長崎県が強行している石木ダム事業。事業用地では反対住民13世帯がこれまで通りの生活を続け、田植えも行われましたが、来年の知事選を前に、長崎県は住民にダム事業を受け入れさせようと、「事前協議」を求めて住民への働きかけを強めています。
「事前協議」とは、知事と住民とが「対話」するための条件を長崎県と住民が協議して詰める意味なのですが、長崎県が協議を求める一方で、関連工事を進めているため、住民らは長崎県が事業強行をカモフラージュするために「対話」を求める形式を踏んでいるのではないかと見ています。
地元紙、長崎新聞の今日の報道によれば、長崎県は事前協議の日程を19日に指定してきているということですが、工事の中断という住民側の申し入れを無視し、「ダム本体工事の着工時期など、一定配慮を行ってきた」と説明しているとのことです。
住民らの居住地は2019年11月以降、法律上は国に所有権が移転しており、長崎県が行政代執行により強制収用することが可能になっています。
これまでの経緯は、こちらのページをご参照ください。
◆2021年6月11日 NHK長崎放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/20210611/5030011691.html
ー石木ダム 知事が改めて協議を呼びかける文書を住民側に送るー
長崎県は、中村知事と石木ダムの建設に反対する地元住民との直接の話し合いに向けた協議をめぐって、その前提として工事の即時中断を求められたことを受けて、改めて協議に応じるよう呼びかける文書を11日、住民側に送ったことが分かりました。
長崎県は、川棚町で建設を進める石木ダムについて、中村知事と建設に反対する地元住民との直接の話し合いに向けて、日時や場所などの具体的な条件を確認するため、6月上旬に川棚町中央公民館で、県側と住民側がそれぞれ5人程度出席する協議の場を設けるよう提案する文書を5月21日付けで地元住民13世帯に宛てて送りました。
これに対し、住民側は、6月4日付けで、中村知事に宛てて「本当に話し合いを望むなら、工事を即時中断して話し合いのできる環境を作ってもらいたい」と文書で回答し、その前提として工事を即時中断するよう改めて求めていました。
こうした中、長崎県は、改めて協議に応じるよう呼びかける文書を、11日付けで地元住民13世帯に宛てて送ったことが、県関係者への取材で分かりました。
中村知事は、5月開かれた定例の記者会見で、工事を中断する可能性について「限られた期間で工事を進めなければならず、住民側が工事の中断をどこまで条件として考えているのか、具体的に聞いたうえで判断していかなければならない」と述べていました。
◆2021年6月12日 長崎新聞
https://nordot.app/776264638753652736
ー石木ダム事前協議 反対住民に改めて求める 長崎県が文書送付ー
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業を巡り、県は11日、水没予定地に暮らす13世帯の反対住民に対し、中村法道知事との対話に向けた事前協議を改めて求める文書を郵送した。詳しい内容は明らかにしていない。
住民側は対話の条件として「工事の中断」を求めている。県は、仮に中断する場合の期間なども含めた条件を詰める事前協議の場を設けたいとして、5月21日付で13世帯に文書を送付。参加者5人程度を決めて回答するよう申し入れていた。これを受け住民側は4日、知事宛に文書を送り「工事を即時中断して話し合いができる環境をつくって」と求めたが、事前協議についての言及はなかった。
県河川課は「住民も求めている静穏な環境での話し合いに向けて、条件の整理をしたい」としている。
◆2021年6月14日 長崎新聞
https://nordot.app/776984130867806208?c=684597186287141985
ー石木ダム事前協議19日を要望 長崎県が反対住民にー
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業を巡り、県が水没予定地に暮らす13世帯の反対住民に、中村法道知事との話し合いの条件を詰める事前協議を改めて求めた文書の内容が、12日判明した。ダム本体工事を見合わせるなど「一定配慮をしている」とした上で19日に事前協議を実施したいとしている。
県は先月21日、事前協議を提案する文書を13世帯に送付。住民側は今月4日、工事を即時中断して話し合いができる環境をつくるよう求める文書を知事宛てに送った。県は対応を協議し、11日に再度文書を住民に郵送していた。
12日に住民に届いた文書によると、県は「これまでも話し合いを模索するなかで、ダム本体工事の着工時期など、一定配慮を行ってきた」と説明。住民と知事との話し合いに向け「工事中断などの条件整備の考え方を聞かせてほしい」としている。19日午後2時から川棚町中央公民館で、県と住民双方5人程度ずつでの協議を提案。16日までに県石木ダム建設事務所長に住民側の出席者を連絡するよう申し入れた。
現場ではダム建設に伴う付け替え県道工事が進められており、住民側は毎日抗議の座り込みを続けている。住民の岩下和雄さん(74)は「本体工事がなくても抗議を続けている。住民の間で対応を話し合うが、こんな状況では協議はできないと思う」と話した。
◆2021年6月11日 長崎新聞
