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310万トン→7000万トン→600万トン 遊水地容量、大きく変遷 球磨川治水(熊本日日新聞)

 2009年の川辺川ダム建設中止後、球磨川の治水対策として国土交通省が示した遊水池の整備案は、遊水池の貯水容量の目標が310万㎥、7000万㎥、600万㎥と大きく変遷してきました。この問題を地元の熊本日日新聞が取り上げています。
 2016~2019年の球磨川治水対策協議会による7000万㎥案は、実現不可能な案を出すことで川辺川ダム建設以外の選択肢をあきらめさせるものであったのかもしれませんが、現計画案の600万㎥はあまりにも小さいとの指摘があります。現計画案は川辺川ダムありきの治水計画で、遊水池の整備は片隅に追いやられているように見えます。

◆2021年3月23日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/news/id155929
ー310万トン→7000万トン→600万トン 遊水地容量、大きく変遷 球磨川治水ー

 昨年7月の豪雨で氾濫した熊本県の球磨川流域の治水策として国土交通省は、洪水時に水を一時的にためる「遊水地」について住民への説明を始めた。転居や土地の使用制限など住民への負担が大きい事業だが、2009年の川辺川ダム建設中止後の検討過程では、目標の貯水容量が310万トン、7千万トン、600万トンと大きく変遷。経緯を追うと、遊水地整備へ向けた“熱量の違い”が透けて見えた。

 08年に蒲島郁夫知事が川辺川ダム計画を白紙撤回したのを受けて、国交省、県、流域市町村は09~15年、「ダムによらない治水を検討する場」を設置。この時の遊水地の目標容量は、計310万トンだった。

 候補地はおおまかに人吉地区の2カ所計30ヘクタール、球磨川と川辺川の合流部より上流の3カ所計70ヘクタール、川辺川沿いの1カ所10ヘクタールの計6カ所。しかし、堤防強化など他の治水策よりも優先順位は低い、という位置付けだった。

 その後、同じメンバーで15~19年に設けた「球磨川治水対策協議会」では、国交省と県が、遊水地や引堤[ひきてい]、河道掘削などダム以外の6案を組み合わせた10案を提示。この中で遊水地を中心に据えた2案は、いずれも流域17カ所に計1200ヘクタールを整備し、貯水容量を7千万トンとした。

 しかし、案を提示すること自体に軸足が置かれ、実現可能性を度外視。「工期は110~120年、事業費は1兆~1兆2千億円」という見込みが示された。県や流域市町村の関係者からは「どのように工事を進めるのか技術的な想像がつかない」「多くの農地が失われ、農家の理解が得られるか疑問」など懸念の声が上がった。

 昨年7月の豪雨災害は、この治水対策協議会が対策案を比較、検討している最中に発生した格好となった。

 流域治水に詳しい九州大の島谷幸宏教授(河川工学)は遊水地の整備について「球磨川本流だけでなく、支流への整備や、河川勾配を考慮した効果的な配置の検討が必要だ」と指摘する。

 国交省などが今年1月公表した「緊急治水プロジェクト」(20年度~)は、計600万トンの貯水を目標に複数の遊水地を整備するとした。球磨川支流の川辺川に流水型ダムを建設することが前提だ。

 国交省が3月4日までに人吉市の大柿地区と中神地区で開いた住民説明会では、600万トンのうち、両地区で142万トンの貯留効果を見込んだ。球磨村でも13日までに遊水地の整備案を説明。ただ残りは「県や自治体と調整を進めている」(国交省八代河川国道事務所)として、まだ具体的な候補地区や整備箇所数は示していない。

 島谷教授は「どこにどのような方式で配置するにせよ、負担を強いる当事者や周辺住民への丁寧な説明が不可欠だ」としている。(隅川俊彦)