ダムの事前放流、2級水系でも協定 

 出水期を前に、国土交通省は5月26日、大雨時のダムの事前放流に関して、321の2級水系で自治体と利水関係者が協定を結んだことを発表しました。
 各地で多発する水害を受けて、昨年、菅官房長官(当時)主導で、1級水系の事前放流の新たなルール作りが行われました。菅氏はダムにかかわる国交省、農水省、経産省等の縦割りの弊害を打破したこのダムの運用見直しによって、八ッ場ダム50個分の貯水容量を新たに確保することが可能になったとして、政治主導をアピールしました。
 ➡「八ツ場ダム50個」の水害対策 菅官房長官に聞く(日経ビジネス、2020年8月3日)

 利根川水系をはじめ、国土保全上または国民経済上特に重要として国土交通大臣が指定した全国の109水系は、1級水系といい、国が管理しています。2級水系は都道府県が管理しています。
 今回の協定締結により、1級水系を合わせ、全国の420水系、1434ダムでダムの事前放流の実施体制が整ったことになります。 

★国土交通省の記者発表
 「二級水系も含めた全国の河川で事前放流の体制を整え、出水に備えます! 
    ~事前放流の実施に関する治水協定の締結状況~」
  

 治水(洪水対策)のためには、洪水が襲う前に、ダムにできるだけ空き容量を確保しておく必要がありますが、利水(水力発電や都市用水、農業用水の供給など)を目的とするダムでは、水を貯めておかなければなりません。治水も利水も、重要なのは出水期とされる6月から10月にかけての期間です。
 最近の線状降水帯による豪雨などでダムが短時間に満杯になってしまい、洪水のリスクを高める緊急放流を実施しなければならないケースが増えたため、利水のために貯水していた水も事前放流が必要だということなのですが、可能となった事前放流が実際に洪水時にどれだけ有効なのかは、まだわかりません。
 八ッ場ダムは全国のダムの中で特に大きなダムではありませんが、このたび発表された国交省の説明資料でも、八ッ場ダムに換算した水量が示されています。

〇記者発表資料より

 関連記事を転載します。

◆2021年5月27日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/o/745208/
ーダムの事前放流、2級水系でも協定 1級水系含め実施体制整うー

 国土交通省は26日、大雨時に河川氾濫を防ぐダムの事前放流に関して、都道府県が管理する321の2級水系で自治体と利水関係者が協定を結んだと公表した。ダムがある
355水系の大半に当たる。国管理の1級水系を合わせ、全国の420水系、1434ダムで実施体制が整った。

 国交省によると、海に近く事前放流をしても効果が見込めない場所などを除き、全てで締結された。

 事前放流は豪雨が見込まれる際に水道、発電、農工業用の利水ダムの水を放出し、雨水をためる容量を確保する仕組み。雨量が想定を下回れば水不足に陥るため、政府
は2019年、水系ごとに河川管理者と利水事業者との間で実施ルールを定めた協定を締結し、全国で事前放流を進める方針を示していた。

◆2021年5月30日 毎日新聞和歌山版
https://mainichi.jp/articles/20210530/ddl/k30/040/275000c
ー事前放流、7ダム可能に 豪雨教訓に県が協定締結ー

 県は4月下旬、広川(広川町)、切目川(印南町)、島ノ瀬(みなべ町)の三つのダムについて、大雨が予想される場合、利水用の水を流して空き容量を確保する「事前放流」に関する協定を印南町や近畿農政局などと結んだ。2011年の紀伊半島豪雨を教訓に、洪水の被害を抑えるために進めている取り組み。県は「これで関与できる県内七つのダム全てで、事前放流が可能になった」としている。

 ダムには流れ込む水の一部をため、河川の流量を調節し、水位上昇を防ぐ機能がある。しかし、満杯に近い状態になると、決壊を防ぐために流れ込む量と同じだけ水を流す「緊急放流」という非常手段を取らざるを得なくなる。県内で死者・行方不明者計61人の被害となった紀伊半島豪雨では県営の二川(有田川町)、椿山(日高川町)、七川(古座川町)の三つのダムの水位が満杯近くまで上がり、いずれも緊急放流を行った。

 被害を受けて県は12年5月、治水と水力発電用を兼ねるこの三つのダムと、関西電力が管理する殿山ダム(田辺市)に関し、関電と事前放流の協定を結んだ。発電のための水も含めて、事前にできる限り流す仕組みを整えた。これまでに52回実施し、14年8月と18年9月、いずれも大型台風が接近した際は四つのダム全てで行ったという。

 このうち34回と最も多いのが、年間降水量が3000ミリを超える地帯にある七川ダムだ。総貯水容量は3080万トンで、うち治水容量は2000万トンだが、事前放流により、これに加えて最大840万トンを空けることが可能という。20年10月の台風14号の接近時には270ミリ超の総雨量が予測されたため、県は関電に連絡した上で、7日午後8時に放流管を開いて事前放流を開始した。10日午前3時過ぎに終了し、約2700万トンを流した。放流前の水位には1日で回復したという。

 協定には、雨量予測が外れた場合の対応も盛り込む。発電がストップした際や、水道の取水制限などで生じた費用負担に関し、県と管理者らが協議することになっているが、これまで実際に協議したケースはないという。

 県によると、県内の1級・2級河川の水系にあるダムは11基。三重県境にある新宮(熊野)川水系の七色と小森、紀の川水系の山田(紀の川市)の三つのダムは河川を管理する国が主導して、20年5月にダム管理者らと事前放流に関する協定を結んだ。実施時には県に情報提供があるという。普段は底に穴が空いているタイプの小匠(こだくみ)ダム(那智勝浦町)を除くと、今回の協定で、全てで事前放流の手続きが整ったことになる。県河川課の担当者は「今回のダムの規模は小さいが、洪水の可能性を少なくする。しっかりと運用し、紀伊半島豪雨のような被害を少しでも軽減したい」と話している。【新宮達】

県による事前放流が可能なダム一覧
名称        総貯水容量  治水容量 事前放流確保容量 実施回数

二川(有田川町)  3010万 1440万     586万    3

椿山(日高川町)  4900万 3550万     400万    3

七川(古座川町)  3080万 2000万     840万   34

殿山(田辺市)   2540万     -     598万   12

広川(広川町)    350万  255万      77万    -

切目川(印南町)   396万  240万      67万    -

島ノ瀬(みなべ町)  307万     -       9万    -

 ※容量の単位はトン、-は該当なし

◆2020年8月12日 時事通信
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020081200805&g=pol
ー月内に2級水系でも事前放流 治水対策でダム視察―菅官房長官ー

  菅義偉官房長官は12日、群馬県みなかみ町を訪れ、水力発電用の須田貝ダムを視察した。菅氏はこの後、同ダムのような利水ダムを水害対策に活用できるようにする協定が全ての1級河川で締結されたのと同様に、2級河川でも月内に約80水系で合意が得られるとの見通しを示した。

 これにより治水向けの多目的ダム以外でも豪雨発生に備え、事前放流で水害対策に活用できるダムの数が増えることになる。
 菅氏は「今月中に、近年に水害が生じた水系など約80水系について合意が得られる」と記者団に指摘。「今後は降水量予測や個々のダムの放流量コントロールを人工知能(AI)を使って自動的に行うことを目指していきたい」と述べた