宮城県議会の議論大詰め、私企業への水道事業運営権の売却

 水道・下水道・工業用水の事業の運営権を民間に売却する「みやぎ型管理運営方式」導入を巡る宮城県議会の議論が大詰めを迎え、7月5日に関連議案が採決される予定です。
 2018年の水道法改正を機に、村井知事が前のめりで進めようとしている全国初の水道運営権の民間委託。当初は一般市民には何が行われようとしているのかわからない状態でしたが、次第に海外における水道民営化の失敗例(水道料金の高騰、水質悪化によるパンデミックの発生etc.)、ライフラインである水道を民間に委託するリスクが知られるようになり、県の説明不足が不安を加速させる事態となりました。市民団体は短期間に反対署名を約2万筆集め、宮城県議会に関連議案を採決しないよう求める請願を提出したとのことです。しかし、県議会の最大会派である自民党は、現時点では推進の方針です。

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◆2021年6月29日 毎日新聞宮城版
https://mainichi.jp/articles/20210629/ddl/k04/010/025000c
ー水道事業運営権売却、野党は懸念 「みやぎ型」議論大詰め 市民団体、撤回求め要望書ー

 水道・下水道・工業用水の事業の運営権を民間に売却する「みやぎ型管理運営方式」導入を巡る県議会の議論が大詰めを迎えている。関連の議案が開会中の6月定例会に提案され、最終日の7月5日に議決される。可決されれば2022年4月、全国初の3事業一体の民間委託「コンセッション方式」が始まるが、野党や反対する市民からは情報公開や運営に対する懸念の声が根強い。【滝沢一誠】

 同方式の導入は、村井嘉浩知事が旗振り役となり進めてきた。県は、人口減や設備更新を理由に将来的な水道料金の上昇は不可避として、民間に運営権を20年間売却することでコストを削減できると説明する。施設の所有権などは県に残るため、水質管理は引き続き県が行うとしている。3月には水処理大手メタウォーター(東京)やフランスのヴェオリアグループの関連企業など10社で構成するグループが売却先として選ばれた。

 6月議会では、県は同グループが出資する企業に運営権を売却する議案と、利用料金の減免や経営審査委員会の設置などに関する規定を盛り込んだ条例改正案を提出。一般質問では、みやぎ県民の声など野党が反対の立場を表明し、「設備の更新投資額が大きく削減されるが、契約期間終了後に大幅に増加するのではないか」(共産の天下みゆき議員)などの指摘が出た。7月1、2日の建設企業委員会による議論を経て、5日の本会議で採決する予定だ。

 村井知事は28日の定例会見で「今回の契約に至るまでシビアな競争的対話を行ってきた。事業者もかなりの覚悟を持っており、全国のモデルにもなる」とメリットを強調。契約を更新する20年後を見据え、「スケールメリットがあるから、県と一緒にやるのも選択肢だ」と、各家庭まで水を供給する市町村の水道事業も組み入れる「垂直連携」にも意欲を見せた。

 同事業が水を供給するエリアは広いが、市民の理解は深まっていない。市民団体「命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ」は導入反対の署名を約2万筆集め、県議会に関連議案を採決しないよう求める請願を提出。28日には県に対して議案の撤回を求める要請書を出した。

 同ネットは、事業者側から「健全度調査計画書」など各種の計画書が公開されず、議会の判断に不可欠な事業内容が不透明であることへの懸念を示す。共同代表を務める佐久間敬子弁護士は「(同方式は)『出てくる水が良ければいい』という考え方だ。安全な水を供給できるのか、水産業に悪影響を及ぼすような下水を排出しないのか、非常に問題だ」と疑問を呈した。

◆2021年6月28日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/tohoku-news/20210628/6000015338.html
ー水道運営民営化 知事が実現に意欲 一方で反対する動きもー

 今の県議会の最大の争点になっている水道事業の運営権の民間への売却について、村井知事は、28日、水道料金の将来的な値上げ幅の抑制につながるとして、改めて実現に意欲を示しました。

