八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

藤岡市が安定水利権 八ッ場使用権 都と水源振り替え

 昨日の上毛新聞一面トップに藤岡市の水道と八ッ場ダムに関係する記事が掲載されました。
 八ッ場ダムは利根川流域都県が国と共同事業者となって建設しましたが、群馬県の藤岡市水道は県とは別に八ッ場ダムの事業費の0.5%を負担してきました。

 自治体が地下水以外に新たな水源を得るためには、ダム等の水源開発事業に参画して、河川から取水する権利を得なければなりません。藤岡市と八ッ場ダムとの関係を見ると、水利権許可制度がダム事業を推進するために大きな力を発揮してきたことがわかります。
 
 上毛新聞一面トップ記事を紙面より全文転載します。
 
◆2021年3月6日 上毛新聞
ー藤岡市が安定水利権 八ッ場使用権 都と水源振り替え

神流川、今春にも取得
 八ッ場ダム(長野原町)建設事業への参画により取得を目指していた神流川の安定水利権=ズーム=について、藤岡市は5日、早ければ今春にも国から認可される見通しだと明らかにした。市は八ッ場ダムの使用権を基に、神流川にある下久保ダム(群馬、埼玉県境)の使用権を持つ東京都と取水水源を交換する「水源振り替え」の協議を進めていた。市は水道用水の約6割を神流川から取水しているが、暫定水利権しか保有していなかった。八ッ場ダム建設費負担金の支出開始から34年越しで、安定的な水源の確保が実現する。

 同日開かれた市議会定例会の一般質問で新井雅博市長が明らかにした。新井市長は神流川の安定水利権取得に関する国への認可申請を2月4日に済ませたことを報告。「近々、正式な決定が届くと思う。長年の懸案事項に良い形で終止符が打てる」と説明した。

 市は将来的な水道用水を地下水のみで賄えると判断し、1959年に着工した下久保ダム建設計画に参加せず、神流川の安定水利権を取得しなかった。その後、人口の増加により水資源の不足が懸念されたため、85年に八ッ場ダム建設事業に参画することを決め、同ダム完成後に都と水源振り替えを行うことで、神流川の安定水利権確保を目指してきた経緯がある。

 市上下水道部によると、市は87年から毎年、八ッ場ダム建設費負担金を支出し、34年間で総額約32億円を支払った。安定水利権が認可されると、現在保有する暫定水利権は解消される。1日最大2万1600立方㍍の取水量は変わらない。同ダムの使用権は残り、今後も維持管理費は負担する。

 市は、85年に県を通じて国や都と取り交わした文書の中で、ダム完成後に都との水源振り替えが行われることを取り決めたと認識していたが、新井市長就任後に確約がなかったことが判明。2年前から県の協力を得て、国と都を相手に水源振り替えに向けた交渉を進めてきた。

ズーム 水利権
 河川法の規定に基づき、河川の水を利用するのに必要な権利。取水が安定的に継続される安定水利権と、安定的な水源が確保されていなくても、水需要が増大し、緊急に使用することが社会的に強く要請される場合に許可される暫定水利権に分類される。安定水利権の許可は概ね10年に対し、暫定水利権は原則1~3年ごとに認可更新を行う必要がある上、渇水時には取水制限がかけられる恐れがある。

—転載終わり—

 八ッ場ダムは利根川支流の吾妻川に建設されました。流域都県は利根川から取水する権利を得るために負担金を払ってきましたが、藤岡市は利根川に面しておらず、市内を流れる利根川支流の神流川から取水しています。
 神流川には1968年に完成した下久保ダムがありますが、藤岡市は下久保ダムより後に事業が本格化した八ッ場ダム事業に参画することで、神流川から取水するための「暫定水利権」を得ました。
 藤岡市が八ッ場ダム事業に支出してきたのは、渇水時には取水できなくなるといわれる「暫定水利権」を「水利権」に格上げし、下久保ダムの使用権を得るためでした。
 旧・鬼石町に建設された下久保ダムは、藤岡市と鬼石町の合併により、現在は藤岡市内にあります。
右=藤岡市ホームページ「ふじおかの水道」2ページより 下久保ダムが水道水源となっていることを図示。

 2009年、民主党が八ッ場ダム中止を政見公約に掲げると、藤岡市は八ッ場ダムが中止されると藤岡市が神流川から取水する権利を失うとして、中止の撤回を強く求めました。
 しかし実際には、これまで国のダム事業が中止されても、暫定水利権は失われていません。国の細川内ダム(徳島県)は2000年、清津川ダム(新潟県)は2002年に正式に中止となりましたが、今も暫定水利権が継続しています。
 ダム建設を前提としていた筈の暫定水利権が、ダム中止後も継続されるのは、実際にはダムを建設しなくとも、河川からの取水に余裕があるからです。水源開発問題に取り組んできた嶋津暉之さん(元・東京都環境科学研究所研究員)は、「正常流量」が過大に設定されている問題などを指摘しています。
 ダム建設を推進するために維持されてきた、不合理な国土交通省の水利権許可行政を根本から改めなければなりません。

〈参考記事〉
「ダム事業中止後も継続される暫定水利権」
「八ッ場ダムの暫定水利権問題」

〈参考図書〉「八ッ場ダム 過去、現在、そして未来」(岩波書店)212~213ページ

 八ッ場ダムの事業費は、当初の2110億円から5430億円に増額され、それに伴い藤岡市の支出金も増額され、さらに完成が遅れましたから、藤岡市の財政にとって八ッ場ダムは重い負担となりました。藤岡市は今後も八ッ場ダムの維持管理の費用を負担し続けなければなりません。

現在、藤岡市長となっている新井雅博氏は、八ッ場ダム事業の再度の事業費増額が行われた2016年当時、群馬県会議員でした。県議会の議事録には、藤岡市における八ッ場ダムの負担金が重いことを訴える新井県議の言葉が残されています。

群馬県議会ホームページ 平成28年 第3回 定例会-9月26日定例会議事録 48ページより

「小さな自治体になればなるほど、そういった国の国家プロジェクトに対する事業負担というのは大きなものとしてのしかかってくる」
「そうした大きな負担を強いているにもかかわらず、その藤岡市は20年の長きにわたって、毎年毎年暫定水利権を得るために、数十万円という大金をその書類作成に支出しながら、国にその承諾を求める作業をしている」