昨年7月の西日本豪雨では、岡山県の小田川の氾濫で、直接死だけで51名の犠牲者が出るという大水害となりました。被災した倉敷市真備町地区の住民がこのほど、国などを相手に損害賠償を求める訴えを起こし、来年3月に提訴に踏み切ると報道されています。
昨年7月の西日本豪雨で51名もの犠牲者が出た真備町の水害は、高梁川支流の小田川の大氾濫によるものでした。水位が高まった高梁川が支流の小田川の流れをせき止める「バックウォーター現象」によって小田川の水位が上昇し、小田川で決壊・溢水が起きたのです。
小田川と高梁川との合流点を高梁川の下流側に付け替える事業が今年6月からようやく始まりした。この付け替えが早く行われていれば、合流点の水位が4.2mも下がるので、昨年の豪雨で、小田川が氾濫しなかった可能性が高いと考えられます。
小田川氾濫の原因として最も重要なのは、高梁川の支川「小田川」の下流部への付け替えが1970年ごろに計画されたにもかかわらず、国土交通省が付け替え事業を実施してこなかったことです。小田川下流部では付け替え計画を前提として、計画堤防高が現況堤防高よりかなり低いという異常な状態が放置されてきました。
計画堤防高とは、達成すべき堤防の高さです。一般には、計画堤防高を達成できるように堤防高を嵩上げする築堤工事が行われていくものですが、小田川では計画堤防高を低くしてしまったため、築堤工事がきちんと行われないことになり、堤防高不足の状態がずっと続いてきました。小田川の付け替えを計画しながら、ずっと実施してこなかった国土交通省の責任は重大です。
「昨年7月の西日本豪雨の小田川氾濫の真因と責任」(2019年8月14日)
〈参考ページ〉「昨年7月の西日本豪雨の小田川氾濫の真因と責任」(2019年8月14日)
◆2019年12月22日 山陽新聞
https://www.sanyonews.jp/article/969797
ー真備の住民ら 国や岡山県を提訴へ 治水対策など争点に損賠請求ー
昨年7月の西日本豪雨で小田川と支流が決壊し、甚大な浸水被害を受けたのは河川やダムの管理が不十分だったためとして、被災した倉敷市真備町地区の住民が国などを相手に損害賠償を求める訴えを岡山地裁に起こすことが21日、分かった。小田川の治水対策や新成羽川ダム(高梁市)の事前放流の在り方などを争点とする方針で、来年3月にも提訴に踏み切る。
岡山県内の弁護士約20人でつくる「真備水害訴訟弁護団」が準備を進めており、年内をめどに原告団を立ち上げる。現時点で約30世帯が参加を表明。他に相当数の世帯が検討しており、弁護団が最終的な意向確認を行い、賠償請求額を確定させる。
弁護団によると、国が治水対策として今年11月に本格着工した小田川の付け替え工事について、約50年前にも付け替えが計画されていたが、実現しなかった経緯から「国は工事の必要性を認識しながら先延ばししてきた」と訴える予定。新成羽川ダムに関しては、豪雨の際に河川法を踏まえて事前放流を指示しなかったとして国を追及し、ダムを管理する中国電力(広島市)の運用責任も問う構えだ。
さらに、河川の流下能力低下を招いているとして地元住民が再三要望していた小田川中州の樹林伐採、堤防の切れ目を板などでふさいで流水を防ぐ設備「陸閘(りっこう)」の活用、豪雨の際の避難指示―などを巡り、国と岡山県、倉敷市の責任を指摘するとしている。
弁護団は昨年12月、真備町地区の被災者からの相談を機に結成。住民有志や防災を専門とする大学教授らを交えて決壊現場の視察を定期的に行い、賠償請求が可能かどうかについて検証を重ねてきた。
豪雨で真備町地区は町域の3割に当たる約1200ヘクタールが水没し、直接死で51人が亡くなった。弁護団長の金馬健二弁護士(岡山弁護士会)は「国や自治体に災害への備えができていれば防ぐことができた被害は多い。二度と同じことが繰り返されないよう、責任を追及していく」と話している。