球磨川水害、特養老人ホームの犠牲は避難計画の問題か

【8/3追記】悲惨な水害の原因について、より多くの情報を踏まえた新たな考察を以下のページに掲載しました。ご参考になれば幸いです。

 「球磨川の氾濫で特別養護老人ホーム「千寿園」の浸水が早かった原因は」
 https://yamba-net.org/52469/

 7月4日の球磨川の氾濫によって、球磨村渡地区の特別養護老人ホーム「千寿園」で14人の入所者が犠牲になりました。
 この千寿園の避難計画が最大雨量(1000年に一度規模の豪雨)を想定していなかったとして、問題になっています。
 国は2015年に水防法を改正し「1000年に1度」の豪雨を想定した浸水区域図を作成しましたが、千寿園は従前の「80年に1度」の浸水区域図をもとに避難計画を策定していたということです。「80年に一度」の洪水では、、園自体は浸水しないことになっていたということですから、今回の豪雨は避難計画の想定外だったことになります。

 もっとも、「1000年に1度」の豪雨を想定した浸水区域図は全国の各地域で公表されているものの、その浸水区域図が実際にどこまで重視されているのでしょうか。この特養ホームで「1000年に1度」の洪水に対応した避難計画を策定していたら、犠牲者が出なかったでしょうか?
 今回の豪雨は「1000年に1度」の規模であったわけではありません。「80年に1度」より大規模であるのかも、今後の検証結果を待たなければなりません。

 この場合、「千寿園」の避難計画を責めるより、浸水の可能性がある、これまで人が住まなかった川の合流地点に特別養護老人ホームが建てられた問題を考える方が、今後の治水対策を考える上で重要と思われます。政府が新しい治水対策として打ち出した流域治水を先取りした滋賀県では、洪水の危険性の高い地域に建築規制を設けるという考え方があります。

 球磨川流域の環境運動を担ってきた八代市のつる詳子さんがフェイスブックに掲載されたレポートによれば、千寿園が建てられた地域では、第二次大戦直後の1947年には田圃ばかりであったそうです。
 https://www.facebook.com/shoko.tsuru1/posts/3388794217865523
 「帰って、1947年の航空写真(2枚目)と今回の浸水想定地図(3枚目)を見て驚いた。1947年は田圃で家も殆どない地区(赤線より球磨川側の区域)と、今回浸水した場所が見事に重なっている。つまり、1947年のままであったなら、今回の想定外と言われる降雨量でも、家屋は殆ど被害を受けることはなかったのだ。」

 さらに、下記の西日本新聞の記事によれば、浸水で排水機場がストップしたということです。これも被害を大きくした大きな問題です。排水機場の機能を全面的に点検する必要があると思います。

◆2020年7月29日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20200728/k00/00m/040/230000c
ー千寿園の避難計画、最大雨量を想定せず作成 熊本・球磨ー

  九州豪雨で入所者14人が犠牲になった熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」が策定していた避難計画が、最大規模の大雨が降った時の浸水想定ではなく、より小さな想定を考慮して作成されていたことが判明した。園の顧問弁護士が28日、毎日新聞の質問状に回答した。水防法は最大規模の大雨を考慮した避難計画の策定を求めている。

 国は2015年に水防法を改正し「1000年に1度」の豪雨を想定した浸水区域図を作成して水害対策を強化することにした。さらに、翌16年8月の台風10号で岩手県岩泉町の高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」が浸水し入所者9人が死亡したことを受け、17年6月に再度水防法を改正。最大規模の豪雨を想定した浸水区域にある福祉施設などに避難計画策定を義務付けた。

 国土交通省九州地方整備局は17年3月、熊本県人吉市より上流で12時間総雨量502ミリの「1000年に1度」の雨が降った場合、千寿園周辺は広範囲に10~20メートル未満浸水するとの浸水区域図を公表した。同時に九地整は12時間262ミリの「80年に1度」の浸水区域図も公表。この場合、園自体は浸水せず、周辺の浸水も0・5メートル未満とされており、園はこのケースを考慮した避難計画を策定し、村に提出していた。

 この判断について、園の顧問弁護士は「地区全体が水没するという、規模があまりにも大きすぎる(想定の)ため、避難計画の策定で考慮することができなかった」と回答した。

 国交省によると、豪雨当日の球磨村の12時間雨量(3日午後7時~4日午前7時)は439ミリで、国土地理院によると、園周辺は2~3メートル浸水したと推定される。園は1階の天井部分まで浸水した。

 国交省によると20年1月現在、全国で7万7906施設が水防法に基づく避難計画策定を義務付けられているが、策定済みなのは45%の3万5043施設にとどまる。国は22年3月までに策定率100%を目指しているが、未作成でも罰則はなく、熊本県内の対象施設で策定しているのは5・4%だけだ。【中里顕、城島勇人、吉川雄策】

国の用地確保支援策が必要
 広瀬弘忠・東京女子大名誉教授(災害リスク学)の話 避難計画を策定するだけでは場当たり的な対応になってしまう可能性があり、施設側が細かく気象情報をチェックし避難に備えることが大切。一方、危険な立地を避けて施設を建設することも重要だが、今は民間任せになっているので、国の費用助成も含めた用地確保の支援策が必要だ。

水防法
 水害の被害軽減のため国や地方自治体が果たすべき役割を明記した法律。国に河川ごとの浸水想定区域図策定と自治体への通知も求めており、市町村は地域防災計画に想定区域図を反映する。関東・東北豪雨(2015年9月)や台風10号(16年8月)などの大規模水害を受け、中小河川のリスク情報発信や周辺自治体などによる減災協議会の創設も規定した。洪水時に河川の巡視や水門の開閉などにあたる水防団の身分規定もしている。

◆2020年7月18日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/627281/
ー排水ポンプ3カ所が全て破損 熊本・球磨村の渡地区、浸水で能力喪失ー

  熊本県南部を襲った4日の豪雨の際、大規模浸水が発生した同県球磨村渡地区に設置されていた3カ所の排水ポンプ施設が浸水で全て破損し、排水能力を失っていたことが国土交通省八代河川国道事務所への取材で分かった。同事務所は同等の排水能力を持つポンプ車を配備して対応している。

 排水施設は、建設が中止された川辺川ダムに代わる治水対策の一環で、国交省が2015年に11億円をかけて整備した。支流側の内水氾濫を軽減する能力があり、今回の豪雨でも当初は稼働したが、球磨川の氾濫で水に漬かり動かなくなったという。

 渡地区は球磨川と支流の合流部に当たり、人吉盆地に降った雨が集中する地形。渡地区では2階建て民家の屋根付近まで水に漬かり、浸水深は5メートルを超えたとみられる。地区内には、14人が死亡した特別養護老人ホーム「千寿園」もある。

 同事務所によると、隣接する同県人吉市でも球磨川の氾濫で国管理の排水施設1カ所が破損。「本流が氾濫するような大規模な浸水では排水施設自体が水没してしまい、対応できない」という。(古川努)