ー記者の目 石木ダム「対話」は何フラグ? 六倉大輔(東彼支局)ー
この戦争が終わったら結婚するんだ―なんて言う人はその後、高確率で死ぬ。俗に言う「死亡フラグ」。後の展開を容易に予想できる状況を指す「フラグ」はゲーム愛好家から広まり、今は「伏線」や「前振り」の意味でゲーム以外でも使われる。
県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石本ダム事業で、県と水没予定地の反対住民の対話に向けた新たな展開があった。「対話」の条件を詰める事前協議を申し入れた県に対し、住民は「エ事中断」の条件を突きつけた。住民が事前協議を拒んだのには経験則に基づく理由がある。
1972年の予備調査前、県は「事業の必要性が生じればあらためて同意を得る」という覚書を交わしたが、反故にした。82年には対話を打ち切り、強制測量に踏み切った。2009年は「対話を進める手段」と事業認定を申請し、結果強制収用に道を開いた。住民にとって、県が「対話」と言い出すのは、その後の「強権発動フラグ」でしかない。
同じくゲームを語源とする言葉に「無理ゲ―」がある。クリアするのが無理なゲーム。転じて異常に難易度が高い仕事や課題を指す。混迷を深めた大型事業。かなりの無理ゲーに見えるが、果たして。
◆2021年6月10日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/752728/
ー続く山の掘削、土砂の搬出…続ける住民たちの田植えー
石木ダム・レポート ー6月9日ー
九州の一部地域で猛暑日となった9日、石木ダム建設予定地(長崎県川棚町)も強い日差しに照らされた。住民の川原房枝さん(80)は県道付け替え工事現場での座り込みを休み、家族や知人ら5人と田植えに精を出した。
川原さんの田を含む水没地の農地の所有権は土地収用法の手続きに基づき、2015年8月に国に移転されている。だがその後も住民たちは先祖代々の変わらぬ営みを続けている。この日も石木川の支流から引いた水が張られた田を、田植え機が縦横無尽に行き来した。
「50年近く完成しないダムの必要性なんてない。所有権はそのうち戻ってくるからね」と川原さん。住民に共通する思いでもある。
県はこの日も付け替え県道の整備のため、山の掘削と土砂の搬出作業を行った。午後3時ごろ、地質調査へ向けた作業道路上で座り込む住民と支援者5人は、日よけのテント下でレモンのカップアイスを平らげた。(岩佐遼介)
◆2021年6月12日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/753904/
ーテントに新たな反対の横断幕、佐世保市長は建設促進を要望ー
石木ダム・レポート ー6月11日ー
11日、長崎県川棚町の石木ダム建設現場は雨に見舞われた。県道付け替え工事など2カ所の座り込み現場では午後、住民と支援者14人がテントで座り込みを続けた。
石木ダムの建設目的は石木川の洪水調節や、隣接する佐世保市への水道用水の供給。この日、同市の朝長則男市長は長崎県庁を訪れ、来年度の県施策について「石木ダム建設促進」を要望した。「地域の皆さまのご理解が必要不可欠。早期完成に向けて取り組みたい」と中村法道知事。2020年度に予算を計上しながら見送った本体着工について検討していると語った。
悪天候にもかかわらず、建設現場では斜面の掘削工事や土砂の搬出作業はいつも通り続く。19年9月以来実現していない知事との話し合いを提案している県に対し、住民側は「工事の中断が条件」と回答している。この日の知事の発言を聞いた住民の炭谷猛さん(70)はつぶやいた。
「理解を得るための行動なんてこれまで一切なかったやろ」
この日、テントには「石木ダムNO」と書かれた新たな手作りの横断幕が掲げられた。(岩佐遼介、泉修平)
石木ダム 長崎県と同県佐世保市が、治水と市の水源確保を目的に、同県川棚町の石木川流域に計画。1975年度に国が事業採択した。当初完成予定は79年度。移転対象67戸のうち川原(こうばる)地区の13戸は立ち退きを拒否し、計画撤回を求めている。2019年5月に県収用委員会が反対地権者に土地の明け渡しを命じた裁決を出し、同年9月に土地の所有権は国に移転。同年11月の明け渡し期限後、県の行政代執行による強制収用の手続きが可能になった。
◆2021年6月12日 長崎新聞
https://nordot.app/776270817071464448
ー石木ダム促進など 佐世保市、長崎県に29項目を要望ー
長崎県佐世保市の朝長則男市長は11日、県に対し、石木ダム建設促進や、国際クルーズ船の旅客受け入れのための道路拡幅など29項目を要望した。
県庁を訪れ、中村法道知事に要望書を手渡した。最重点課題は12項目。石木ダム建設については、市内六つのダム全てが耐用年数を超過しているが水源不足で改修のための運用休止ができない状況が続いているとして「水源不足解消に向け、工事工程に沿った確実な事業進捗(しんちょく)」を要望した。
中村知事は「石木ダムは必要不可欠な事業。本体工事着工はさまざまな状況を考慮し検討している。地域の理解も必要になる。皆さんと力を合わせて取り組み、早期完成を目指したい」と述べた。
国際クルーズ拠点が完成した佐世保港浦頭地区につながる国道202号の4車線化なども要望。水産種苗生産施設「市水産センター(大潟町)」改修への支援なども求めた。