論説「八ッ場ダム完成から1年 観光産業の発展に力を」(上毛新聞)

 八ッ場ダムを抱える群馬県の地元紙に掲載された論説を紹介します。
 たいていのダムは川の上流部に位置していますが、八ッ場ダムは吾妻川の中流部に建設され、上流に草津、万座など、温泉やスキーで年間を通して賑わう観光地を抱えています。このため、草津方面に通じる国道沿いの道の駅やダム堤には多くの観光客が立ち寄っていますが、もともと一大観光地であった対岸の川原湯温泉は賑わいから取り残されています。

 八ッ場ダム事業では、ダム建設以外の関連工事が事業費の大半を占め、道路等のインフラ、地域振興施設の整備など、おびただしい工事が進められてきました。これらは一括りに「生活再建関連事業」と呼ばれ、ダムの犠牲になってきた地域の振興と水没住民の生活再建が目的とされました。
写真右=ダム事業で用意された水陸両用バス。背後の木造建物は昨年11月にオープンした「八ッ場湖の駅丸岩」。
 「ダムで栄えた村はない」と言われますが、八ッ場ダム周辺はこれからどのように変化していくのでしょうか。

◆2021年3月29日 上毛新聞
ー八ッ場ダム完成から1年 観光産業の発展に力をー

 八ッ場ダム(長野原町)の完成から間もなく1年を迎える。この間、地元では水没地区の代替地に地域振興施設が続々と開業した。昨年は新型コロナウイルスの影響が大きかったにもかかわらず、水陸両用バスに代表される新たな観光が人気となった。一方、来町者が各施設を中心に周遊できる仕組みづくりなど課題も浮き彫りになっている。コロナ後を見据え、観光客が繰り返し訪れるようなアピールを続けてほしい。

 ダムは昨年3月31日に完成し翌日から運用している。ダム運用後に開業した地域振興施設は川原湯地区のアウトドア拠点「川原湯温泉あそびの基地NOA(ノア)」、川原畑地区の飲食・土産店「やんば茶屋」、横壁地区の飲食・土産店「八ッ場湖(みず)の駅丸岩」の3施設。いずれも地域住民が運営し、ダム以前にはなかった新しい経済活動を展開している。

 ダム完成前から営業している林地区の「道の駅八ッ場ふるさと館」も含め、ダム湖「八ッ場あがつま湖」周辺が観光地に変貌した。行楽シーズンを前に1都3県の緊急事態宣言が解除され、2年目を迎えるダム観光に対する地域住民の期待は高まっている。ダムを管理する国土交通省利根川ダム統合管理事務所は今月25日、町の要望を受け、ダム湖周辺を営利目的とした民間事業者の移動販売などが可能となる「都市・地域再生等利用区域」(河川空間のオープン化)に指定した。ダムを観光産業に生かす活動が本格化するだろう。

 課題も浮き彫りになった1年だった。交通量が多い国道145号沿いのダム管理支所にある「なるほど! やんば資料館」や道の駅など吾妻川左岸エリアがにぎわう一方、右岸エリアの人の出入りが少なく明暗を分けた。各地域振興施設の連携、周遊観光を促す工夫が必要だ。

 移動手段も課題の一つ。マイカー利用が前提となっており、地域振興施設間を巡るバスなど公共交通機関がなく、特急列車が止まるJR長野原草津口駅からダム周辺を散策する移動手段が乏しい。

 町営の博物館「やんば天明泥流ミュージアム」が4月3日に林地区に開館する。ダム建設に伴う発掘調査で出土した1783(天明3)年の浅間山大噴火時の泥流にのみ込まれた生活用品などが並び、江戸時代の山間部の暮らしが分かる。長野原地区の地域振興施設で同駅に隣接する「長野原・草津・六合ステーション」も含め、各施設を巡る仕組みをつくることで観光客の滞在時間が延び、観光産業の発展につながるだろう。

 コロナ禍で盛大なダム完成式は開かれず、政治に翻弄されて完成まで68年を要したダムを、全国にアピールする機会がなかったという住民の嘆きも聞く。町は新年度に完成式典を開く予算を確保した。感染症対策を前提にしつつも、国や県は水没地区に残って前向きに奮闘する住民らの再出発を後押ししてほしい。

——
【参考ページ】
八ッ場ダム周辺の地域振興施設(群馬県公式サイトより)

「やんば天明泥流ミュージアム、4/3オープン」

「八ツ場ダム周辺で “河川空間のオープン化“ 物販可能に 国交省が指定」