蒲島郁夫熊本県知事、川辺川ダム推進表明

熊本県の蒲島郁夫知事は、7月の球磨川水害後の治水対策として、球磨川支流の川辺川に国が計画した川辺川ダムを流水型(穴あきダム)として建設するよう、国に要請しました。
 川辺川ダムは2008年に蒲島知事が白紙撤回を国に求めたことから中止されていましたが、知事の180度の方針転換により復活することになりました。川辺川ダム計画が中止されたこの10年余りの間、国土交通省と熊本県は、「ダムによらない治水」を追求するとしながら、河床掘削などの喫緊の治水対策を行わずにきました。

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◆2020年11月19日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20201119/k00/00m/040/096000c
ー川辺川ダム「流水型」建設要請へ 熊本県知事「環境に極限まで配慮」ー

  7月の九州豪雨で氾濫した球磨川の治水対策について、熊本県の蒲島郁夫知事は19日の県議会全員協議会で「ダムの効果を過信することはできないが、被害防止の『確実性』が担保できるダムを選択肢から外すことはできないと判断した」と述べ、2009年に旧民主党政権が中止した川辺川ダムの建設を容認する考えを表明した。その上で「住民の命と地域の宝である清流を守る」ために、水をためる一般のダムより環境への影響が小さいとされる「流水型」でのダム建設を国に要請するとした。

 川辺川ダムは、治水に農業利水や発電を加えた多目的ダムとして、球磨川最大の支流の川辺川上流に国が建設を計画。蒲島知事が08年、ダム建設予定地の相良(さがら)村や最大受益地の人吉市の当時の首長が反対していることを理由に計画の「白紙撤回」を表明し、翌年、旧民主党政権が中止を決めた。

 ただ、特定多目的ダム法に基づく貯水型のダム計画自体は現在も廃止されておらず、知事は「計画の完全な廃止を国に求める」と表明。その上で普段は川の水がそのまま流れ、大雨時だけ水をためる流水型ダムの特性を強調し「流水型にすることで、環境に極限まで配慮することができると考えている」と語った。また、流域住民の理解を得るため、国に環境影響評価(アセスメント)の実施を求める考えも示した。

 国は豪雨被害後に設置した検証委員会で「川辺川ダムがあれば、人吉地区の浸水面積を約6割減らせた」とする推計を10月に示した。一方で川辺川ダムがあっても球磨川の氾濫自体は防げなかったと結論づけており、知事は流水型ダムに遊水地など複数の対策を組み合わせ、流域全体で被害を防ぐ「流域治水」に取り組む方針も表明。ダム建設には時間がかかることから「早急に行うべき事業は、ちゅうちょすることなく、重点的かつ確実に実施する」と語った。

 今回の豪雨では県内で65人が亡くなり、そのうち50人が球磨川流域の住民だった。知事は「私は二度とこのような被害を起こしてはならないと固く決意し、一日も早い復旧・復興を果たすことを心に誓った」と述べ、ダム容認の結論に達した背景として、球磨川沿いに建つ球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園(せんじゅえん)」で濁流にのまれた入所者14人が亡くなった惨事にも言及した。

 流域の住民から「被災者の生活再建を優先すべきだ」という声が上がっている点については、治水の方向性が決まらない限り、宅地のかさ上げや高台移転などが検討できず、被災した国道やJR肥薩線の復旧などにも着手できないと説明。豪雨から4カ月余りでの方針転換に理解を求めた。【城島勇人、平川昌範、清水晃平】

◆2020年11月19日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20201119/k00/00m/040/146000c
ー蒲島郁夫・熊本県知事の川辺川ダム容認表明全文ー

1 はじめに
 2008年9月11日、この本会議場において、その決断の重さを感じながら、川辺川ダム問題に関する私の考えを表明しました。
 それから12年余りが経過した本日、同じ議場において、私自身が決断した問題に再び向き合うことに、重大な責任と、運命にも似た「使命感」を持ち、この場に立っています。
 これより「球磨川流域の治水の方向性」に関する私の考えを、改めて述べさせていただきます。

