昨日10月6日、7月の球磨川水害を検証する国と熊本県、流域自治体による第二回の委員会が開かれました。
地元の熊本日日新聞の記事をお伝えします。国土交通省が川辺川ダム計画の復活を目指していることがますます明らかになった今回の委員会。かつてダム計画によって分断された球磨川流域では、復興途上にありながらダム問題に揺れる事態となっているようです。
他紙の記事はこちらのぺーじにまとめてあります。⇒「球磨川水害第二回検証委員会、「ダムありき」で議論加速」
◆2020年10月6日 熊本日日新聞
https://this.kiji.is/686347546003997793?c=92619697908483575
ー川辺川ダムあれば「浸水6割減」 7月豪雨検証委が結論ー
球磨川流域で発生した7月豪雨災害の検証委員会が6日、熊本県庁であり、国土交通省は建設が中止された川辺川ダムが存在した場合、人吉市の浸水面積は約6割減少し、浸水の深さが3メートルを超える面積は約9割減少するとの推定結果を公表した。その場合のピーク流量は毎秒4800トンに達し、安全に河川を流せる流量(同4千トン)を超えるため「現行のダム計画だけでは全ての被害を防げない」とも結論付けた。
検証委は全ての項目を検証できたとして、今回で終了。今後、具体的な治水策を協議する場を新たに設けることを決めた。
川辺川ダム計画を巡っては、豪雨被害を受け、ダムも選択肢とした治水対策を求める声が浮上。議論が再燃しているだけに、今回の推定値がダム推進論を勢いづかせる可能性がある。
検証委には同省と県、流域12市町村が参加し、開催は2回目。同省の検証結果では、市房ダムがなく、上流部での氾濫がなかった場合の人吉市のピーク流量を毎秒7900トンと推計。市房ダムの洪水調節などで流量を同7400トンとし、川辺川ダムがあれば、さらに同4800トンに抑えられたとした。
この結果に基づき、流域の水位計や氾濫状況などから水位低減効果を推計。人吉市の市街地で約1・9メートル、球磨村渡で約3・7メートル、八代市横石で約1・4メートルの水位が下がるとした。
一方、2008年の蒲島郁夫知事の白紙撤回表明後、検討してきたダムによらない治水策の効果も推計。最も効果が高かったのは遊水地を中心に引き堤などの対策を加えた案(工期50年超、事業費1兆2千億円)で、人吉地点のピーク流量は1900トン減の5500トンとした。水位低下は人吉市で約2・5メートル、球磨村渡が約2・7メートル、八代市横石で約1・5メートルとなった。
質疑応答では首長の一部から、流水型ダムの検討を求める声が上がり、蒲島知事は終了後の会見で「住民や各団体との意見交換を行い、あらゆる選択肢を検討していく」と述べた。(野方信助)
◆2020年10月7日 熊本日日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/45ded74958fdc1397b4445cada562fbc65955733
ーダムの必要性、訴え相次ぐ 豪雨検証委で球磨川流域首長 地元合意条件の声もー
6日熊本県庁で開かれた球磨川豪雨検証委員会では、川辺川ダムが建設されていれば人吉市の浸水範囲が6割減少するなどとする推定が国から示された。検証委の席上や終了後、流域の12市町村長からはダムの必要性を訴える発言が相次いだ。
竹崎一成・芦北町長は「ダムは必要」とする考えを初めて示す一方、ダムによらない治水の重要性も示した。25人が犠牲となった球磨村の松谷浩一村長も「必要」とした上で、「流域市町村長の合意を経て、ダムによらない治水策も同時に進めるべき」とした。
川辺川ダム建設促進協議会長の森本完一・錦町長は「被害の軽減効果が示されたことでダムの必要性が立証された」と強調した。
「必要」に条件を付けたのは中村博生・八代市長。「八代市には住民運動が荒瀬ダム撤去につながった歴史があり、地元の合意形成は欠かせない」と話した。ダムの最大受益地となる人吉市の松岡隼人市長は「安全性を高めるため、やれることは全てやることが重要」とし、ダムの是非は明言しなかった。
ダムの予定地を抱える相良村の吉松啓一村長は「村民は日本一の清流、川辺川を誇りに思っている。将来に残すことができる対策を取ってほしい」と複雑な表情。木下丈二・五木村長は「必要かそうでないかは、流域の皆さんの判断に任せたい」と述べた。(熊本豪雨取材班)
◆2020年10月7日 熊本日日新聞
https://this.kiji.is/686395474187240545?c=92619697908483575
