今朝の上毛新聞は、トップ記事で八ッ場ダムを抱える群馬県長野原町にダム所在交付金が支払われることを取り上げました。
ダム等の国有資産がある市町村は、国有資産等所在市町村交付金法に基づいて、固定資産税の代わりにダム所在交付金が交付されることになっています。東京都水道など、水道、工業用水道等のダム使用権設定者が国に納付し、国が市町村に交付するという形をとります。
八ッ場ダムは昨年4月に運用を開始しました。記事によれば、21年度分として初めて長野原町に支払われる八ッ場ダムの交付金の額は約4億5千万円です。しかし、その分、地方交付税が約3億円減額されるため、実質の増収額は約1億5000万円とのことです。「最初の5年間は、ダムなど固定資産の評価額を基に算出された金額の2分の1、6~10年目は4分の3、11年目以降は満額が交付される。」と書かれており、年数が経過すると交付金額は増えるようにも受け取れますが、実際は年数がたつとダムの資産価値が減り、将来的には次第に減額されていきます。
当会の嶋津暉之さんが10年ほど前に試算したところ、長野原町の純収入は2~3億円でした。これだけの増収があったとしても、ダムによって失われたものをおぎなえるわけではありません。八ッ場ダム事業では水没住民はダム湖周辺に造成した代替地に移転する計画でしたが、多くの住民が地区外、町外へ転出しました。地区全体が水没した川原湯地区と川原畑地区の人口は、1979年当時930人(群馬県調査)から今年1月203人に減少しています。
(参考)⇒長野原町人口集計表
2009年に発足した民主党政権が八ッ場ダム中止を掲げた時、長野原町では行政をあげてダム建設中止反対署名運動が行われました。ダムが中止になれば予定していた交付金が入らなくなり、長野原町は財政破綻して「第二の夕張」になってしまうと言われました。
ダムは完成し、ダム所在交付金によって長野原町は増収になりますが、今後の財政状況は厳しいと言われています。潤沢なダム関連事業費によって整備されてきた下水道、町道、小学校、地域振興施設など過剰な設備の維持管理が大きな負担となるからです。
今朝の紙面より記事全文を転載します。
◆2021年3月22日 上毛新聞
https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/politics/281762
ー八ツ場ダム交付金 長野原町に4.5億円 交付税減も1.5億円増収ー
2020年に完成し、運用が開始された八ツ場ダム(群馬県長野原町)について、町は固定資産税の代わりに国から交付される国有資産等所在市町村交付金の21年度交付額が約4億5000万円となることを明らかにした。ダム完成後、初めての交付。市町村交付金が歳入に加わるため、自治体の財源不足を補う地方交付税の配分額は減少する見通しだが、町にとっては差し引き約1億5000万円の増収が見込まれる。
町の21年度一般会計当初予算は総額40億9300万円。市町村交付金は一般財源の町税として扱われ、町民福祉や町づくりなどに柔軟に活用できる。21年度当初予算の町税収入は前年度比46.6%増の13億7900万円を計上した。
一方、地方交付税は市町村交付金の増収分も踏まえて配分額を算出する。市町村交付金による増収を反映させた部分だけで見ると、おおむね3億円の減額が見込まれるという。
人口減や新型コロナウイルスへの対応などが求められる中、市町村交付金について町は「貴重な財源になる」と受け止めつつも、「4億5千万円という金額がそのまま入って来るわけではないので、財政事情が厳しいことには変わりはない」としている。
市町村交付金は毎年、交付額が算定される。最初の5年間は、ダムなど固定資産の評価額を基に算出された金額の2分の1、6~10年目は4分の3、11年目以降は満額が交付される。
八ッ場ダムは1947年のカスリーン台風で利根川の堤防が決壊したことを受け、国が52年に建設調査に着手。水没地区の反対運動や民主党政権による工事中止表明など紆余曲折を経て、2020年3月末に完成、同年4月に運用が開始された。
~~~転載終わり~~~
【参考記事】
「地元をがんじがらめにする交付金」
八ッ場ダムの交付金問題を詳しく報じた2011年3月4日付の朝日新聞記事を紹介しています。
「ダム中止地に「再生交付金」 民主が法案骨子案(東京新聞)」
2009年に発足した民主党政権は、八ッ場ダムをはじめとする全国のダム事業の見直しを政見公約に掲げ、ダム中止後の水没予定地域の再生を可能とする支援法案を作成しましたが、2012年の政権再交代により法案は廃案となりました。