2 12年前の決断
 私が08年4月に熊本県知事に就任し、直ちに取り組んだ重要課題が「川辺川ダム問題」です。
 1966年の建設計画の発表から40年以上が経過し、それでも解決の糸口が見いだせず、ダムの是非を巡る地域の対立は、深刻な状況にありました。
 そこで「就任後、半年で結論を出す」と自ら退路を断った上で、有識者会議を直ちに設置し、国内外を代表する方々に多様なご意見をいただき、川辺川ダムを建設するか否か、熟慮に熟慮を重ねました。
 会議では、それまでの基本高水(たかみず)の「数値の正しさ」に力点を置いた議論から脱却し「ダムによって得られるメリットやデメリットはどういうものなのか」「地域の将来像をどうしたいのか」という視点を提供していただきました。
 その上で、有識者からいただいたご意見は「河川工学の観点からは、根本的な対策を実施する場合には、ダムが最も有力な選択肢である」というものでした。
 一方で「治水」の観点だけに限らず、球磨川が地域の「誇り」として、住民の暮らしに根付いていることに気づき、私は「球磨川そのものが地域の守るべき宝」ではないかと考えるようになりました。
 「過去の民意」は、水害から生命・財産を守るため、ダムによる治水を選択しました。しかし12年前、流域住民の声に耳を傾けたとき、「当時の民意」は「ダムによらない治水」を望んでいると判断しました。
 そこで、川辺川ダム計画を「白紙撤回」し、ダムによらない治水を極限まで追求すべきだとの考えを表明しました。
 白紙撤回を表明したのち、直ちに国・県・流域市町村で「ダムによらない治水を検討する場」を立ち上げました。検討を進める中にあっても、地域の理解が得られた対策については、順次、事業を進め、県の基金を活用した防災・減災対策も進めてまいりました。
 また、ダムによらない治水を極限まで追求するため、新設のダム以外の方法で、引堤(ひきてい)、堤防のかさ上げ、遊水地、放水路、市房ダムの再開発などを組み合わせた10案についても検討を進めてきました。
 しかし、この10案については、事業費が莫大(ばくだい)であること、工事期間も長期に及ぶことなどから、実施に向けた治水対策として、流域の皆様と共通の認識を得るまでには至りませんでした。

 3 「令和2(2020)年7月豪雨」の発生
 そのような中、この度の「令和2年7月豪雨」が発生しました。
 我々の想定をはるかに超えるすさまじい豪雨は、一気に球磨川やその支川に流れ込み、甚大な被害をもたらしました。
 川のせせらぎを間近にのぞむ温泉旅館は、一瞬のうちに、濁流にのみ込まれ、水が引いた後には、見渡す限りの土砂やがれきで埋め尽くされていました。
 地域を支えていた商店や工場なども浸水し、生活の基盤である「住まい」とともに、「なりわい」までも奪い去ってしまいました。
 この惨状を目の当たりにし、改めて、自然の脅威を痛感しました。
 ダムによらない治水の検討を進める中で、この度の被害が発生し、65人の尊い命が失われ、2人の方が行方不明となっておられることに、知事として重大な責任を感じております。
 改めて、この度の豪雨災害の犠牲になられた方々、被害を受けられたすべての皆様に、お悔やみとお見舞いを申し上げます。
 そして、決して取り戻すことができない命の重みを考え、私は、二度とこのような被害を起こしてはならないと固く決意し、一日も早い復旧・復興を果たすことを心に誓いました。

 4 豪雨災害の検証
 被災者の住まいとなりわいの再建を目指す中で、その前提となるのが、球磨川流域の治水の方向性です。
 その方向性を決めるには、まず、今回の豪雨災害について、科学的・客観的に検証することが必要と考え、国・流域市町村とともに「令和2年7月球磨川豪雨検証委員会」を立ち上げました。
 この検証で、球磨川流域の各地点において、観測史上最高の水位が確認されました。
 また、今回の流量は、人吉地点で治水の目標とする毎秒7000トンを大幅に超える、だれもが予測できないものでありました。
 仮に川辺川ダムが存在した場合の効果については、人吉地点において、市街地の浸水範囲を6割程度減少させ、水位を約1・9メートル低下させることが確認されました。
 しかし、現行の川辺川ダム計画だけでは、今回の被害をすべて防ぐことはできないとの試算も示されました。
 今回の検証について、私は、データ分析に基づく浸水想定と、実際の洪水痕跡を重ね合わせて比較するなど、国土交通省において、丁寧かつ客観的な検証結果を示していただいたと受け止めています。