ー熊本豪雨 川辺川ダム効果、疑問残ったまま ソフト面検証も深まらずー
7月の豪雨災害について国と熊本県、流域12市町村による検証が6日終了した。会合2回、計4時間余り。国が示したのは、川辺川ダムに頼らない治水の「限界」と、ダムが造られていた場合の効果の大きさを示す数字だ。ただ、国の推定に依然として首をかしげる専門家もいる。市町村による避難情報の発信の仕方など、ソフト面の検証も深まらなかった。
人吉と渡(球磨村)で毎秒2600トン、横石(八代市)で2000トン-。国が示した川辺川ダムの流量削減効果だ。
■過信せず
「ダムを柱に全体の治水を考えるのが現実的だと立証された」
水害直後から川辺川ダムによる被害軽減効果の大きさを主張する京都大防災研究所の角哲也教授(河川工学)は、検証委の結果が自分たちの研究と「おおむね同じ方向だ」と、これを評価した。
ただ従来、協議されてきた遊水地整備などの対策も「人吉で1900トン、渡で1800トン、横石で1700トン」と一定の効果が示された。角氏は「ダム以外のメニューや工期なども、もう一度精査するべきだ」と提言。今回とは違う雨の降り方のシミュレーションも必要で、「ダムの効果のみを過信してはいけない」と注文した。
■「非定量」
一方、ダム治水の限界を訴える京都大の今本博健名誉教授(河川工学)は、議論の出発点になる国の流量推定自体に「疑問がある」とする。
今本氏の計算では、人吉地点のピーク流量は、市房ダムの削減効果を加味しても毎秒8000~9000トン。国の推定値の7400トンとは大きな開きがある。「人吉地点の流量が小さくなることで、ダムの効果が相対的に大きくなっていないか」と今本氏。
ダムも含め全ての対策を実施したとしても、国が設けた長期的目標値をクリアできないことから「対象洪水を設定して対策する『定量治水』から、対象を設定せず、可能な対策を積み重ねる『非定量治水』に転換すべきだ」と力を込める。
■言及ゼロ
会合では、被害が甚大だった人吉市や球磨村など6市町村の初動対応に関する資料も公表。ネットワークの障害などで住民に避難情報が伝わらないなど、ソフト面の課題も浮き彫りとなった。
浸水や土砂崩れの影響で、防災無線が一部不通となる市町村が続出。八代市では障害で避難指示が住民に伝わらず、県が代行して発信した。
さらに各市町村が出した避難情報は夜間から未明に集中。被災地で復興支援に携わる熊本大熊本創生推進機構の安部美和准教授は「夜中に出されても住民は動けない。行政が危機感を持ち、空振りを恐れない早めの判断が必要」と話す。
ただ流域首長が顔をそろえた検証会合での議論は、ダム中心のハード面に集中し、ソフト対策に関する言及はほぼゼロ。安部准教授は「ダムなどのハードが整備されても、今後の水害で『ダムがあるから大丈夫』と逃げ遅れれば意味がない。ソフトとセットで力を入れるべきだ」とくぎを刺した。(太路秀紀、臼杵大介、堀江利雅)
◆2020年10月7日 熊本日日新聞
https://www.47news.jp/localnews/5345175.html
ー熊本豪雨「治水考えるのはこれから」 蒲島熊本県知事一問一答ー
蒲島郁夫熊本県知事は6日の球磨川豪雨検証委員会後、球磨川の治水対策について普段は水をためない流水型のダムも含めてあらゆる選択肢を検討する考えを強調した。報道陣との主なやり取りは次の通り。(内田裕之)
-国、県が提示したダムによらない治水対策10案を7月豪雨に当てはめた検証結果が示されました。
「一定の流量の低減効果はあるが、被害防止の効果は少ない。コストがかかり、工期も長いため、非現実的な印象を受けた」
-川辺川ダムがあっても全ての被害は防げなかったことも明らかになりました。
「完全に防げたわけではないが、被害を減少させることができたのは確か。人吉市では浸水の範囲が少なくなった」
-そうすると、ダムを軸にした治水対策を検討するしかないとも聞こえます。
「検証結果を踏まえ、治水対策を考えていくのはこれからだ。今後設ける協議の場で国と流域市町村とともに話し合いながら進めていく」
-流水型ダムも含めて検討してほしいという意見が首長から出ました。
「全ての選択肢を排除しない。流域住民が望む治水対策を慎重に、スピード感をもって考えていく」
-2回の会合で検証は尽くされたと考えていますか。
「川辺川ダム問題は計画されて50年以上の歴史がある。この間、県民はさまざまな経験をしてきた。この歴史の中で考えないといけない問題だ」