 県は、上水道など3つの水道事業の運営権だけを民間企業に売却する「みやぎ型管理運営方式」に関連して、売却先の企業グループに運営権を設定することについて、議会に承認を求めていて、今の県議会の最大の争点になっています。
 これについて、村井知事は、28日の定例の記者会見で、「民間の自由な発想や迅速な対応によって、成果は出ると考えている。水道料金の上昇幅を、ほかの自治体よりも低く抑えるにはこの方式が一番よい。今後、このモデルは全国に広がっていく」と述べ、改めて実現に意欲を示しました。
 一方で、県議会や市民団体から民間が運営することへの懸念の声が上がっていることについて、「何よりも水質だ。県が細かく、厳しくチェックしていく。運営企業の経営も専門家も含めた委員会を立ち上げチェックするので、情報公開の透明性も確保される」と述べました。
 運営権を売却先の企業グループに設定することを県議会が承認するかどうかについては、7日1日に開かれる建設企業委員会での議論を経て、7月5日の本会議で採決される見通しです。
 承認が得られれば、来年4月から全国初となる民間が運営する水道事業が県内で始まることになります。

 一方、運営権の売却に反対する市民団体は、民間企業による設備の更新が適切に行われるか懸念があるなどとして、県に対し、議案を撤回するよう求める要請書を手渡しました。
 その理由について、要請書では、民間企業による水道設備の更新が適切に行われるかなどの懸念に対して、現在、公開中の資料では答えられていないほか、水道事業の運営状況をチェックするためには、県の技術力が不足している可能性があるなどと指摘しています。
 要請書を提出した市民団体「命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ」の佐久間敬子共同代表は、「安心・安全な水が提供されるのか懸念が残っており、今回の県議会で拙速に決断すべきではない」と話していました。

◆2021年6月24日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASP6R6S3PP6JUNHB008.html
ー水道運営権の売却 何が変わる?影響は? 宮城県ー

 宮城県議会で23日、6月定例会の一般質問が始まった。焦点の一つが、水道事業の運営権を民間に売却する議案。上下水道や工業用水道の運営を20年間、一括して民間が担う全国初の試みで、県は2022年4月の運用開始を目指す。水質低下などを懸念する市民団体は反発しており、議会でも論戦となっている。

 「民の力を最大限に活用しながら、持続可能な水道サービスの提供を目指す」

 村井嘉浩知事は15日の本会議で事業に対する意気込みを語った。

 県が導入を目指す仕組みは「コンセッション方式」と呼ばれ、自治体が公共施設の所有権を持ったまま、運営権を民間企業に売却する。18年成立の改正水道法で可能になった仕組みで知事は当時、参院厚生労働委員会に参考人として出席し、法改正を要望した。

 県の関連条例案は、すでに1年半前に県議会で可決されている。6月議会の議案の中心は、水処理大手「メタウォーター」(東京都)やフランスに本拠を置く水道業者「ヴェオリア」の関連会社など、10社のグループに運営権を与えるもの。いわば、事業開始に向けた「仕上げ」の議案となる。

 県によると、対象は仙台市など25市町村の水道用水を供給する上水道や70社の工業用水など。県民の8割にあたる約190万人の水道運営が民間に移る計算だ。下水は静岡県浜松市、工業用水は熊本県で同様の事業が始まっているが、上水は全国初となる。

 県は人口減で水の需要が減る中、水道料金の値上げを抑えることが狙いだと説明する。現状のままでは40年間で水道料金が約1・5~1・7倍に膨らむ可能性があると試算。民間が長期間運営すれば創意工夫が生まれ、設備更新の費用や人件費の抑制により、事業費を20年間で約337億円削減できると見込む。
     ◇
 計画通り運営権が民間に渡ると、何が変わるのか。

 水道用水はダムなどの水源から浄水場で処理され、受水タンクを通って各家庭に送られる。現在、県は水源からの取水や浄水場業務、タンクまでの送水を管轄し、タンクから家庭への供給は各市町村が担っている。今回の計画では、県の業務だったタンクへの送水までを民間が運営することになる。

 ただ、県はすでに約30年間、4~5年ごとの業務委託で民間に浄水場の運転や監視を委ねてきた。今回の計画では、人員の配置や点検方法について民間の裁量を広げることで、コスト削減につなげると説明。水道法に基づいた水質検査は引き続き県が実施し、抜き打ち検査もすることで安全性を担保するとしている。

 一方、薬品の調達や浄水場設備の修繕・更新工事については、実施主体が県から民間に移る。参入予定の10社グループは、設備の劣化時期などを予測するシステムを用いて修繕計画を定め、設備の「長寿命化」を図るなどと提案している。
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 県の描くコスト削減や値上げの抑制について、「本当に実現できるのか」と疑問視する声もあがる。

