千曲川堤防調査委ー

 台風19号の豪雨によって決壊するなどした千曲川の堤防を調査する国の有識者委員会は4日、決壊に至るまでの時間を稼ぐ工法で堤防を本復旧させる方針を了承した。国土交通省は今後、土質などの調査を進め、早期に復旧させたいとしている。

 現在、長野市穂保では、約70メートルにわたる決壊部分を土でふさぎ、そこを取り囲むように鋼板を打ち込んで強化した約320メートルの仮堤防が設置されている。

 河川工学や地盤工学などが専門の大学教授らでつくる調査委は11月、川の水が堤防を越えて住宅側ののり面の土が削られたことが決壊の原因と結論づけていた。このため、調査委はこれまで考慮されなかった越水への対策を強化する工法などを議論した。

 国交省北陸地方整備局によると、決まった工法は「堤防決壊に至る時間を延ばす」(委員長の大塚悟・長岡技術科学大大学院教授)ことが主眼だ。

 規模はそのままに、決壊部分を造り直す。その際、水が流れ落ちると侵食されやすい住宅側ののり面上部と下部をブロックなどで補強。千曲川は増水時に水位が高い状態が続くことから、川側ののり面をコンクリートなどで覆う。

 堤防上部の道路は、従来通りアスファルトで舗装する。あわせて住宅側の桜堤も復旧させる方針だ。

 委員会では「決壊地点の上下流の川の状況を見ることも大事。十分な水位低下が図られる対策を」などの意見が出た。国交省は基本的な対策として河道掘削で川を流れやすくし、水位を低下させると説明。会合終了後、大塚委員長は「堤防だけでなく上下流を含めたハードやソフト面の治水対策も必要だ」と話した。

 川の流れで堤防が欠損した上田市諏訪形の千曲川左岸については、基礎部分が削られないようにブロックで固めるなどの対策を施すことが認められた。(北沢祐生)