ダムの事前放流問題に関する記事を二つ紹介します。
日経の記事はダムの緊急放流を避けるために、事前放流をしやすくする損失補償制度を始めると伝えています。気象予報の精度が上がったとはいえ、完璧な予報は不可能ですから、事前放流は空振りになることが多く、損失補償といってもそう簡単なことではありません。
また、2018年7月の西日本豪雨では、愛媛県を流れる肱川上流にある国直轄の野村ダムと鹿野川ダムの緊急放流により、ダム下流域で凄まじい氾濫を引き起こし、8人の犠牲者が出たことから、事前にもっと放流をするべきだったとの批判を浴びましたが、両ダムでは事前放流をそれなりに行っていました。
◆2020年1月13日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54340860T10C20A1CR8000/
ーダム事前放流しやすく 渇水時の補償制度創設へ 国交省ー
水害が多発するなか、国土交通省は2020年度中に、台風や豪雨の前にダムの水位を下げておく「事前放流」をしやすくする新制度を始める。放流後に発電や水道などに必要な水量を確保できなくなった場合、それに伴う利水権者の損失を補償する。事前放流を効果的に行い、既存ダムの貯水力を高めて下流の河川の氾濫や堤防の決壊を防ぐのが狙いという。
事前放流は台風や豪雨によってダムの下流で洪水の危険が予想された際、本来なら発電や水道などで使う水の容量の一部を放流し、事前に水位を下げる操作をいう。18年夏の西日本豪雨では愛媛県のダムで「緊急放流」が行われた後に下流で犠牲者が出た教訓から、効果的な事前放流を求める声が上がっていた。
関東や東北に大きな被害をもたらした19年10月の台風19号でも、5県6カ所のダムで貯水量が限界に近づき、緊急放流を余儀なくされた。
河川の増水時に緊急放流すると氾濫につながる恐れがあるが、6カ所のダムのうち、水沼ダム(茨城県北茨城市)や城山ダム(相模原市)など4カ所は事前放流をしていなかった。
背景には事前放流後に水量が不足することへの懸念がある。事前放流の実施にはダムの建設費の一部を負担した電力会社や水道事業者など利水権者の合意が必要となる。事前放流後、ダムに流れ込む水量が想定より少なければ、発電や農業、生活用水に使う水を確保できなくなる。このため利水権者の合意が得られなかったり調整に時間がかかったりするという。
国交省は、事前放流への合意を得やすくするため、事前放流後に利水権者に損失が出た場合、金銭で補償する新制度を創設する。補償対象の放流量や金額の上限などは今後検討し、20年夏ごろに運用を始める方針だ。
一方、ダムに設置されている放流ゲートが上の方にあるダムは、放流ゲートの位置を下げないと多くの量を放流できない。ダムの建設当時は技術的な制約があり、放流ゲートを下の方に設けることが難しかった側面があるとみられる。
構造上、事前放流をしにくいダムについては改修費を補助する制度を創設する。電力会社や自治体との事前放流に関する協定も締結し、実施する条件やタイミング、放流量なども個別に決めておくという。
国交省によると、国内で稼働しているダムは1460カ所あり、貯水容量は約180億トン。ただ発電や農業のための貯水が多く、洪水を防ぐために空けておくなど治水に使える容量は約3割にとどまる。国交省は事前放流をしやすくすることで貯水ダムも有効活用し、治水機能を強化したいとしている。
◆2020年1月12日 福島民友
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200112-00010011-minyu-l07
ー「事前放流」ルール化へ 福島県の2ダム、台風豪雨に備えー
福島県の広範囲に甚大な被害をもたらした台風19号は、12日で上陸から3カ月となった。県は台風など大雨による被害を受け、いずれもいわき市にある鮫川水系の高柴ダムと四時ダムで、洪水発生を予測してあらかじめ水位を下げる「事前放流」の操作規則の検討に入った。ダムの利水者と協議した上で新年度をめどに事前放流についてルール化したい考え。ただ、予測通りに雨が降らずに貯水量が回復しなかった場合、工業用水を供給できなくなる恐れがあり、企業側の理解を得られるかが課題となる。
両ダムは治水機能を持つ多目的ダムで、いわき市の小名浜臨海工業団地などに立地する44社に工業用水を供給、四時ダムの水は同市の上水道にも使われる。
管理者の県土木部は流域で降った雨がダムに流入する量を想定し、事前放流の実施を判断する際の根拠となる予測データを作成。想定を下回る雨量で渇水を招いた場合の企業などに対する減免や賠償の必要性についても利水者の県企業局やいわき市と協議する。
操作規則には企業の理解が不可欠だ。工業用水を使用する小名浜製錬小名浜精錬所の担当者は「住民の安全を無視して企業の意向を押し通すことは難しい」と受け入れに前向きな姿勢を示しながらも「水がないと操業できなくなる。県にはしっかりと運用してもらいたい」とくぎを刺した。