球磨川の氾濫で特別養護老人ホーム「千寿園」の浸水が早かった原因は

 7月4日の熊本県・球磨川の氾濫で特別養護老人ホーム「千寿園」で14人の方がお亡くなりになりました。
 球磨川水害の中で最も犠牲者が多かったこともあってか、水害の原因を追究する報道が続いています。
「千寿園」は球磨川と支流の小川が合流する地点の近くにありました。

 この問題について、嶋津暉之さん(元・東京都環境科学研究所研究員)の考察を紹介します。

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 球磨川の氾濫で特別養護老人ホーム「千寿園」の浸水が早かった原因は

 7月4日の熊本県・球磨川の氾濫で特別養護老人ホーム「千寿園」で14人の方がお亡くなりになりました。
 なぜ、このように悲惨なことになったのでしょうか。
 今までの新聞記事に、考えられる要因がいくつか書かれています。

① 特別養護老人ホームの立地場所が悪かった?
 もっと安全なところになぜ立地しなかったのかという話もあるかもしれませんが、老人ホームは下記の地図の青枠のところです。渡小学校の隣で、JR線の渡駅に近く、人家が少なからずあるところですから、立地場所が特によくなかったとは思われません。
 この大字渡乙では老人ホーム以外の民家でも2人が亡くなっており、老人ホームの立地場所が特によくなかったとは言えないと思います。
【参考】熊本県【7月31日】令和2年7月豪雨に係る災害対策本部会議資料(第23回) 

② 2015年に設置された排水機場が停止した
 以下の記事では、2015年に設置された排水ポンプ3カ所が全て破損したと書かれています。この排水ポンプは、建設が中止された川辺川ダムに代わる治水対策の一環として、国交省が2015年に11億円をかけて整備したものですが、肝心な時に役立たちませんでした。排水ポンプ施設の浸水対策が講じられていなかったようで、お粗末な話だと思います。

西日本新聞2020/7/18 6:00「排水ポンプ3カ所が全て破損 熊本・球磨村の渡地区、浸水で能力喪失」 

 しかし、この排水ポンプの完成式の資料を読むと、排水ポンプの能力は、それぞれ0.5㎥/秒、1.0㎥/秒、2.5㎥/秒ですから、これらが稼働していても状況がどれほど好転していたかわかりません。
【参考資料】球磨村渡地区浸水軽減対策関連事業 完成式 

③ JR鉄橋との交差部分だけ低く、そこから越水
 次の記事に「支流の小川を横切るJR肥薩線の鉄橋と交差する部分だけ、小川の堤防が周囲より約2メートル低くなっている」と書かれています。
 上の地図の赤枠の部分です。

★毎日新聞2020年7月5日 20時59分「『ここまでとは』想定外の雨量、河川改修でも浸水 行動計画も効果不明 熊本豪雨」 

「氾濫をもたらしたのは地形や大量の雨だけが理由ではない。支流の堤防は球磨川沿いに走るJR肥薩線の鉄橋と交差する部分だけ周囲の堤防より約2メートル低くなっており、そこから越水した。地域の防災対策では堤防をかさ上げする予定になっていたが、そのためにはJRの鉄橋を高くする必要があり、JR九州側との調整が進んでいなかった。」

 私は➂が老人ホームの浸水を早めた最大の要因ではないかと思います。

 球磨川の渡観測所水位変化を右のグラフに示します(観測所の位置は上の地図で黄色枠のところ)。
 老人ホームのすぐ近くにある渡観測所の水位が堤防を越えたのは7月4日7時半頃(その後は観測停止)ですが、「千寿園の教訓を備えに 入所者14人犠牲、避難情報共有が鍵」(西日本新聞2020/8/5 ) によれば、「午前4時50分、(園周辺の)道路が冠水してたどり着けない」状態であったのですから、球磨川からの越水が始まるかなり前から浸水が進行していました。
(右のグラフをクリックすると拡大表示されます。)

 鉄道や道路の橋があるところは堤防が一段と低くなっている例が少なからずありますが、ここでもこのことが千寿園の浸水を早めた最大の要因であったと思います。

 球磨川ではきめの細かい治水対策が実施されてこなかったことが最大の問題ではないでしょうか。
 そして、川辺川ダムが仮につくられても、JR肥薩線の鉄橋と交差する小川の堤防が周囲より約2メートルも低くなっている現在の状態が改善されない限り、やや大きい洪水時は氾濫が避けられないと思います。

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◆2020年8月3日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200803/k10012547991000.html
ー入所者14人死亡の千寿園に献花台 関係者が黙とう 熊本 球磨村ー

 記録的な豪雨によって入所者14人が亡くなった熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」に3日、献花台が設けられ、施設の関係者や遺族が亡くなった人たちを悼みました。

 献花台は3日午前11時、「千寿園」の施設の前に設けられ、はじめに、施設長などの関係者およそ30人が花やお菓子を手向けて、全員で30秒間の黙とうをささげました。

 「千寿園」では、先月の記録的な豪雨で近くを流れる球磨川が氾濫し、建物が水につかって入所者14人が亡くなりました。

 後藤亜樹施設長は「力が及ばずご遺族の皆様にも大変申し訳なく思っています。今回の対応などについては今後、誠意を込めて説明していきます」と話していました。

 亡くなった入所者の遺族も献花台を訪れ、球磨村の職員で母親を亡くした大岩正明さんは、母親が好きだったという焼酎やビールを手向けていました。

 大岩さんは「母にはゆっくりと眠ってもらい、先に亡くなった父とともに私たち残された家族を見守ってほしい」と話していました。

 施設によりますと、献花台はおよそ1か月間、設置するということです。