「治水、住民の声こそ民意」元熊本県知事・潮谷義子氏インタビュー

 群馬県の八ッ場ダムと熊本県の川辺川ダムは、いずれも国直轄の巨大ダム事業であり、2009年に発足した民主党政権は、両ダムをはじめとする全国のダム事業の見直しを政見公約としました。
 しかしその民主党政権下で、八ッ場ダムは事業継続が決定し、川辺川ダム事業は中止とされ、明暗が分かれました。これは、八ッ場ダムの共同事業者であった利根川流域一都五県が、いずれもダム推進を国に求めたのに対して、川辺川ダム事業の共同事業者であった熊本県がダム計画の白紙撤回を求めたためです。

 ダム計画の白紙撤回を求めたのが蒲島郁夫・熊本県知事であったことから、蒲島知事は川辺川ダム中止の責任を追及される立場に立たされていますが、蒲島知事が白紙撤回を求めた背景には、前任の潮谷義子知事による川辺川ダム問題への取り組みがありました。熊本県では、潮谷県政下で川辺川ダムをテーマとした住民討論集会が9回も開催され、集会での議論や資料が広く公開されたことから、流域住民の多数がダム反対の意思を示すようになりました。

 地元紙が潮谷前知事へのインタビュー記事を掲載していますので、紹介します。

◆2020年10月12日 熊本日日新聞
ー治水、住民の声こそ民意 「ダム選択肢」丁寧に説明を 元熊本県知事・潮谷義子氏<再興 あなたに聞きたい>ー

しおたに・よしこ 佐賀、大分両県の社会福祉主事、乳児ホーム園長、熊本県副知事を経て2000年、知事に初当選。川辺川ダムをテーマにした「住民討論集会」を実現し、広く議論を巻き起こした。ダムに関しては最後まで賛否を明言しなかった。2期8年で退任。現在、社会福祉法人「慈愛園」理事長。81歳

 7月の豪雨を受けて国土交通省と熊本県、流域市町村が協議を進める球磨川の治水対策。蒲島郁夫知事は11月中をめどに県としての対策を取りまとめ、「民意を問う」との考えを示した。知事時代、川辺川ダムを巡る「住民討論集会」を提唱した潮谷義子氏は「時間に縛られず、できるだけ多くの人たちの話に耳を傾けてほしい」と語る。(聞き手・臼杵大介)

 -討論集会は計9回開かれ、延べ1万人以上が参加しました。
 「川辺川ダムそのものが理解されない中、推進、反対の厳しい対立の構図だけが目立っていた。県政にとって大きな課題にもかかわらず、県民の関心事には程遠いという感覚もあった。そこで、県民に国、県が説明責任を果たすべきだと思った」

 -討論集会で民意はつかめましたか。
 「県政の柱にユニバーサルデザイン(UD)を置いていたが、UDは当事者を中心に置く考え方。福祉に携わってきた身として、当事者である住民に事柄をしっかり理解してもらい、その意見に耳を傾ける姿勢が大事だと思っていた」
 「集会は3回目くらいから、洪水時の最大想定流量などの専門領域に入り込み、住民の関心が離れていった。なぜダムを造るのか、どれくらい費用が必要かなど、肌感覚の中でダムを理解する集会をやるべきだった」

 -豪雨を受け、蒲島知事はダムを「選択肢の一つ」と発言し、自身が12年前に表明したダム建設の白紙撤回を“白紙化”しました。
 「現地の惨状を見ての発言だと思うが、ダムを一度、白紙撤回したという重さを考えるべきだったと思う。知事の発言は重い。(水没予定地を抱える)五木村出身のタクシー運転手は『五木はまたダムに翻弄[ほんろう]される』と不安を覚えていた」

 -蒲島知事の立場をどう考えますか。
 「ダムの白紙撤回と、ダムを選択肢に入れるというのは大きな隔たりがある。どちらにしても県民への説明責任が問われる。結論に至るまでのプロセスを、ステークホルダー(利害関係者)である県民全体に丁寧に説明してほしい」

 -豪雨の検証はどう進めるべきですか。
 「検証段階から国交省、県、流域市町村だけでなく、当事者である住民を含めるべきだと思う。現地のことを一番知っているのは住民。大変な被害に遭い、いろんな矛盾を感じているからこそ、生の声を聞くのが大事だ」

 -民意の問い方はどうあるべきですか。
 「私が尊敬する(下筌ダム建設反対闘争を繰り広げた)故室原知幸さんの『公共事業は法にかない、理にかない、情にかなわなければならない』という言葉が大事だ。民意を問わないと、情にかなうところにはたどり着かない。できる限り幅広く耳を傾けて結論を出すことが、県民の納得につながるのではないか」
 「民意を見極めるには、絶えず謙虚に『これでいいのか』とプロセスを省みる必要がある。預かりものの県政に、付加価値を付けて県民に返す責任と義務が県政のトップには課せられている」