全国の治水、多目的ダムのうち、大雨に備えて事前放流ができるのは4割超の246基にとどまるという記事を共同通信が配信しています。長野県では、既存の県営ダムを事前放流できるよう改良することを検討すると、地元紙が伝えています。
2500基ものダムが建設されてきたわが国では、新たにダムを建設できる土地がもうほとんど残されていません。ダム事業は新規のダム建設から既存のダムの改良を重視するようになってきています。
共同通信の記事には事前放流をやりやすくするように改造された鹿野川ダムの写真が掲載されています。
鹿野川ダムがある肱川では、野村ダムと鹿野川ダムの緊急放流後の洪水で、8人の犠牲者が出ましたが、国土交通省は国管理の三基目の山鳥坂ダム事業を進めています。
記事と共に、鹿野川ダムの改造事業についての嶋津暉之さん(当会運営委員、水源開発問題全国連絡会共同代表)の解説を紹介します。
◆2020年1月6日 共同通信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200106-00000140-kyodonews-soci
ー事前放流可能なダム4割どまり 改修必要、西日本豪雨1年半ー
全国の治水、多目的ダムのうち、大雨に備え事前放流ができるのは4割超の246基にとどまることが6日、共同通信のまとめで分かった。西日本豪雨で最初の大雨特別警報が出て1年半。愛媛県のダムでは水位が限界に近づき、緊急放流後に下流が氾濫し、死者が出た。昨年秋の台風19号でも緊急放流が相次いだ。国は事前放流の体制整備を促してきたが、改修工事が必要なケースが多く、課題は山積している。
ダム建設が多かった数十年前は技術的な制約があり、事前放流のための放流ゲートを下部に設けることが難しかった側面があるとみられる。地球温暖化を背景に水害が相次ぎ、対応を迫られている形だ。
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★嶋津さんの解説
国土交通省の鹿野川ダム(愛媛県)は、トンネル洪水吐を低い位置に設置する大改造工事が昨年3月に完了しました。(総事業費487億円、参考ページ➡「鹿野川ダム改造事業完成、愛媛県大洲市で式典」)
改造前の鹿野川ダムでは、低い位置にある放流管は発電用放流管だけでした。
2018年7月の西日本豪雨では、鹿野川ダムはこの発電用放流管を使って事前放流を行いました。この事前放流により、580万㎥の空き容量(本来の治水容量1650万㎥の35%)をつくりました。本来の治水容量1650万㎥と合わせると、洪水に備えて2230万㎥を確保したことになります。それでも西日本豪雨の際にはダム湖が満水となり、緊急放流を避けることができませんでした。
鹿野川ダムは改造事業(総事業費487億円)により洪水調節に2390万㎥を使えることになりましたが、2230万㎥と大差がありません。したがって、改造後であっても緊急放流は避けられなかったことになります。
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◆2020年1月7日 信濃毎日新聞
https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200107/KT200106ATI090010000.php
ー県管理のダム16カ所、「事前放流可能に」 改修・要領作りへー
県建設部が管理する多目的ダム16カ所について、大雨に備えて水位をあらかじめ下げる「事前放流」ができるよう検討していることが6日、分かった。いずれも治水機能を持ちつつ、上水道などの利水向けにも使用している。このうち、ダム下部の放流ゲートを開けることで事前放流ができるのは、裾花ダム(長野市)、奥裾花ダム(同)、松川ダム(飯田市)の3カ所のみ。他の13カ所は放流ゲートを備えておらず、利水用の放流管の排水能力を上げるなどの改良工事を検討する。
同部によると、放流ゲートがある3ダムでも、事前放流の実施要領がないため、これまで事前放流を実施したことがない。緊急的に利水者の了解を得て実施する手段はあるが、昨年10月の台風19号豪雨災害では、流域に想定以上の降雨がなかったこともあり、実施していないという。県河川課は取材に「事前放流は洪水調節のための容量を一時的に増やす効果がある。県管理の全ての多目的ダムでできるようにしたい」と説明した。
実現にはダム本体を改修し、実施要領をダムごとに作る必要がある。市町村の上水道事業者など水利権者の合意も得なければならない。同課は「国の補助制度の創設などを考慮しながら実現を探る。利水者や住民への説明などは早ければ2020年度から行いたい」とした。
県関係では、県企業局が管理し発電を主目的とする利水ダムが3カ所あるが、事前放流の実施要領があるダムはない。設備面で実施が難しいダムもある上、「発電だけでなく上水道や農業用水に利用しており、事前放流には各水利権者との調整も要る」とする。
国土交通省によると、県内にある国管理ダムの大町ダム(大町市)、小渋ダム(上伊那郡中川村・下伊那郡松川町境)、美和ダム(伊那市)では、昨年10月時点でいずれも放流量などをあらかじめ定めた実施要領を作っておらず、事前放流の態勢は整っていない。このうち美和ダムは同月の台風19号の大雨を受け、急きょ利水者の了解を得て事前放流した。ともに水資源機構が管理する味噌川(みそがわ)ダム(木曽郡木祖村)、牧尾ダム(同郡木曽町・王滝村境、利水ダム)も実施要領を定めていないという。