 5 「現在の民意」を確認する必要性
 その後、私は、流域すべての市町村を対象に、30回にわたり、市町村長、関係団体、事業者、住民の皆様、さらには、川辺川ダム建設に反対する団体の皆様とお会いし、直接、治水の方向性や復興に向けた課題、思いを伺ってまいりました。
 また、私に届いたお手紙や提案書、新聞への投書についても自ら目を通し、あらゆる「民意」と向き合ってきました。
 50年以上に及ぶ議論を踏まえた上で、「現在の民意」を汲み取り、治水の方向性を決断することが、知事としての私の使命です。
 今回の決断に当たっても、12年前と同様に、あるいは、より丁寧に、私自身が見渡せる限りの「民意」をくみ取り、知事の責任と覚悟で、決断いたします。

 6 流域の皆様から寄せられた思い~「球磨川への愛」
 流域の皆様と意見交換を行う中で、強く訴えられたのは、「一日も早く安全な地域をつくり上げてほしい」「二度と水害に遭わないようにしてほしい」という思いです。
 ダムに関しても、「流域の安全を確保するためには川辺川ダムを造るしかない」というご意見、反対に、ダムが環境に与える影響を懸念し、「ダムによらない治水を進めるべきだ」というご意見もいただきました。
 そして、どの会場でも寄せられたのが、球磨川に対する「深い愛情」です。「球磨川は悪くない」「球磨川の清流を守ってほしい」と語られる姿に、胸が熱くなりました。
 また「ダムの議論の前に、被災者の生活再建など、今やるべきことがあるのではないか」という厳しいご意見もいただきました。
 しかしながら、「球磨川流域の治水の方向性」が決まらなければ、住まいやなりわいの再建はできません。元の場所での再建、あるいは宅地のかさ上げ、高台への移転などを検討できないからです。
 さらに、球磨川沿いを走る国道219号や流された多くの橋、JR肥薩線など、地域の重要な交通網の復旧に着手することができず、復興まちづくりは、さらに遅れることになります。
 小此木八郎防災担当相と訪ねた仮設住宅で、住民の方から「元の場所に建て直してよいのか分からない」「治水計画を早く作ってほしい」という切実な訴えをお聞きしました。
 再建に向けた被災者の苦しい状況を一日も早く解消したい、それが私の思いです。
 治水対策や復興に向けての考え方はさまざまであり、すべての方を満足させることは難しいのかもしれません。
 しかし、私自身が持ちうる最大限の力で、皆様の声を受け止め、一人でも多くの方にご理解いただける方向性を見いだすことが、知事としての務めだと考えています。

 7 「現在の民意」について
 さて、これより、球磨川流域の治水の方向性に関する、私の考えを述べさせていただきます。
 長年に及ぶ過去の歴史を振り返り、まず私が心に誓ったことは、ダム建設を巡る地域の「対立」を再び引き起こしてはならないということです。
 この気持ちを第一に、これまで流域の皆様のご意見や復興への思いに耳を傾け、対話を重ねてまいりました。
 その中で「現在の民意」は、「命」と「環境」を守ること、つまり「命と環境の両立」だと受け止めました。これこそが、すべての流域住民に共通する「心からの願い」ではないでしょうか。
 この二つを両立させることは容易ではありませんが、ぜひとも成し遂げなければならないと考えています。なぜなら、球磨川と住民が共生する姿こそが、球磨川流域の魅力であり、これから先も、この地域を支える大きな力になると確信しているからです。

