7/4の球磨川氾濫以降、熊本県の蒲島郁夫知事は川辺川ダム中止の責任を問われてきました。2008年9月に蒲島知事が「川辺川ダム白紙撤回」を表明したことが国の川辺川ダム計画にストップをかける大きな力となったからです。
しかし、蒲島知事はもともと川辺川ダムの中止を求めていたわけではありません。蒲島知事は「川辺川ダム白紙撤回」の半年前に初当選しましたが、この時の知事選では、地元紙・熊本日日新聞が開いた候補者討論会で蒲島氏を除く4人の候補者が建設に反対、蒲島氏のみが半年後に決断、と回答を保留したのでした。(参考ページ⇒「川辺川ダム中止の民意」(熊本日日新聞))
川辺川ダム中止を求める世論を受けて白紙撤回を表明した蒲島氏は、球磨川水害後の県民や国民の世論の動き、国交省の姿勢を推し量っているように見えます。
◆2020年8月26日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20200826/k00/00m/040/285000c
ー熊本知事「川辺川ダムも選択肢の一つ」 2008年に白紙撤回「新たな決断必要」ー
熊本県の蒲島郁夫知事は26日の記者会見で、7月の九州豪雨で氾濫した球磨(くま)川の治水対策として「川辺川ダムも選択肢の一つ」と述べた。球磨川支流の川辺川に国が建設を計画していた川辺川ダムについては、蒲島知事が2008年に反対を表明し、翌年、当時の民主党政権が中止を決めたが、豪雨後、流域市町村の首長からはダムを含めた治水対策の検討を求める声が強まっている。国や県などが年内にも出す豪雨被害の検証結果を踏まえ、知事がダム建設容認にかじを切るかが注目される。
蒲島知事は建設の「白紙撤回」を表明した08年9月の判断について、記者会見で「未来永劫(えいごう)に正しいかは歴史が決める」と語った。その上で、今回の豪雨で球磨川流域で甚大な被害が出たことを踏まえ「新たな課題が突きつけられており、新たな決断が必要と考えている。08年には知らなかった経験が目の前にあるので、真摯(しんし)に決断したい。ダムによらない治水を極限まで追求しようというのが私のスタンスだったが、新しい事態にどう対応するかも政治家の役割」と述べた。
知事は08年当時、建設予定地だった同県相良(さがら)村の村長と流域の同県人吉市の市長がダム建設に反対していることを「白紙撤回」の理由に挙げたが、両首長とも既に交代している。今回の豪雨後、流域では「ダムがあれば被害が軽減できたのでは」という議論が出ており、流域12市町村でつくる「川辺川ダム建設促進協議会」は8月20日、「川辺川ダム建設を含む抜本的な治水対策を講じるべきだ」と決議した。
25日には国土交通省と県、12市町村が豪雨被害を検証する委員会の初会合が熊本市であり、深刻な浸水被害が出た人吉市中心部での球磨川のピーク流量について、同省が「川辺川ダムがあれば約4割減らせた」とする試算を提示。12市町村の首長からは「川辺川ダムも治水の選択肢の一つとして総合的に考えていく必要がある」(竹崎一成・芦北町長)などの声が上がった。検証委が年内をめどに出す結論を踏まえ、国や県などは球磨川の新たな治水対策を策定する方針だ。【城島勇人】
「そこまで来ないだろう」とはもう言えない
26日の記者会見での蒲島郁夫知事の主な発言は以下の通り。
――国と熊本県が設置した「豪雨検証委員会」の初会合(25日)で国が示した球磨川のピーク流量についての認識は。
♦人吉市では(毎秒)8000トンが流れたのではないかとの発表だった。恐らく経験したことないような規模の洪水だったと思う。極めて大きな洪水に対して、流域住民の生命、財産を守る安全安心のための対策が重要と認識した。「そこまで来ないだろう」とはもう言えない。ただ、皆さんは球磨川を愛しておられる。安全安心に加え、球磨川の豊かな自然の恩恵をこれからも享受できるよう治水対策を考えたい。このような洪水被害を二度と県民に経験させないよう、強い覚悟を持ち、安全安心の確保に向け国、県、流域市町村と連携しながら速やかに検証し、協議を進めていきたい。
――(知事が2008年に川辺川ダム建設計画の白紙撤回を表明して以降の国と県、流域市町村の協議では)これまでダムによらない治水案が示されている。ダム以外で他の案を模索する考えは。
