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大滝ダム湖岸、地すべりでまた対策工事(ニュース奈良の声)

 国土交通省の大滝ダム(奈良県)で地すべりの対策工事が行われていることを伝えるレポート記事を紹介します。筆者は、大滝ダムについて精力的に取材し、『ダムと民の五十年抗争~紀ノ川源流村取材記』(風媒社)の著書もあるジャーナリストの浅野詠子さんです。
 大滝ダムといえば、2003年に試験湛水中に川上村白屋地区で地割れが起きて、ダム湖畔の白屋地区の全戸38戸が移転をよぎなくされました。その後、地すべり対策工事に308億円の費用を投じて、9年遅れでようやく2012年度にダムが完成したのですが、地すべりが再発したようです。

◆2020年9月13日 ニュース奈良の声
http://voiceofnara.jp/20200913-news694.html
ー大滝ダム湖岸地滑りでまた対策工事 試験貯水以降4カ所目 奈良・川上、トンネル内に亀裂でー

  奈良県川上村の大滝ダム(吉野川、国土交通省)湖岸で、大規模な地滑り対策工事が始まる。湖岸を通る国道169号高原トンネル内の壁面に、地滑りが原因とみられる亀裂が複数見つかっているためだ。同ダム湖岸では2003年のダム試験貯水以降、地滑りの発生や懸念による対策工事がたびたび行われており、今回で4カ所目。うち1カ所では、1つの集落が丸ごと移転する事態にまでなった。

 高原トンネルは延長495メートル。同ダム建設に伴う同国道の付け替え道路にある。1996年に完成し、奈良県管理となった。県は、地滑り抑止工の経験がある国に工事を委託。国交省近畿地方整備局は入札により今月16日、発注業者を決定、工事に着手する。工費は43億9000万円。3分の2を国が負担する。工期は2023年3月まで。

 2018年12月、以前からあった亀裂が拡大していることが確認された。それより5年前の点検時と比べ、亀裂の幅が最大で3倍近くの7ミリに拡大していた。県設置の専門家会議「国道169高原トンネル安全対策検討会」(真下英人委員長、8人)が亀裂と地滑りの因果関係に言及した。

 対策として、アンカー工と呼ばれる地滑り抑止工を実施、トンネルのある山の斜面を798本のワイヤの引張力などで安定させる。アンカーは長いもので80メートルに及ぶ。併せて地滑りの要因となる地下水を排出する工事を進める。

 ダムに起因する国の地滑り対策工事は、2005年から2009年にかけ白屋地区でアンカー169本、鋼管杭122本を施工。2011年には大滝地区で鋼管杭64本、高原トンネルの南入り口付近でアンカー123本。3地区いずれも湖岸に押さえ盛り土工を施した。抑止工の本数は、今回の本数を合わせると1276本に上る。

 村民の一人は「またか…」という顔をした。50年の歳月をかけたダムは2013年、完成。「ようやく工事車両が来なくなる」と住民は一息ついたところだった。

 これら地滑り対策の総額は約382億円(白屋地区の建物移転補償費なども含む)となり、大滝ダム建設費3640億円(県負担金606億円)の1割近くに達する。

 治水を主目的としたダムは特徴として、水位の上昇下降を繰り返しながら洪水を調節する。2003年に発生した白屋地区の地滑りはダムの貯水に直接起因。全37世帯が移転した。元地区住民らが国を相手取って提訴し、大阪高裁は2011年、国の安全対策に落ち度があったことを認定した。  

 高原トンネル内の亀裂は、南入り口から約50メートル入った地点などで確認されている。ダムの貯水と関係があるのか。国や県は明言していない。本年7月まで6回にわたり開かれた高原トンネル安全対策検討会は「(貯水による)水位の上下や降雨による変動速度の関係は明確ではない」としている。工事を担当する近畿地方整備局河川工事課の䋆本孝市課長は「この見解と当課の見方はほぼ一致する」と話す。

 検討会は今回の地滑りについて複数の「滑り面」を想定。このうち深度64メートルにおける「滑り面」の地点は、本年6月までの1年3カ月間、2ミリの変動が観測された。公共工事における地盤管理の一つの目安(高速道路調査会作成)では、10日間で1ミリ以上の変動があれば観測を強化し、5日間で5ミリ以上の変動があれば対策を検討するとされる。

40年前に警告 ダム建設事務所課長の論文
 建設省近畿地方建設局大滝ダム建設事務所(当時)は奈良県吉野町河原屋にあった。調査設計第二課長だった板垣治さんが1979年に書いた論文「ダム湛水(たんすい)の影響する破砕地帯地すべり地の斜面安定について一考察」は警告していた。

 よく知られた中央構造線の運動に伴い、大滝ダム周辺は無数の断層、褶曲(しゅうきょく)構造が発達し、地下深部の地層は破砕され、粘土化した脆弱な状態があることを板垣さんは重視していた。こうした地質状況から、ダム完成後の貯水位変動による地滑りの発生を危ぶみ「実態および体系づけられた文献もほとんどなく、現場ではその対策に非常に苦慮している」と書き残したのだった。

 その後、繰り返される地滑り対策の工事をたどると、経済性に疑問を残す。当初、川上村民は大滝ダム建設に激しく反対した。1980年代に入ると村は本体工事に同意し、現在は奈良県民の水道水源の村として、ダムの存在意義を積極的にアピールする。郷里の白屋地区を追われた橿原市石川町の横谷圀晃さん(79)は「古老の言い伝えが何よりの防災でした」と振り返る。

 高原トンネル周辺の地滑り対策工事に関し、村役場は林業建設課が窓口となる。担当者は「いまは一刻も早く工事を終了させてくださいと、沿線の上北山村、下北山村との三村でつくる国道改良協議会の名で国、県にお願いしている」と話す。

—転載終わり—

 ニュース奈良の声には、浅野詠子さんによる大滝ダム関連記事がほかにも掲載されています。
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