 8 決断と表明
 「命」と「環境」を守り、両立すること、この願いを極限まで突き詰めたとき、これまでの「ダムか、非ダムか」という二項対立を超えた決断が必要です。
 私は、その答えが、河川の整備だけでなく、遊水地の活用や森林整備、避難体制の強化を進め、さらに、自然環境との共生を図りながら、流域全体の総合力で安全・安心を実現していく「緑の流域治水」であると考えます。
 そこで、長年にわたり、地域を二分してきた「川辺川ダム問題」について大きな決断をすることにしました。
 私は、ここに、特定多目的ダム法に基づく現行の貯留型「川辺川ダム計画」の完全な廃止を国に求めます。
 その上で「緑の流域治水」の一つとして、住民の「命」を守り、さらには、地域の宝である「清流」をも守る「新たな流水型のダム」を、国に求めることを表明いたします。

 9 決断の理由
 流域住民の皆様の思いを伺っていく中で、先ほども述べました「命と環境の両立」、つまり、その両方を守ってほしいという願いが、私が感じ取った民意です。この「民意」が、私が今回の決断を行った最大の理由です。
 また、4人の識者からは、専門的な見地に基づくご意見をいただきました。具体的には、第一に、ダムの効果が過大に検証されているのではないかというご意見、第二に、ゲート付きの流水型のダムとすることで、環境への影響を大幅に下げることができるというご意見、第三に、洪水調節の開始流量を大きくすることで、環境への影響を抑えることができる、また、ダムを設計する技術者が環境への愛情を持つことが必要だというご意見、第四に、今後は地球温暖化の影響による「不確実性」に備えた治水計画が必要といったご意見をいただきました。
 これらのご意見を聞いて、知事として、ダムの効果を過信することはできないが、被害防止の「確実性」を担保できるダムを選択肢から外すことはできないと判断しました。さらに、ダムを流水型にすることで、環境に極限まで配慮することができると考えております。
 また、先月26日には、五百旗頭真座長から「くまもと復旧・復興有識者会議」における議論をまとめた提言書をいただきました。
 この提言の中で「ダムを排除せず、すべての減災手法の有効性と限界を科学的に検証し、コストも考慮して、持続可能なベストミックスを求めるべきだ」、さらには「単に水害からの復旧を求めるのではなく、緑豊かな地域の特性を活かして“熊本独自のグリーンニューディール”を目指すべきだ」という復興の哲学が示されています。
 こうした「住民の願い」や「識者の提言」を踏まえ、私は「緑の流域治水」の取り組みの一つとして、平時には流れを止めずに清流を守り、洪水時には、確実に水をためる「流水型のダム」を加えることが、「現在の民意」に答える唯一の選択肢だと確信するに至りました。

 10 直ちに取り組む治水対策
 ただ「新たな流水型のダム」を含む「緑の流域治水」に直ちに取り掛かったとしても、その効果が十分に発揮されるまでには、相当の期間を要します。
 今回のような想定を超える豪雨、さらには、それさえも上回る豪雨は、いつ、どこで起きても不思議ではありません。まさに、私たちにとって、現実の脅威となっています。
 そのため、早急に行うべき事業は、ちゅうちょすることなく、重点的かつ確実に実施して参ります。
 年度内の早い時期には「緊急治水対策プロジェクト」を策定し、国や市町村との連携のもと、支川を含む河床の掘削、堤防や遊水地の整備、宅地のかさ上げ、高台への移転、砂防・治山事業など、今すぐに行うべき対策を徹底して実行します。
 また、今回の検証や識者との意見交換で明らかになった初動対応、つまり「命を守る行動」についても、流域の市町村や、住民の皆様の力を結集し、取り組んでまいります。

 11 忘れてはならない出来事
 私が、このような決断をする背景には、決して忘れることができない話があります。それは、14人の方が亡くなった球磨村渡地区の特別養護老人ホーム「千寿園(せんじゅえん)」でのことです。
 早朝、河川が氾濫する中、施設の職員、さらには駆け付けた地域の皆様が、懸命に救助を行われました。しかし、氾濫した豪雨は、利用者が集まる1階に一気に流れ込み、2階に避難することが、最後の手段となりました。
 駆け付けた住民の方が、目の前の高齢者を抱え、2階に上がろうとされました。その瞬間、まだ下の階で待たれているご自身のお母様の姿が見えたそうです。
 「次に戻ったら、必ず助けるから」、まさにそのようなお気持ちでおられたのだと思います。
 しかし、次の瞬間、助けに向かうはずだったお母様は濁流にのみ込まれ、そのまま帰らぬ人となってしまいました。
 今回の豪雨で亡くなられた方は、それぞれが大切なご家族であり、地域にとってかけがえのない存在です。この災害がなければ、ご夫婦やお子様、お孫様とともに、今も穏やかな暮らしを続けておられるはずでした。
 こうした何気ない日常や幸せを守ることが、なぜできなかったのか。この多くの犠牲に報いるために、私たちは何をしなければならないのか。この思いが、今も私の心に問いかけてきます。

