2015年水害後の「鬼怒川緊急対策プロジェクト」、ハード対策ほぼ完了

 2015年9月の関東東北豪雨(台風18号)に伴う、利根川支流、鬼怒川の水害では、14人の流域住民が命を落としました(直接死2人、災害関連死12人)。茨城県常総市では浸水面積は約40km2にも及び、家屋の被害は全壊53棟、大規模半壊・半壊5,000棟超。床下・床上への浸水も約3,500棟に及んだということです。
 このほど国土交通省は、水害後に実施してきた治水対策「鬼怒川緊急対策プロジェクト」のうち、ハード対策を5月末までにほぼ完了(概成)したと発表しました。総事業費は約780億円でした。これほどの費用をかけなくても、鬼怒川の氾濫危険箇所の対策がもっと早く実施されていれば、被害はかなり防げたはずです。

国土交通省関東地方整備局  記者発表資料 「鬼怒川緊急対策プロジェクトのハード対策が概成しました。」 2021年06月02日 
 
 鬼怒川上流には国土交通省が建設した大規模ダムが四基(五十里ダム、川俣ダム、川治ダム、湯西川ダム)もあり、最後の湯西川ダムは2012年に完成しています。しかし、関東東北豪雨ではダム下流で大量の雨が降ったため、上流ダムでは水害を防げず、堤防が脆弱であったり、無堤防の区間から氾濫しました。
 〈参考ページ〉➡「2015年9月利根川支流・鬼怒川の水害」

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◆2021年6月5日 茨城新聞
ー鬼怒川流域治水 ハ-ド対策完了 堤防整備や河道掘削 関東・東北豪雨規模に対応ー

 国土交通省は4日、2015年9月の関東東北豪雨に伴う鬼怒川の氾濫などを踏まえた治水対策「鬼怒川緊急対策プロジェクト」に関し、高さと幅を増やす堤防整備と河川の流量を増やすため川底の土砂を撤去する河道掘削など、ハード対策を5月末までに完了したと発表した。
 同省下館河川事務所(茨城県筑西市)は「関東・東北豪雨と同規模の豪雨に対応できる態勢で、出水期に備えることができた」と説明した。

 同プロジェクトは全国初となるハ-ド・ソフトを一体化した治水対策として、15年12月に始まった。国と県、常総市、つくばみらい市など7市町が連携して進めてきた。
総事業費は約780億円。
 ハード面では、鬼怒川の栃木県境から守谷市の下流域44.3キロ区間を対象に堤防のかさ上げや拡幅、河道の掘削を行い、ソフト面では水害時の自分の避難行動を時系列で決めておく「マイ・タイムライン」づくりの呼び掛けなどに力を入れてきた。
 同事務所の青木孝夫副所長が同日、報告会で説明した。

 5月末時点で、堤防整備(全体約66キロ)と河道掘削 (同約128万立方メートル)など全180の工事のうち、169の工事が終了した。残る堤防への植生工事などにつ
いても「(今年の)夏前までに終わらせたい」としている。

 関東・東北豪雨で、200メートルにわたり堤防が決壊した常総市上三坂地区内では、堤防を1.4メートルかさ上げしたのに加え、幅も6メートルに広げ、「(関東・東北豪雨で記録した)24時間雨量551ミリにも耐えられる」という。

 一方、青木副所長は「〔住民には〕堤防を整偏したから安心とは、思わないでほしい」と警鐘を鳴らした。流域住民の心構えも減災を図る上では重要な鍵を握ってお
り、引き続きマイ・タイムラインなどソフト対策について、「プロジェクト終了後も力を入れていく方針」としている。
 同事務所の工藤美紀男所長は「堤防では防ぎ切れない洪水は必ず起きる。情報をきちんと得た上で、逃げるためのマイ・タイムラインを改めて確認してほしい」と強調した。

★関東・東北豪雨
 2015年9月9日に上陸した台風18号や前線の影響で、関東、東北他方を中心に広範囲で被害が出た豪雨災害。常総市では鬼怒川の堤防が決壊し、市の3分の1に相当
する約40平方キロが浸水し、約4300人が逃げ遅れ、救助されるなどした。

◆2021年6月7日 建設通信新聞
https://www.kensetsunews.com/archives/576402
ー建設業の力を結集/短期5年、180工事を概成/関東整備局下館河川事務所が報告会ー

 【鬼怒川プロジェクトでDX本格化】
 鬼怒川緊急対策プロジェクトのハード対策が概成し、関東地方整備局下館河川事務所は4日、報道機関向けの報告会を開いた。地域住民の協力のもと、元請企業69社など建設業界の力を結集し、約5年の短期間で計180工事を実施した。2015年9月関東・東北豪雨と同程度の洪水を安全に流すために必要な機能を確保し、出水期に備えることができた。DX(デジタルトランスフォーメーション)の先導的な取り組みを進める同事務所は、プロジェクトのレガシーとなる工事で得た3次元データを使って、維持管理施策の高度化検証を本格化する。 関東・東北豪雨では、鬼怒川堤防の1カ所が決壊、7カ所で溢水(いっすい)が起きるなどし、常総市全体の3分の1に当たる約40km2mで浸水被害が発生した。同市上三坂地先(鬼怒川左岸21.0㎞付近)の約200mにわたった決壊個所は、24時間態勢による懸命の作業により、わずか14日間で仮復旧を遂げた。
 その後、国、茨城県、7市町(結城市、筑西市、下妻市、常総市、守谷市、つくばみらい市、八千代町)が主体となり、鬼怒川下流域(茨城県区間)において「水防災意識社会」の再構築を目指したハード・ソフト一体の緊急対策プロジェクトをまとめた。
 プロジェクトが本格化した16年1月から約5年の期間を経て、直轄工事部分の用地取得約120万㎡、堤防整備約66㎞、河道掘削約128万m3を5月末までにほぼ100%完了した。
 全体土量約470万m3を使った堤防の築堤工事では、さまざまな工夫を取り入れた。必要土量の確保では、他事業の発生土を活用して解消した。受け入れに当たり、ストックヤードを堤内地に設けて出水期に土砂改良工事などを進めることができた。堤防を効率的に施工するための土砂・資機材運搬ルートの確保と工事用道路も設置した。
 i-Constructionも積極的に導入し、品質管理や出来形管理の自動化につなげ効率化した。i-Conが本格化した16年度以降をみると、135工事のうち約87%に当たる117件でICT工事を活用するなど新たな土木技術を最大限活用し、効果を発揮した。
 さらに、ここで得た成果を次なる展開にも生かす。DX施策の一環として、工事で得た3次元データを維持管理の高度化にも活用する。まずは実際のデータの使用の可否や各データの連携方策などについて21年度内にも検証をスタートする。一定のエリアで連続した多くの新設構造物がある、こうした事例は全国的にも珍しく、次代の維持管理施策のユースケースとなりそうだ。
 報告会で工藤美紀男所長は台風の接近などに合わせて各自がとる行動を時系列で整理したマイ・タイムラインの活用を促した上で「計画以上の洪水や台風が来ることもある。堤防だけでは防げない災害も起こり得る。きちっとした情報を仕入れ、いざという時には避難してほしい」と呼び掛けた。