◆(今回の検証委での)検証後に方向性を出したい。これまでもダムによらない治水を考えてきた。代表例は(球磨川上流部に建設された)既存の市房ダムの予備放流。(今回の豪雨で)それをやって(毎秒)500トンはセーブできた。ダムによらない治水を考えていなかったら、こういうことはできなかった。八代市では堤防、多良木町では河川掘削が役に立ったという話だった。全部を防げなかったが、それがなければ大変なことになっていた。25日の検証委初会合では「それだけでは足りないので、川辺川ダムがあった場合の効果も検証してほしい」という話が流域市町村からあった。それを含めた形で検証し、治水の方向性を決めていく。
安心安全の要素が08年より大きい
――知事のダム効果への認識は。
◆市房ダムでも検証されたが、ダムには洪水調整機能がある。08年に白紙撤回を表明した時も河川工学的に言うと、ダムの洪水調整機能は大きいと私は認識していた。ただ、あの段階で皆さんは「ダムによらない治水を極限まで考えてほしい」という認識だった。今回の(人吉市でのピーク流量が毎秒)8000トンを超える水害は350年に一度と思っている。(人吉市の)青井阿蘇神社の洪水跡は350年前と同じ。今後はどうやって安全に川を流していくかということが大きな問題として突き付けられている。ダムの洪水調整機能を排除せず検討していく。
――川辺川ダムの白紙撤回時は民意を大きな判断材料にしていたが。
◆デモクラシーの国なので、県民がどう考えるか、何を望んでいるかが大切だ。その要素の中で、安心安全の要素が08年より大きくなっている。その要素をより大きく考えて、治水の方向性を出したい。
――意思決定の過程で、住民と意見交換するのか。
◆まずは専門家による検証。被災された方がどういう気持ちであるかも踏まえたい。これまでも多くの方と話してきたし、代表の流域市町村長の意向をうかがっているので参考にしたい。
08年決断が未来永劫に正しいかは歴史が決めることだ。
――(08年の白紙撤回以降に)ダムによらない治水について協議したが結論を出せず、「空白期間だった」との批判もある。
◆政治家は決断する時に、どういう歴史の中で評価されるのかを考える。そういう意味で、08年9月11日の白紙撤回の決断は私の政治、人生において重要な決断だった。それが未来永劫(えいごう)に正しいかは歴史が決めることだ。(人吉市で毎秒)8000トンを超える流量の水害の大きさは、新たな課題を知事、県政、日本の政治に突き付けた。これにどう対応していくかということも、知事の決断の一つ。今そこに立っている。新たなデータ、経験、気象状況の変化を踏まえ、安心安全を第一に考える時に、どういうふうな治水対策を取るか。与えられた条件の中で、最大限の努力、能力を駆使して結論を下す。
https://this.kiji.is/671191901492429921
ー「川辺川ダムも選択肢」熊本知事 球磨川の治水巡り方針転換ー
熊本県の蒲島郁夫知事は26日の記者会見で、7月の豪雨で氾濫した球磨川の治水対策を巡り「川辺川ダムも選択肢の一つだ」と述べた。蒲島氏は2008年、球磨川の支流に建設予定だった川辺川ダム計画に反対を表明、民主党政権下の国が中止方針を示した経緯があるが、事実上転換した。
25日に県庁で開かれた国や県による豪雨被害検証委員会で、国土交通省は川辺川ダムが建設されていれば球磨川の流量が4割程度抑制され、被害を軽減できたとする推定結果を公表。蒲島氏は今回の豪雨を受け、球磨川流域の治水対策を再検討する方針を示していた。
https://this.kiji.is/671163394535048289
ー蒲島熊本県知事「検証終了、年内めざす」 球磨川豪雨検証委で一問一答ー
蒲島郁夫熊本県知事は25日に開かれた球磨川豪雨検証委員会の終了後、報道陣に同委員会の検証作業を年内に終える目標を示した。一問一答は次の通り。(高宗亮輔)
-流域首長から検証を早く終えてほしいと声が上がりました。
「検証を終えないと、(被災地の復旧を進める上で)道路や橋の高さを決められない。スピード感を持って取り組む」
-会合で、川辺川ダムの洪水調整能力が示されました。
「河川工学的にはダムが最も効果的だが、ダムによらない治水を考えてきた中で今回の大洪水が起きた。川辺川ダムも一つの選択肢というのが今日の会議の内容だっただろう」
-流域市町村が「ダム建設を含む治水対策」を求める決議文も読み上げられました。
「全会一致の意見は真摯[しんし]に受け止めないといけない」
-ダムによらない治水が進まなかったことに、首長から不満の声が上がりました。
「これまで築堤や宅地かさ上げを進めてきた。実施していなかったら被害はもっと大きかっただろう。(この経験は)今後の治水にも生きてくる」