 12 「命と環境の両立」に向け、国に求めていくこと
 私は今回、「新たな流水型のダム」を含めた「緑の流域治水」を進めていくことを決断しました。
 「新たな流水型のダム」は、安全・安心を最大化するものであるとともに、球磨川の環境に極限まで配慮し、清流を守るものである必要があります。
 この点を、流域の皆様に確認していただくためにも、客観的かつ科学的な環境への影響評価が必要であり、「法に基づく環境アセスメント、あるいはそれと同等の環境アセスメント」の実施を国に求めてまいります。
 併せて、球磨川の環境に極限まで配慮し、清流を守る「新たな流水型のダム」として整備が進められているのか、県や流域市町村だけでなく、流域住民の皆様とも一体となって、事業の方向性や進捗(しんちょく)を確認していく仕組みを構築してまいります。
 また、今回のお聞きする会で、流域住民の皆様が、いわゆる「緊急放流」に大きな恐れを抱いていることが分かりました。
 このため、ダムの効果やリスクについての正しい理解を流域の皆様からも得られるよう、説明責任を果たして参ります。

 13 新たなスタートの日
 私は、今回の決断をもって、今日のこの日を、球磨川流域の創造的復興に向けた「新たなスタートの日」にしたいと考えています。
 この決断により、住み慣れた家での暮らしやなりわいの再開に不安を感じていた方にとっても、安心して再建に着手していただけると考えています。
 また、JR肥薩線や国道219号など、交通インフラの復旧の方向性が定まり、被災した地域や産業の再生に向け、大きく前進すると確信しています。
 まもなく公表する「復旧・復興プラン」において、球磨川流域の方々が住み慣れた地域で「夢」と「誇り」を持ち、将来にわたって生活できるよう、具体的なビジョンと方策をお示しいたします。

 14 五木村の皆様への思い
 今回の決断に際し、私は、川辺川ダム問題に長年翻弄(ほんろう)され続けてきた五木村の皆様のことが、頭から離れることはありませんでした。
 できるだけ早く、私自身が五木村に伺い、村民の皆様や地域を翻弄してきたことへのおわびと、今回の決断、さらには五木村の振興に向けた決意について、直接お伝えしたいと思います。
 村民の皆様が、これから先も、末永く五木村で暮らしていけるよう、水没予定地や周辺地域の振興について、これまで以上の責任と覚悟をもって取り組むことを、改めて、お約束いたします。

 15 結び~日本の治水をリードする「球磨川モデル」へ
 知事の役割は「民意」を受け止め、未来に向けた「決断」をすることです。
 今回の決断により、これまでの「対立の歴史」に決着をつけ、「安全・安心な暮らし」と「球磨川・川辺川の自然と恵み」を、次の世代の子どもたちに引き継いでいきたいと、心から願っています。
 そして、この決断は、100年後の球磨川流域、さらには熊本県にとって、必要不可欠なものであったと振り返る日が来ることを確信しています。
 今後は、不退転の決意で、球磨川流域に安全と恵みをもたらす「緑の流域治水」に取り組み、日本の災害復興をリードする新たな全国モデル、いわば「球磨川モデル」として、必ずや、球磨川流域の創造的復興を成し遂げてまいります。

◆2020年11月19日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/feature/kawabegawa/1680736/
ー蒲島・熊本県知事、川辺川ダム推進ー

