「縦割り行政を排し、新たに八ツ場ダム50個分の洪水調整機能を確保」(菅官房長官)

 一昨年の西日本豪雨、昨年の令和元年東日本台風による全国各地の水害を受けて、国は国土交通省が管理する1級水系では、大雨が予想される際にダムの利水容量についてあらかじめ水位を下げる事前放流を行う方針を示し、全国で治水協定が締結されてきました。

 これは首相官邸の「既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議」の指示によるもので、菅義偉官房長官の肝いりで設置されたものです。
 菅官房長官はBLOGOSで自ら、その成果をPRしています。

 しかし、ダムの事前放流を行うと、ダムの洪水調節容量が約2倍になる(八ツ場ダム50個分の洪水調整機能を新たに確保できる)という話は、かなり機械的に計算したものであって、実際に必ずそうなるということではありません。また、ダム集水域の雨量を定量的に予測することは結構難しく、事前放流は空振りになることが多いです。その場合は状況によっては利水者への補償が必要となることがあります。

 この補償について、補填の対象は一級水系の国の直轄区間にあるダムであって、一級水系の指定区間(都道府県管理区間)にあるダムは補填の対象になりません(国土交通省水管理・国土保全局河川環境課水利係に確認)。
 また、この補償は直轄堰維持費と水資源開発事業交付金の予算項目から支出するとのことですが、今年度は緊急放流のための予算増額はされておらず、必要に応じて2021年度から予算措置をするという話です。

 また、繰り返しになりますが、事前放流さえすればダムの緊急放流を回避できるというものではありません。2018年7月の西日本豪雨において愛媛県・肱川の野村ダムと鹿野川ダムはそれなりの事前放流をしていましたが、それでも凄まじい緊急放流を行ってダム下流域の大氾濫を引き起こしました。

 関連記事を転載します。

◆2020年6月8日 建設通信新聞
https://www.kensetsunews.com/archives/460092
ー事前放流へ統一運用/1級水系で治水協定締結/政府ー

 政府は、国土交通省が管理する1級水系で、大雨が予想される際の水害対策に発電用ダムや農業用ダムなどの利水ダムを活用し、あらかじめダムの水位を下げる事前放流の実施体制を整えた。国交省とダム管理者、関係利水者が治水協定を5月までに締結し、有効貯水容量に対して水害対策に利用できる容量の割合を従来の3割から6割に増やした。国交省が4月に策定した事前放流ガイドラインに沿って、多目的ダムと利水ダムの統一的な運用を今出水期に始める。

 政府が4日に開いた「既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議」で、治水協定締結の進捗状況を確認した。菅義偉内閣官房長官は、国民の生命と財産を水害から守るため、国交省を中心とした関係省庁が治水協定に基づき、既存ダムの事前放流などを一元的に行う新たな運用を開始するよう指示した。また、降雨量とダムへの流入量をAI(人工知能)で予測する技術について、研究開発を進める国交省と気象庁に対して早期の実用化を求めた。

 1級水系は、全109水系のうち99水系にダムが955カ所ある。その有効貯水容量は152億6300万m3で、このうち多目的ダムの洪水調節容量は3割に当たる45億8900万m3となっている。

 利水ダムを水害対策に最大限活用するため、洪水調節可能容量(洪水調節に利用可能な利水容量)を設定する治水協定を99水系で結んだ。これにより、新たに45億4300万m3を水害対策に利用できるようになり、洪水調節容量と洪水調節可能容量を合わせた水害対策に利用できる容量は6割の91億3300万m3に倍増した。追加分の45億4300万m3は、3月に完成した八ッ場ダム50個分に相当する。

 政府は、水害対策に利用できる容量のさらなる拡大に向け、ダムのゲート改良などハード・ソフト一体となった対策を講じる方針で、水系ごとの工程表を6月にまとめる。

 都道府県が管理する2級水系でも治水協定の締結を支援し、利水ダムが事前放流を実施する体制を河川全体で整備する考え。国交省によると、2級水系でダムがある354水系のうち、福島県管理の鮫川水系は治水協定を締結済みで、75水系では治水協定締結に向けた協議が始まっている。

◆2020年6月6日 BLOGOS
https://blogos.com/article/462893/
ー洪水対策:縦割り行政を排し、新たに八ツ場ダム50個分の洪水調整機能を確保ー

 今週「既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議」を開催し、梅雨や台風などの大雨に備えた洪水対策を取りまとめました。

 10月の台風第19号をはじめとした一連の記録的な豪雨は、東北、関東甲信越を中心とした広範な地域において大きな被害をもたらしました。中上流域を中心に71河川の142カ所で堤防が決壊して、洪水が発生した地域の被害は甚大なものとなりました。

 これを機に、昨年11月に私の指示で、水害対策としてもっと今あるダムを活用するための各省検討会議を官邸に作りました。

 全国には1470のダムがありますが、このうち水害対策を担当する国交省が所管するダムは570で、そのほか経産省が所管する電力用のダムや農水省が所管する農業用水用のダムなど全国に約900ある「利水ダム」は、各省の縦割りの弊害で、水害対策にはほとんど使われていませんでした。

 結果として、全国のダムの合計容量のうち、洪水時にダムに水を貯めて水害対策に使える部分は、全体の3割しかなかったのです。

 まず全国約100の1級水系について、こうした縦割りを排し、電力や農業など管理者と調整を進めて治水協定を結び、今回の取りまとめとなりました。

 全国のダムの容量のうち水害対策に使える部分が従来の2倍となる6割にまで拡大することができました。拡大できた容量は、建設に50年、5千億円以上をかけた八ツ場ダム50個分に相当します。

 例えば、利根川水系では川俣ダムなどで水害対策に使える容量が八ツ場ダム3個分相当増え、相模川水系では城山ダムなどで八ツ場ダム1個分増えることになりました。今後はそれぞれの水系において、大雨が予想される際には、それぞれのダムの事前放流などについて国土交通省を中心に一元的な運用を行うことになります。

 さらに全国にダムがある2級水系は約350ありますが、これらについても今後同様の調整を進めます。特に、近年水害が起きた水系や大きなダムがある水系などについては速やかに調整を進めていきます。

 また、AIを活用して降雨量やダムへの流入量を精緻に予測し、ダムの放水量もAIを使って予測する研究開発を進めています。

 今回の対策は、これまでの治水行政の大きな転換で、縦割りを排してこれまで使われていなかった機能を有効利用することで、巨額の予算を投じることなく洪水調整機能を大幅に増やすことができました。いのちと暮らしを守るために、さらなる能力向上に向けて引き続き取り組んでまいります。