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水害 を防ぐための「事前放流」の課題(京都新聞)

 熊本県を流れる球磨川の大水害受けて、洪水調節を行うダムの問題が改めてクローズアップされています。
 大雨の最中に、ダムの緊急放流が行われる危険性が指摘されてきましたが、緊急放流を回避するための「事前放流」も気象予測の精度やダムの構造などの問題があり、それほど簡単ではありません。
 京都新聞の以下の二つ目の記事では、京都大学防災研究所の角哲也教授による「事前放流をしたからと安心するのではなく、ネット情報などを通してダムの水位に関心を持ってほしい。」との注意喚起を伝えています。むろん、できればそれに越したことはありませんが、緊急時に流域住民にそれを求めるのは現実的でしょうか。

◆2020年7月6日 京都新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/b8e18af2f64dcb85ba906efd0348e434d10a193d
ー水害対策でダムの「事前放流」広がる 降雨予測外れる「空振り」懸念もー

 大雨に備え、ダムの水位をあらかじめ下げて貯水できる容量を増やす「事前放流」の動きが全国に広まっている。京滋では19カ所のダムが対象で、浸水被害に悩まされてきた下流域の住民から歓迎の声も上がる。一方で、放流を判断する根拠となる降雨予測は難しく、農業用など治水向けではないダムをどのように有効活用するかという課題も残っている。

 日吉ダム(京都府南丹市)から桂川を下って約5キロにある同市園部町船岡の集落。西日本豪雨が発生した2018年7月6日、民家のそばを流れる川の水位が堤防の高さぎりぎりまで迫り、住民は近くの元小学校へ避難した。

 ダムは数日前から降り出した大雨に伴って水位が上昇し、ダム湖への流入量と同じ量を緊急に放流する「異常洪水時防災操作」を初めて実施した。非常用ゲートを開放し、放流量は通常の6倍の最大毎秒907トンに達した。住民の男性(68)は「自宅と川の水位が同じくらいの高さとなり、水が迫って来るのでないかと危機感があった」と振り返る。

 今年5月末、日吉ダムを含む淀川水系の利水関係者や自治体などが治水協定を交わし、ダム近辺で大雨が予測される場合、事前放流が可能になった。日吉ダムでは、最大1千万立方メートルを1日半前から放流し、ダム湖の水位を下げられるようにした。

 ダムを管理する水資源機構の担当者は「洪水前にダム湖の空き容量ができる分、避難する時間を確保できる」と話す。下流域の浸水被害の軽減も見込め、男性は「水害自体はなくならないだろうが、一歩前進した」と期待する。

 昨年の台風19号では各地で緊急放流が相次いだ。西日本豪雨でも愛媛県のダムが緊急放流し、下流域に浸水被害が発生したことは記憶に新しい。政府は既存ダムの有効活用を打ち出し、事前放流の運用を促している。今月上旬までに全国99水系で事前放流に向けた協定が結ばれ、京都府では淀川水系の4カ所、由良川水系の5カ所、滋賀県では淀川水系の10カ所のダムで取り組むことになった。

 ただ、農業用や水力発電用など用途が特化され、治水機能を有していないダムがある。治水と別の用途を併用する多目的ダムは洪水時に活用できる貯水容量が建設時に決まっており、事前放流で貯水容量を増やすには他の用途向けから転用するか、ダムの構造を見直す必要がある。

 京都府が管理する由良川水系の大野ダム(南丹市)では、昨年の実証実験で水位低下に伴いダムの設備が破損する可能性があることが判明。急きょ改修が必要になった。府河川課の担当者は「事前放流は即座に実施できるわけではない。まずダムごとの検証が必要」と難しさを語る。

 各ダム関係者からは事前放流の実施後、降雨予測が外れる「空振り」を恐れる声が上がる。水位が回復せず農業用水などに影響する懸念があるからだ。複数のダム管理者は「運用に当たってはその都度、難しい判断を迫られる」と口をそろえる。

https://news.yahoo.co.jp/articles/2bed042e2d1e4a24f3f34abf4b76f46ac3603f6a
ー「ダムの水位や増減を確認して」と専門家 水害対策の「事前放流」を語るー

 ダムの「事前放流」について京都大防災研究所の角哲也教授(水工水理学)はこう解説する。

 「事前放流は効果的だが、ダムの流域にどれほど雨が降るのかという予測の難しさがある。前日ならばそれなりに正確な場所と雨量は分かるが、放流して水位を下げる十分な時間の余裕はなく、3~5日前には把握したい。雨があまり降らず、放流が無駄になるケースもありうる。被害防止のために空振りは仕方ないとの考え方もあるが、水は貴重な資源で、飲み水の枯渇や経済的損失が生じる恐れがある」

 「これらの問題は、多数の数値予測を行って信頼度を高める『アンサンブル降雨予報』の研究が進めば対応できる。岡山県や千葉県など一部のダムで試験的に導入が始まっており、成果を期待したい」

 「また、発電などの利水ダムは放流方法が治水向けではないため、貯水容量の増加だけを見て効果が上がるという簡単な話ではない。利水ダムを有効活用するためには、安全への『投資』としてダムの改修も考える必要がある」

 「事前放流をしたからと安心するのではなく、ネット情報などを通してダムの水位に関心を持ってほしい。容量がいっぱいになると緊急放流が起こる。大雨がやんだ後でも緊急放流が行われることもあり、ダムの水位や増減を確認しておけば危険性が分かる」