 熊本県の蒲島郁夫知事は19日の県議会全員協議会で、7月豪雨で氾濫した球磨川の治水対策について、国に対し、現行の貯水型による川辺川ダム計画を廃止した上で、環境負荷を減らすとされる流水型(穴あき)のダム建設を求める考えを正式表明した。知事は「住民の命を守り、地域の宝である清流を守る。命と環境の両立が民意」と述べた。

 2008年に蒲島知事自身が「白紙撤回」を表明し、民主党政権が09年に中止の方針を決めた川辺川ダム問題は、再び建設に向けて動きだす公算が大きくなった。
 表明で蒲島知事は、新たな流水型ダムへの転換に当たって、国に環境影響評価(アセスメント)を求めると明言。遊水地整備などのハード対策や早期避難のソフト対策を総動員した「流域治水」も進めるとした。

 7月豪雨では、球磨川流域で50人の犠牲者が出た。流域の12市町村長でつくる協議会はダム建設を含む治水対策を国、県に要望していた。

◆2020年11月19日 NHK熊本放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20201119/5000010602.html
ー知事 治水に流水型ダム建設表明ー

 ことし7月の豪雨で氾濫した球磨川流域の治水対策をめぐり、かつて「川辺川ダム計画」を白紙撤回した熊本県の蒲島知事はこれまでの「ダムによらない治水対策」を転換し、環境に配慮した新たなダムの建設を国に求める考えを表明しました。

 蒲島知事は19日午前、県議会の全員協議会に出席し、7月の豪雨で氾濫した球磨川流域の治水対策について、12年前に白紙撤回した川辺川ダム計画への考えを含め今後の方向性を説明しました。

 この中で蒲島知事は「住民の『命』を守り、さらには地域の宝である『清流』も守る『新たな流水型のダム』を国に求める」と述べ、みずから主導してきた「ダムによらない治水対策」を転換したうえで、新たなダムの建設を国に求める考えを表明しました。

 関係者によりますと、川辺川での建設を想定しているということです。

 『流水型』のダムは、大雨のとき以外は水をためずにそのまま流す構造で、従来の『貯留型』のダムと比べ環境への影響が少ないとされています。

 蒲島知事は環境に配慮した『流水型』のダムとそのほかの対策を組み合わせて、流域全体で水を受け止める「緑の流域治水」を進めるとしています。

 球磨川流域の治水対策をめぐっては、国が先月、川辺川ダムが建設されていれば浸水範囲を6割減らせたなどとする検証結果を示し、流域の市町村長を中心にダム建設を求める意見が相次いだ一方、環境への影響を懸念する根強い反対の声もあがっていました。

◆2020年11月19日 西日本新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/cefe1aecc01b911ed602d7257041131363a1ad21
ー川辺川ダム、熊本知事容認表明 白紙撤回から12年、豪雨被害に「重大な責任」ー

 7月の熊本豪雨で氾濫した球磨川流域の治水策について、熊本県の蒲島郁夫知事は19日、県議会全員協議会で最大支流の川辺川へのダム建設を容認する考えを表明した。「命と環境を守ることを両立させる」との考えに立ち、現行の貯留型ダム計画の廃止と、環境に配慮した「新たな流水型ダム」(穴あきダム)の建設を国に求める。2008年に「脱ダム」へとかじを切った流域は未曽有の災害を経験し、ダム建設を前提に「流域治水」へと転換する。

 20日、赤羽一嘉国土交通相との会談で治水の方向性を説明。国に環境影響評価(アセスメント)の実施も求める。

 蒲島氏は冒頭、県内で65人が死亡し、流域で6千棟以上が浸水した今回の豪雨について「知事として重大な責任を感じている」と反省。「二度とこのような被害を起こしてはならないと固く決意し、一日も早い復旧・復興を果たすことを心に誓った」と述べた。

 続いて10月から開いた意見聴取会に触れ、「『球磨川の清流を守ってほしい』と語られる姿に胸が熱くなった」と語った。

 さらに住民の声を聴く中で、住民の命、地域の宝である清流を守ることが「民意」だと感じたと強調。その上で「被害防止の確実性を担保するため、治水の選択肢からダムを外すことはできない」と述べ、環境負荷が小さいとされる流水型ダムに至ったと説明。ダムの構造など具体的な説明はなかったが、「環境に極限まで配慮することができると考える」とした。

