昨年10月に日本列島を襲った台風19号の豪雨は、試験湛水中の八ッ場ダムの水位を一気に上昇させました。
台風通過後、満々と水をたたえたダム湖は大きな話題になりました。(写真=2020年4月19日撮影、貯水率60%超。)
国会では安倍総理大臣が八ッ場ダムの意義を強調し、赤羽国土交通大臣が八ッ場ダムが役に立ったとの認識を示しました。さらに自民党の二階幹事長が現地を視察するなど、八ッ場ダムが政治の場で盛んに取り上げられると共に、「八ッ場ダムが首都圏を救った」などの噂がネットやマスコミで大量に流れました。
台風通過直後の10月13日、当ホームページでは、利根川における八ッ場ダムの治水効果に関する嶋津暉之さん(元・東京都環境科学研究所研究員)の論考を掲載しました。この論考では、国交省のデータを踏まえると、台風19号豪雨において利根川中流の埼玉県栗橋地点における八ッ場ダムの水位低減効果は約17cmであった一方、栗橋地点では利根川の河床が河川整備計画の想定より約70cm上昇しているとの計算結果が示され、河床の土砂を適宜掘削して河床面を維持することの方が八ッ場ダムよりはるかに治水効果が高いと解説されました。(⇒「台風19号、利根川における八ッ場ダムの洪水調節効果」2019年10月13日)
その後、国土交通省は11月5日に、八ッ場ダムを含む利根川上流ダム群の水位低減効果は群馬県伊勢崎市八斗島(やったじま)地点で合計約1メートルとの推計値を発表しました。しかし、個々のダムのそれぞれの水位低減効果については明らかにせず、八斗島以外の地点についての説明もありませんでした。
(⇒国土交通省記者発表「台風第19号における利根川上流ダム群※の治水効果(速報) ~利根川本川(八斗島地点)の水位を約1メートル低下~」)
その後、この問題について、ダム起業者であり、現在は管理者である国土交通省からの新たな発表はありません。
八ッ場ダムは3月31日に完成し、3月から4月にかけて、八ッ場ダムが構想から68年を経て完成したことが各番組で報道されました。
NHK前橋放送局は3月31日の「ほっとぐんま630」(3月13日の再放送)で、昨年の台風19号豪雨の際の八ッ場ダムの治水効果に焦点を当てました。
この番組では、山田正中央大学教授が八ッ場ダムによる水位低減効果は八斗島地点で67cmあったとし、「(八ッ場ダムがなければ)もしかしたら堤防がどこかで決壊して おそらく東京側に流れる」 「(八ッ場ダムは利根川の治水において)絶対的な重要な役割を今後とも担うことが期待される」と説明しました。(下*当日のテレビ画像より)
また、4月5日のTBSサンデーモーニングでは、八ッ場ダムが完成したと関口宏氏が語ったのを受けて、寺島実郎氏が次のように述べました。(以下、録音からの文字起こし)
山田正教授も寺島実郎氏も、台風19号の際、八ッ場ダムが高い治水効果を発揮したことは科学が証明していると強調しましたが、どのような科学的な裏づけがあるのか言及しませんでした。
山田教授は雑誌『都市問題』(2020年2月号)に掲載された論考「台風第19号における治水施設の効果と今後の治水対策」において、八斗島地点における八ッ場ダムの治水効果は50㎝との数字を示しましたが、ここでもどのような計算を行ったか説明していません。
狭い国土に2500基ものダムが建設されてきたわが国では、ダムが治水対策として最も重視されてきました。台風19号の際の八ッ場ダムへの賞賛は、長い歳月と巨額な公費、水没地域住民の甚大な犠牲を必要とした八ッ場ダムは、それだけ役に立つはずだとの思いが多くの人々にあるからとも言えます。けれども、科学的な裏づけのないイメージの先行は、今後の洪水への備えを危うくしかねません。
昨年11月の国土交通省の記者発表と情報開示資料からどのようなことがわかるのか、嶋津さんの新たな二つの考察をホームページで紹介させていただきました。利根川における八ッ場ダムの洪水調節を考える際は、是非参考にしてください。
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