 市民団体「命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ」は18日、1万9千筆あまりの署名とともに、関連議案を採決しないように求める請願を県議会に提出した。請願は県の計画を「民営化」と位置づけ、「諸外国で多数の失敗例が出ている」と批判した。

 共同代表の佐久間敬子弁護士は「水は国民が等しく共有すべき資産。透明性が重要だ」と指摘。「県の計画には工程の詳細が分からない危険がある。本当に品質が保証できるのか不安がある」として、「企業秘密に関わることや不利益な情報は開示されないのではないか」と危惧する。

 県議会の最大会派「自民党・県民会議」の村上智行会長は「これまでの議会でも十分に議論してきた。制度の必要性は認識している」と語る。第2会派の「みやぎ県民の声」の坂下賢会長は「会派の大半は慎重、反対の立場。県民への事業の周知が足りず、時期尚早だ」とする。(根津弥)

◆2021年6月30日 東北放送
http://www.tbc-sendai.co.jp/01news/fr.html?id=00012247
ー水道運営権売却 自民会派から懸念の声ー

 宮城県の水道3事業の運営権を民間に売却するみやぎ型管理運営方式を巡り、県議会の自民会派が30日、勉強会を開きました。議員からは事業を担うことになる企業グループに外資系企業が含まれることを懸念する声が相次ぎました。
 勉強会は最大会派の自民党・県民会議が開催したもので、厚生労働省の担当者がオンラインで質問に答えました。
 勉強会では議員から、企業グループにフランスのヴェオリア傘下の日本法人が含まれていることを懸念する声が相次ぎました。
 ヴェオリアは海外で多くの水道事業を請け負っていますが、サービス低下などを理由に再び公営に戻す事例も出ています。
 県は開会中の議会に、企業グループに水道3事業の運営権を設定する議案を提出していて、7月5日の本会議で採決が行われます。
 

◆2021年6月27日 現代ビジネス
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/84447
ー水に恵まれた日本でついに始まる「水道民営化」…待ち受ける「大きな落とし穴」 水道水を直接飲める国でいられるか?ー

 鷲尾 香一 ジャーナリスト

 6月15日から始まった“東北の雄”宮城県の県議会6月定例会で、水道3事業の運営権を民間事業者に売却するための関連法案を提出され、審議が始まっている。

 これまで浄水場や、取水施設あるいは給水管の修繕など、業務の一部が民間委託されている例や、小規模な自治体での包括的な民間運営委託はあるが、県単位での水道事業運営権の民間事業者への売却は、全国初の試みだ。

 人口減少、過疎化などによって、水道事業では不採算部門が増加している自治体も多く、公営から民営への転換が検討されている。水道事業の民営化は利用者にとって有益なものとなるのか――。

宮城県で進む「水道3事業の民営化」
「みやぎ型管理運営方式」と名付けられた宮城県の水道3事業の民営化が、山場を迎えている。今議会には、関連法案など29の議案が提出され、水道事業民営化に向けた最後の審議が進められる。

 19年から1年以上にわたって検討が行われている同方式は、21年4月には水処理大手の「メタウォーター」を中核とした企業グループを優先交渉権者とし、県との間で基本協定書が締結されている。(参考:https://www.pref.miyagi.jp/site/miyagigata/

 県はこの方式の採用により、20年間で水道事業にかかる経費を最大546億円削減できると試算している。しかし、水道事業運営権の売却に県民からの反対も根強く、市民団体などが反対の署名活動を行っている。

 そもそも水道事業の民間運営は、18年12月に改正水道法が成立したことに始まる。

単なる官民連携とは違う
 多くのメディアは「水道事業の民営化」と報道するが、厳密にはこれは間違いだ。

 水道事業そのものを民営化するのであれば、設備、土地を含め事業全体が民間企業に移るが改正水道法で認められたのは、水道管などの所有権を移転することなく、水道事業の運営のみを民間企業に任せる「コンセッション方式」の導入だ。

 この背景には、日本の水道事業の採算悪化がある。厚生労働省によると、人口減少などにより水道水の需要が減少しているため、料金収入は2001年度の2兆5463億円をピークに減少が続いている。さらに、50年後の需要水量は2000年度に比べて約4割減る見通しだ。

 その上、水道管の老朽化も進んでいる。総務省によると、法定耐用年数を超えた水道管延長の割合は全国で15%にのぼる。水道水需要の減少と水道管の更新費用が、水道事業に重くのしかかっている。

 「コンセッション方式」を導入すれば、水道事業の運営権を民間企業に売却することが可能になるため、自治体は売却代金により水道事業の赤字などを削減することが可能となる。