 またダムに加えて、水田に水を引き込む対策などを組み合わせた「緑の流域治水」を掲げ、「県や流域市町村、住民が一体となって、事業の方向性や進捗(しんちょく)を確認する仕組みを構築していく」との考えを示した。

 表明後の県議との質疑では、地球温暖化で雨の降り方が変わってきた点を強く指摘。終了後の記者会見では「決断したことを自分の手で変えなければいけないのはつらいが、県民にとって何が一番いいか考えて判断した」と述べた。

 県は国と協力して「ダムによらない治水」を検討してきたが、代替案がまとまらないうちに今回の災害が発生した。(古川努)

◆2020年11月20日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASNCM7416NCMTLVB00R.html
ー川辺川ダム容認 会見一問一答「豪雨予想できず責任」ー

 川辺川へのダム計画を2008年に「白紙撤回」した蒲島郁夫知事自身が19日、容認へと方針転換すると明言した。住民の生活再建や鉄道、国道復旧の「前提」として治水の方向性を打ち出した形だが、ダム完成の時期や、環境悪化の抑止策など具体的な道筋は示せていない。ダム建設への反対意見も根強いなか、記者会見では民意の問い方への疑問も相次いだ。

     ◇

 ――県議会で示した治水方針はいつ判断したか。

 流域の人たちの民意の本質には何があるかをずっと考えてきた。最終的には、命と環境の両立が共通の願いと感じた。「緑の流域治水」の枠組みの中で、流水型ダムがその両立に貢献すると思い、新たな治水の在り方として申し上げた。復旧・復興を考えると、国道や線路などは水位が決まらないと造れない。水位は治水で決まるので、治水の方向性は早めに示さないといけない。

 ――流水型ダムはいつごろ計画がスタートして、完成するという考えか。

 流水型を国に要望したからといってすぐにできるものではない。環境に優しく、清流を守るというリクエストも付いている。国土交通省もしっかりと受け止めて、合意してもらうことが大事。何年かかるかわからないが、土砂撤去などできることからやっていく。

 ――白紙撤回から12年。この間、宅地かさ上げや堤防の整備などもっとできたことがあったのでは。知事の責任をどう考えるか。

 ダムによらない治水を極限まで検討して頂きたいと国や市町村にもお願いしてきた。ただ、その実現に至る前に大きな豪雨が来た。予想できなかったことに大変な責任を感じている。

 ――流水型ダムの環境・治水両面の効果をデータで住民に示した上で民意を問うという考えは。

 今までの経験や専門家、国交省の意見を踏まえ、可能だという判断の下に今回の決断がある。それでも多くの方が疑問を持っているので、きょうの表明文にもあるように、環境アセスメントの実施を国に求める。県市町村、流域住民が一緒に事業の方向性や進捗(しんちょく)を確認する仕組みもつくる。

 ――ダムに反対する方にはどう対応するのか。

 一番大事なポイントは、これまでの川辺川ダム(計画)を100%否定したということ。(意見を聴く会などでの)今までの議論を聞くと、だいたい想像されているのは、利水ダムとしての川辺川ダム。そうではなく、今回の表明では命と環境を両立しうるような洪水調整機能を提案した。

 ――ダムについては賛成多数でなくても進めるべきだという考えか。

 民意がわからないから、何もしないという選択肢は知事にはない。民意がどこにあるかわからない段階では、将来の民意はこうだろうと考えながら決断する。

 ――五木村の水没予定地にはどう対応するのか。

 村を自ら訪問して、これまでのご迷惑へのおわびをし、村の発展・繁栄のために何ができるかをお話ししたい。

 ――「緑の流域治水」の具体的な策は。

 遊水地として耕作放棄地が利用できるかもしれない。農家の方々が治水のために、自分の田んぼを最大限利用できるようなシステムがあればいい。7月の豪雨災害を多くの方が経験して、治水に参加しようという気になっている。とても貴重なことで、全員が参加しないと「緑の流域治水」は成立しない。(井岡諒)