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最上小国川ダム完成へ(山形新聞社説)

 山形県が進めてきた最上小国川ダム事業は、八ッ場ダムと同様、2015年に本体工事が始まり、間もなく完成が予定されています。
 最上小国川ダムの建設を巡っては、地元の漁協が抵抗し、反対の先頭に立った漁協組合長が自死するという痛ましい過去があります。わが国に残された数少ない清流であることから、釣り人など多くの地域外の人々も反対運動に取り組みましたが、流水型ダム(穴あきダム)にすることで、河川環境への悪影響を防げるとして、県は事業を強行しました。

 以下の社説では、最上小国川ダムへの公金差し止め請求裁判の控訴審が昨年9月から行われていることには触れず、昨年10月の台風19号の際、河川の水位が約13センチ低下したことが洪水調節効果として高く評価されています。八ッ場ダムではダム湖を観光資源とする地域振興が図られていますが、水を貯めない(流水型ダム)の最上小国川ダムでは、ダム事業からの支出で「流域振興」が進められるようです。
(右写真=昨年10月の台風19号襲来後の最上小国川ダム。「最上小国川の清流を守る会」提供)

 最上小国川ダムが採用した「流水型ダム」について、山形県はダム湖に水を貯めることによる土砂の堆積や富栄養化がないことを利点として挙げていますが、放流するための常用洪水吐きの吞み口は高さ 1.6m、幅 1.7mの二門であり、洪水の時には流木や土砂などで詰まって、洪水調節機能が失われてしまう危険性があります。昨年の台風19号襲来後の同ダムの写真を記事の下に掲載します。

★参考ページ:「流水型ダムの問題点」嶋津暉之

◆2020年1月27日 山形新聞
https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20200127.inc
ー社説 最上小国川ダム完成へ 治水、流域振興の夢託すー

 県が最上町の赤倉地区上流部に建設中の最上小国川流水型ダムは、堤体(ダム本体)の安全性を確認する「試験湛水(たんすい)」期間に入った。順調に推移すれば4月にも運用が始まる。治水対策強化と流域振興につながることを期待する声は大きい。運用後も河川環境に変化が生じないよう細心の注意を払って管理していくことが求められる。

 最上小国川は神室山系を源とする延長39キロの1級河川。昭和30~40年代にかけ沿岸で大きな洪水被害が幾度か起き、河道改修が各所で進められたが、温泉街の赤倉地区は温泉への影響などが懸念されるため大掛かりには行えず、近年も被害が出ている。その打開策として全国で5番目、東北地方では初となる流水型ダムの整備が計画され、2015年に本体工事が始まった。

 洪水調整機能に特化し、普段は水をためず水質への影響が少ないとされるのが流水型ダムだ。水害防止策をさまざま検討した県が、最も現実的で環境への負荷が少ない方法と判断し採用を決めた経緯がある。建設に長年反対姿勢だった小国川漁協が内水面漁業振興や環境対策の確約に伴い容認に転じ、14年に協定を結んだことが事業前進の契機となった。

 総事業費は約88億円。堤体規模は高さ41メートル、長さ143メートル、有効貯水容量210万立方メートルで、50年に1度の大水害を想定した設計だ。昨年末に始まった試験湛水は今月14日に貯水量が満水になった。現在は徐々に水位を下げ常時水位に戻る2月中旬に完了する。安全面が保証されれば4月以降の運用開始が見えてくる。

 県によると、同ダムは昨年10月の台風19号時に洪水調節機能を早速発揮した。増水で最大毎秒約81立方メートルがダムに流れ込んだが、約20万立方メートルを貯留し、下流部への流量を約3割低減させることにつなげた。ダムがない場合に比べ、赤倉地区の河川水位を約13センチ低下させる効果があったと試算した。安心安全の向上を望む住民にとっては心強い結果が出たといえるだろう。

 一方、ダム完成後の流域振興に期待をかける人も多い。東北初の流水型であることをアピールし、周辺を森林浴などができる憩いの空間にすることや、近県も含めダム巡りを楽しんでもらう案なども出ているようだ。赤倉地区の温泉、スキー場といった観光資源に、こうしたダムツーリズムも加われば地域の魅力アップと活性化につながるかもしれない。

 県、最上・舟形両町、漁協など関係団体で構成する最上小国川清流未来振興機構は、10年間(15~24年)の振興計画に弾みを付けたい考えだ。▽治水や治山で自然と共存▽清流を守り育て生かす―などの視点の下、親水空間を拡充し▽特産のアユ(松原鮎)の放流量・漁獲量の各50%増▽年間観光客数150万人―といった目標実現を図る。

 ただし、治水向上や流域活性化、内水面漁業振興のためには、「環境に優しい」とされる流水型ダムの機能が想定通りに発揮されることが大前提となる。それに疑問を呈し、ダムに依然反対する住民がいることも事実だ。しっかりとした運用管理と実績を積み重ねることが信頼獲得と流域の発展につながっていく。

写真 常用洪水吐の流木と濁水  (最上小国川の清流を守る会提供)
 〇10月13日 午前10時