 だが、「コンセッション方式」が単なる官民連携と違うのは、官民連携では官が経営主体になるのに対して、コンセッション方式は民間企業が経営主体になるため、事業計画、施策などに対する決定権は民間事業にある。

 そして、そこには“大きな落とし穴”もある。民間企業が事業を営む以上、採算、利益を重視することにより、水道水の安全性が低下する危険性が懸念されるだけではなく、逆に水道料金の上昇が予想されるのだ。

海外では失敗例も
 例えばフランスでは、パリ市の水道事業が民営化され、1985年から2009年の間に水道料金は約3倍に跳ね上がった。パリ市は水道料金の決め方が不透明などの理由で、2010年に水道事業を再公営化している。

 「南アフリカ史上最悪の事件」と呼ばれる約25万人のコレラ感染は、水道事業を民営化したことで水道料金が急上昇し、水道料金を払えない貧困層1000万人以上が汚染された川の水を飲料水としたことなどにより起きた。南アフリカは結局、水道事業を公営に戻した。

 米国のアトランタでは、水道を運営する民間企業がコストカットを徹底したために、水道管の破裂や水質悪化が相次いだ。

 こうしたケースはあくまでも異例だ。しかし、水道事業が民間運営になることで、採算性や利益水準によっては、水道料金が上昇する可能性は非常に高いし、水道水の品質や安全性が低下する可能性があることは否定できない。

 もちろん水道法では、水道料金を条例で定めた範囲内でしか設定できないようにし、国は水道料を含めた事業計画を審査し、不当に高い料金設定をしていないか検証することになっている。

 だが、水道事業を1度民間企業に委ねてしまえば、その監視は難しくなる。パリの水道事業が再公営化されたのも、民間運営への監視が適切にできなかったためだ。

 そして、もし、水道事業を運営する民間企業が経営危機に陥れば、事業が停止、すなわち水の供給がストップしてしまうケースもあり得る。

海外では水道ビジネスが激化
 水道事業を民間運営にしたからと言って、水道水需要が回復するわけではないし、水道管更新などのコスト問題が解決するわけではない。しかし、民間運営であれば、コスト問題は確実に利用者に回ってくる。

 「ウォーターバロン」(水男爵)とは、世界の水ビジネスをリードする企業に対するニックネームだ。

 仏ヴェオリア・ウォーター社、同じくフランスのスエズ・エンバイロメント社、英テムズ・ウォーター・ユーティリティーズ社の3社は、ウォーターバロンと呼ばれ、2000年代初めには世界の上下水道民営化市場におけるシェアは7割を超えるまでになった。

 宮城県の水道事業運営権売却の優先交渉権者となったメタウォーターは国内企業だが、世界ではウォーターバロンを中心に水道ビジネスの競争が激化している。

日本は水に恵まれた国だ。狭い平野の背後に、急峻な山々を抱えていることから、水量が豊富な川が多く流れている。その上、水道水は直接飲めるほど安全性が高い。

国土交通省の18年度「日本の水資源の現況」によると、水道水を直接飲める国は、世界に10ヵ国しかない。

だが、水に恵まれた日本でも、水道事業の危機が着実に迫っている。それは、少子高齢化に端を発した人口減少による水道使用量の減少と、法定耐用年数を超えた水道管の更新費用問題などによるものだ。

生活インフラは守られるのか
 総務省の「水道財政のあり方に関する研究会」が18年12月6日に発表した資料によると、自治体の水道事業は、2016年度時点で簡易水道を含めて全国に2033。これらの水道事業の収支の状況は、2016年度において水道事業全体の収支は4044億円の黒字だが、128の事業(6.3%)が赤字となっている。この赤字事業のうち、105事業が上水道事業だ

 さらに、前述したように、法定耐用年数を超えた水道管延長の割合は、全国で15%にのぼる。このため、水道利用量の減少と水道管の更新など設備更新の費用増加により、多くの自治体で水道料金の値上げをせざるを得ない状況に迫られている。

 だからと言って、生活インフラである水道事業を、採算や利益を重視する民間運営とすることは、本当に妥当な計画なのだろうか。採算に合わない、利益の出ない地域の水道事業は、急激な料金の引き上げはもとより、サービスの停止すらあり得るのではないか。

 水道事業の民間運営は、自治体や利用者が相応の監督能力があり、生活インフラとしての水道が守られていくことが大前提となるのではないか。